第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
樹海を抜けると、鳴沢集落(現山梨県鳴沢村)にたどり着いた。しかし、そこには誰も居なかった。
「・・・皆・・どうしちまったんだ?」
「敵の襲撃に備え集落を脱出したのか?」
球磨と湘は辺りを見回して言った。死体や血痕などは一切見当たらなかったが、家屋や畑を荒らされた跡があった。
モトスは敵が潜伏していないか、警戒しながら当たり一面を見回していた。すると、水田の隣りに設置してある水車の近くで倒れている女性を発見した。
「まさか!!!お都留か!!!!」
お都留は絹のように美しい銀色の短めの髪に、純白の着物の下には凛々しさを漂わせる蒼い鎧を装着していた。細身で背の高い25歳位の森精霊の戦士である。
「お都留!!大丈夫か?今、手当てをする」
モトスはお都留の体を支えながら、自身の癒しの力で彼女の傷を治した。お都留は目を覚ました。
「・・う・・ん・・あなたは・・・モトスさん?」
「目を覚ましたか。お都留・・・。ここで一体何があったのだ?」
モトスは持っていた癒しの花の香りをお都留に嗅がせた。
「・・・申し訳ございません・・・モトスさん。私・・・この村を護っていたのですが、私の力では護り切れずに、村人たちは梅雪達の手で、東の吉田集落に連れていかれてしまって・・・」
お都留は涙を流しながら謝罪したが、モトスは優しく細い体を抱きしめた。
「謝るな。俺が来るのが遅かったのが悪い。たった1人で戦わせてしまって、謝るのは俺の方だ。球磨と湘という心強い仲間も居る。共に連れていかれた村人を助けよう」
モトスは近くに落ちているお都留の剣と盾を拾おうとしたその時
グサ!!!!!
モトスの背中に氷の刃が刺さった。
「お・・お都留・・・何・を・・・」
お都留は刃を抜き、モトスはその場に倒れこんだ。女性の美しい瑠璃色の瞳は暗く濁っていた。
「謝る位なら一緒に来てもらいますよ。梅雪様の元へ」
お都留はモトスの逞しい体を軽々と抱え、連れて行こうとしたが、球磨と湘が武器を構え、駆け付けた。
「お嬢ちゃん・・・これは一体何の冗談だよ?」
球磨は戸惑っていたが、湘は冷静な表情であった。
「君が、お都留さんかい?何とも清らかで美しい精霊だ。だからこそ、こんな騙し討ち似合わないねぇ」
湘は気障な口説き口調から怒りを抑えながら
「・・・モトスを返してもらおうか!!」
銃剣をお都留に向けた。お都留は不敵に笑い
「私を撃ちますか?」
お都留は長剣の刃をモトスの首に付けた。
「お嬢ちゃんはモトスのダンナの恋人じゃねーのかよ!!まさか、江津って神官に操られているのか?」
球磨がお都留に近づいた。
「・・・何を戯言を!!これ以上近づくとこの男の首をはねますよ!!私は梅雪様に忠誠を誓ったのですから!!」
「お・・お都留・・・お前は信茂のように死霊にされていないようだな・・・良かった・・・生きていてくれて」
モトスは意識が薄れてきながらも、お都留が生きていて安心していた。
「頼む・・・球磨と湘には手を出さないでくれ・・・」
モトスはお都留に懇願した。そして男は気を失ってしまった。
「・・・あ・・モトスさん・・・?」
お都留は一瞬、正気に戻ったかに思えたが、直ぐに瞳の色が濁りだし、手の平から球磨と湘目掛けて、吹雪を放った。
「く!?・・・何とも強烈な吹雪だ・・・」
