番外編 千里の話 鬼神と呼ばれた人造戦士
鎌倉の何処かにある、地下牢らしき暗く湿った部屋で、千里は目を覚ました。岩壁に鎖で拘束され、上半身を脱がされていた。
「お目覚めかな、千里君」
「大芹・・・貴様!!若桜をどうした!!」
「彼女は魔改造戦士に改良したよ。美しい戦女神だからな」
「く・・・貴様らは絶対に許せない!!」
千里は鎖を解こうとしたが、強力な術が掛かっているのか、鎖を破壊できなかった。大芹は龍の腕から黒い電撃を千里に放った。
「う・・・くっそ・・」
「貴様は今ここで、破壊されるのだ」
「おい、大芹!!必要ないならこいつ喰い殺したら駄目か?人造戦士と義経の兵士ばっか食って飽きたぜ」
「アタシの体を泥まみれにしたのだわ。ヘドロでも飲ませて苦しめたいわ」
厳美は良い提案を大芹に出した。
「大芹さん、千里君は重要な戦力となると思うので、破壊するのは勿体無いでしょう」
「ほう、それも良いな。千里、闇の一族に協力するなら命を助けるが、どうするかな?」
「・・・く・・貴様らに付くなら、破壊された方がマシだ!!」
「それは残念ですねー。若桜ちゃんも一緒なのに」
「どこまでも下衆なのだ!!貴様らは!!」
千里は気を高め、鎖を破壊しようとした。しかし、厳美に胸板を強く掴まれ、彼の爪が刺さり出血した。
「無駄ですよ。今の身体では大地の魔石の力を発動できませんよー」
千里は厳美の手の甲に、紫に腫れた痕があった。千里は吹き矢の毒だと分かり、屋島で義経を狙った刺客と、梶原景時をそそのかした予言者の使いだと察した。
「厳美!!貴様が景時殿を利用し、義経様を暗殺しようとしたのか!!」
「暗殺ではありませんよ。貴方に阻止されるのは計算済みでしたので。私はただ、義経が平家を攻撃するきっかけを作っただけですよ」
千里にはもう戦う気力も希望も無かった。必死に涙をこらえていたが、もう限界だった。そして、体力に限界が来て意識を保てず気を失った。厳美はその惨めな姿を嘲笑っていた。大芹も『これまでだな』と豹剛に合図した。
「鬼神もこの程度だったとはな。豹剛、喰い殺して良いぞ。こいつの身体は他の人造戦士より美味いはずだ」
大芹は千里の鎖を外そうとした時、地中が盛上がり、何かが飛び出た。
「そうはさせねーべさ。この人造戦士はオラが貰う」
小人の男は、大金槌で大芹を攻撃した。その隙に、白い天狗のような男が地下牢に入ってきて、呪文を唱え、千里の鎖を破壊した。
「作戦通りだな、八郎じい。飛天族と土竜族の大奇襲成功だぜ」
「蕨(わらび)か、飛天族長の分際で・・・おめぇに協力した訳ではねーからな。死んだ安曇の意志を引き継いだだけだからな」
「相変わらず素直じゃないねぇー。おい、魔改造戦士共、集団で千里を痛めつけるとはクズ共の集まりだな」
「礼儀をしらない種族達ね。大芹さん、こやつらも始末しましょう」
氷雨は水で刃を作り、蕨に襲いかかったが、彼の呪術で無効化された。豹剛も蕨を喰い殺そうと突進しようとしたが、金縛りで封じられた。
「躾がなっていない、猛獣だな・・大人しくしてろ」
「く・・・モグラと白天狗共め・・・」
蕨は千里を抱え、術で地下牢に穴を開け、地上へ逃げた。大芹はさせるか!!と雷撃を出そうとしたが、八郎の大金槌が腹部を直撃し壁に激突した。すると、地下牢に黒羽が現れた。
「騒々しいと思えば、土竜王久しぶりではありませんか」
「地底世界を追放され厄神四天王となった罪人か・・・闇の傀儡師、黒羽」
「八郎様が魔改造戦士の素晴らしさを理解してくれなかったからでしょう。我が主、卑弩羅(ひどら)様は私の技術力を大変重宝していますわ」
「貴様は同胞を実験台にし、安曇を殺めた罪人だべ。生かしてはおけんべさ」
八郎は黒羽を攻撃しようとしたが、女は両手を挙げ、降伏した。
「八郎王、千里はあげる。その代わりに休戦しましょう」
「黒羽様、よろしいのですか?」
「今は日ノ本を闇に染める時ではないわ。貴方達、魔改造戦士も長い眠りにつくのよ」
「承知しました。では、私達もその時まで封印されます」
