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第3章 異説小田原征伐  蘇りし海の亡霊と海神伝説

数ヶ月後、湘は和泉国港町、堺の海を見ていた。少し離れた河内国に住む氏直とは別れ、今は堺に住み、自由に商船や観光船の航海士をしている。桜龍達は非番の湘の元へ会いに来た。
「湘さん、航海士の仕事はどうですか?」
「順調だよ。海洋族の能力で海風や波の動きを読む事が出来るし、商船での勤務が終わったら、全国の名物を貰える事もある」
湘は先日行った、伊予国のミカンを皆に渡した。
「私は、大名家の軍師になってみたかったけど、航海で広い海を巡るのが性に合っているな」
「そうは言うが、真田家にも豊臣家にも仕えるつもりはなかったのだろう」
「海洋族の宮殿には戻らねーのか?」
「私はもう、誰かに仕える気は無い。自由に航海し、時には歴史などを研究する。この堺地域は古墳が多いからな。だが、日ノ本の危機には皆と共に戦うよ」
「いすみ様と和解できたのだから、たまに凪沙さんにお土産を渡したり、近況を話すのも良いですね」
「言うようになったねぇ、千里。相模へ里帰りするのも、海洋族の宮殿へ行くのもここからならあっという間に行かれる。海洋族にも日ノ本の危機には協力してもらうことになったからな。そして、一時的とはいえ、君達を裏切る行為をしてしまった。それでもまだ、仲間でいてくれるか?」
桜龍達はもちろんと深く頷き、球磨とモトスは彼の頭をくしゃくしゃと撫でた。千里はその姿を微笑ましく見ていた。この戦いにより、一層5人の絆が深まった。


湘は桜龍達と別れた後、紀州最南端、潮岬(現和歌山県串本町)で水平線を眺めていた。その先には古代に海龍が護っていた島国が存在していた。
「父は遠い島の海神だったのだな・・・」
湘は改めて父真鶴と、大祖父にあたる海王神いすみの偉大さに心を驚かせていた。すると後ろから藤乃が近づいてきた。
「何黄昏てんのさ、今のあんた、隙だらけだよ」
「藤乃か。今は氏直様の様子を見にきているのだったな」
藤乃はその後、風魔忍軍を解散させた。現在、彼女は河内にある料理屋で働きながら、時々、氏直の様子を見ている。
「氏直様は河内で頑張ってるよ。秀吉の補佐をしているが、待遇は悪くないみたいだ」
「そうか、それは良かった。ところで風魔忍軍の皆はどうしてる?特に、小太郎殿は?」
「父上の行方は分からない。あの人は昔から風のような人だから、お忍びで世界旅行でも行ってるんだろう」
「そうか。藤乃はしっかりしているから、父親離れしても大丈夫だと思ったのだろう。それに、もう戦わなくて良いのだし」
「湘は、これから闇の奴らと戦うってのかい?」
「ああ。これは私が水の守護者に選ばれた定めだからな。ただ、それだけではない。父を亡霊にし利用したのと、いすみ様の恋人に呪いの子を産ませたミズチに報いを受けさすのが目的だがな」
藤乃は湘の決断に迷いが無いと理解し、これ以上口を出さなかった。
「そうか、戦う覚悟は出来ているんだね」
「君を巻き込むつもりは無い。今回だって協力してくれて感謝しているが、もう危険な目には遭わせな・・・」
湘が最後まで言おうとした時、藤乃に口付けされた。
「あたしは、出会った時からあんたに心底惚れているんだよ。だから、あんたに頼られた時、物凄く嬉しかったよ」
「藤乃・・・く・・やられた・・・これは私が言うべき台詞だったのに・・・」
「ふん、普段スカしているからだ。あたしは、特別な力とか無いけど、何かあれば頼って欲しい」
「・・・ありがとう。君の気持ちが聞けて私も嬉しい。ただ、海洋族と人間・・いいや、海龍との混血種で良いのかい?」
「あたしは、あんたが人間でも人魚でも好きだよ!!どうだい!!」
「・・・全く、男が言う台詞を言われるとは」
2人は互いの顔を見ながら笑った。その姿を遠くの岩場からいすみと肩に乗せたリュウグウノツカイ『マナヅル』が見ていた。
「湘、藤乃、幸せにな。オミや真鶴、クリクリの分まで幸せになって欲しい」
いすみは一瞬、朗らかな笑みを浮かべ、海へ戻った。


        
             最終章 水平線の先を見つめる勇士達 完
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