番外編 千里の話 鬼神と呼ばれた人造戦士
一ノ谷の戦いは源氏の圧倒的勝利となった。義経はそのまま瀬戸内海を渡り、讃岐国『屋島(やしま)』を攻めようとしたが、源氏は水軍を持っていなかったので、屋島攻めは断念した。義経一行は一旦、平安京へ戻る事にした。
平家が都落ちし、京の町は穏やかとなっていた。義経が後白河法皇と御所で謁見している間に、弁慶は千里と若桜を連れ、京の名所を案内していた。都の東側を流れる鴨川に架かる『五条大橋』を渡りながら、弁慶は過去話をした。
「ここが、俺と義経が出会った五条大橋だ。あの頃は、破門されて刀狩とか馬鹿をしてたが、義経に負けて目が覚めたのだ」
「義経様と戦ったのですね。欄干に乗ったり、弁慶殿の薙刀に乗ったのは真ですか?」
「ああ。あいつは山奥の鞍馬寺で修行したから、機敏な動きをしていた。綺麗な顔とは裏腹に野生児だったな・・・」
「義経様と弁慶殿の対決を見てみたかったです」
「それは勘弁してくれ・・・俺は奴の戦法に遊ばれたのだ・・・」
弁慶は肩を落としため息をついたが、気を取り直し、話を続けた。
「だが俺は、あの日から義経について行くと決めた。あいつが居たから今の俺が居る。俺の力が必要無くなったとしても、あいつの力になりたいと思っている」
「弁慶殿は義経様を強く信頼していますね。義経様も嬉しいと思っていますよ」
「ああ。俺は役職には就けないが、我が殿、義経の護衛位は出来るぞ」
弁慶は薙刀を掲げ、得意げな顔をした。千里と若桜、橋を渡っている民衆はその勇ましい姿に拍手した。
次に弁慶は、平安京随一の景勝地、清水寺を案内した。
「綺麗だろう。義経と武芸の稽古をした後は、よくここで都全体を眺めたものだ」
「都はこんなに広いのですね」
千里は綺麗に並べられた碁盤の目のような都をまじまじと見ていると、都の外れ、西側の桂川方面に焼け野原を発見した。弁慶は苦い顔をしながら説明した。
「あそこは、数十年前に疫病で滅んだ村でな、誰も近づかない、禁断の地と言われている。何でも、村医者が病魔と言われ、役人に聖火で焼かれ、退治されたそうだ・・・そして、その村も炎で焼いたと・・・女子供も容赦なくな」
「治療に尽くした村医者が病魔にされるなんて・・・役人や都の医師が助けなかったのかしら?」
「疫病は人間にとって最大の天敵ですね。それに都と外れの村では格差がありすぎます・・・」
千里や若桜のような人造戦士は病に強い身体に造られているので、人間の弱さを見にしみて感じていた。
「さぁ、暗い話は終わりだ!!清水の坂に美味い湯豆腐の店があるから!!昼飯にしよう🎵」
その後も千里と若桜は弁慶と平安京を巡った。
夜に千里は洛北の山奥に建つ『鞍馬寺』に行った。本堂から奥の院に続く山道を歩いていると、木の根が無数にむき出しになった林に出た。
「ここが、義経様が幼少の頃に修行した所ですね」
義経は幼少時に鞍馬寺に預けられ、毎日のように鞍馬山を駆け回っていた。
(根と根の間を飛び跳ねていたから、軽い身のこなしとなったのですね)
千里は幼い頃の義経は相当野生児だったのだろうと想像していた。すると林の奥で、落ち葉を斬りながら根を飛び跳ねる男を見かけた。
「義経様、こちらで修行ですか?」
「千里か。久しぶりに京に来て、鞍馬で修行してみたくてな、ここは昔と変わらない」
「義経様にとって、思いでの故郷ですからね。ここは神秘的で修行に良い所ですね」
「ああ。ここは天狗が住んでいると言われている。私も天狗らしき者に武術を教えて貰った事があるのだよ」
「日ノ本には色々な種族が居ますからね」
2人はしばらく木の幹に座り、星空を見ながら話していた。
「昔はこうやって、鍛錬の後は木に登り、空をみたものだよ」
「僕も高い所から景色を見るのが好きで、よく木や岩に登って眺めていましたよ」
義経はそうかと笑顔で返答すると、少し沈黙が続き、突然真剣な顔になった。
「・・・千里、これからの事を話すが良いか?」
義経は後白河法皇との会話を千里に話した。義経は法皇から、平家を倒した後、京都の警護をして欲しいと頼まれた。しかしそれは兄頼朝と敵対するのでは?と思い留まる面もあった。それに、義経には他の望みがあった。
「弁慶は、私が京に居るなら俺も警護すると言っていたが、私は太平の世を見て回りたいと思うのだ」
「素敵な夢ですね。きっと弁慶殿も同じ考えでしょう」
「千里はどうするのだ?戦が終わったら旅立つのか?」
「僕は人造戦士です。これから先の未来に降りかかる厄神と戦う為に生まれました。僕は強くなる為にもっと修行します。遠い未来に出会う勇士達と共に」
「千里も目的があって生まれたのだな。千里が良ければ、私達と世界を巡ってみないか?若桜も一緒に」
義経は自分が生きている間、千里と若桜と行動を共にしたいと願っていた。千里は嬉しそうに答えた。
「是非とも。若桜に聞いてみますよ」
「私は戦を早く終わらせる為に、無鉄砲になってしまう事があるが、私についてきてくれるか?」
「はい。ですが、無謀ではありません。義経様は不可能を可能にする、戦の天才です」
「ありがとう、千里。これからの戦いも勝ち進んでいこう。そして戦が終わったら広い世界を見て回ろう」
