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番外編や短編集

豊臣軍による小田原征伐が終わり、日ノ本と海の世界では平和が訪れていた。そんな中、海王神いすみと側近の常葉は、モトスや森精霊達に会いに行く為、甲斐国の富士山麓へ向かっていた。日本海溝の宮殿から太平洋を泳ぎ、あっという間に駿河湾から富士川に入った。2人は水面から浮き上がり、目の前に見える富士に目を奪われていた。
「駿河湾から見ると、富士は大きいですね!!いすみ様」
「ああそうだな。富津岬(現千葉県富津市)から見る富士も美しいが、こうも間近で見られると迫力あるな」
「駿河湾から見るのも綺麗ですが、モトスが富士五湖から見るのも絶景だと教えてくれました」
「モトスや小精霊達が富士を熱心に語っていたからな。それと、この時期は芝桜が綺麗だとも言っていた」
いすみと常葉はモトス達に会うのを楽しみに、富士川を泳ぎ中流を目指した。


2人は富士川の中流、山に沿った地、身延(みのぶ)の里に着き、しばらく本栖道を歩いて、下部温泉郷に入った。温泉地は山岳信仰の修験者や身延山久遠寺の僧侶達が修行の疲れを癒やしに来ていた。
「温泉か。久しく入っていないな」
「ここは、武田信玄の隠し湯で、湯治場にも利用されているようですよ。傷や疲れが直ぐに癒やされるそうです」
「ふむ、後日海洋族の皆を誘ってみようか」
下部温泉から再び本栖道を歩き、森を抜けると広い湖が見えた。さざなみはたっていないので、蒼い湖には鏡のようにくっきりと富士が映っていた。
「これは・・・逆さ富士か?長く生きていたが初めてみたぞ」
「ここは、本栖湖ですね。モトスさんは湖畔の花畑で生まれたそうですよ」
「モトスの故郷か。あの者はきっと、本栖湖の神様なのかもしれぬな。ここは後に、景勝地となるかもしれぬな」
いすみはしみじみと遠い未来を想像していた。絵画などに描かれたり、通貨の絵などに使われたりと。しばらく湖と富士を眺めていると、2人の男と後ろについてくる少年、そして小さき者達がパタパタと蝶のハネをはばたかせ、元気に近づいてきた。
「いすみ様!!常葉!!随分と早かったですね!!」
「モトス、白州、精霊の皆!!お久しぶりです」
「お前達、久しぶりだな。わざわざここまで来てもらって、すまないな」
「いすみ様、常葉兄ちゃん、お久しぶりじゅらー♪」
じゅら吉を始め、沢山の小精霊達はいすみと常葉に飛びかかり、頭や肩などに乗って来た。そこを白州の弟子『小助』があたふたと小精霊達に注意した。
「こらこら、一斉に集まったらいすみ様と常葉兄ちゃん困っちゃうずら!!」
同じく白州も、いすみの長い髪でぶらぶらと遊んでいるじゅら吉のハネをつまみ、叱った。
「こらお前ら!いすみ様の髪がサラサラだからって、気軽に遊ぶな!!」
「だって、白州兄ちゃんの髪は硬いじゅら」
「あのなぁ・・・」
白州は気にしているのか少し落ち込んだ。モトスは苦笑いしていた。
「ははは、白州遊ばれてるな・・・・」
「まぁ良い。皆が楽しみにしていた、房総の土産を持って来たぞ」
いすみは笑顔で、手品のように梨や落花生、すいかなど房総の名物を出現させた。小精霊達は嬉しそうに飛び跳ねていた。
「初めて見るお土産ばかりじゅら!!美味しそうじゅら♪」
「後でお都留お姉ちゃんやエンザン棟梁も混えて食べようずら」
「では、富士五湖と大自然を案内しますよ」
『おら達の里も案内するじゅらー🎵』
モトスと小精霊達はウキウキしながら、案内に意気込んでいた。


