このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

番外編 千里の話 鬼神と呼ばれた人造戦士

千里は各地を旅し、とある戦場跡で、平家への反乱兵士が傷つき倒れていたところを助けた。安曇から習った陰陽医療術や薬学で兵士を治療した。すると兵士に、千里の特殊な力を見込んで、『お主から強さを感じる。関東に源氏が居る。どうか、彼らに協力してはくれぬか』と頼まれた。
「僕は、武者修行の旅に出ている者ですが、乱世を終わらせる為、協力します」
千里は反乱軍の勧めで、源氏がいる関東地方を目指した。そして数日が過ぎ、千里は駿河国富士川(現静岡県富士宮市)を歩いていた。穏やかな川の流れに、水鳥のさえずり声が美しく鳴り響いていた。一方、これから戦が起きそうな不穏な空気も感じ取れた。すると、村人らしき男が彼に声を掛けてきた。
「あんた!!こんな所でのんきに歩いていたら危ないぜ!!」
「もしかして、平氏が近くにいるのですか?」
「ああ。平家が源氏追撃にこの村まで来ている。近隣の村では作物や家畜を奪われたそうだ」
「それなら、僕が近づいて来る平氏軍を退治します。村を案内して頂けますか?」
千里は富士川に沿いながら、北に見える富士を眺め、村を目指した。すると富士の麓にある村は守備体制に入っており、巨木で作った柵や、投石や弓を放つ為に作った櫓が建てられていた。


夜、村の向こうから馬が駆ける轟音が近づいて来た。千里は何人かの戦える民と共に、門の前に立ちはだかっていた。すると平氏軍の隊長が、村人に要求した。
「村にある食料を全部寄越しやがれ!!さもなくばお前らの命ないと思え!!」
「では、僕が相手になりますよ。皆さんは村の女と子供を守ってください」
「千里一人で大丈夫かよ?」
千里は凜とした顔で頷き、村人を安心させた。隊長は侮辱され怒りが頂点に達し、兵士に命令した。
「舐めた真似を。俺達に逆らったことを後悔させてやる!!」
兵士達は刀を抜き、千里に襲いかかってきた。しかし千里は動こうとせず、かかとを地面に叩きつけ、地割れと隆起を発生させ、兵士達の動きを封じた。
「くっそ・・・大地を操るか貴様!!」
隊長は再び仲間を統率させ、一斉に飛びかかるよう命じた。数十人の刀が彼の頭上に降り下ろされる前に、千里は素早く円を描くように回り、砂煙を撒き散らした。
「く・・・なんて強い砂嵐だ・・・」
千里はその隙に、兵士達に強烈な回し蹴りや、鎖鎌を振り回し甲冑を破壊し、大打撃を与えた。
「こいつ・・・出来る!!」
「美しい川が流れる村での襲撃は、自然の神様が怒りますよ」
千里は口笛を吹いた。すると、無数の水鳥が森の中から現れ、兵士に向かって襲いかかった。
『ひえー!!ごめんなさい!!もう二度と村を襲いません!!!』
平氏軍は頭をくちばしで突かれ、涙を流しながら逃げていった。
「平氏軍が富士川で、水鳥の大群に追いかけられて、撤退した事は、後の文献に書かれそうですね」
千里は水鳥の群れを見続けていると、後ろから若い武者に声を掛けられた。
「今の・・・平氏軍は、そなたが追い払ったのか?」
「僕というよりは・・・水鳥の群れです。どちら様ですか?」
「私の名は源九郎義経。こちらは相棒の武蔵坊弁慶だ」
艶のある長い黒髪を束ねた魅惑的な姿の義経と、大柄で勇ましい姿の弁慶は千里に挨拶した。
「僕は千里です。あなた方は、源氏の一族ですね」
千里はひざまずき、2人に頭を下げると弁慶は『頭を上げてくれ!!』と慌てふためいて言った。
「いいや、俺は破戒僧から義経の片腕となった身だ」
「千里、そなたは村の強者か?それとも旅人か?もし行く当てが無かったら、我らと一緒に来ないか?」
千里は義経の美しく凜とした姿に心動かされ、力を貸したいと思っていた。
「僕は、武者修行の旅をしていますが、反乱勢力の者に、源氏に力を貸して欲しいと思いを託されました。この乱世を終わらせるため、義経殿と弁慶殿に力を貸します。ですが、僕の正体は・・・」
「よろしく頼むぞ!!千里」
義経と弁慶は、千里が人造戦士だと知ってか知らぬかは別として、笑顔で受け入れた。


