このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士

今から20年以上前、かつての武田信玄の居城、甲府の躑躅(つつじ)が崎館で、童の勝頼と梅雪が談笑しながら季節の草花が咲き誇る庭園を歩いていた。
「勝頼様、今度信玄公が今川家と北条家との交流で連歌会を行うそうですよ」
梅雪は楽しげに言った。
「ほう、甲相駿三国同盟を結んでからの三国交流か。義元公や氏康公に会えてとても楽しみだ!・・・おや?」
勝頼は庭で土いじりをしている童のモトスを見かけた。梅雪は嫌な顔をして苦言した。
「勝頼様。野生児の土いじりなど目に掛けるものではありません。ほら!!泥まみれで品の欠片も無い」
梅雪がモトスを馬鹿にしていたが、勝頼は無視をしてモトスに近づいた。
「今は何を植えているのだ?モトス」 
モトスは勝頼に声をかけられ、土がついた顔を手拭いで拭き元気よく挨拶をした。
「勝頼様!!お声をかけて頂き光栄ずら・・・です!!お庭に芝桜の種を植えています。」
「もしかして、この広さの花壇を1人で育てているのかい?」
勝頼は感心していた。モトスはニッコリ笑って言った。
「任務で館を離れているときには兵士の皆さんがお水や肥料をあげてくれています。連歌会までにはお花も育ち、庭園をさらに華やかに飾ってくれるずら・・・です」
モトスの頑張りぶりを見て勝頼は袖をめくり、芝桜の種を植える手伝いを始めた。
「私も花を育て、見ることが好きだ。一緒に肥料や水やりをして良いか?モトス」
モトスは元気いっぱいの笑顔で『はい!!』と答えた。
「もちろんです!!勝頼様もお花が大好きで、おら・・いいえ、私はとても嬉しいです。花は戦で疲れた兵や民たちの心を癒してくれます。皆に観てもらえる花たちもきっと喜んでいます」
モトスと勝頼が仲良く種を植えている姿に梅雪は不愉快に思っていた。
(こんなどこの馬の骨か分からない奴に気をかける勝頼はどうかしている・・・)
モトスは梅雪の姿に気が付き、笑顔で誘った。
「梅雪殿も一緒に種を植えようよ!!」
「・・・着物が汚れるから断る!!」
梅雪は苛立ちながら庭園を離れた。
モトス(あいつ)はいつも俺を苛立たせていた。あいつは身分の低い忍びの分際で、民や家臣たち・・・そして勝頼からちやほやされている・・・。昔からあいつの無邪気な顔を見ていると嫌悪感が高まる。
梅雪の左耳の真紅の宝玉の耳飾りは黒く濁っていた。



そして、現在の吉田集落の広場の中心で、モトスは十字架に上半身裸で磔(はりつけ)にされていた。モトスが目を覚まそうとした時に、梅雪に葡萄酒を顔にかけられた。
「お目覚めかなー。黒蝶のモトス。いいや、今は主亡き野犬かな?」
「貴様は梅雪・・・お都留に何をした!!湘と球磨はどうしたのだ!!!」
モトスが拘束具を力づくで壊そうとするが、背中の傷の痛みで力が出ない。
「ハハハハハ。この期に及んでも仲間の心配か。お前はいつもそうだ。自分の事よりも他人の事を優先に考える。そして、媚を売り、皆からちやほやされる。うらやましいことよ」
「それは違うぞ!!梅雪!!俺はそのような事を一切考えたことがない、俺には人望は無い!!忍びとしての任で暗殺や卑劣な事も多くしている!!お前の方が武田家の為に・・・」
一生懸命尽くしていたではないかと言葉を続けようとしたが、梅雪は扇でモトスの頬をはたいた。
「・・・俺は昔からお前の無神経で裏で汚い事をしているクセにいい子ぶるところが嫌いだったのだよ!!おまけに見た目は清らかな精霊で皆から愛されて・・・だが、今は違うな」
梅雪は指で合図をし、広場に村民が集まってきた。モトスは村人たちが生きていたことに安心をしていたが、様子がおかしい事に気が付いた。皆、モトスに敵意を向けていた。さらには甲斐東部を護っていた武田兵たちは梅雪に忠誠を誓っていた。
「皆・・・一体どうしてしまったのだ・・・?」
兵士の1人が梅雪から小判5枚ほど貰っていた。
「梅雪様に仕えれば、金も地位も保証してくれる。何も持っていないモトスに協力したって、何の得も無い」
そして、村人たちはモトスに罵声を上げた。
「勝頼とお前が無能だったから武田は滅んだんだー!!!」
「お前が今でも織田相手に反逆しているから、ますます甲斐の国が混乱するんずら!!梅雪様に従えば、村を護ってくれるし、住みやすくしてくれる!!」
「さっさとくたばれ!!賊め!!!!」
村人たちはモトスの体目掛けて石をぶつけた。モトスは黙り込み、攻撃を受け続けていた。
「どうだモトス!!!貴様は今では賊扱いだ。お前には金も権力もない。お前はしょせんは野山を駆け回っている汚い野犬なんだよ!!」
梅雪は今度は鞭を取り出し、モトスの厚い胸板を打ち続けた。モトスは声を上げずに、痛みと苦しさに耐え続けた。
「お前は簡単には死なせない!!じわじわと苦しみながら死ね!!」
梅雪は憎悪に満ちた顔で鞭をさらに強く打ち続けた。
20/60ページ
スキ