いすみ達が向かったのは、本栖湖から林道を抜けた平原。そこには池の周りに緋色の芝桜と、目の前に大きな富士がそびえ立っていた。いすみと常葉は幻想的な風景に目を奪われていた。
「これは・・・今まで見た事がない雄大さと華やかさだ。芝桜と富士は反対色だが、互いの美しさを引き立てておるな・・・」
しばらくいすみはその場を動かず、芝桜と富士に感動していた。その時、上空から聞き慣れた軽い声が聞こえた。白い翼に山伏のような姿をしている見た目は若い男性だった。
「そりゃあ、いすみちゃんはあんまこういう所行かないからなぁー」
「その声は・・・蕨か」
蕨は白い翼を持つ『飛天族(ひてんぞく)』の族長。彼らは武蔵の秩父や上州の赤城山などに暮らす少数種族であり、いすみとは長年の犬猿の仲だが、いざという時には強力しあう仲である。
「いすみちゃんも、詩的な事を言うんだなー。長年付き合っているが、意外な面が見られたぜ」
ニヤニヤと冷やかす蕨に対し、いすみは激怒した。
「蕨!!貴様のおかげで美しい風景が台無しだ!!」
「秩父の武甲山にも芝桜が綺麗に咲く丘があるんだけど、いすみちゃん登ってみるかい?」
「ふん!!ワレが山登りなんぞするとでも思っておるのか!!」
いすみと蕨のケンカが始まった。モトス達は呆然と見ていると、またまた聞き慣れた声の主が近づいて来た。
「客が増えてやかましくなったと見にくれば、いすみ様達だったのか・・・」
いすみの大孫にあたる、湘と凪沙と人間のクノイチ『藤乃』も来ていた。
「湘!?貴様も来ていたのか?それに、凪沙(なぎさ)も!!」
どうやら、湘の母『凪沙』はまた海を抜け出したらしく、いすみは探そうとしていたが、常葉に心配ないと止められていた。モトスは湘が来ていた事を説明した。
「ああ、一足先に凪沙殿と藤乃も一緒に富士山麓に来てもらいました。母親と恋人を連れて来たかったのだと言っていました」
「藤乃とは恋人ではないがな」
湘は少しふてくされながら言うと、藤乃はからかいながら言った。
「照れるなよ、湘。『君も来ないかい?』とキザったらしく誘ったじゃないか」
「湘!!貴様が勝手に凪沙を連れ出したのだな。宮殿に居なかったから心配して探したが・・・まさか、常葉も知っていたのではないのか・・・」
いすみは、孫に当たる凪沙を真剣に心配していた。常葉は申し訳なさそうに謝った。
「すみません、いすみ様。側近とはいえ、凪沙様のお願いを断れなかったので・・・」
「ふふ、ありがとう常葉。いすみ様、私はもう子供ではありません。地上の世界についてしっかりと勉強もしていますわ」
「全く・・どいつもこいつも。まぁ良い。誰が来ようとも、ワレは思いっきり楽むぞ」
いすみは呆れながらも、内心富士山麓観光を楽しみにしていた。モトスは嬉しそうな顔をしている一方、湘は頭を抱えため息をついていた。
「賑やかになって良いな♪」
「はぁ・・・私達は先に森精霊の里でゆっくりしている」


芝桜を見物した後、いすみ一行は湘達と分かれ、本栖湖の北にある精進湖へ向かった。
「ここは、川のように曲がりくねった湖だな・・・」
いすみは、湖の形は四角か丸いものだと想像していた。
「精進湖は他の4つに比べて、形が変わっているのですよ」
モトスの説明に、いすみは古文書で読んだ記録を思い出した。
「そういえば、太古の昔は本栖湖と西湖と精進湖はくっついていたと聞いた事があるぞ」
続いて白州も嬉しそうに富士五湖の話題を続けた。
「その通りです。大昔、富士の噴火で、溶岩が湖をせき止めて今の形になったんですよ。富士五湖は元々1つの大河だったんです」
モトスと白州が富士の歴史や伝説を説明しているうちに、精進湖の景勝地にたどり着いた。広い湖には富士とその手前にぽっこりと小さな山が見えていた。モトスは大室山を指さして説明した。
「富士山が抱っこしている風に見えるでしょう。その名の通り、子抱き富士と呼ばれています」
「ははは、まんまだな・・・」
蕨が苦笑いして聞いている一方、いすみは深く感心していた。
「富士山も色々な所で見方が変わるのだな。ワレは何でも1つの視点でしか見ていなかった」
「そんな事無いと思うぜ。いすみちゃんは生真面目なだけで実際はしっかりと周りを見ていると思うぞ。2千年以上も付き合っている俺が保証する」
「ふん。世辞を言ったところで何も出ないぞ」
蕨はいすみの事を良く理解していた。そのことにいすみは素直になれないながらも、励まされたと分かっていた。
「いすみ様!!わらび兄ちゃん!!この湖はワカサギが漁れるじゅら」
じゅら子が湖面を泳いでいるワカサギに指を差して説明した。常葉も珍しそうにしゃがみながら眺めていた。
「ワカサギは淡水魚だから、海に居なくて珍しいですね」
「ずっと前に、球磨兄ちゃんが『てんぷら』にして作ってくれたじゅら」
球磨(きゅうま)とは九州生まれの、炎の守護を持つ、モトス達の仲間である。全国を旅する傭兵で、南蛮文化の知識がある。
「あいつは南蛮料理に長けてるからなー。てんぷらって油で揚げた料理は、油もさっぱりしていて美味かったな」
じゅら吉と白州は、よほど上手かったのか、天ぷらのサクサクした味わいが忘れられない顔をしていた。いすみも話を聞いて少し興味を持ち始めていた。
「南蛮料理か。未知の世界だが今度味わってみようか」


