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第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙

平安末期、源氏と平氏による大乱の時代に、陰陽師に造られた人造戦士が存在した。彼らは源氏に仕え共に戦った。しかし平家滅亡後、『源義経(みなもとのよしつね)』及び最強の人造戦士『千里(せんり)』と人造戦士は闇から造られた『魔改造戦士』に滅ぼされた。そして、4百年の月日が流れ、戦国の世となった今、再び魔改造戦士は目覚め、日ノ本を破滅へと追い込もうとしている。そしてまた、千里は鬼神に覚醒し、御伽勇士達と共に戦う。
この物語は、鬼神千里の怒りと、冷酷かつ深い闇を抱える魔改造戦士との悲しき戦いである。


時は戦国後期。天下人『豊臣秀吉』は小田原征伐後、関東や東北を平定させ、念願の天下統一を果たした。しかし同じ頃、『マガツイノ神』を信仰する『闇の一族』が東北で不穏な動きをしていた。最近では京の都で、役人や兵士が、禁断の地と呼ばれる場所で消え去る奇妙な事件も起きていた。


出雲の神官侍、『桜龍(おうりゅう)』は京の都に来ていた。出雲大社で修行した旧友、『輝政(てるまさ)』の頼みで、事件現場の荒廃した広場に居た。この地は都の中心から少し離れた南西部にあり、清流『桂川』の川沿いの村跡のように見えた。しかし同時に、平安時代以降、誰も寄りつかない禁断の地とも呼ばれていた。
「綺麗な場所だが、平安の世に疫病で村が壊滅になったんだってな・・・」
桜龍は小石が乱雑に積み上げられた粗末な墓跡を見て、静かに手を合わせた。隣には輝政も神主の服を身につけ、大幣(おおぬさ)を振り供養した。
「ああ。ここは病に侵された者の呪いや怨霊が出ると言い伝えられてきた、禁断の地と言われ、長い間封鎖していたのだが・・・」
輝政も不思議に思っていた。彼は現在、京の都にある実家で神社の宮司をしている。荒地で起きている不可解な事件が怨霊の仕業だと思い、桜龍に協力要請し、共に調査や供養をしている。
「それで、ここで神隠しにあった役人や兵士達は何人くらいだ?」
「ここ数日で30人以上は被害にあったと聞いている。だけど、妙な話だが・・・」
輝政は不可解な話を桜龍に説明した。

輝政が聞いた話で、禁断の地から少し離れた村に住む百姓が、野菜売りで近くを歩いている時、黒い衣を着た集団と、学者らしき白衣の男が豊臣の兵士達を袋だたきにしていた。百姓は助けを呼ぼうとその場を離れようとしたが、男と目が合い腰を抜かしてしまった。『もう駄目だ』と死を覚悟したが、男と黒い集団は百姓に目もくれず、瀕死の兵士を強引に連れ闇の中へ消えていった・・・。
「その百姓さんは無事で良かったけど、奇妙だな・・・一般人には興味が無いのか、それとも手を出さない理由があるのか・・・」
「どちらにせよ危険人物に変わりは無い。ここは結界で封印しておくし、こんな所に離宮を建てるのは諦めるよう、豊臣家の者に伝えておくよ」
「その方が良いな。もしかしたら、疫病被害に遭った亡霊かもしれないしな」


桜龍は辺りを見回すと、腐りかけた板に『芹美(せりみ)』と書かれた墓を見つけ、手をかざし、祝詞(のりと)を唱えた。すると、目の前に予想もつかない光景が浮かび上がった。

黒く濁った川と、焼かれ荒れ果てた河原に、白衣の男がもうろうと川に浸かっていた。男は右腕を切断され、さらに顔や皮膚には酷く火傷を負っていた。左腕には黒焦げになった幼子を抱いていた。
『・・・皆んな病に侵され、役人どもに村を焼かれ、死んでしまった。妻の『お園(その)』も・・・芹美、お前もこんな姿にされて・・・』
男は幼子に謝るかのように涙を流していた。
『・・・村の皆を病魔として焼き殺した役人共が憎い・・・。俺は奴らを葬り去れるなら、魂を闇に売っても良い!!』
虫の息だった男は、最後の力を振り絞り、天に叫んだ。すると、体が胴まで沈みそうになった時、中洲から小さな女の姿が見えた。
『あらあら、あなたから強い憎しみと悲しみを闇を感じますわ』
女は軽やかに空中に浮き、男に近づいた。容姿は幼く、背丈も小人のようだが、男よりも遥かに歳を取っていると感じ取れた。男は意識がもうろうとする中、女に弱々しい声で尋ねた。
『・・・君も、疫病で村を失ったのかい?』
長い黒髪に術士のような姿の女は不敵な笑みを浮かべ、男を川から浮かばせた。
『私は、あなたの強い憎しみで呼ばれた闇の使者よ。あなた、村人と家族の復讐をしたいのなら、私と一緒に来ない?我が主も大歓迎よ』
男は手を差し伸べている女の小さな手を握った。


桜龍はその悲惨な光景に冷や汗をかいた。輝政は慌てて桜龍に声をかけ、『大丈夫か?』と落ち着かせた。すると、桜龍は気が抜けた声で、お腹に手を置いた。
「腹減って力が出ねぇ・・・」
輝政は呆れながら桜龍の嘘を見破っていた。
「さっき、湯豆腐を大盛り食べただろうが!!・・・まったく、お前は昔から嘘をつくのが下手だったな。僕には言えない危険な物を見たのか?」
「はは・・・輝政には嘘は付けないな。ちょいと怖い物を見ちゃったぜ・・・正直に言う。ここに離宮を建てるの駄目だ。強い亡霊が来た者を襲う。離宮なら嵐山か宇治の近くが良いと思う」
「そうか。何が見えたのか聞かないが、辛い物を見たんだな。苦労をかけてすまない・・・」
桜龍は優しい顔に戻り、謝る輝政に『気にすんな!!』と笑いかけた。
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