このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第3章 異説小田原征伐  蘇りし海の亡霊と海神伝説

真鶴と凪沙と湘は、久しぶりの親子水入らずで相模の観光地を訪れていた。最初に鎌倉の鶴岡八幡宮でお参りをした。広い境内にある夏の源氏池には美しい蓮の花が咲き誇っていた。
「戦が終わって間もないから空いていて良かったよ」
「ここは初めて真鶴さんが連れてきてくれた場所よ、湘。その時は桜が満開だったわ」
「素敵な所を案内したのだな、父さん。ここは、遠い未来に人気観光地になりそうだよ」
その後は、八幡宮の参道で団子を食べ、由比ヶ浜、七里ヶ浜と海岸線を歩き、江ノ島と遠くに見える富士の山を眺めた。
「三浦からも富士は見えるが、江ノ島を背景に富士を見るのも絵になるな」
「この辺りは、湘南と言われる地域だと真鶴さんが教えてくれたのよ。それで、あなたの名前を『湘』と付けたのよ」
「思い出の地を私の名前にしてくれて嬉しいよ、母さん」
湘は少し涙ぐみながら、両親に礼を言った。夕日が沈み始めると、凪沙は寂しそうな顔をした。真鶴は三浦半島に視線を向け、終わりの時が近いと思いながらも、2人に笑顔で言った。
「最後に、城ヶ島で舟遊びをしようか」
3人は七里ヶ浜から城ヶ島へ向かった。


満点の星空の下、城ヶ島の磯付近で、最後の親子水入らずを過ごした。かつて渡し舟の船頭だった真鶴は、海神ではなくごく普通の船頭と父親の姿に見えた。湘は幼い頃、父の舟に乗った懐かしさを思い出し、凪沙も昔のように魯を漕いでいる真鶴の隣で美しい歌声を披露した。
「凪沙はいつも俺の隣で美しい声で歌ってくれたんだよ。村の皆も歌声に魅了され、船着き場に着くのがあっという間だったと言っていたよ」
「母さんの歌は、優しく勇気づけられるよ。今こうして舟の上で聞けて、嬉しい限りだ」
舟遊びと、親子での会話を楽しんでいる内に、約束の時間が迫ってきていた。真鶴の体は半透明になり始め、淡い光も現れていた。
「最期に、親子で舟に乗れて嬉しいよ。7つの海へ冒険は出来なかったけどな」
「いいえ、私は真鶴さんが生まれ育った三崎が大好きです。故郷で舟遊びが出来て幸せです」
「父さん、苦労して私を育ててくれた事に感謝しています。私は桜龍達と共に、ミズチや闇の者達と戦うと決めた。それが、私に出来る親孝行かなと」
「湘。どんな強敵が現れても、お前なら負けずに勝てる。お前には海王神と海神の力が備わっているのだからな。だが、何かあったらいすみ様や海洋族を頼るのだぞ。きっと力になってくれる」
真鶴は笑顔で『もうお迎えかな』と悟った。真鶴は湘と凪沙を抱きしめながら、蛍のような眩い光に包まれ消えた。
「真鶴さん!!」
凪沙は崩れる程に涙を流したが、湘が母の涙を拭い、優しく抱きしめた。
「父さんはどんな形であれ、母さんに逢えて幸せだったと思うよ。それに、父は海の世界で私達を見守ってくれる」
「・・・湘・・そうね。真鶴さんは海の守護神、海龍海神なのだから」
凪沙は泣き止み、祈りを込めて夜の海を見続けた。

桜龍達は岸から、真鶴が消えていくのを見ていた。皆が寂しく祈りながら見届けていると、いすみは目をつぶり立ち去った。
(いすみ様・・・もしかして行く場所は・・)
桜龍がいすみを追いかけようか迷っているところを、球磨が背中を押してくれた。
「いすみ様の元へ行ってこいよ、桜龍」
「桜龍になら、いすみ様も過去の事を話すかもしれないぞ」
「いすみ様は方向からして西南の海へ向いそうです」
3人に促され桜龍は行ってくると言ったが、どうやって行こうか考えていた。すると亘が桜龍に術を掛け、笑顔で案内しようと言った。
「海王が行く場所には心当たりがある。案内するぞ」
桜龍は人魚姿になった亘に腕を掴まれたが、突然、亘は尾を最高速で上下左右に降り、息継ぎする間も無く三浦半島が見えなくなった。
「わ!?わたりさあーん!!は・・はやいよぉ!!」
桜龍の口に海水がガバッと入っているが、海洋族の力で呼吸が出来るので苦ではなかった。
「ははは!!いすみに追いつくにはこれ位速くなければな」
わずか数刻で遥か南西の目的地に泳ぎ着いた。
64/66ページ
スキ