次に精進湖から東に進み、野鳥や鹿などが多く生息する森を通ると西湖に到着した。西湖は湖越しに、溶岩石の上に無数の樹木が生える深き森『青木ヶ原樹海』が見える神秘的な景勝地である。
「あれが、青木ヶ原樹海か。暗い雰囲気を漂わすが、大自然の力を感じさせる」
「そうなんですよー。結構樹海に迷い込む村人が居るから、俺達、森精霊が救助活動をしているんですぜ」
白州などの精霊戦士は、森を脅かす輩を退治する他に、樹海や山岳地帯で遭難した人間達を救助している。
「今思えば、白州と小助が助けてくれなかったら、ワレは樹海でのたれ死んでいたかもしれぬな。改めて感謝する」
少し前にいすみは、湘の父、闇の力で亡霊となった『真鶴(まなづる)』に海洋族の宮殿を乗っ取られ、樹海近くに飛ばされてしまった。その時、山菜摘みをしていた白州と小助、そして小精霊達が倒れている彼を救助してくれたのだった。
「種族関係なく困っている者を助けるのが森精霊ですから。それに、縁遠い海洋族と交流出来て、森精霊の皆も喜んでましたよ」
「海王神様と知って、皆んなでビックリしたけど、お友達になれて嬉しいずら!!・・・です」
「ああ。ワレもお前達と出会えて喜び他ない。今度、海洋族の皆も連れてこようと思う」


夕方になり、西湖から少し南にある『鳴沢の森』で休むことにした。この地は森精霊達が住んでいる、高い木々と草花に囲まれた里である。楓やブナの木には、樹木を支柱に茅葺き屋根の家が建っていた。幹に彫られている洞(ほら)は、小精霊の住処でもあった。モトスは里の中を案内した。
「ここには、お都留やエンザン棟梁もおります。と言っても、いすみ様と常葉はご存じでしたな」
いすみと常葉は前にこの里に世話になった。すると、里の近くでかぼちゃと味噌の良い香りがしてきた。
「お都留姉ちゃんがほうとうを作ってるじゅら🎵」
小精霊達は一斉に森の広場へ向かった。


森の広場には沢山のかぼちゃ、キノコなどの山の幸が置かれ、お都留と女精霊が沢山の鍋でほうとうを作っていた。そこには、凪沙と藤乃も手伝っていた。
「凪沙様と藤乃さん、ほうとう作り手伝っていただいて、すみません」
「なーに、あたしもほうとうの1つ2つ作れないとねぇ。それに、麺打ち楽しかったよ」
「ほうとうは初めて口にするわ。海では採れない山菜が多くて美味しそう」
藤乃と凪沙はおたまで鍋をかき混ぜていた。
「ふふ、甲斐国名物のほうとうは、他の郷土料理にも負けない、天下一品です。あら、噂をすれば、皆さん来たようです」
早速、じゅら吉を始め、食いしん坊な小精霊達が、トロリと煮込んであるほうとう鍋に集まってきた。
「お都留お姉ちゃん!!ほうとう美味しそうじゅらー🎵」
「あら、お帰りなさい。ちゃんと手を洗ってうがいしてから席に座るのですよ」
「はーい!!じゅら♪」
モトス達もお都留達の元に駆け寄った。
「お都留、皆んな、ほうとう作りご苦労。ところで、湘はどこに居るのだ?」
「エンザン棟梁と館でお話されています。お料理が出来たら呼ぼうと思っています」
「そうか。色々話したいこともあるのだろう。よし、俺も手伝うぞ!」
「オラも手伝うずら🎵白州兄ちゃんはお野菜の追加を切るずら」
「はいよ、いすみ様と常葉と蕨さんはゆっくり寛いでいて下さい」
いすみ達は小精霊達とのんびり待っていた。


