番外編 千里の話 鬼神と呼ばれた人造戦士
数ヶ月後、秀衡は病で倒れた。藤原の館で大葬儀が行われた。大芹と厳美は申し訳なさそうに泰衡に謝った。
「秀衡様は重い病を患わっていた。私と厳美は最善を尽くしたが、やはり病には勝てなかったか・・・」
「泰衡様、父君を助けられなくて申し訳ございません」
「いいえ・・・父上は、義経様を護れと遺言を書いて下さりました。私は、その意志を継ぎます」
泰衡は言葉とは裏腹に、頼りない口調と身体は痩せ細っていた。千里は泰衡と生きていた頃の秀衡を重ねて見て、疑念を抱いていた。
(泰衡様の姿、末期の秀衡様に似ている・・・これは調べてみた方が良いですね)
千里は、秀衡は恐らく大芹と厳美に殺められたのだろうと疑い始めた。そして、泰衡も危ないと。このままでは、藤原氏は大芹達に乗っ取られるのでは無いかとも考えてしまう。やはり平泉を出て、土竜族を頼るべきかと思い悩んでいた。
泰衡は父の死を悲しむ間もなく、頼朝から義経討伐の命令文が届いていた。
『私は・・・どうすれば良いのだ!!大芹、厳美!!君達だけが頼りだ!!』
「泰衡様は何も考えなくてよろしいのですよ。後は我々にお任せ下さい」
大芹は寝室で涙を流している泰衡の背中をさすりながら告げた。そして、厳美は暗い紅色の液が入った小瓶を泰衡に渡した。
「さぁ、お薬の時間ですよ、泰衡様」
数日後、千里は部屋の掃除をすると言い、秀衡の部屋で捜し物をしていた。しかし、部屋は綺麗に片付けられており、怪しい物は見つからなかった。
「やはり、僕の考え過ぎでしたか・・・」
千里が部屋を出ようとした時、義経の寝室で叫び声が聞こえた。千里は胸騒ぎを感じ、直ぐに寝室へ向かった。
「泰衡殿!!貴方は義経様を裏切るつもりですか!!」
奥州藤原氏の4代目当主、藤原泰衡は平泉の藤原屋敷で、義経に刃を向けていた。千里は義経を護ろうと鎖鎌を構え、攻撃態勢に入った。泰衡が正常で無い事を千里にも分かっていた。やはり泰衡は大芹達に劇薬で薬漬けにされていた。千里は、同胞の裏切りに心を痛めていたが、それ以上に、義経を護りたい意志の方が強かった。義経に斬りかかってきた泰衡の太刀を、千里は鎖で受け止め、腹部に強烈な蹴りを入れた。襖ごと吹き飛ばされた泰衡が動けぬうちに、千里は義経と弁慶に促した。
「この者の相手は僕がします。義経様と弁慶殿は北へお逃げください!!」
千里は陸奥の地図を弁慶に渡した。
「分かった!!我が殿を連れ、北上川に沿って北へ逃げる。千里も直ぐに追い付いてくれ!!」
「くれぐれも無茶はしないでくれ!!千里!!」
千里は強く頷き、義経達を追う敵兵士の背中に小刀を投げ、倒した。動けるようになった泰衡は再び千里に刃を向けたが、もはや正気の顔では無かった。
「頼朝様は!!俺に約束してくれたー!!!義経の首を取れば、奥州の皇(おう)にしてくれると!!義経なんぞ、東北の脅威になるから消してやるー!!人では無い、造られた戦闘人形の貴様もここで始末してやる!!!」
泰衡には、もはや理性は無かった。長い間、劇薬を飲まされ、心も体も壊れてしまった。千里は正気に戻す術が無いと諦め、とどめを刺そうと術を唱え、砂嵐で彼の動きを止めた。そして鎌で斬ろうとした時、陰の中から黒髪の男が姿を現した。
「困りますよー、千里君。泰衡さんにはまだ死なせるわけにはいかないんですよー」
「貴様は・・厳美!?」
厳美は大鎌を横に振り、千里は素早く避けたが間に合わず腕にかすり出血した。その直後に、鋭く巨大な鉤爪が、千里を襲ったが間一髪交わし体勢を整えた。鉤爪の正体を見ると、白い漢服を着た男が、千里をあざ笑いながら言った。
「味方はほとんど居ないのに、まだ義経に反吐が出るほど忠誠を尽くしている千里は、本当愚か者だな」
「大芹・・・貴様が、泰衡の心身の病に漬け込み、劇薬で薬漬けにしていたんだな!!」