湘の体は徐々に凍っていった。球磨は炎の術で打ち消そうとするも、すさまじい吹雪で炎は消えてしまう。すぐに2人は氷漬けにされてしまった。
「・・・これで邪魔者は美しく始末しましたわ」
すると、奥の小屋から江津が出てきた。
「では、梅雪様の所へ行こうか。可愛いお都留」
お都留はこくりと頷き、江津が出現させた闇の渦の中に入り、姿を消した。集落には氷漬けにされた球磨と湘だけが残された。
その頃、桜龍と千里は、甲斐国南東に位置する御坂峠(現山梨県南都留郡富士河口湖町と笛吹市にまたがる峠)の道を馬で駆けていた。
「どうやら占い(まじない)だと、モトスさんと湘さんて人と、クマちゃんは樹海を抜けたようだぜ。梅雪は吉田集落に行ったと祈祷で出たな」
桜龍と球磨は知り合いのようだ。
「韮崎からこの峠まで、あまり敵に遭遇しなかったですね・・・。まるで僕たちを目的地に誘っているようです・・・。」
千里が深く考えていると、桜龍は馬を止めた。峠道で敵兵が待ち構えていた。道が狭く、真下が急な崖なので、銃を持った敵兵の相手をするのに不利であった。
「ここで待ち伏せしていたのかよ!!!」
「・・・大地の力を使えば峠道は崩れて僕たちも崖に落ちてしまう・・・」
2人は隙をついて一気に攻めるか、強行突破をしようか考えていた。すると突如、敵の銃が爆発をし壊れた。2人は真上の岩場を見上げると、白い忍服の初老の男性が、小さい火薬珠を持ってニヤッと笑っていた。
「若者2人よ!!これで戦いやすくなったじゃろう!!」
「たすかりましたぜ!!じいさん!!!こいつら蹴散らしたら礼を言いますぜ!!」
桜龍が礼を言うと、千里も深く頭を下げ、一気に敵兵を倒していった。その光景を忍びの男はほうほうと感心しながら眺めていた。
「鬼神とも呼ばれる大地の加護を持つもの。・・・そして、まだまだ成長過程だが、聖なる龍を宿す者。中々面白い組み合わせじゃな。モトス」
初老の男性は呟いた。
敵兵はあっという間に倒され、2人は忍びの男に再び礼を言った。
「助かりましたぜ。危うく峠道でハチの巣にされるところでしたよー。俺は桜龍です」
「僕は千里です」
2人は名を名乗った。
「礼には及ばんよ。わしはただ銃を壊しただけじゃから」
「・・・ご老人殿。貴方が僕たちをこの地へと誘ったのですか?」
千里が真剣な表情で尋ねると、桜龍も続いて
「確かに。ここまで来るのに敵の妨害が一切無かったしなー。じいさんはただの忍びではないですねー?もしかすると・・・」
「ハハハハハ。2人共中々鋭いのう。そう、わしは忍びの棟梁でもあり、森精霊の長でもある。名はエンザン。お前たち2人に敵が向かってくる前に密かに倒しておいたのじゃ」
エンザンは白髪と少し尖った耳を頭巾で隠しており、初老ではあるが、背筋はピンとしており、体格も逞しい。そして同時に精霊特有の神秘さも感じさせた。
「モトスはわしの愛弟子でもあり、息子同然の存在。あやつが今危ない。直ぐに吉田集落へ向かうぞ!!桜龍、千里!!」
2人は頷き、エンザンと共に先を急いだ。
その頃、鳴沢集落の東部に位置する吉田集落の広場に、村人たちは集められていた。その中に鳴沢集落から連れてこられた村人も居た。そして、広場の中心で梅雪が演説をしていた。
「諸君よ!!これから我が穴山家の支配を邪魔する賊のモトスの処刑を行う。穴山家の傘下に入ればお前たち村人の平穏な暮らしを保証してやるぞ!!」
梅雪は兵士たちに命令し、広場の中心に気を失っているモトスを十字架の板に磔(はりつけ)た。
「ハハハハハ!!!長くて短い反逆もこれで終わりだなーモトス」