森の中で一番高い巨木に、エンザン棟梁の館が建っていた。湘はエンザンと外の景色を見ながらしんみりと話していた。
「色々な種族の者達が集まっていて不思議な光景ですね」
「このご時世、種族の壁を乗り越えて、ほうとう鍋や酒を酌み交わすのは良い事じゃ」
「エンザン棟梁は、森精霊と他種族が結ばれたら、どう思われますか?」
湘は前から気になっていた事を質問した。
「互いに愛し合っていれば、喜ばしい事じゃ。・・・ただ、互いが真に愛していなければ悲劇を生む・・・」
かつて、女の森精霊と体たらくな武士との間に悲劇の子が生まれた。それは、湘も深く関わった甲斐の国での悲しき戦い。しかし、その主『穴山梅雪』は憎しみも悲しみも浄化され、天へ還り、新しい森精霊として生まれ変わった。エンザンは窓の下を見て、野菜を運んでいる小助を見つけ微笑んでいた。
「森精霊は、他種族と結ばれる時、真に愛し合っている者どうしでなければならない。でないと、人間でも森精霊でも無い劣勢の存在が生まれてしまう・・・だから、わしもいすみ殿のように掟を作ろうとも考えていた。他種族と関わりと持たぬと」
エンザンは悲しそうな顔をした。湘には自分の両親も離れ離れとなったので、気持ちを十分理解していた。
「そうだったのですね・・・」
「じゃが、わしはモトスやお前達を信じた。もう二度とこんな悲劇を生ませないじゃろうと。聖なる龍の力を持つ聖者とお前達、地水火風の力を持つ守護者の奇跡を」
「エンザン棟梁。私は、皆に比べると力は弱いですが、モトスに出会えたことや、皆と戦える事に誇りを持っています。それにより、いすみ様とも分かり合え、憎しみで亡霊となった父を救うことが出来ました」
「お主はまだ若い。これからも、知略とお主自身の力で、皆を支えるのじゃぞ」
湘は少し説教臭いエンザンの言葉をしっかりと受け止めた。すると、お都留から『ほうとう鍋が出来ました』と、声が聞こえた。その後は、森の広場で皆でほうとうを口にし、他種族同士で近況やらそれぞれの故郷の良いところを語り合ったりと楽しい時間を過ごした。


翌日、モトスは皆を河口湖へ案内した。昇り始めた朝日は蒼い富士と湖畔を美しく照らし、ここでも広大な逆さ富士を眺めることが出来た。さらに、湖畔の周りには桜並木が広がっており、より美しさを増していた。
「ここの逆さ富士は湖も広くて迫力があるな。桜も満開で引き立っておる」
「桜の木は、森精霊と村人達で植えました。皆で大切に育ててここまで大きく広い桜並木が出来ました」
「そうか。森精霊も人間と協力して美しい景色を作ったのだな」
いすみが微笑みながら桜を見ていると、元気な老女が白州の元にやってきた。
「白州やーい!!村の皆でワカサギとニジマスの甘露煮を作ったべさ!!」
「ばっちゃん!!こちらは、海王神いすみ様と側近の常葉と、飛天族の族長、蕨さんだぜ」
いすみと常葉と蕨は白州の育て婆、キクに自己紹介した。腰は曲がっていても元気で笑顔がほっこりする老女だと3人は思った。
「白州がお世話になっております。河口湖や富士五湖はのどかで自然豊かな土地ですじゃ。もしよければ、私達の村に歓迎しますよ」
キクと白州は三つ峠を背にした森の中の集落へいすみ達を案内した。以前はキクを始め、高齢者が多かった閉ざされた村だったが、現在は織田家の家臣が名を捨て村で隠居したり、武田の元武士も住み移り、農業や湖で漁をしたりと、若者で活気付いている。
「最近、河口湖にも温泉が発見されたんだぜ。近々旅館を建てようと計画してる者もいる」
「村人や観光客の憩いの場になるな」
白州とモトスが嬉しそうに言うと、いすみと蕨は深く感心していた。
「人間と森精霊が共に力を合わせて村を作っておるのだな」
「俺も秩父の村人と住みやすい村を作ってるぜ。色々な種族と助け合うのも大切な事だと分かるよ」
「・・・そうだな。人間の笑顔を見るのも久しぶりだ」
いすみは朗らかに、村人達の笑顔を見ていた。