その後、千里は義経を始め源氏軍と共に、平家との幾多の乱で活躍した。そんな時、とある戦場で自分と雰囲気が似た戦士達を目にした。
「彼らは・・・人造戦士ですか?」
「ああ。源氏が信州や奥州に居る、陰陽師と土竜族の術士に、平家討伐に向け、人造戦士を造ってもらっていたのだよ。彼らを心強い戦士として信頼している」
(そういえば、安曇様も源氏に人造戦士を頼まれていると言っていましたね)
もしかしたら、千里は、自分は源氏に味方するだろうと計算されていたのかもしれない。すると、義経は千里の頭に手をポンと置き、言った。
「突然だが、千里は人造戦士を束ねる総大将をしてはくれぬか?」
千里は一瞬、こんな大役を任されて良いかと悩んだが、源氏軍での経験が長い自分が人造戦士をまとめるに相応しいとも思った。
「了解しました。彼らと共に、源氏を支えます」
その後千里は、人造戦士に陣の構え方や戦法を教え、幾多の戦に貢献した。また、源氏軍と人造戦士との架け橋にもなり、種族を超えた信頼関係を築くことが出来た。そんな中、戦とは無縁な藤色の髪と儚げな姿の女性が、手合わせをして欲しいと頼んできた。
「私は、若桜(わかさ)です。ずっと前から千里隊長と手合わせ願いたいと思っていました。しばしお付き合いいただけますか?」
若桜も人造戦士であり、女性戦士の中では1番の強さを持っていた。花のようにたおやかで美しいが勇ましく、彼女のザクロ色の瞳には熱い闘志が映っていた。
「若桜の活躍を良く見ています。僕も、貴方の戦い方を見てみたいと思っていました。お相手願います」
若桜は礼を言った後、桜の絵が描かれた扇と太刀を持ち、千里に攻撃し始めた。千里は鎖で刀を絡ませ、攻撃を封じたが、彼女は至近距離で扇を振り下ろし、桜吹雪の風で千里を吹き飛ばした。千里は彼女の戦い方を知っている。しかし、実際に手合わせをしてみると、相手の出方や動きを体で感じ、分析することが出来た。彼女の技を受け止めていると、旅立つ前に安曇と武芸の鍛錬をしていた事を懐かしく思い出した。
「若桜、あなたももしかして、安曇様に造られた人造戦士ですか?」
「ええ。安曇様から千里隊長と共に、互いを高め、時に支え合い、強くなれと言われました。私も今は源氏を支え、後に来る厄災に備え強くなりたいと思っています」
若桜は扇を持ち、軽やかに美しい舞を踊りながら、剣舞を披露するという、攻撃が読めない戦い方であった。
「舞で見とれる隙に、突きや斬撃。美しくて同時に恐ろしい戦法ですね。安曇様が教えてくれたのですか?」
「剣舞は安曇様からですが、舞は静(しずか)様が教えてくれました」
静は静御前。義経の側室であり、白拍子だが、桜吹雪の舞や剣の舞など、武芸にも秀でている。若桜は鍛錬をしながら、静御前に舞も教えてもらっていたそうだ。若桜は回転しながら扇を千里の首元に当てようとした。しかし、小石につまずき倒れそうになった。千里はとっさに彼女の腕を掴み、ひょいっと抱きかかえた。
「舞に夢中になるのは良いですが、足下もしっかり見ましょう」
「う・・・・私としたことが・・お・・下ろしてください!!」
千里はゆっくりと若桜を立たせた。若桜の頬は少し紅くなっており、隠しても千里にはお見通しだった。千里は微笑みながら言った。
「僕などに気を遣わず、もっと砕けて話して良いですよ」
「わ・・分かったわ。せ・・千里。また、鍛錬に付き合って欲しいわ」
若桜は照れながら、たどたどしく答えた。千里は優しく頷き、『こちらこそ、よろしくお願いします』と言った。この時、互いに惹かれ始めていた。
2/11ページ
スキ