番外編 千里の話 鬼神と呼ばれた人造戦士
義経は、平安京から摂津国に戻り、天然要塞の島『屋島(やしま)』を攻める事にした。現在、平家は山陽道での源氏を迎え撃つ為、大半の部隊がそちらに向かっているので、屋島は戦力不足だった。それを機に義経は屋島を一気に攻めようと考えていた。千里は偵察で漁師に化け、讃岐国高松へ渡った。屋島の近くまで行き、島の形状や潮の満ち引きなど調査した。屋島は完全に島だが、潮が引くと馬で攻められると分析していた。
(後は、船を隠せる場所の確認ですね)
千里が瀬戸内海に点々と立つ岩場や小島を探していると、海洋族らしき男を発見した。一ノ谷で戦火の中、勝負を挑んで来た平家の傭兵『アナン』だった。
(この者は・・・ここで始末すべきか・・)
千里は懐刀を取り出し、気を殺しアナンに近づこうとしたその時。平清盛の娘『徳子』とその息子『安徳天皇』が彼を追いかけて来た。
「アナン!!歩くのが早いわよ!!安徳が抱っこって・・・」
徳子の艶やかな黒髪が潮風になびいていた。安徳はムスッとしながら抱っこと連呼していた。
「ああ!?悪ぃ悪ぃ、徳子。ほら安徳、肩車してやるから機嫌直せよ」
男は爽やかな笑顔でまだ幼い安徳に肩車した。安徳は嬉しそうに、男の頭のヒレを引っ張った。
「こ・・こら!!ヒレで遊ぶな・・・」
男は、戦闘時とは想像がつかないほど、安徳にタジタジだった。まるで、本当の親子のように仲睦まじかった。
「ここから見る瀬戸内海も綺麗だわ。こんなに穏やかな海を見たのは久しぶりだわ」
「・・・そうだな。だが、もう直ぐここも戦場になる。だから、お前達は先に壇ノ浦の彦島(ひこじま)に避難してくれ」
徳子は不安そうな素振りで、アナンに聞いた。
「・・・アナンはまだ戦うの?」
「ああ。俺は清盛様と高倉(前天皇。徳子の夫だったが他界した)と約束したんだ。徳子と安徳を護れと」
「アナン・・・もし、戦いが終わったら、3人で海の世界で暮らしたいわ。私と安徳も海洋族になれるかしら?」
徳子は願っていたが、アナンはまぶたを閉じ首を横に振った。
「そいつは・・・無理だな。海洋族と人間は結ばれねぇ。それに俺は根っからのケンカ屋だから、あんたとは釣り合わない。それでも、徳子と安徳の側に居て、護ってやるからさ」
「アナン父ちゃんカッコいい!!」
「それは残念だわ・・・でもアナン・・・絶対に死なないで」
徳子はアナンの厚い胸板に寄り添い、アナンは安徳を肩から下ろし、2人を胸に抱き寄せた。
(僕とした事が・・・暗殺なんて。彼とは戦場で戦いましょう)
千里は小刀をしまい、その場を離れた。
千里は、義経に屋島の状況を説明し、潮の引き時を考えていると、義経は今が攻め時だと決行しようとしていた。しかし、兄の頼朝に仕える『梶原景時(かじわらのかげとき)』は恐る恐る言った。
「いくら、屋島の防衛は手薄とはいえ、水軍の数が足りません。いつでも撤退出来るよう、船に逆櫓(さかろ)を付けましょう!!」
「それは駄目だ!!武士なれど、敵を目前に退くなどあってはならぬ!!」
義経と景時は昔から反りが合わなかった。
「・・・危険を顧みず、屋島を攻めるのですね。この事を頼朝様に報告しますね・・・」
景時は不満そうな顔をして、その場を去った。千里は景時の後を追い説得した。
「景時殿、確かに義経様は猪突猛進なところもありますが、無策ではありません。どうか、義経様を信じて下さい」
「信じたい気持ちは分かるが、心配しているのは、義経様が後白河法皇の手籠にされている事だ。義経様は法皇の為に、功を急いでいる・・・」
それは、義経も承知していた。しかし、共に太平の世を望む兄弟に簡単に絆が壊れるのかと千里は思っていた。
「頼朝様と義経様に亀裂が走るのですか?」
「ああ。政治の天才、頼朝様に対し、策略家の法皇が義経と組んでしまったら、また戦は起きるぞ」
「・・・そうはならないと思います。義経様は源氏の皆と、早く泰平の世を築きたいと願っております。法皇様はきっと、義経様に京と西日本を守護して欲しいのだと思います」