大芹と呼ばれた男は、人造戦士を造り、改造する学者だった。また、厳美同様、薬や医学にも精通しており、泰衡のお目付役兼かかりつけ医となったが、劇薬で心身を壊していった。
「頼朝様が、義経を始末したら奥州を人造戦士の支配地にして良いと約束してくれたのでな」
「く・・やはり貴様は外道だ・・。己の野望が強く、頼朝自身には忠誠心などないのでしょう・・・」
千里は、大芹を睨みながら分銅を振り回した。しかし、彼は鼻で笑いながら千里を見下し、隠れている右袖から出てきた獣の巨大な手で泰衡を捕らえ、連れて帰ろうとした。千里はそうはさせない!!と阻止しようとしたが、割って入ってきた厳美の拳が頬に炸裂し怯んだ。
「泰衡を義経の元に連れて行くぞ。義経と弁慶は北上川に沿って北へ逃げているみたいだが、この近くに人造戦士を待機させている。2人は平泉の地で終焉を迎えるな」
千里は歯を食いしばりながら大芹を睨んだ。
「流石は、大芹さん。準備が良いですねー」
「当然だ。私は完璧主義だから失敗や欠陥など存在せんわ!!」
大芹が得意げに笑みを浮かべていると、千里は『外道が!!』と2人を砂煙で攻撃した。煙が消えると千里の姿は無かった。
「あーあー、大芹さんが油断したから千里君行っちゃいましたよー」
「計算通りそのつもりだ。いくら鬼神のような強さを持つ千里でも、魔改造した戦士には手も出まい」
呆れる厳美に対し、大芹は動ずる事なく不敵な笑みを浮かべていた。
義経と弁慶は中尊寺を走っていた。しかし、魔改造戦士に先回りされていた。
「く・・・義経はこの堂に隠れていろ!!」
「しかし、それでは弁慶が・・・」
「俺はここで魔改造共をせん滅させる。義経、破戒僧だった俺を拾ってくれて・・共に戦ってくれて、ありがとうな」
弁慶は結界札を取り出し、堂の扉に貼り付けた。そして、薙刀を振るい魔改造戦士と戦った。
千里は急ぎ、中尊寺へ向かった。しかし、小川から水の鞭が現れ、彼を捕らえた。
「逃がさないわよ、千里君。貴方は生かして大芹さんの元へ連れて行くのだから」
氷雨は水と同化した体で、腕は透明な液体で千里を拘束した。
「氷雨・・・やはり貴様も敵でしたか・・・」
千里は水鞭で首を絞められたが、気迫で切り裂いた。そして地から泥を出現させ、液体状態になっている氷雨に目掛け放った。
「嫌だわ!!体が泥まみれー」
千里はその隙に、義経と弁慶の元へ向かおうとした。しかし今度は、獣のような大男が飛びかかり襲って来た。
「豹剛ですか・・・今までとは別人のように見えますが」
穏やかな大男は獣のような鋭い瞳と、凶暴な性格になっていた。黒髪は銀髪に変わり伸びていた。
「オレは1つの身体に2つの命を宿してんだぜ!!オレは人間共に見せ物にされ、酷使された白ヒョウだ!!」
千里はのしかかっている豹剛の腹部に強烈な蹴りを入れ、その場を逃れた。しかし相手には効いておらず、再び襲い掛かろうとした。
「てめぇを喰い殺したいが、大芹が生け捕りにしろと言ってた。大人しく捕まりやがれ!!」
豹剛は鋭い爪を出し、千里は速く重い攻撃を避け続けた。
「僕は義経様達の元へ行きます。貴様達に構っていられません!!」
千里は鎖鎌で爪を破壊し、その隙に無数の岩石をぶつけた。豹剛と氷雨は岩石の嵐に怯み、千里は急ぎ中尊寺へ向かった。しかし、時は既に遅かった。弁慶は仁王立ちで堂を護っていたが、体には無数の矢が刺さり、さらに拳で胸を大きく貫かれ、息絶えていた。大芹は勝ち誇った顔で、弁慶を蹴り倒した。
「弁慶殿!!」
「本当に魔改造戦士をせん滅させるとは驚きだったが、私の敵ではなかったな」
「く・・・遅くなってすみません・・・」
「今頃は厳美が義経を始末しているところかな」
大芹の憎たらしい言葉を無視し、千里はお堂に入った。すると、義経が厳美の攻撃に深手を負っていた。
「義経様!!」
