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第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士

その頃、鳴沢集落で球磨と湘は、お都留の攻撃で氷漬けにされていた。2人は瞳を閉じており、意識が無かった。すると、それぞれの心の中に誰かの声が響き渡った。
(球磨・・・ここで諦めてしまうのですか?あなたは炎の神、プロメテウスの力を持っています。強い心があれば聖なる炎が勝利へと導くでしょう)
長い銀髪の神父服の男が優しい眼差しで球磨に諭した。
(・・・益城(ましき)・・・院長・・・・)
武士の家系であった俺の家が分裂し、行く当てが無かった俺を救ってくれた益城院長・・・。そうだ!!俺はこんな所ではくたばってらんねぇ!!俺は強くなり、孤児院の子供たちを護りたいんだ!!球磨の体から、橙色の暖かい光が氷を溶かしていった。



(さようなら・・・湘、真鶴(まなづる)さん・・・もう、私の事は忘れて・・・)
まだ4歳位の小さい湘と真鶴と呼ばれた若い男が、海へ向かう人魚の女性を泣きながら見送っていた。
(これは・・・幼い私と父さんと・・・母さん?冷凍されている体でこの光景は見たくなかったな・・・)
「この程度の志で、再び母に会いに行くなどと青いわ!!小童が!!」
突如、耳部分にヒレが付いた、褐色金髪の大男が、湘の心に叫ぶ声が響いた。
・・・海王神・・・いすみ。父と母を引き裂き、人魚の母を海に戻したもの・・・。私は能力を高め、再び海底の宮殿に居る母を再会する!!そのために死ぬわけにはいかない!!
湘の蒼い光が氷を砕いた。

「ははーん♪とっくにくたばったかと思ったぜ。若作り優男」
球磨が湘の顔を見てニッと笑った。
「それはこっちの台詞だ暴れ牛。・・・モトスはおそらく東の吉田集落に連れていかれたようだ。急ごう!!」
球磨と湘は急いで吉田へ向かった。