黒羽達は余裕の顔で八郎を逃した。その後、大芹を始め、魔改造戦士は闇の世界『陰のニホン』へ戻り、戦国の世まで封印された。黒羽はその後の日本の行く末を静観していた。劇薬に侵され、義経を裏切った泰衡は精神崩壊を起こし、平泉で源氏軍に討伐された。奥州藤原氏は滅亡した。源氏一族も暗殺などにあい、滅亡し北条家が政権を握る事となった。魔改造戦士は源氏が滅びると同時に姿を消し、人々の記憶から去っていった。
「私や魔改造戦士が介入せずとも、源氏は滅びの道を行く。私の可愛い傀儡達も、時が来るまで眠ってもらいましょう」
黒羽は、闇の空間にある棺の中で眠りについた厳美達に笑い掛けた。
信濃国と上野国の境にそびえ立つ『浅間山』。溶岩石が乱雑する山、後に『鬼押し出し』と呼ばれる地に、蕨と八郎はたどり着いた。千里を氷の中に封印した。
「こんなへんぴな所に、千里を封印するのかい?」
「ここは神聖な大地。浅間の神が千里を護ってくれるべさ」
「目覚めるとしたら、何百年後になるんだ?あんまり長いと、ヨボヨボのじーちゃんになっちゃうぜ・・・」
蕨は気が抜ける冗談を言った。
「ふん、既にじじぃだべ。ほんの三百年か四百年位先だんべさ。だがおら達が目覚めさせなくとも、時が来れば自ら目を覚ます」
「日ノ本に厄神の闇が動き出す・・・時か」
蕨と八郎は朝日に祈りを込め、浅間山を後にした。
千里は遠い未来の夢を見ていた。
『君は独りではないよ。なんていったって、私達がついているのだから』
海洋族と人間の混血種の男、湘は目覚めたばかりの千里を励ましていた。
『俺もその時代にいたら、お前と一緒に戦いたかったぜ!!』
炎の神の化身と言われる、人間の球磨は、千里との出会いに意気揚々していた。
『主を失った気持ち身に染みて分かる・・・もう二度と主を失わぬよう護り抜こう』
蝶のハネを持つ森精霊、モトスは千里の過去を共に悔やみ勇気づけさせた。
『失った者の為にも戦おう。そして日ノ本の未来を守る為に』
聖なる龍の瞳を宿す人間、桜龍は千里を見つめ、決意していた。まるで天に龍が舞い上がるように。そして、自分を造ってくれた母、安曇が笑顔で千里に手を握り、思いを託した。
『後は頼んだよ・・・千里』
400年後の戦国乱世。千里は4人の勇士達と出会い、再び鬼神としての希望を取り戻す。
後編 絶望の過去から希望の未来へ 完
「お目覚めかな、千里君」
「大芹・・・貴様!!若桜をどうした!!」
「彼女は魔改造戦士に改良したよ。美しい戦女神だからな」
「く・・・貴様らは絶対に許せない!!」
千里は鎖を解こうとしたが、強力な術が掛かっているのか、鎖を破壊できなかった。大芹は龍の腕から黒い電撃を千里に放った。
「う・・・くっそ・・」
「貴様は今ここで、破壊されるのだ」
「おい、大芹!!必要ないならこいつ喰い殺したら駄目か?人造戦士と義経の兵士ばっか食って飽きたぜ」
「アタシの体を泥まみれにしたのだわ。ヘドロでも飲ませて苦しめたいわ」
厳美は良い提案を大芹に出した。
「大芹さん、千里君は重要な戦力となると思うので、破壊するのは勿体無いでしょう」
「ほう、それも良いな。千里、闇の一族に協力するなら命を助けるが、どうするかな?」
「・・・く・・貴様らに付くなら、破壊された方がマシだ!!」
「それは残念ですねー。若桜ちゃんも一緒なのに」
「どこまでも下衆なのだ!!貴様らは!!」
千里は気を高め、鎖を破壊しようとした。しかし、厳美に胸板を強く掴まれ、彼の爪が刺さり出血した。
「無駄ですよ。今の身体では大地の魔石の力を発動できませんよー」
千里は厳美の手の甲に、紫に腫れた痕があった。千里は吹き矢の毒だと分かり、屋島で義経を狙った刺客と、梶原景時をそそのかした予言者の使いだと察した。
「厳美!!貴様が景時殿を利用し、義経様を暗殺しようとしたのか!!」
「暗殺ではありませんよ。貴方に阻止されるのは計算済みでしたので。私はただ、義経が平家を攻撃するきっかけを作っただけですよ」
千里にはもう戦う気力も希望も無かった。必死に涙をこらえていたが、もう限界だった。そして、体力に限界が来て意識を保てず気を失った。厳美はその惨めな姿を嘲笑っていた。大芹も『これまでだな』と豹剛に合図した。
「鬼神もこの程度だったとはな。豹剛、喰い殺して良いぞ。こいつの身体は他の人造戦士より美味いはずだ」
大芹は千里の鎖を外そうとした時、地中が盛上がり、何かが飛び出た。
「そうはさせねーべさ。この人造戦士はオラが貰う」