「千里か・・・こやつは強い・・お前は逃げるのだ!!」
「いいえ・・・僕は弁慶殿に代わり、貴方を護ります」
千里は厳美を睨みつけながら鎖鎌を向けた。
「弁慶・・千里・・・地位も名誉も失った私の為に、何故そこまでしてくれるのだ?」
「僕は貴方が大好きです。貴方は僕を、1人の戦士として見てくれました。義経様には生きて幸せになって欲しいのです」
千里の説得で生き延びる覚悟を決めた義経は、お堂の中に隠し通路がある事を知り、千里に別れを言った。
「千里・・弁慶、若桜すまぬ。私は生きて、お主達の意志を語り継ぐ」
義経は隠し扉を開き、よろめきながらその場を去った。
「逃しませんよ!!あなたの首をもらいますよ!!」
厳美が義経に襲い掛かろうとした時、千里は鬼神の如き速さで、厳美の懐に入り、鎌を振り上げた。
「う・・・これは痛い・・ですね・・」
厳美の胸に深く大きな傷が出来た。そして、黒い血が流れていた。
「とどめだ!!」
千里は再び鎌で厳美を斬ろうとした。しかし、間に藤色の髪の女が入って来た。千里は彼女を見て、動きが止まった。
「わか・・・さ?」
千里は若桜の名を呼ぼうとした時、太刀で胸を貫かれ、その場に崩れ倒れた。
「良くやったな、若桜。お前を魔改造戦士として蘇らせた甲斐があっな」
「大芹様、反逆者の始末は出来ましたわ」
「厳美、深い傷だな・・・義経はもう良い。あの体では野垂れ死ぬか、兵士に見つかるのも時間の問題だろう。今、傷を治すからその後、鎌倉へ行くぞ」
厳美は千里に傷をつけられ怨念を抱いていた。
「く・・・私の胸に傷を・・・」
大芹は薬で、厳美の傷を治したあと、結界が施された箱に千里を入れた。
「この堂に火を放て。傷だらけの義経は燃え死ぬだろうな」
堂は跡形もなく大炎上した。大芹達は馬車に乗り鎌倉へ向かった。
馬車を走らせ、武蔵国多摩川河川で海洋族のアナンが待ち構えていた。彼は好敵手の千里を奪還しようと大芹に挑んだが、一度も攻撃できずに敗れ、濁流の川に落とされた。
「秀衡様は重い病を患わっていた。私と厳美は最善を尽くしたが、やはり病には勝てなかったか・・・」
「泰衡様、父君を助けられなくて申し訳ございません」
「いいえ・・・父上は、義経様を護れと遺言を書いて下さりました。私は、その意志を継ぎます」
泰衡は言葉とは裏腹に、頼りない口調と身体は痩せ細っていた。千里は泰衡と生きていた頃の秀衡を重ねて見て、疑念を抱いていた。
(泰衡様の姿、末期の秀衡様に似ている・・・これは調べてみた方が良いですね)
千里は、秀衡は恐らく大芹と厳美に殺められたのだろうと疑い始めた。そして、泰衡も危ないと。このままでは、藤原氏は大芹達に乗っ取られるのでは無いかとも考えてしまう。やはり平泉を出て、土竜族を頼るべきかと思い悩んでいた。
泰衡は父の死を悲しむ間もなく、頼朝から義経討伐の命令文が届いていた。
『私は・・・どうすれば良いのだ!!大芹、厳美!!君達だけが頼りだ!!』
「泰衡様は何も考えなくてよろしいのですよ。後は我々にお任せ下さい」
大芹は寝室で涙を流している泰衡の背中をさすりながら告げた。そして、厳美は暗い紅色の液が入った小瓶を泰衡に渡した。
「さぁ、お薬の時間ですよ、泰衡様」
数日後、千里は部屋の掃除をすると言い、秀衡の部屋で捜し物をしていた。しかし、部屋は綺麗に片付けられており、怪しい物は見つからなかった。
「やはり、僕の考え過ぎでしたか・・・」
千里が部屋を出ようとした時、義経の寝室で叫び声が聞こえた。千里は胸騒ぎを感じ、直ぐに寝室へ向かった。
「泰衡殿!!貴方は義経様を裏切るつもりですか!!」