吉田集落でモトスは梅雪に鞭を打ち続けられていたが、毅然とした表情で耐えていた。美しい新緑のような髪は酷く乱れていた。
「ハハハハハ!!もう耐えるのは止せ、モトス。俺に下れば配下にしてやっても良いぞ」
梅雪が扇でモトスの顎を上げた。モトスは梅雪の顔に血が混ざった唾をペッと飛ばした。そして梅雪を睨みながら力強く叫んだ。
「ふざけるな!!!貴様のような民たちを虐げる、勝頼様の意志を汚す者に仕える位なら、俺は死を選ぶぞ!!!」
梅雪は左頬と紅玉の耳飾りに付けられた唾を手で拭き、狂ったように笑った。そして、鬼のような形相で、モトスを扇で殴った。
「う・・・・うぅ・・・・・」
「そうか・・・俺には仕えないか・・・・もう鞭で打つのも扇で殴るのも飽きた。江津!!あの女を連れてこい!!」
遠くに控えていた江津の隣にはお都留が居た。
「言われなくとも分かっておる。最初からこうするつもりであったのだろ」
江津はお都留にモトスを始末しろと命じた。お都留は光無き瑠璃色の瞳を江津と梅雪に向け、長剣を手に取り、モトスに近づいた。
「・・・・お都留・・目を覚ましてくれ・・・。梅雪たちに心を操られてはいけない!!!」
モトスの必死な叫びはお都留の元には届かなかった。
「江津と言ったか!!!貴様一体お都留に何をした!!!!!」
モトスは江津に怒りの叫びを上げたが、江津は何も動じず無視をした。梅雪は再びモトスを扇で殴った。
「敗者が大口叩いておるのではない!!!さあ、お都留!!さっさとこの汚い野犬の駆除をしろ!!」
お都留は再びモトスに近づき、彼の胸に剣を貫こうとした。しかし、彼女の耳元から優しい声が聞こえた。
(お都留・・・俺の事は殺すなり何をしても良い。・・・だが、これだけは約束してくれ。湘と球磨を助けて、共に甲斐を護ってくれ・・・闇に支配されてはならぬ!!)
モトスは意識を失う前にお都留の瞳を見て、心から語り掛けた。すると、お都留の剣先が止まり、剣を下した。
「・・・モ・・トス・・・・さん?・・・うぅ!?・・・あ・・頭が・・・・」
お都留は突然頭を押さえ、その場にしゃがみこんだ。江津が駆け込もうとしたが、その前に梅雪が割込み、大声で叫んだ。
「ええい!!!2人まとめて仲良く始末してやる!!忌々しい森精霊共め!!お前は結局、主君(勝頼)も仲間も恋人も護れずに終わるのだ!!!!」
梅雪は懐から短銃を取り出し、2人を撃ち殺そうとした。その瞬間、何処からか激しい雷撃が彼を襲い、衝撃によりその場に倒れた。そして、周りにいた兵士たちも突然の砂嵐で目が眩み、動きが止まった。江津は砂嵐を術で振り払い、その場に座り込んでいたお都留を連れ、闇の中へと消えていった。神官の男は江津を追おうとしたが、術を発動する頃には姿を消してしまっていた。
「くっそ!!!江津の野郎を逃がしちまったぜ!!」
感電していたが、やっと起き上がった梅雪が突然の出来事に混乱しながらも怒り狂った表情で目の前に立っている2人の青年に問うた。
「き・・貴様らは何者だ!!!!!!」
「・・・性格の悪さと、しぶとさは紙一重ですね・・・」
「おいおい・・・身動きの出来ない者を徹底的に痛めつける・・・それでも男かー?極悪大名サンよー」
千里は感情のこもっていない棒読みの口調で皮肉を言い、桜龍は意地悪な口調で梅雪を見下した。
屈辱を味わい、怒り狂った梅雪は、手に持った鞭を2人目掛けて打ってきたが、素早く避け、桜龍は腰から太刀を抜刀し、素早く華麗な太刀さばきで、梅雪の鞭を切り刻んだ。そして、鞭は諦め、短銃で桜龍の頭を撃とうとしたが、即座に銃を持った腕を掴まれ、腹部に強力な蹴りを入れられた。
「・・く・・そぉ・・・いい気になるなよ!!!小僧がぁ!!!!!!!」
梅雪は怒り狂い、腰に差している打刀と脇差を抜刀し、桜龍に挑んだ。


千里は目くらましが解けた兵士たちを1人で相手していた。鎖鎌の鎖で兵士たちの武器を打ち払い、壊したり、近づいてくる敵には素早く力強い体術や、篭手に仕込んである刃などで蹴散らした。
「・・・こいつは強い・・・銃も剣もかすりもしねぇ・・・」
兵士たちは千里の鬼神のような戦いっぷりに恐れながらも、梅雪の為に立ち向かっていた。すると、突如、空からキアゲハのようなハネを背負った森精霊の男が舞い降りてきた。
「へぇー。なかなかやるじゃねーか♪眼鏡坊や。俺が一発相手になってやろうか?俺の名は白州だ!!」
「・・・あなたは、モトスさんと同じ森精霊のようですね・・・。あなたからは邪心を感じませんが・・なぜ、梅雪の下で働いているのですか?」
千里は疑念に満ちた顔で白州に問うと、男は一瞬戸惑いながらもはぐらかして答えた。
「梅雪サマは俺を良い条件で雇ってくれたわけ。だから、こっちだって報酬分は主の為に働かないとなってな!!」
白州は不意を突き、手から千里に目掛け、かまいたちを放った。千里は素早く回避しながら宙を舞い、男に小刀を3本投げたが、大太刀で簡単に弾かれた。
「それにしても、暴れ牛(球磨)以外にも強い勇士が居たんだなー。もう一人の呪い師の野郎もだが、眼鏡坊やの方が厄介そうだな。俺が直ぐに片づけてやるぜ!!」
白州は不敵な笑みを浮かべ大太刀を構え、千里も鎖鎌の分銅を回しながら戦闘態勢に入った。

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