いすみ達は、キクの村で田舎料理をご馳走になった後、河口湖の富士を見ながら、忍野の里へ向かった。忍野は富士に近く、高い木々に囲まれた林道坂を登ると、開けた場所から富士がすごく近く見えた。富士を見ながら草原を下ると、こじんまりとした集落の中に綺麗な池が点々とあった。水車小屋を中心に、翡翠や瑠璃のような池が広がり、傍を流れる小川は満開の桜並木で桃色に染まっていた。周辺には修験者や森精霊が禊をしていた。
「ここは霊場『忍野八海』です。富士の湧水がこの池を作り、富士登山をする禊場としても使われています」
「池ごしから見える富士山が綺麗じゅら🎵」
「忍野八海の湧水で作るお蕎麦やお野菜が美味しいじゅら🎵」
いすみと蕨は透き通った蒼い池の水をじっくりと見た。
「何とも幻想的だな。池の魚も生き生きと泳いでいるのが分かる」
「鳥達も湧水を気持ちよさそうに飲んでるな」
一行は、忍野八海の美しい自然に癒された。


最後に、忍野八海から林道を通り、山中湖へ向かった。山中湖は楕円型の湖で、富士五湖で1番面積が大きく標高も高く、富士に一番近い湖である。いすみは、ここから見える富士は、四角く角張っている部分を見つけ、クスッと笑った。
「ここから見る富士は圧倒される・・・裾野もはっきり見えるぞ。あと、角張って面白いな」
一方、お都留は懐かしく思い、少し目が潤んでいた。
「山中湖は私が生まれたふるさとです。そこで、忍びの修行中のモトスさんと出会いました」
「懐かしいな、お都留。任務で山中湖を通ったときに良く手の平に乗ってきたな。それと一緒に桃やブドウを食べながら富士を見ていたな」
2人だけの世界に入り、湘はため息をついた。
「あの2人は置いといて、山中湖は相模に近いから、私もお忍びで泳ぎに来ているよ」
「湘、水臭いじゃないか。あたしも連れてって欲しかったよ」
「今来られたのだから良いではないか」
湘と藤乃は少し口論となった。しかし、凪沙は微笑ましく見ていた。
「相変わらず、湘と藤乃さんは仲が良いわ」
湘と藤乃は口論を止め、照れながら微笑んだ。


夕暮れ時の山中湖で、いすみと常葉はモトス達に別れを告げた。
「また、遊びに来て下さい。いすみ様、常葉、凪沙殿。森精霊も河口湖の村人も歓迎致しますよ」
「房総名物を沢山ありがとうございますずら。皆んなで仲良く食べるずら」
「今度は、ブドウや桃狩りに甲府盆地を案内しますぜ」
「ああ。我々を招いてくれて、感謝する。今度は房総の海にも来てくれ。海洋族の宮殿にも案内する。それと・・・」
いすみは少し照れながら湘に言った。
「湘、ワレも箱根の峠を越えて帰っても良いか?安心しろ。藤乃との仲は邪魔はせん」
「最後の言葉は余計ですが、別に構いません。親子と爺孫水入らずも悪くはないですよ」
「ワレはまだお前を大孫とは認めてはおらんぞ!!」
「全く・・素直じゃないなー。海王神いすみちゃんは」
蕨や皆は、口論しながら帰るいすみと湘を見て、爺と孫で似ていて長年経っても子孫の血は争えないと思いながら微笑んだ。
「いすみ様、今私は河内の堺に暮らしています。もし良ければ近畿を案内しますよ。古墳があったり歴史建造物もあって面白いですよ」
「良かろう。たまには歴史に触れるのも面白い」
湘といすみは親友のように、親密度が高まっていた。


                          番外編 完
4/9ページ
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