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第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙

桜龍達が京都に居た頃、もう1つ事件が起きていた。心地よい海風が吹く、日本海に一隻の大きな貨物船が、出羽国酒田港へ向かっていた。航海士となった湘は、望遠鏡で酒田港や遠くにそびえ立つ出羽三山を眺めていた。
「ここまで悪天候にならず、無事に進めて良かった」
湘は波と風の流れを読み、航海順路を確認していた。すると隣に黄金の西洋鎧を身に付けた大柄の男性に声をかけられた。
「海賊も現れなくて良かったな。だがよ、船の中でやる事が船員と体操位しか無かったから、そんなんで報酬貰っていいのか?」
「当たり前だ。業務外の甲板掃除とか厨房の手伝いまでしてくれたではないか」
「まぁ、暇だったからよ。色々手伝っちまったぜ!!」
湘は球磨を相変わらずお人好しだなと笑っていた。湘と球磨が乗っている貨物船は越前国敦賀港(現福井県敦賀市)から出港し、出羽国米沢の伊達家へ、珍品や舶来品を輸送している。湘は貨物船の航海士の仕事をし、球磨はその護衛にあたっていた。帆船は穏やかな波と潮風で進んでいくと、しばらくして酒田港に到着した。


船は広い船着場に停泊し、船員は荷を下ろしていた。湘は荷物の数量を数え、球磨は荷車に乗せた。すると、大名家の軍師らしき男性が2人の元に来た。
「あなた方は、湘殿と球磨殿ですか?」
2人は『そうです』と警戒なく答えた。サラサラの黒髪を後ろでしっかりと束ねた知的な男性で、羽織に描かれている家紋を見て、もしやと察した。
「私は片倉小十郎です。奥州を治める、伊達政宗様に仕えております」
「何か私たちにお話があるみたいですね」
「あなた方の活躍は政宗様もご存じでおられます。殿自ら相談があるそうです。どうか、米沢城までお越しくださいませ」
球磨は改まっている小十郎に気さくに礼を言った。
「わざわざ酒田港まで来てもらい、ありがとうございます、小十郎殿。是非とも政宗様のお悩み解決しますよ!!」
「・・・言葉をわきまえたまえ、暴れ牛」
湘は頭を抱えながら呆れている一方、小十郎は和やかに笑っていた。


球磨と湘は、小十郎の案内で、沿岸部の酒田から遠く離れた内陸部の米沢へ向かった。酒田を河口に、源流が米沢から流れる最上川に沿って、船旅をした。川の流れは穏やかで悪天候に見舞われること無く、安全に早く船を進めることが出来た。最上川から出羽三山、『月山・羽黒山・湯殿山』も絶景に見えた。球磨は瞳を輝かせながら甲板から山々を眺めていた。
「俺の故郷、肥後国の球磨川の急流と蛇行も凄いが、最上川から見える山も綺麗だな」
日が沈みかけた頃、小十郎が近くの温泉で休もうと船を止めた。すると、河口から森を抜けると、開けた地に小川が流れ、そこにはこぢんまりとした温泉宿が建っていた。
「ここは、銀山温泉です。近くに銀山があるから、この名前が付けられたそうですよ。あまり知られていない温泉地ですが、政宗様や伊達家の皆が時々、湯治に来ているのです」
「まだ開発されていないのだな。だが、いずれは旅館が多く建つ、有名な温泉街になりそうだ」
小十郎は宿主と交渉し、球磨と湘は部屋で休んだ。
「湘おじ!!温泉に入ろうぜ」
「なぜ私が暑苦しい暴れ牛と入らなければならないのだ?1人で入りたまえ」
「良いじゃねーか♪男同士裸で語り合おうぜ。湘おじの人魚の足も見てみてーし」
「残念でした。私の足は泳ぐ以外では変えないようにしているのさ」
湘は文句は言っているが、本心はまんざらでもなかった。


旅館から少し森の中に入ると、ケヤキに囲まれた広い露天風呂があった。球磨と湘は気持ち良い湯加減と野鳥のさえずりに癒やされ浸かっていると、中年と若い男性が近づいて話しかけてきた。
「こんな秘湯にオラ達以外の客も珍しいべさ。兄さん達旅人かい?それとも戦女神を探しに銀山温泉で休んでいるんべさ?」
「戦女神・・・とは?」
球磨と湘とは戦女神とは何だろう?と尋ねた。
「ここ最近、学者を名乗る若い男が出羽に来てオラ達に教えてくれたべさ」
東北の何処かに、天下を統一できるほどの力を持つ、戦女神が眠っている。平安末期に高度な技術と魔力を持った術士が、対平家の為に造った人造戦士。
「そのじんぞー戦士って何だか分からねーが、そいつを見つけたら東北を豊臣の権力から解放され、東北は自由の大地になるべさ!!」
少し前に、東北で豊臣政権に不満を持つ一揆が起きたが、秀吉を始め各地の大名に鎮圧された。東北の村人達はそれに対し怒りを覚え、今でも不満を持っていた。そんな中、東北各地に戦女神を目覚めさせた者は、天下を統一できる力を手に入れられると、旅の学者が村民中に告げたそうだ。
「人造戦士か・・・。千里や厳美、大芹以外にも居たのか。それも女の戦士か」
「その、若い学者の男は、長い青みがかった黒髪の優男だったかい?」
「ああ。そんな感じだったべ。あと従者に、美女か美男子か分からねーほど中性的な者と、獣の皮を着た、もふもふの大男が居たべさ。オラ達とは違う感じの変わった奴らだったべ」
「そうだったのか・・・東北ではそんな噂が流れていたのか。・・少しのぼせてしまったので、私はもう上がる」
「俺も上がろうかな。ダンナ方に忠告しておくが、噂に惑わされない方が良いぜ。もしかしたら危険を伴うかもしれない」
「はは!!オラ達はそんな柔じゃねーだ。さては兄さん達、抜け駆けしようとしているべさ?」
「いいえ、私達は船旅の途中なので、戦女神を見つけるとは考えていませんよ」
球磨と湘は、これ以上男達に説得するのは無駄だと思い、風呂から上がった。

球磨と湘は旅館に戻り、山の幸をふんだんに使った夕食を食べながら、小十郎に露天風呂での出来事を話した。
「人造戦士の戦女神ですか・・・。そんな噂が東北の村に広まっていたとは・・・」
「小十郎殿はご存じでは無かったのですか?」
「伊達家の隠密から聞いたことがあります。村々の動向を探ると、農業仕事をやらずに、土掘りしたり村を出て行く者が増えたと・・・」

小十郎は頭を悩ませていた。他の東北大名も、奇妙な噂を断ち切ろうと村人に規律を作った。しかし村人は何かに取り憑かれたかのように主の命を無視し、時に小規模の反乱が起きた事もあった。
「結構、深刻な問題だな・・・。秀吉様に伝えるべきか・・・・」
「もしかしたら、罠かもしれないな。できる限り事を大きくしない方が良い。まずは戦女神とやらの情報を集めるのが先決だ」
「とすると、千里なら戦女神といわれる人造戦士を知っているだろうな」
「千里とモトスは今は大阪に居るな。後で私の水鏡の術で2人に知らせよう。あと、桜龍にも伝えておかねばな」
小十郎は2人の冷静な判断を聞いて、心強さを感じた。
「やはり、あなたたちは幾多の強敵を相手にした強者ですね。政宗様が相談したかったのはその件についてです。一刻も早く主に会わすため、明日は急ぎ米沢に近づけるようにしましょう」
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