義経と千里は願いを流れ星に込めた。しかしそれは叶うことの無い夢となってしまう・・・・。
前編 千里の旅立ち、義経との出会い 完
平家が都落ちし、京の町は穏やかとなっていた。義経が後白河法皇と御所で謁見している間に、弁慶は千里と若桜を連れ、京の名所を案内していた。都の東側を流れる鴨川に架かる『五条大橋』を渡りながら、弁慶は過去話をした。
「ここが、俺と義経が出会った五条大橋だ。あの頃は、破門されて刀狩とか馬鹿をしてたが、義経に負けて目が覚めたのだ」
「義経様と戦ったのですね。欄干に乗ったり、弁慶殿の薙刀に乗ったのは真ですか?」
「ああ。あいつは山奥の鞍馬寺で修行したから、機敏な動きをしていた。綺麗な顔とは裏腹に野生児だったな・・・」
「義経様と弁慶殿の対決を見てみたかったです」
「それは勘弁してくれ・・・俺は奴の戦法に遊ばれたのだ・・・」
弁慶は肩を落としため息をついたが、気を取り直し、話を続けた。
「だが俺は、あの日から義経について行くと決めた。あいつが居たから今の俺が居る。俺の力が必要無くなったとしても、あいつの力になりたいと思っている」
「弁慶殿は義経様を強く信頼していますね。義経様も嬉しいと思っていますよ」
「ああ。俺は役職には就けないが、我が殿、義経の護衛位は出来るぞ」
弁慶は薙刀を掲げ、得意げな顔をした。千里と若桜、橋を渡っている民衆はその勇ましい姿に拍手した。
次に弁慶は、平安京随一の景勝地、清水寺を案内した。
「綺麗だろう。義経と武芸の稽古をした後は、よくここで都全体を眺めたものだ」
「都はこんなに広いのですね」
千里は綺麗に並べられた碁盤の目のような都をまじまじと見ていると、都の外れ、西側の桂川方面に焼け野原を発見した。弁慶は苦い顔をしながら説明した。
「あそこは、数十年前に疫病で滅んだ村でな、誰も近づかない、禁断の地と言われている。何でも、村医者が病魔と言われ、役人に聖火で焼かれ、退治されたそうだ・・・そして、その村も炎で焼いたと・・・女子供も容赦なくな」
「治療に尽くした村医者が病魔にされるなんて・・・役人や都の医師が助けなかったのかしら?」
「疫病は人間にとって最大の天敵ですね。それに都と外れの村では格差がありすぎます・・・」
千里や若桜のような人造戦士は病に強い身体に造られているので、人間の弱さを見にしみて感じていた。
「さぁ、暗い話は終わりだ!!清水の坂に美味い湯豆腐の店があるから!!昼飯にしよう🎵」
その後も千里と若桜は弁慶と平安京を巡った。
夜に千里は洛北の山奥に建つ『鞍馬寺』に行った。本堂から奥の院に続く山道を歩いていると、木の根が無数にむき出しになった林に出た。
「ここが、義経様が幼少の頃に修行した所ですね」
義経は幼少時に鞍馬寺に預けられ、毎日のように鞍馬山を駆け回っていた。
(根と根の間を飛び跳ねていたから、軽い身のこなしとなったのですね)
千里は幼い頃の義経は相当野生児だったのだろうと想像していた。すると林の奥で、落ち葉を斬りながら根を飛び跳ねる男を見かけた。
「義経様、こちらで修行ですか?」
「千里か。久しぶりに京に来て、鞍馬で修行してみたくてな、ここは昔と変わらない」
「義経様にとって、思いでの故郷ですからね。ここは神秘的で修行に良い所ですね」
「ああ。ここは天狗が住んでいると言われている。私も天狗らしき者に武術を教えて貰った事があるのだよ」
「日ノ本には色々な種族が居ますからね」
2人はしばらく木の幹に座り、星空を見ながら話していた。
「昔はこうやって、鍛錬の後は木に登り、空をみたものだよ」
「僕も高い所から景色を見るのが好きで、よく木や岩に登って眺めていましたよ」
義経はそうかと笑顔で返答すると、少し沈黙が続き、突然真剣な顔になった。
「・・・千里、これからの事を話すが良いか?」
義経は後白河法皇との会話を千里に話した。義経は法皇から、平家を倒した後、京都の警護をして欲しいと頼まれた。しかしそれは兄頼朝と敵対するのでは?と思い留まる面もあった。それに、義経には他の望みがあった。
「弁慶は、私が京に居るなら俺も警護すると言っていたが、私は太平の世を見て回りたいと思うのだ」
「素敵な夢ですね。きっと弁慶殿も同じ考えでしょう」
「千里はどうするのだ?戦が終わったら旅立つのか?」
「僕は人造戦士です。これから先の未来に降りかかる厄神と戦う為に生まれました。僕は強くなる為にもっと修行します。遠い未来に出会う勇士達と共に」
「千里も目的があって生まれたのだな。千里が良ければ、私達と世界を巡ってみないか?若桜も一緒に」
義経は自分が生きている間、千里と若桜と行動を共にしたいと願っていた。千里は嬉しそうに答えた。
「是非とも。若桜に聞いてみますよ」
「私は戦を早く終わらせる為に、無鉄砲になってしまう事があるが、私についてきてくれるか?」
「はい。ですが、無謀ではありません。義経様は不可能を可能にする、戦の天才です」
「ありがとう、千里。これからの戦いも勝ち進んでいこう。そして戦が終わったら広い世界を見て回ろう」
義経と千里は願いを流れ星に込めた。しかしそれは叶うことの無い夢となってしまう・・・・。
前編 千里の旅立ち、義経との出会い 完