奥州藤原氏の4代目当主、藤原泰衡は平泉の藤原屋敷で、義経に刃を向けていた。千里は義経を護ろうと鎖鎌を構え、攻撃態勢に入った。泰衡が正常で無い事を千里にも分かっていた。やはり泰衡は大芹達に劇薬で薬漬けにされていた。千里は、同胞の裏切りに心を痛めていたが、それ以上に、義経を護りたい意志の方が強かった。義経に斬りかかってきた泰衡の太刀を、千里は鎖で受け止め、腹部に強烈な蹴りを入れた。襖ごと吹き飛ばされた泰衡が動けぬうちに、千里は義経と弁慶に促した。
「この者の相手は僕がします。義経様と弁慶殿は北へお逃げください!!」
千里は陸奥の地図を弁慶に渡した。
「分かった!!我が殿を連れ、北上川に沿って北へ逃げる。千里も直ぐに追い付いてくれ!!」
「くれぐれも無茶はしないでくれ!!千里!!」
千里は強く頷き、義経達を追う敵兵士の背中に小刀を投げ、倒した。動けるようになった泰衡は再び千里に刃を向けたが、もはや正気の顔では無かった。
「頼朝様は!!俺に約束してくれたー!!!義経の首を取れば、奥州の皇(おう)にしてくれると!!義経なんぞ、東北の脅威になるから消してやるー!!人では無い、造られた戦闘人形の貴様もここで始末してやる!!!」
泰衡には、もはや理性は無かった。長い間、劇薬を飲まされ、心も体も壊れてしまった。千里は正気に戻す術が無いと諦め、とどめを刺そうと術を唱え、砂嵐で彼の動きを止めた。そして鎌で斬ろうとした時、陰の中から黒髪の男が姿を現した。
「困りますよー、千里君。泰衡さんにはまだ死なせるわけにはいかないんですよー」
「貴様は・・厳美!?」
厳美は大鎌を横に振り、千里は素早く避けたが間に合わず腕にかすり出血した。その直後に、鋭く巨大な鉤爪が、千里を襲ったが間一髪交わし体勢を整えた。鉤爪の正体を見ると、白い漢服を着た男が、千里をあざ笑いながら言った。
「味方はほとんど居ないのに、まだ義経に反吐が出るほど忠誠を尽くしている千里は、本当愚か者だな」
「大芹・・・貴様が、泰衡の心身の病に漬け込み、劇薬で薬漬けにしていたんだな!!」
大芹と呼ばれた男は、人造戦士を造り、改造する学者だった。また、厳美同様、薬や医学にも精通しており、泰衡のお目付役兼かかりつけ医となったが、劇薬で心身を壊していった。
「頼朝様が、義経を始末したら奥州を人造戦士の支配地にして良いと約束してくれたのでな」
「く・・やはり貴様は外道だ・・。己の野望が強く、頼朝自身には忠誠心などないのでしょう・・・」
千里は、大芹を睨みながら分銅を振り回した。しかし、彼は鼻で笑いながら千里を見下し、隠れている右袖から出てきた獣の巨大な手で泰衡を捕らえ、連れて帰ろうとした。千里はそうはさせない!!と阻止しようとしたが、割って入ってきた厳美の拳が頬に炸裂し怯んだ。
「泰衡を義経の元に連れて行くぞ。義経と弁慶は北上川に沿って北へ逃げているみたいだが、この近くに人造戦士を待機させている。2人は平泉の地で終焉を迎えるな」
千里は歯を食いしばりながら大芹を睨んだ。
「流石は、大芹さん。準備が良いですねー」
「当然だ。私は完璧主義だから失敗や欠陥など存在せんわ!!」
大芹が得意げに笑みを浮かべていると、千里は『外道が!!』と2人を砂煙で攻撃した。煙が消えると千里の姿は無かった。
「あーあー、大芹さんが油断したから千里君行っちゃいましたよー」
「計算通りそのつもりだ。いくら鬼神のような強さを持つ千里でも、魔改造した戦士には手も出まい」
呆れる厳美に対し、大芹は動ずる事なく不敵な笑みを浮かべていた。
義経と弁慶は中尊寺を走っていた。しかし、魔改造戦士に先回りされていた。
「く・・・義経はこの堂に隠れていろ!!」
「しかし、それでは弁慶が・・・」
「俺はここで魔改造共をせん滅させる。義経、破戒僧だった俺を拾ってくれて・・共に戦ってくれて、ありがとうな」
弁慶は結界札を取り出し、堂の扉に貼り付けた。そして、薙刀を振るい魔改造戦士と戦った。
千里は急ぎ、中尊寺へ向かった。しかし、小川から水の鞭が現れ、彼を捕らえた。
