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番外編 千里の話 鬼神と呼ばれた人造戦士

時は平安末期、源氏と平氏との大乱が起こる少し前、信濃国北部にある聖地『戸隠』(現長野県長野市)で、小人のような種族の陰陽師が、戦鬼『人造戦士』を造っていた。
「日ノ本が太平の世となるには、お前の力が必要だよ。地底に生きる私達の代わりに、戦って欲しい・・・これから先、起こる厄災に向けて」
小人の女は、黒茶色の陰陽服と袴を身につけ、暗い雰囲気を漂わせているが、金茶色の髪とトビ色の瞳が神秘的な精霊のようにも見える。女は、深き森と険しい山に閉ざされた地下祠で、寝かされている人型の人形に真紅の色をした大地の魔石を入れようとしていた。厚く逞しい胸板に小さな手を置き、優しく魔石を入れると、男は静かにまぶたを開け、小人の女を見つめた。
「・・・・あなたが僕に生命(いのち)をくれたのですか?」
「そう、私は安曇(あずみ)。土竜族(どりゅうぞく)の小人だけど、訳あってお前を造った陰陽師だよ」
「訳あって・・・とは、今は土竜族を離れているのですか?」
安曇は男の真紅の瞳で見つめられ、本心を隠さず正直に告げた。男は説明するまでもなく、脳に情報が入っていたので土竜族を知っていた。
「・・・私は陰陽術ではあるが、人造戦士の可能性を試してみたかったのよ。土竜王の反対を押し切ってでも。大地の光玉を入れたお前を成長させたいとね」
「覚悟を決めて、僕を造ったのですね。ですが・・背をもう少し高くして欲しかったですね・・・筋肉はしっかりついていますが」
男は引き締まった筋肉質ではあったものの、成人男性に比べると顔には幼さが残り、背も少し低めだった。
「すまないな・・背はあまり高いと大地の魔石に適合しなかったから・・・その分、筋肉ムキムキだと貫禄があるかと思って」
「つまりあなたは、童顔の筋肉好きですね」
「う・・・」
「図星ですか」
男に痛いところを突かれ、安曇は潔く本当のことを言った。
「筋肉好きは認めよう・・・。だけど、お前の胸に入れた魔石はこの体型なら適合するかと思ったからだ」
「そんな大切な物を、何故僕の体に宿したのですか?」
「この魔石は人間や他種族には宿せない。大地を守護にする『土竜族』でさえ駄目だった・・・。生命を宿す土と金剛石から作られた人造人間が唯一可能だったのよ」
男は彼女の行為を素直に受け入れ、話を聞いた。
「どうか大地の力で、これから起こる厄災に立ち向かって欲しい。お前だけでなく、水と火と風、そして聖なる龍の守護者が共に戦ってくれる。まだ遠い未来だけど、いずれ日ノ本は闇に支配されてしまう」
「・・・分かりました。それでは僕は強くなってきます。仲間ともいずれ出会うのならその間、日ノ本を見て回ります」
「ありがとう。そういえば、お前の名前をまだ決めていなかったな。千里の道を行くから、千里(せんり)はどうかな?」
男は全国を旅する自分に相応しい良い名前だと思った。
「千里の道は一歩から、ですね。これから僕は千里と名乗ります。安曇様は僕の母親ですね」
「母って・・・私はこれでも5百年しか生きてないのだが・・・」
(姉ではだめか・・・)
安曇は少し肩を落としていたが、千里が母と慕うのでまぁ良いかと納得した。
「年齢なんて関係ありません。僕を生み出してくれた者は、母親だと思っています。ところで、今の日ノ本の状況を教えてください」
安曇は説明した。現在、京の都に君臨し政権を握っている平家が勢力を拡大し、日ノ本を支配しようとしていた。軍事力や政治力は各地の反乱勢力より上回っていた。反乱軍の中心である源氏と、平家で争いが起きようとしていた。
千里は話を聞いていると、腹から大きな音がぐーっと鳴った。
「人造人間でもお腹は空くのですね・・・」
「土や金剛石が元でも、体内の機能としては人間と変わらないから、普通に食欲は感じるんだよ」
安曇はクスッと笑いながら、名物の戸隠そばをせいろに盛り、千里に食べさせた。千里は初めて口にした名物を嬉しそうに食べ、決意していた。
「強くなりながら、全国の名物も食べてみたいですね」


千里は旅立つ前、安曇の勧めで、戸隠神社で修行している陰陽師や、戸隠山に潜む忍びに呪術や武術などを教えてもらった。知能と身体能力が高い千里は直ぐに技を覚え、大地を操る能力や、鎖鎌や暗器を使用した戦闘術も身につけた。安曇は彼の早い成長に予想以上だと感心していた。
「もう私達から教わる事は無いよ。各地を回って日ノ本を見れば、千里はさらに強くなれるよ」
「安曇殿、色々教えてくださり、ありがとうございました。僕は強者と出会い、己を高めようと思っています」
「千里は魔石の力で強いわけではない。心がお前を強くしている。大地の魔石は、人造人間であれ、不適合者だと体から出て行ってしまうからな」
「それなら僕は使命を持って生まれたと改めて実感できますね」
千里は安曇にお世話になったと礼を言い、武者修行の旅に出た。安曇は彼の逞しい背中を見続け、深く祈りを込めた。
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