第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
時は戦国乱世。この物語は、歴史に語られることが一切無かった、名もなき御伽勇士たちが、悪名と悲劇の大名、穴山梅雪とその一味から甲斐の国の危機を救った御伽話である。
御伽勇士(おとぎゆうし)とは、人間をはるかに超える一騎当千の力を持つ鬼神とも謳われる戦士。
かつて、戦国最強と謳われていた武田家は、武田信玄が病に伏せ息絶えてから衰退していった。長篠の戦でも、武田の騎馬隊は鉄砲を使用した織田、徳川の連合軍により成す術無く敗れ去った。そしてその後は財政破綻、家臣の離脱や裏切りにより、ますます武田家は滅びの道へ進んでいった。
その後、織田軍により本格的な甲州征伐が始まった。深い闇夜の天目山の戦い(現山梨県東部勝沼周辺)で、信玄の息子、武田勝頼は追い詰められてしまった。
黒装束を身に着けた34歳位の男が、両手に短曲刀を構え、勝頼を護りながら言った。
「勝頼様!!どうか希望を捨てないでください!!ここは私が囮になります。どうか、昌幸の言う通り信濃の真田の地へ逃げ延びてください!!」
忍びの名は、モトス。勝頼とは同世代位の長身で逞しい風貌の忍びである。
「・・・すまない・・モトス。私は父のように偉大ではなかった。私の無力さがお前や家臣、民たちを失望させた・・・。私は、生きながらえるよりも、ここで死を選ぶ!!」
「それはなりません!!勝頼様は私にとっても、昌幸や共についてきた家臣や民たちの大切な主君。絶対に命を落としてはなりません!!」
モトスは必死に勝頼に訴えるも、勝頼は彼の言葉を遮り、すぐそばを流れる川に渾身の力でモトスを突き落とした。
「か・・・勝頼様!!!何をするのですか!!!!!!」
モトスは川の流れの速さで、上手く泳げずに流されてしまい、勝頼の姿がだんだんと遠ざかっていった。
「・・・ありがとう父上。家臣や民たち。昌幸・・・そしてモトス。私はお前たちに出会えてとても幸せであった。特に、昌幸とモトスは身分を超えた本当の友情で結ばれたように感じた。モトスこそ自らの為に乱世を生き延びてほしい」
その後、勝頼は天目山の戦いで自害し、武田家は滅びた。
大地を守護とする勇士、千里(せんり)
その頃、東信濃(現長野県北佐久郡軽井沢)と西上野(こうずけ)(現群馬県吾妻郡嬬恋)の間に位置する活火山、浅間山が噴火を起こした。火口から少し離れた。後に鬼押出しと呼ばれる溶岩が固まったところに巨大な氷が置いてあった。その中には眼鏡をかけた茶黒髪の20代前半位の青年が深い眠りと共に封印されていた。
(聞こえる・・・大地が・・・民や自然が泣いている・・・。浅間山が噴火をした・・・)
氷漬けにされている青年は覚醒し、眼鏡の奥の真紅の瞳が開き、大地の鼓動が鳴り、氷は粉々に砕けた。青年は長い間の眠りから目覚め、少し朧げな瞳で、目の前で噴火している浅間山を静かに眺めた。
「・・・僕はあれから何年眠り続けたのだろう・・・」
すると、1人の30代の武将らしき男性が青年に近づいてきた。
「貴殿は・・・平安末期の源平合戦で鬼神と謳われた・・・千里殿か?」
「・・・はい。僕は千里です。貴方が封印を解いたのですか?」
「私が封印を解いたわけではないよ。君自身の力で解けたのだと思う。私の名は信濃の国衆である真田昌幸。・・・だが、主君や友を助けられなかった表裏卑怯者だな・・・」
「・・・助けられなかった・・とは?」
千里は尋ねてみると、昌幸は火山の噴火を見て、ここを離れようと青年に促した。
「話は長くなるので、この山を下ろう」
2人は小諸の廃寺まで下山した。
廃寺に着き、昌幸は千里に現在の戦国乱世の事を話した。そして自分が甲斐の武田家に仕えていた武将だが、主君や親友のモトスを助けられずに、真田家の家族を護る事を選んでしまったことに悔やんでいた。
「・・・お話は十分理解できました。僕は平安の世から400年ほど封印されていたようですね」
「真田家に伝わる歴史書に、源平合戦の記録が残されていた。その中に貴殿が義経軍の鬼神と呼ばれていた・・・。そして、浅間山に封印されていると御伽話で聞いたことがある・・・。目覚めたばかりで申し訳ないのだが・・・。どうか、甲斐の地で戦い続けている忍びのモトスの力になってはくれないか?助けに行きたいのだが、真田家は今、織田家だけではなく、越後の上杉や関東の北条、三河の徳川にも狙われている・・・。家族を護るしかできないのだ・・・」
昌幸は後悔の念でいっぱいである表情をしていると、千里は静かに優しく彼の手を握った。
「・・・その務め、僕に出来るのなら任せて下さい。僕は、戦う為に造られた戦士ですし、この戦国の乱世を見てみたい・・・。昌幸殿。どうか、自身の考えを罪悪感だと思わないでください。もし、友人を見捨てたような人であれば、噴火のさなか、僕に会いに来るという命がけな行為はできませんよ」
千里は懐から愛用の鎖鎌や短刀などの隠し武器を確認し、凛とした表情で昌幸に誓った。自分を目覚めさせたきっかけを作ってくれてありがとう。絶対にあなたの友人や残された甲斐の民たちを助けるために戦うと。
