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番外編 千里の話 鬼神と呼ばれた人造戦士

摂津国一ノ谷(現兵庫県神戸市)。義経率いる騎兵隊と、千里と若桜を筆頭に十数名の人造戦士が、平家の陣の真上にそびえ立つ険しい崖で逆落としの準備をしていた。若桜は急斜面を見て、義経の覚悟を問うた。
「本当に崖から馬で駆け降りるのですか、義経様」
「ああ、よもやここから突撃するとは、向こうも思っていまい。この日の為に皆で急な坂を駆け降りる訓練もした。それに」
義経は千里と若桜の手を握った。そして、少年のような無邪気な笑顔を2人に向けた。
「千里と若桜、お主達の強さも頼りにしているぞ!!」
「義経様は戦の名人・・・いいえ、軍神ですね」
千里は微笑みながら義経に言った。
「さあ!!今こそ平家を討ち取るぞ!!」
『おー!!!!』
義経の采配と共に、騎馬兵は険しい崖を凄まじい速さで駆け降りた。千里は馬の転倒を防ぐため、地面を操り、安全かつ俊足を保てる地形を作った。
『敵襲だー!!』
平氏軍は予想外の奇襲に慌てふためいていた。しかし、風変わりな傭兵らしき男がニヤッと笑いながら迫ってくる源氏軍を見ていた。
「義経以外にも骨のある奴がいるじゃねーか。久しぶりに血が騒ぐぜ」

義経達は崖を降り、その流れで総大将『平知盛(とももり)』の陣に向かった。義経は馬に乗りながら敵兵を斬っていき、若桜も桜吹雪で敵を錯乱させ、怯んでいる隙に華麗な剣さばきで一掃した。千里や人造戦士も超人的な力で、一ノ谷に居る多くの兵を倒していった。そして、義経は陣に火を放った。

炎上し始めた陣で、平知盛率いる平氏軍は退却しようとしていた。しかし、側頭部にヒレが付いた好戦的な男が、源氏の大軍の元へ立ち向かおうとした、
「へぇー、源氏にも人ではない面白れー輩がいるんだなー」
「アナン!!ここは撤退だ!!この戦は勝ち目がないぞ!!」
1人の兵士がアナンと呼ばれた男に撤退を促していたが、全く聞く耳を持たなかった。
「なーに、ちょいと粋がってるガキを拝見しにいってくるわ。お前らは知盛様を連れて、讃岐の屋島(現香川県高松市)に退却しな。ついでに取り残された兵士も助けに行ってやる」
「アナン・・・無事に帰ってこいよ。あんたは、皆の父親みたいなもんだからさ」
「分かってら!!俺は海洋族だ。直ぐに瀬戸内海超えて泳いで行くからさ🎵」
千里と若桜は残党を倒していくと、他の者とは比べ物にならない程の強者が近づいて来るのが見えた。
「もう、大将はここには居ないぜ。雑魚の相手すんなら、俺様と戦いな!!」
「貴方は・・・そのヒレと海の香りは、海洋族ですね。人間とは関わらない種族と聞いたことがありますが、平家と組んでいるのですね」
「誤解を招くようだが、俺だけが平家に居るだけで、海洋族は無関係だぜ。それより、源氏サンは人造戦士とやらを使って、人の事言えんのか?」
「・・・太平の世を築くためです。海洋族であれ、源氏に仇なす者は敵とみなします!!」
「面白れぇー!!瀬戸内の渦潮喰らいやがれ!!」
アナンは逆立ちし、片手を軸に体を回転させ、海水をまとわせた渦巻きで千里を攻撃した。千里は天高く跳躍し、岩壁を出現させ渦巻を打ち消した。そして、宙返りしその勢いでアナン目掛け、かかと落としを喰らわせた。間一髪で避けられたが、飛び散った砂煙で動きを封じた。しかし、アナンも負けてはいない。直ぐに体勢を整え、激しい爆裂拳を千里に喰らわした。千里は紙一重に後ろに避け、最後の一撃を見計らい、拳が来た時に素早く屈み、相手の腕を掴み投げ飛ばした。
「く・・俺の拳を軽く避けるたぁ、本気を出さねーといけないぜ!!」
アナンは再び攻撃体勢に入り、千里に殴りかかった。すると若桜が間に入り込み、斬撃を繰り出しだが、軽々と避けられてしまった。
「なかなかキレのある剣技じゃねーか、嬢ちゃん。だが、俺の敵ではないな」
「く・・・思ったより強者ね。千里!!私も加勢するわ!!」
若桜は悔しがりながら、アナンに攻撃を続けた。しかし、千里は彼女の剣を鎖で止めた。
「いけません!!若桜。この男は僕に相手を申しています。手出しは無用です」
「千里・・・・」
「という事だ。嬢ちゃんは向こうに行ってな!!」
千里とアナンは戦火の中、決着をつけようとしていた。しかし平氏軍に撤退命令が出された。
「何だよ!!これからだって時に」
「アナン!!もう撤退するぞ。徳子(のりこ)様と安徳(あんとく)様を心配させたいのか!!」
「う・・・分かったよ。そんじゃあ千里といったか、次で決着を着けてやるから、首洗って待ってろよ!!俺はアナンだ覚えておけよ」
アナンは高速で走り、四国へ向かう船に飛び移った。若桜は追いかけようとしたが、千里に止められた。
「離しなさい!!私は、人造戦士なのに海洋族に負けた!!・・・私は弱くない!!千里の様に強い自分でありたいのよ!!」
「若桜は弱くなんかありません。先程も貴方に助けられました」
「それは・・・私が助けなくても、避けられたでしょう?同じ条件で造られた千里と私で、何故、戦力差があるの?」
「僕は、若桜や人造戦士達、源氏の皆に支えられて強くなりました。それでも、海洋族の者を倒せなかった。・・・僕達はまだ成長過程ですよ、若桜」
「・・・そうなの?」
「僕は、勇ましい姿とたおやかな姿の貴方が好きです。もし、戦が終わったら、一緒に日ノ本を旅しませんか?戦が無くなったら、義経様から休暇を貰って」
「な!?何を突然!!」
「あ・・若桜の人生なのに、勝手な事を言ってすみません。旅と言っても武者修行になりますが、全国の名物も食べてみたいと・・・」
「・・・少し考えさせて」
(それはつまり、一緒になるという事なのー!!)
若桜は赤面した顔を、千里に見られないよう駆け足で離れた。平家が放棄した一ノ谷には勝ちどきの旗が揚げられた。
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