「逃がさないわよ、千里君。貴方は生かして大芹さんの元へ連れて行くのだから」
氷雨は水と同化した体で、腕は透明な液体で千里を拘束した。
「氷雨・・・やはり貴様も敵でしたか・・・」
千里は水鞭で首を絞められたが、気迫で切り裂いた。そして地から泥を出現させ、液体状態になっている氷雨に目掛け放った。
「嫌だわ!!体が泥まみれー」
千里はその隙に、義経と弁慶の元へ向かおうとした。しかし今度は、獣のような大男が飛びかかり襲って来た。
「豹剛ですか・・・今までとは別人のように見えますが」
穏やかな大男は獣のような鋭い瞳と、凶暴な性格になっていた。黒髪は銀髪に変わり伸びていた。
「オレは1つの身体に2つの命を宿してんだぜ!!オレは人間共に見せ物にされ、酷使された白ヒョウだ!!」
千里はのしかかっている豹剛の腹部に強烈な蹴りを入れ、その場を逃れた。しかし相手には効いておらず、再び襲い掛かろうとした。
「てめぇを喰い殺したいが、大芹が生け捕りにしろと言ってた。大人しく捕まりやがれ!!」
豹剛は鋭い爪を出し、千里は速く重い攻撃を避け続けた。
「僕は義経様達の元へ行きます。貴様達に構っていられません!!」
千里は鎖鎌で爪を破壊し、その隙に無数の岩石をぶつけた。豹剛と氷雨は岩石の嵐に怯み、千里は急ぎ中尊寺へ向かった。しかし、時は既に遅かった。弁慶は仁王立ちで堂を護っていたが、体には無数の矢が刺さり、さらに拳で胸を大きく貫かれ、息絶えていた。大芹は勝ち誇った顔で、弁慶を蹴り倒した。
「弁慶殿!!」
「本当に魔改造戦士をせん滅させるとは驚きだったが、私の敵ではなかったな」
「く・・・遅くなってすみません・・・」
「今頃は厳美が義経を始末しているところかな」
大芹の憎たらしい言葉を無視し、千里はお堂に入った。すると、義経が厳美の攻撃に深手を負っていた。
「義経様!!」
「千里か・・・こやつは強い・・お前は逃げるのだ!!」
「いいえ・・・僕は弁慶殿に代わり、貴方を護ります」
千里は厳美を睨みつけながら鎖鎌を向けた。
「弁慶・・千里・・・地位も名誉も失った私の為に、何故そこまでしてくれるのだ?」
「僕は貴方が大好きです。貴方は僕を、1人の戦士として見てくれました。義経様には生きて幸せになって欲しいのです」
千里の説得で生き延びる覚悟を決めた義経は、お堂の中に隠し通路がある事を知り、千里に別れを言った。
「千里・・弁慶、若桜すまぬ。私は生きて、お主達の意志を語り継ぐ」
義経は隠し扉を開き、よろめきながらその場を去った。
「逃しませんよ!!あなたの首をもらいますよ!!」
厳美が義経に襲い掛かろうとした時、千里は鬼神の如き速さで、厳美の懐に入り、鎌を振り上げた。
「う・・・これは痛い・・ですね・・」
厳美の胸に深く大きな傷が出来た。そして、黒い血が流れていた。
「とどめだ!!」
千里は再び鎌で厳美を斬ろうとした。しかし、間に藤色の髪の女が入って来た。千里は彼女を見て、動きが止まった。
「わか・・・さ?」
千里は若桜の名を呼ぼうとした時、太刀で胸を貫かれ、その場に崩れ倒れた。
「良くやったな、若桜。お前を魔改造戦士として蘇らせた甲斐があっな」
「大芹様、反逆者の始末は出来ましたわ」
「厳美、深い傷だな・・・義経はもう良い。あの体では野垂れ死ぬか、兵士に見つかるのも時間の問題だろう。今、傷を治すからその後、鎌倉へ行くぞ」
厳美は千里に傷をつけられ怨念を抱いていた。
「く・・・私の胸に傷を・・・」
大芹は薬で、厳美の傷を治したあと、結界が施された箱に千里を入れた。
「この堂に火を放て。傷だらけの義経は燃え死ぬだろうな」
堂は跡形もなく大炎上した。大芹達は馬車に乗り鎌倉へ向かった。
馬車を走らせ、武蔵国多摩川河川で海洋族のアナンが待ち構えていた。彼は好敵手の千里を奪還しようと大芹に挑んだが、一度も攻撃できずに敗れ、濁流の川に落とされた。