千里は近くの馬小屋で馬を借り、小諸から八ヶ岳の道を経由して甲斐の国へ向かった。
御伽勇士(おとぎゆうし)とは、人間をはるかに超える一騎当千の力を持つ鬼神とも謳われる戦士。
かつて、戦国最強と謳われていた武田家は、武田信玄が病に伏せ息絶えてから衰退していった。長篠の戦でも、武田の騎馬隊は鉄砲を使用した織田、徳川の連合軍により成す術無く敗れ去った。そしてその後は財政破綻、家臣の離脱や裏切りにより、ますます武田家は滅びの道へ進んでいった。
その後、織田軍により本格的な甲州征伐が始まった。深い闇夜の天目山の戦い(現山梨県東部勝沼周辺)で、信玄の息子、武田勝頼は追い詰められてしまった。
黒装束を身に着けた34歳位の男が、両手に短曲刀を構え、勝頼を護りながら言った。
「勝頼様!!どうか希望を捨てないでください!!ここは私が囮になります。どうか、昌幸の言う通り信濃の真田の地へ逃げ延びてください!!」
忍びの名は、モトス。勝頼とは同世代位の長身で逞しい風貌の忍びである。
「・・・すまない・・モトス。私は父のように偉大ではなかった。私の無力さがお前や家臣、民たちを失望させた・・・。私は、生きながらえるよりも、ここで死を選ぶ!!」
「それはなりません!!勝頼様は私にとっても、昌幸や共についてきた家臣や民たちの大切な主君。絶対に命を落としてはなりません!!」
モトスは必死に勝頼に訴えるも、勝頼は彼の言葉を遮り、すぐそばを流れる川に渾身の力でモトスを突き落とした。
「か・・・勝頼様!!!何をするのですか!!!!!!」
モトスは川の流れの速さで、上手く泳げずに流されてしまい、勝頼の姿がだんだんと遠ざかっていった。
「・・・ありがとう父上。家臣や民たち。昌幸・・・そしてモトス。私はお前たちに出会えてとても幸せであった。特に、昌幸とモトスは身分を超えた本当の友情で結ばれたように感じた。モトスこそ自らの為に乱世を生き延びてほしい」
その後、勝頼は天目山の戦いで自害し、武田家は滅びた。
大地を守護とする勇士、千里(せんり)
その頃、東信濃(現長野県北佐久郡軽井沢)と西上野(こうずけ)(現群馬県吾妻郡嬬恋)の間に位置する活火山、浅間山が噴火を起こした。火口から少し離れた。後に鬼押出しと呼ばれる溶岩が固まったところに巨大な氷が置いてあった。その中には眼鏡をかけた茶黒髪の20代前半位の青年が深い眠りと共に封印されていた。
(聞こえる・・・大地が・・・民や自然が泣いている・・・。浅間山が噴火をした・・・)
氷漬けにされている青年は覚醒し、眼鏡の奥の真紅の瞳が開き、大地の鼓動が鳴り、氷は粉々に砕けた。青年は長い間の眠りから目覚め、少し朧げな瞳で、目の前で噴火している浅間山を静かに眺めた。
「・・・僕はあれから何年眠り続けたのだろう・・・」
すると、1人の30代の武将らしき男性が青年に近づいてきた。
「貴殿は・・・平安末期の源平合戦で鬼神と謳われた・・・千里殿か?」
「・・・はい。僕は千里です。貴方が封印を解いたのですか?」
「私が封印を解いたわけではないよ。君自身の力で解けたのだと思う。私の名は信濃の国衆である真田昌幸。・・・だが、主君や友を助けられなかった表裏卑怯者だな・・・」
「・・・助けられなかった・・とは?」
千里は尋ねてみると、昌幸は火山の噴火を見て、ここを離れようと青年に促した。
「話は長くなるので、この山を下ろう」
2人は小諸の廃寺まで下山した。
廃寺に着き、昌幸は千里に現在の戦国乱世の事を話した。そして自分が甲斐の武田家に仕えていた武将だが、主君や親友のモトスを助けられずに、真田家の家族を護る事を選んでしまったことに悔やんでいた。
「・・・お話は十分理解できました。僕は平安の世から400年ほど封印されていたようですね」
「真田家に伝わる歴史書に、源平合戦の記録が残されていた。その中に貴殿が義経軍の鬼神と呼ばれていた・・・。そして、浅間山に封印されていると御伽話で聞いたことがある・・・。目覚めたばかりで申し訳ないのだが・・・。どうか、甲斐の地で戦い続けている忍びのモトスの力になってはくれないか?助けに行きたいのだが、真田家は今、織田家だけではなく、越後の上杉や関東の北条、三河の徳川にも狙われている・・・。家族を護るしかできないのだ・・・」
昌幸は後悔の念でいっぱいである表情をしていると、千里は静かに優しく彼の手を握った。
「・・・その務め、僕に出来るのなら任せて下さい。僕は、戦う為に造られた戦士ですし、この戦国の乱世を見てみたい・・・。昌幸殿。どうか、自身の考えを罪悪感だと思わないでください。もし、友人を見捨てたような人であれば、噴火のさなか、僕に会いに来るという命がけな行為はできませんよ」
千里は懐から愛用の鎖鎌や短刀などの隠し武器を確認し、凛とした表情で昌幸に誓った。自分を目覚めさせたきっかけを作ってくれてありがとう。絶対にあなたの友人や残された甲斐の民たちを助けるために戦うと。
千里は近くの馬小屋で馬を借り、小諸から八ヶ岳の道を経由して甲斐の国へ向かった。