小人の男は、大金槌で大芹を攻撃した。その隙に、白い天狗のような男が地下牢に入ってきて、呪文を唱え、千里の鎖を破壊した。
「作戦通りだな、八郎じい。飛天族と土竜族の大奇襲成功だぜ」
「蕨(わらび)か、飛天族長の分際で・・・おめぇに協力した訳ではねーからな。死んだ安曇の意志を引き継いだだけだからな」
「相変わらず素直じゃないねぇー。おい、魔改造戦士共、集団で千里を痛めつけるとはクズ共の集まりだな」
「礼儀をしらない種族達ね。大芹さん、こやつらも始末しましょう」
氷雨は水で刃を作り、蕨に襲いかかったが、彼の呪術で無効化された。豹剛も蕨を喰い殺そうと突進しようとしたが、金縛りで封じられた。
「躾がなっていない、猛獣だな・・大人しくしてろ」
「く・・・モグラと白天狗共め・・・」
蕨は千里を抱え、術で地下牢に穴を開け、地上へ逃げた。大芹はさせるか!!と雷撃を出そうとしたが、八郎の大金槌が腹部を直撃し壁に激突した。すると、地下牢に黒羽が現れた。
「騒々しいと思えば、土竜王久しぶりではありませんか」
「地底世界を追放され厄神四天王となった罪人か・・・闇の傀儡師、黒羽」
「八郎様が魔改造戦士の素晴らしさを理解してくれなかったからでしょう。我が主、卑弩羅(ひどら)様は私の技術力を大変重宝していますわ」
「貴様は同胞を実験台にし、安曇を殺めた罪人だべ。生かしてはおけんべさ」
八郎は黒羽を攻撃しようとしたが、女は両手を挙げ、降伏した。
「八郎王、千里はあげる。その代わりに休戦しましょう」
「黒羽様、よろしいのですか?」
「今は日ノ本を闇に染める時ではないわ。貴方達、魔改造戦士も長い眠りにつくのよ」
「承知しました。では、私達もその時まで封印されます」
黒羽達は余裕の顔で八郎を逃した。その後、大芹を始め、魔改造戦士は闇の世界『陰のニホン』へ戻り、戦国の世まで封印された。黒羽はその後の日本の行く末を静観していた。劇薬に侵され、義経を裏切った泰衡は精神崩壊を起こし、平泉で源氏軍に討伐された。奥州藤原氏は滅亡した。源氏一族も暗殺などにあい、滅亡し北条家が政権を握る事となった。魔改造戦士は源氏が滅びると同時に姿を消し、人々の記憶から去っていった。
「私や魔改造戦士が介入せずとも、源氏は滅びの道を行く。私の可愛い傀儡達も、時が来るまで眠ってもらいましょう」
黒羽は、闇の空間にある棺の中で眠りについた厳美達に笑い掛けた。
信濃国と上野国の境にそびえ立つ『浅間山』。溶岩石が乱雑する山、後に『鬼押し出し』と呼ばれる地に、蕨と八郎はたどり着いた。千里を氷の中に封印した。
「こんなへんぴな所に、千里を封印するのかい?」
「ここは神聖な大地。浅間の神が千里を護ってくれるべさ」
「目覚めるとしたら、何百年後になるんだ?あんまり長いと、ヨボヨボのじーちゃんになっちゃうぜ・・・」
蕨は気が抜ける冗談を言った。
「ふん、既にじじぃだべ。ほんの三百年か四百年位先だんべさ。だがおら達が目覚めさせなくとも、時が来れば自ら目を覚ます」
「日ノ本に厄神の闇が動き出す・・・時か」
蕨と八郎は朝日に祈りを込め、浅間山を後にした。
千里は遠い未来の夢を見ていた。
『君は独りではないよ。なんていったって、私達がついているのだから』
海洋族と人間の混血種の男、湘は目覚めたばかりの千里を励ましていた。
『俺もその時代にいたら、お前と一緒に戦いたかったぜ!!』
炎の神の化身と言われる、人間の球磨は、千里との出会いに意気揚々していた。
『主を失った気持ち身に染みて分かる・・・もう二度と主を失わぬよう護り抜こう』
蝶のハネを持つ森精霊、モトスは千里の過去を共に悔やみ勇気づけさせた。
『失った者の為にも戦おう。そして日ノ本の未来を守る為に』
聖なる龍の瞳を宿す人間、桜龍は千里を見つめ、決意していた。まるで天に龍が舞い上がるように。そして、自分を造ってくれた母、安曇が笑顔で千里に手を握り、思いを託した。
『後は頼んだよ・・・千里』
400年後の戦国乱世。千里は4人の勇士達と出会い、再び鬼神としての希望を取り戻す。
後編 絶望の過去から希望の未来へ 完
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