梅雪は磔にされたモトスを勝ち誇った顔で高笑いし続けて言った。
第5話 完
「・・・皆・・どうしちまったんだ?」
「敵の襲撃に備え集落を脱出したのか?」
球磨と湘は辺りを見回して言った。死体や血痕などは一切見当たらなかったが、家屋や畑を荒らされた跡があった。
モトスは敵が潜伏していないか、警戒しながら当たり一面を見回していた。すると、水田の隣りに設置してある水車の近くで倒れている女性を発見した。
「まさか!!!お都留か!!!!」
お都留は絹のように美しい銀色の短めの髪に、純白の着物の下には凛々しさを漂わせる蒼い鎧を装着していた。細身で背の高い25歳位の森精霊の戦士である。
「お都留!!大丈夫か?今、手当てをする」
モトスはお都留の体を支えながら、自身の癒しの力で彼女の傷を治した。お都留は目を覚ました。
「・・う・・ん・・あなたは・・・モトスさん?」
「目を覚ましたか。お都留・・・。ここで一体何があったのだ?」
モトスは持っていた癒しの花の香りをお都留に嗅がせた。
「・・・申し訳ございません・・・モトスさん。私・・・この村を護っていたのですが、私の力では護り切れずに、村人たちは梅雪達の手で、東の吉田集落に連れていかれてしまって・・・」
お都留は涙を流しながら謝罪したが、モトスは優しく細い体を抱きしめた。
「謝るな。俺が来るのが遅かったのが悪い。たった1人で戦わせてしまって、謝るのは俺の方だ。球磨と湘という心強い仲間も居る。共に連れていかれた村人を助けよう」
モトスは近くに落ちているお都留の剣と盾を拾おうとしたその時
グサ!!!!!
モトスの背中に氷の刃が刺さった。
「お・・お都留・・・何・を・・・」
お都留は刃を抜き、モトスはその場に倒れこんだ。女性の美しい瑠璃色の瞳は暗く濁っていた。
「謝る位なら一緒に来てもらいますよ。梅雪様の元へ」
お都留はモトスの逞しい体を軽々と抱え、連れて行こうとしたが、球磨と湘が武器を構え、駆け付けた。
「お嬢ちゃん・・・これは一体何の冗談だよ?」
球磨は戸惑っていたが、湘は冷静な表情であった。
「君が、お都留さんかい?何とも清らかで美しい精霊だ。だからこそ、こんな騙し討ち似合わないねぇ」
湘は気障な口説き口調から怒りを抑えながら
「・・・モトスを返してもらおうか!!」
銃剣をお都留に向けた。お都留は不敵に笑い
「私を撃ちますか?」
お都留は長剣の刃をモトスの首に付けた。
「お嬢ちゃんはモトスのダンナの恋人じゃねーのかよ!!まさか、江津って神官に操られているのか?」
球磨がお都留に近づいた。
「・・・何を戯言を!!これ以上近づくとこの男の首をはねますよ!!私は梅雪様に忠誠を誓ったのですから!!」
「お・・お都留・・・お前は信茂のように死霊にされていないようだな・・・良かった・・・生きていてくれて」
モトスは意識が薄れてきながらも、お都留が生きていて安心していた。
「頼む・・・球磨と湘には手を出さないでくれ・・・」
モトスはお都留に懇願した。そして男は気を失ってしまった。
「・・・あ・・モトスさん・・・?」
お都留は一瞬、正気に戻ったかに思えたが、直ぐに瞳の色が濁りだし、手の平から球磨と湘目掛けて、吹雪を放った。
「く!?・・・何とも強烈な吹雪だ・・・」
湘の体は徐々に凍っていった。球磨は炎の術で打ち消そうとするも、すさまじい吹雪で炎は消えてしまう。すぐに2人は氷漬けにされてしまった。
「・・・これで邪魔者は美しく始末しましたわ」