「千里・・・いつもより喋るな。お前は義経の事を信じているのだな。仕方ない。私も、猪突な義経を助けてやろうではないか」
景時は千里に義経を助けるぞと言ったものの、今後の事が気がかりでならなかった。思い悩みながら、義経の屋敷の外を歩いていた。
「しかし、このまま義経が無茶な戦を続けていたら、頼朝様がお怒りになる・・・」
景時の後ろに突然黒い影と妖しい男の声が聞こえた。
「何か、お悩みですかな?」
「だ・・誰だ!?」
「私は、先の未来を知る予言者の使いです。貴方に良い事をお教えしましょう」
景時は持っていた太刀を抜こうとしたが、今までに無い妖気を感じ、抜刀できなかった。
「予言者か・・・何が目当てだ?源氏軍に入るのか?それとも、平家の隠密か!!」
「いえいえ、あなた方の敵ではありませんし、源氏に入るつもりもありません。ただ、私の話を信じれば良いのですよ」
景時は警戒しながらも、話だけは聞こうと近づいた。
「この屋島の戦いで、あなたは山陽道から攻めて下さい。その後、平家が・・・」
景時は話を聞いた後、言う通りにすると答えた。
その頃、千里と若桜は義経の家臣、那須与一(なすのよいち)と道場で弓の稽古をしていた。
「忍耐力も集中力も成長しましたね、与市殿」
「ありがとう、千里、若桜。命中率は上がってきているけど、それを持続させないとね」
「海での戦いは、弓攻撃も重要ね」
3人で的当ての鍛錬をしていると突然、道場に景時が入ってきた。
「ああ、千里達は弓の稽古をしていたのか、鍛錬ご苦労」
「景時様、屋敷の見回りに行っていたのですか?」
「ああ。少し星を見ながら。あ!?与一。同じ的で飽きただろうから、扇を打ってみてはどうかな?沢山持っているから練習に使って良いぞ」
景時は風呂敷から沢山の扇を出した。与一は瞳が飛び出るほど驚きながら、景時に聞いた。
「高価な扇ですが、良いのですか!?」
「ああ。もう要らなくなったし。それと、池や水辺で船の先端に扇を立てて練習するのも良いぞ。海上戦で役に立つ」
景時は何か隠している素振りをしながら、その場を去った。
「景時様何か様子が変だったわね」
「若桜は景時様を見張ってくれませんか?何か不吉な予感を感じます」
「分かったわ。用心するに越した事はないわね。千里は屋島の戦い、ご武運を」
(後は、船を隠せる場所の確認ですね)
千里が瀬戸内海に点々と立つ岩場や小島を探していると、海洋族らしき男を発見した。一ノ谷で戦火の中、勝負を挑んで来た平家の傭兵『アナン』だった。
(この者は・・・ここで始末すべきか・・)
千里は懐刀を取り出し、気を殺しアナンに近づこうとしたその時。平清盛の娘『徳子』とその息子『安徳天皇』が彼を追いかけて来た。
「アナン!!歩くのが早いわよ!!安徳が抱っこって・・・」
徳子の艶やかな黒髪が潮風になびいていた。安徳はムスッとしながら抱っこと連呼していた。
「ああ!?悪ぃ悪ぃ、徳子。ほら安徳、肩車してやるから機嫌直せよ」
男は爽やかな笑顔でまだ幼い安徳に肩車した。安徳は嬉しそうに、男の頭のヒレを引っ張った。
「こ・・こら!!ヒレで遊ぶな・・・」
男は、戦闘時とは想像がつかないほど、安徳にタジタジだった。まるで、本当の親子のように仲睦まじかった。
「ここから見る瀬戸内海も綺麗だわ。こんなに穏やかな海を見たのは久しぶりだわ」
「・・・そうだな。だが、もう直ぐここも戦場になる。だから、お前達は先に壇ノ浦の彦島(ひこじま)に避難してくれ」
徳子は不安そうな素振りで、アナンに聞いた。
「・・・アナンはまだ戦うの?」
「ああ。俺は清盛様と高倉(前天皇。徳子の夫だったが他界した)と約束したんだ。徳子と安徳を護れと」
「アナン・・・もし、戦いが終わったら、3人で海の世界で暮らしたいわ。私と安徳も海洋族になれるかしら?」
徳子は願っていたが、アナンはまぶたを閉じ首を横に振った。
「そいつは・・・無理だな。海洋族と人間は結ばれねぇ。それに俺は根っからのケンカ屋だから、あんたとは釣り合わない。それでも、徳子と安徳の側に居て、護ってやるからさ」
