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第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士

韮崎の新府城で、双葉は庭で自分の着物や、玄杜の着物を洗濯していた。
「双葉様がそのようなことをする必要はありません!!お部屋にお戻りください!!」
侍女が戸惑いながら止めようとしたが、双葉は静かに首を横に振った。
「何もせずに、梅雪の言う通り大人しく囚われているのは嫌なの。自分と息子の事は私がするわ!!」
侍女は諦めたのか、双葉から離れた。
(・・・梅雪を止められなかった・・・モトスを本気で処刑しようとしている・・・)
双葉は暗い表情で呟いた。


数日前、私は城の廊下を歩いていたら、襖から江津と梅雪が会話をしているのを耳にした。
「なるほど。身延を攻めるよりも、東部の吉田集落を制圧するのが良いのか?江津よ」
「はい。モトスと共に行動をしている球磨と湘という者も青木ヶ原を通り、鳴沢や吉田へ向かうでしょう。鳴沢で女の精霊戦士を傘下に加えました。これならモトスも手が出せまい」
「良くやってくれたな。江津!!これでようやくモトスを」
梅雪が言葉を続けようとした瞬間
「もうこれ以上モトスや民たちを虐げるのは止めなさい!!梅雪!!」
双葉が部屋に入って来た。
「双葉!!・・・聞いていたのか!!お前には関係ない・・・さっさと部屋に戻れ!!!」
梅雪は双葉を追い出そうとしたが、双葉は下がらなかった。
「なぜ・・・あなたはモトスをそんなに憎むの?モトスは忍びでありながらも誰に対しても優しかった・・・あなたにだって・・・」
双葉は言葉を続けようとしたが、梅雪に平手打ちをされた。
「うるさい!!お前は俺のただのお飾りなんだよ!!これ以上生意気な口を叩くと本気で玄杜を殺すぞ!!!」
梅雪は再び双葉を殴ろうとしたが、間に信康が入り、代わりに殴られた。
「・・・申し訳ございません・・・梅雪様。少し前に双葉殿と言い争いになり、彼女も精神的に苛立っていたのだと思います。どうかお許しを・・・」
梅雪は不愉快な顔をして、頭を下げている信康を無視し、再び江津と作戦を企てた。信康は双葉を連れ部屋を出た。
「・・・良いのですか?梅雪様。御夫人に完全に嫌われてしまいましたぞ・・・」
江津は呆れていた。
「良い!!それよりも今はモトスを始末することが先だ!!それが終わってしまえば、双葉も諦め俺に屈服するだろう」
梅雪は不機嫌な表情から直ぐに変わり、自信満々に笑っていた。


現実に戻り、双葉は洗濯物を干そうとした時に、スズメバチに襲われそうになった。双葉は体を伏せた。

パン!!

耳元に銃声が聞こえ、顔を上げた時にはスズメバチは粉々になっていた。
「・・・信・・・康・・・・?」
「危なかったですね・・・スズメバチは2回刺されると死に至ると聞いたことがあるので・・・」
「・・・なぜ・・私を助けたの?梅雪は私などただのお飾りに過ぎないと言っていたのに・・・それに・・私のせいであなたが梅雪に殴られてしまって・・・ごめんなさい」
信康は涙を流そうとしている双葉を無意識に抱きしめていた。
「・・・もしも、梅雪様が双葉殿と玄杜の命を奪うものなら。僕が何とかします!!・・・だから、何も心配はしないでください」
双葉は信康の茶色い瞳の中を覗きながら小さい声で尋ねた。
「・・・私、あなたの考えが分からない・・・今のあなたは梅雪の影?・・・・それとも本当の信康?」
信康は小さく笑いながら、双葉の視線を反らし、体を優しく離した。
「・・・僕も自分が良く分からないのです。・・・梅雪様に留守中の城の守備を任されていたんだ。・・・では、これで失礼します」
信康は双葉の元を去った。
(・・・い・・嫌だ・・私は勝頼様を今でも愛しているのに・・・どうしてしまったの?)
双葉は赤面し、心臓の鼓動が高まっていた。

「は・・・ははは。僕が梅雪様なら良かったのに・・・」
信康は双葉に恋心を抱いてしまった。
「・・・それでも僕は梅雪様に尽くさなくてはいけない!!」
信康は恋心と忠誠心の間で揺らいでいた。その姿を厳美が面白く見ていた。信康の心は闇へ浸食され始めている。
 
                    

                    第5話 番外編 完
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