すると、奥の小屋から江津が出てきた。
「では、梅雪様の所へ行こうか。可愛いお都留」
お都留はこくりと頷き、江津が出現させた闇の渦の中に入り、姿を消した。集落には氷漬けにされた球磨と湘だけが残された。
その頃、桜龍と千里は、甲斐国南東に位置する御坂峠(現山梨県南都留郡富士河口湖町と笛吹市にまたがる峠)の道を馬で駆けていた。
「どうやら占い(まじない)だと、モトスさんと湘さんて人と、クマちゃんは樹海を抜けたようだぜ。梅雪は吉田集落に行ったと祈祷で出たな」
桜龍と球磨は知り合いのようだ。
「韮崎からこの峠まで、あまり敵に遭遇しなかったですね・・・。まるで僕たちを目的地に誘っているようです・・・。」
千里が深く考えていると、桜龍は馬を止めた。峠道で敵兵が待ち構えていた。道が狭く、真下が急な崖なので、銃を持った敵兵の相手をするのに不利であった。
「ここで待ち伏せしていたのかよ!!!」
「・・・大地の力を使えば峠道は崩れて僕たちも崖に落ちてしまう・・・」
2人は隙をついて一気に攻めるか、強行突破をしようか考えていた。すると突如、敵の銃が爆発をし壊れた。2人は真上の岩場を見上げると、白い忍服の初老の男性が、小さい火薬珠を持ってニヤッと笑っていた。
「若者2人よ!!これで戦いやすくなったじゃろう!!」
「たすかりましたぜ!!じいさん!!!こいつら蹴散らしたら礼を言いますぜ!!」
桜龍が礼を言うと、千里も深く頭を下げ、一気に敵兵を倒していった。その光景を忍びの男はほうほうと感心しながら眺めていた。
「鬼神とも呼ばれる大地の加護を持つもの。・・・そして、まだまだ成長過程だが、聖なる龍を宿す者。中々面白い組み合わせじゃな。モトス」
初老の男性は呟いた。
敵兵はあっという間に倒され、2人は忍びの男に再び礼を言った。
「助かりましたぜ。危うく峠道でハチの巣にされるところでしたよー。俺は桜龍です」
「僕は千里です」
2人は名を名乗った。
「礼には及ばんよ。わしはただ銃を壊しただけじゃから」
「・・・ご老人殿。貴方が僕たちをこの地へと誘ったのですか?」
千里が真剣な表情で尋ねると、桜龍も続いて
「確かに。ここまで来るのに敵の妨害が一切無かったしなー。じいさんはただの忍びではないですねー?もしかすると・・・」
「ハハハハハ。2人共中々鋭いのう。そう、わしは忍びの棟梁でもあり、森精霊の長でもある。名はエンザン。お前たち2人に敵が向かってくる前に密かに倒しておいたのじゃ」
エンザンは白髪と少し尖った耳を頭巾で隠しており、初老ではあるが、背筋はピンとしており、体格も逞しい。そして同時に精霊特有の神秘さも感じさせた。
「モトスはわしの愛弟子でもあり、息子同然の存在。あやつが今危ない。直ぐに吉田集落へ向かうぞ!!桜龍、千里!!」
2人は頷き、エンザンと共に先を急いだ。
その頃、鳴沢集落の東部に位置する吉田集落の広場に、村人たちは集められていた。その中に鳴沢集落から連れてこられた村人も居た。そして、広場の中心で梅雪が演説をしていた。
「諸君よ!!これから我が穴山家の支配を邪魔する賊のモトスの処刑を行う。穴山家の傘下に入ればお前たち村人の平穏な暮らしを保証してやるぞ!!」
梅雪は兵士たちに命令し、広場の中心に気を失っているモトスを十字架の板に磔(はりつけ)た。
「ハハハハハ!!!長くて短い反逆もこれで終わりだなーモトス」
梅雪は磔にされたモトスを勝ち誇った顔で高笑いし続けて言った。
第5話 完