「アナン父ちゃんカッコいい!!」
「それは残念だわ・・・でもアナン・・・絶対に死なないで」
徳子はアナンの厚い胸板に寄り添い、アナンは安徳を肩から下ろし、2人を胸に抱き寄せた。
(僕とした事が・・・暗殺なんて。彼とは戦場で戦いましょう)
千里は小刀をしまい、その場を離れた。
千里は、義経に屋島の状況を説明し、潮の引き時を考えていると、義経は今が攻め時だと決行しようとしていた。しかし、兄の頼朝に仕える『梶原景時(かじわらのかげとき)』は恐る恐る言った。
「いくら、屋島の防衛は手薄とはいえ、水軍の数が足りません。いつでも撤退出来るよう、船に逆櫓(さかろ)を付けましょう!!」
「それは駄目だ!!武士なれど、敵を目前に退くなどあってはならぬ!!」
義経と景時は昔から反りが合わなかった。
「・・・危険を顧みず、屋島を攻めるのですね。この事を頼朝様に報告しますね・・・」
景時は不満そうな顔をして、その場を去った。千里は景時の後を追い説得した。
「景時殿、確かに義経様は猪突猛進なところもありますが、無策ではありません。どうか、義経様を信じて下さい」
「信じたい気持ちは分かるが、心配しているのは、義経様が後白河法皇の手籠にされている事だ。義経様は法皇の為に、功を急いでいる・・・」
それは、義経も承知していた。しかし、共に太平の世を望む兄弟に簡単に絆が壊れるのかと千里は思っていた。
「頼朝様と義経様に亀裂が走るのですか?」
「ああ。政治の天才、頼朝様に対し、策略家の法皇が義経と組んでしまったら、また戦は起きるぞ」
「・・・そうはならないと思います。義経様は源氏の皆と、早く泰平の世を築きたいと願っております。法皇様はきっと、義経様に京と西日本を守護して欲しいのだと思います」
「千里・・・いつもより喋るな。お前は義経の事を信じているのだな。仕方ない。私も、猪突な義経を助けてやろうではないか」
景時は千里に義経を助けるぞと言ったものの、今後の事が気がかりでならなかった。思い悩みながら、義経の屋敷の外を歩いていた。
「しかし、このまま義経が無茶な戦を続けていたら、頼朝様がお怒りになる・・・」
景時の後ろに突然黒い影と妖しい男の声が聞こえた。
「何か、お悩みですかな?」
「だ・・誰だ!?」
「私は、先の未来を知る予言者の使いです。貴方に良い事をお教えしましょう」
景時は持っていた太刀を抜こうとしたが、今までに無い妖気を感じ、抜刀できなかった。
「予言者か・・・何が目当てだ?源氏軍に入るのか?それとも、平家の隠密か!!」
「いえいえ、あなた方の敵ではありませんし、源氏に入るつもりもありません。ただ、私の話を信じれば良いのですよ」
景時は警戒しながらも、話だけは聞こうと近づいた。
「この屋島の戦いで、あなたは山陽道から攻めて下さい。その後、平家が・・・」
景時は話を聞いた後、言う通りにすると答えた。
その頃、千里と若桜は義経の家臣、那須与一(なすのよいち)と道場で弓の稽古をしていた。
「忍耐力も集中力も成長しましたね、与市殿」
「ありがとう、千里、若桜。命中率は上がってきているけど、それを持続させないとね」
「海での戦いは、弓攻撃も重要ね」
3人で的当ての鍛錬をしていると突然、道場に景時が入ってきた。
「ああ、千里達は弓の稽古をしていたのか、鍛錬ご苦労」
「景時様、屋敷の見回りに行っていたのですか?」
「ああ。少し星を見ながら。あ!?与一。同じ的で飽きただろうから、扇を打ってみてはどうかな?沢山持っているから練習に使って良いぞ」
景時は風呂敷から沢山の扇を出した。与一は瞳が飛び出るほど驚きながら、景時に聞いた。
「高価な扇ですが、良いのですか!?」
「ああ。もう要らなくなったし。それと、池や水辺で船の先端に扇を立てて練習するのも良いぞ。海上戦で役に立つ」
景時は何か隠している素振りをしながら、その場を去った。
「景時様何か様子が変だったわね」
「若桜は景時様を見張ってくれませんか?何か不吉な予感を感じます」
「分かったわ。用心するに越した事はないわね。千里は屋島の戦い、ご武運を」