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番外編 千里の話 鬼神と呼ばれた人造戦士

奥州平泉、千里は義経と弁慶と共に藤原氏の屋敷に保護された。これまでに辛い仲間の死と、魔改造戦士との壮絶な戦いに、義経達は安息の地に着いてほっと一息ついた。
「これで、しばらくは休めそうだな。だがどうする?頼朝は執念深い。ここに攻めてくるのも時間の問題だぞ」
「確かに・・ここで長居すると藤原の皆や、平泉の民達を巻き込んでしまう。蝦夷まで逃げるか、いっそ西の大陸まで行くか・・・」
「まだ見ぬ大地へ行ってみるのも面白そうだな。でも、言葉が分からんな・・・千里、外国語は得意か?」
「語学書を読めば何とか・・・」
千里は、これからの事を考えなければならぬのに、若桜の死を引きずっていた。藤原秀衡(ひでひら)はそんなことも知らずに、穏やかな表情で3人に言った。
「はは、そんな心配しなくても、ずっとここに居ても構わないですぞ。平泉は美しい土地。戦など忘れてしまいますぞ」
3代目秀衡と息子の泰衡(やすひら)の隣には白い漢服を着た壮年男性が笑顔で頷いていた。千里は男の顔の傷跡と、袖で隠れている右腕を見て奇妙だと感じた。
(人間ではない。・・・僕達と同じ人造戦士か?)
千里は安曇とは違う別の者に作られた人造人間だと思った。男は千里と目が合い、笑顔で語りかけた。
「色々気になる事もあるだろう、千里君。後で藤原家が再興させた毛越寺(もうつうじ)庭園を歩きながら話そうか。紹介したい者もおるので。私は秀衡様かかりつけ医をしている『大芹』だ。以後お見知りおきを」
千里は他にも人造戦士の生き残りが居るのかと考えたが、今は仲間が必要だと思い、男によろしくお願いしますと返答した。


毛越寺は広大な池ごしに、宇治の平等院鳳凰堂のような寝殿造りの伽藍や、40のお堂が建たれていた。500人以上の僧侶が修行しており、お経は盛大で庭園まで流れ聞こえていた。
「この寺院は昔、荒れ果てていたが、藤原氏の2代目基衡(もとひら)様と3代目秀衡様が再興させ、今の形になったのだよ。人間の努力は馬鹿に出来ぬものだな」
「・・・貴方は、僕達と同じ、人造戦士ですか?・・・それとも・・」
「人造戦士・・・にしては、違和感があると君も思っておるか。そう、私達は訳あって生まれ変わった人造戦士なのだよ。そう、世間に裏切りられ見放された屍たち・・・」
大芹は縫られた顔の傷を触り、袖で隠れている右腕を強く握った。すると大芹は穏やかな顔に戻り、池の水を触り瞑想している中性的な者に目を向けて言った。
「あの者は、男でも女でも無い。好きな時に好きな姓になれる体に生まれ変わった。人間は生まれた時に、なりたかった性を選ぶことが出来ない。しかし、我々にはそういった不可能を可能にすることが出来るのだ」
千里はその者の体質を理解できた。
「・・・つまり、あの者の体は液体で出来ていて、姿形を変えられるという事ですね」
「あら?大芹さん。この可愛い人造戦士ちゃんは、噂の千里ちゃんね。あたしは、氷雨(ひさめ)っていうの♪源平合戦では義経様と並んで武を振るったみたいじゃない。あたしも見てみたかったわー千里ちゃんの活躍」
「千里です。義経様の護衛で藤原氏にお世話になっております」
「あら、礼儀正しい良い子ね。あたし達も今、藤原家にお世話になっているの♪」
「氷雨は私達と行動を共にする一人だ。それと、もう2人紹介したい物がいるが、今は居ないから後で紹介する」


千里は大芹と別れ、平泉の町を回っていると、岩壁に面して作られた、達谷窟(たっこくのいわや)毘沙門堂に辿り着いた。そこには、白ヒョウの毛皮を着た大男がぼんやりと立っていた。千里は人間では無い事を見破り、様子をうかがいながら声をかけた。
「貴方も、大芹殿と行動を共にする人造戦士ですか?」
「君が千里くんかい?オラは、豹剛(ひょうごう)。大芹さんがオラにカッコいい名前を付けてくれたんだよー」
「・・・そうですか」
豹剛は野獣のような見た目とは裏腹に、おっとりしていて少し幼さが残る、髪色は黒と銀が混じっていた。優しそうな性格だった。しかし、千里は分かっていた。彼は人造戦士になる前は、虐げられ、人間以下の生活を送っていたのだと。
「大芹さんは優しいんだーよ。美味いもん食わしてくれるし、オラの足を動けるようにしてくれたんだよ」
「足は・・・昔事故にでも?」
千里は気になり尋ねてみたが、若い男が近づいてきて、呼びかけられた。
「こんな所にいましたか、豹剛君。大芹さんと氷雨さんが、わんこそば食べに行くと言っていましたよー」
「ああ!!厳美くんだー。厳美君と千里君も食べに行くかい?陸中の名物そばで、どれだけ食べられるか挑戦できるんだよー」
「私は、後で食べに行きますから、3人で食べに行っててください。千里君ですね、私は厳美(げんび)。秀衡さんの薬師をしています」
「薬師とは、秀衡さんはお体が優れないのですか?」
そういえば、大芹も秀衡の医者をしている事を思い出した。
「はい。持病を持っているらしく、医師の大芹さんが看病し、私はその補助と薬を作っています」
千里は秀衡が深刻な病を患っている事に、焦りを感じていた。
「でも、心配は無用です。4代目の泰衡さんもしっかりしていて、父の後を継げるようになっていますから。それより・・・」
厳美は千里の瞳をじっと見つめ、質問した。
「もし、貴方が神も超える強い力に目覚めたら、どう使いますか?誰も敵はいませんよ」
「突然何を言うのですか?」
「例えば、大切な者を失った復讐で源氏と魔改造戦士を全滅させるとかね。そして、自分が理想の国を創る」
「・・・そんな事は考えていません。失った者達の為にも、僕は戦い続けるだけです」
千里は不機嫌な顔をしたが、厳美は直ぐに元のケロッとした顔に戻り謝った。
「試すような事を言って、すみません。お詫びに、綺麗な景勝地に案内しますよ」
厳美は千里を達谷窟に近い、ゴツゴツとした奇岩が
.並ぶ渓流に案内された。
「ここは厳美渓です。私の名前はここから名付けられたそうです」
「厳美殿は、この地で生まれたのですか?」
「・・・いいえ。私には記憶がありません。大芹さんが私を生みだしてくれました。大芹さんとこの地に来た時に、美しい風景だったので、この名前を付けてくれたのです」
「厳美殿も色々あったのですね・・・」
「千里君、共に義経様や藤原氏を護りましょう。大芹さんも皆さんも心強い仲間ですよ」
「・・・・・よろしくお願いします」
千里は何故だか、彼らを信用出来なかった。
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