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第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙

小田原征伐が終わった後、京の都郊外にある荒地で、白い漢服姿の男が、粗末な石や木で積み上げられた墓に白い百合の花を添えていた。
「もうすぐ、皆を蘇らすぞ。もう、病にも何も負けぬ魔改造人類としてな・・・」
男は異形の形をした右腕を押さえながら、墓に語りかけた。
「お前達も蘇らすぞ、お園・・・芹美(せりみ)」
男は2人の女の墓に桃色の百合を添えた。すると、遠くから都の役人が近づいて来る声が聞こえた。
『ついに秀吉様が関東を平定なさったな』
『これでますます近畿地方は盛り上がるな。この辺りの荒地に秀吉様の離宮を建てる計画でもしようか』
2人の役人は荒地を不思議そうに眺めていた。
『そういえば、何でこの辺りは川が清流で綺麗な場所なのに、荒れてんだ?』
『何でも、平安の世にこの辺りの村が疫病で全滅したと聞いたことがある。まぁ、それは過去の話だけどな』
役人が歩きながら喋っていると、墓参りしている男を見かけた。
「おい、こんな所に花を供えられては困るよ。ここはこれから、天下人の離宮を造る為、区画しようとしているのだぞ」
役人が男に注意すると、男は冷たい瞳を向けながら低い声で言い返した。
「・・・ここは静かに魂が眠る場所だ。サルの休息所は他にしてもらおうか」
「秀吉様をサルとは、漢服など着てるクセに、随分と言葉遣いがなってないな。それと、こんな呪われた荒地に墓参りなど、頭でも可笑しいのではないか・・・ゔぅ!?」
男は右手の黒い龍の腕で、役人の顔面を掴み持ち上げた。
「これ以上の減らず口叩けないようにしてやる。それと、貴様らのようなクズは憂さ晴らしに使わせて貰おうか」
「ひぃい!?ば・・・化け物!!」
「化け物とは無礼な。私は魔改造人類、科学者の大芹(おおぜり)だ。覚えなくて良いよ。君達は死ぬのだから」
男は妖しく笑いながら役人を痛めつけた。


その後、陰のニホンの居城に戻って来た大芹は、性別が定かでない水色の長髪の者に迎えられた。
「大芹さんたら!!何処に行っていたのよ!!厳美君が今後の策を話したいとあなたを待っていたし、豹剛(ひょうごう)君がお腹を空かせているわよ!!」
「それはすまなかったな、氷雨(ひさめ)。少しのんびりし過ぎたようだ。今、豹剛にエサをあげてくる」
大芹は笑顔で荷車に乗せた箱を軽く持ち上げ、自室へ向かった。

「豹剛、2匹エサを持って来たぞ。足りなかったら、公家から強奪した牛をやる」
「大芹さんありがとう。おら、お腹すいていたから嬉しいよ」
豹剛と呼ばれた気弱そうな青年は、全身に豹の着ぐるみと頭巾を身につけた魔改造戦士だった。
「食い終わったら歯を磨くのだぞ。後で厳美と氷雨を交えて会議だからな」
「それまでに間に合わせて完食するよ」
大芹は箱を開けている豹剛に微笑み部屋を出た。すると、直後部屋から豹剛の怒鳴り声が響いた。
『不味いぞ、大芹ー!!こんなもん食わせやがって!!』
先程の穏やかな態度と急変した口調であった。しかし、大芹も氷雨も驚いてはなかった。
「やはり口に合わなかったか。まぁ、何だかんだで完食してくれるからなあいつは」
「大芹さん・・・豹剛にあげたエサって・・・」
氷雨は口を押さえながら、苦い顔をしていた。
「察している通りだ。訪れた場所で死体を出したくは無かったからな」
「豹剛君を人格変わって怒り出すと、大芹さんでも手をつけられなくなるわよ・・・」
「まぁ、あいつは豹の遺伝子を混ぜた魔改造戦士だからな。その分制御はさせている。そう言う氷雨も両性の魔改造戦士であろう」
「ええ。そのおかげでアタシは女にもなれたのよ」
氷雨は満足そうな笑みを大芹に向けた。大芹は良かったなと微笑み返し、話を続けた。
「お前や豹剛みたいな者が住みやすくなる魔改造人類の世界を創りたいな」
大芹は自身の野望を胸に、厳美が控えている軍議室へ向かった。


「大芹さん、氷雨さん、豹剛くん揃いましたね。では、今後の狙う所を言いましょう」
厳美は大まかな日本地図を机に広げ、皆に説明した。
「東北です。東北には秀吉に反感を持っている民が沢山居ます。それを狙って、東北の者を魔改造人類にし、日ノ本を滅ぼしましょう」
東北地方の大名は小田原征伐後、秀吉により戦に参加しなかった事を理由に領地を没収された。その後も不満を抱えた領民による一揆があったが直ぐに鎮圧された。
「東北って確か、伊達の坊やが居るわね。あの子も秀吉には下ったけど密かに天下を狙っているらしいわよ」
「伊達政宗か・・・聡明な東北の主要大名か。東北を攻めるのに少々目障りだな」
「東北はきりたんぽ鍋とか芋煮とか暖かくて美味そうだなぁ」
「陸中のわんこそばもオススメですよー。それはさておき、話を続けます」
厳美は策を綿密に説明した。大芹は会議が終わった後、氷雨に命じた。
「氷雨は東北へ行き、情報を探りに行け」
「はい!大芹さん。アタシは老若男女、他種族何でも姿を変えられるから、お任せを」
氷雨の体は透明な液体に変わり、試しに秀吉の姿に変えた。厳美と豹剛は本物だと感心していた。
「情報収集はアタシに任せて!あと、休憩に秋保とか銀山温泉の湯に浸かって良いかしら?」
氷雨は次に可愛い町娘に化けたりと変幻自在を繰り返した。厳美はもう一つ、重要な話をした。
「それと、平泉の森に眠る彼女を、東北の民に探させましょう」
「ああ、唯一、鬼神の千里が攻撃出来なかった魔改造戦士だな」
「はい。かつて千里の恋人だった娘ですよ。平泉に封印しましたが、起こすのは今だと、預言者さんが言ってました」
「そうだな。東北の領民に、戦女神を見つけ起こせば天下を取れると言いふらせば良いな。そして、伊達を始め、全国の大名共を抹殺しようとな」
厳美の策略と魔改造戦士達は東北へ侵攻しようと考えていた。
(厳美と私達魔改造戦士がおれば日ノ本を闇に染める事ができる。我々は完全無欠の改造兵器なのだからな)
大芹は深い野望を目論んでいた。


その頃、千里とモトスは、大阪で桜龍達と別れた後、信州上田に戻るため中山道を歩いていた。坂道に沿って建てられた茶屋で、いくつも連なる山脈を見ながら休憩していると、千里の湯呑みに一片の桜の花びらが降ってきた。モトスは不思議な顔をしながら上を見上げた。
「まだ桜の季節ではないし、木も見当たらないな?」
一方千里は、懐かしさと同時に不吉な予兆を感じとっていた。
「北から飛んで来ましたね。もう直ぐ・・・奴らとの戦いは近いですね」
モトスは千里の言葉を聞き、緊迫した表示で北の空を見上げていた。
(若桜(わかさ)・・・彼女も目覚めてしまうのか・・)
千里の脳裏には、薄紫色の髪の女性が映っていた。もう一度湯呑みを見た時には桜の花びらが消えていた。
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