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第3章 異説小田原征伐  蘇りし海の亡霊と海神伝説

桜龍達が来る前、仁摩は女官に何も無い部屋に案内された。その時、不意を突かれ眠らされてしまった。
「事を急いでいるからと、仁摩ちゃんに手荒な真似をしてしまって、すまなかったねぇ」
女官の正体は、藤乃だった。その後彼女は仁摩の姿に変化し身代わりとなった。眠らされた仁摩は、数人の海洋戦士により宮殿の隠し部屋に連れてかれた。
「出雲の巫女、仁摩か。湘から話は聞いている。急ですまないが、霊媒で仮死状態の凪沙様の霊を呼んで欲しい」
「あなた達は・・・いすみ様に忠誠を誓っているの?」
戦士達は皆一斉に頷いた。彼らはいすみを慕う側近だった。真鶴に従うフリをし、密かに湘や藤乃に情報を伝えていたそうだ。
「我々は、いすみ様を慕っている。掟で縛るのは海洋族や他種族に悲しい思いをさせたくないと十分理解している」
「亡霊真鶴は凪沙様に会えれば、安らかに成仏出来ると思う。だから協力して欲しい」
「それなら引き受けるわ。祈りを込めて、凪沙さんに呼びかけるわ」
仁摩が気合いを入れて祝詞を唱えようとした時、部屋にミズチが入ってきた。
「ふーん、面白そうな事をするんだねぇ、君達」
「貴様は!!」
海洋戦士達は武器を構え、仁摩を囲み防衛した。しかしミズチは妨害しようとしていなかった。
「ふふ、これから面白くなりそうだから、直接凪沙を起こそうと思っていたけど、手間が省けて良いや」
「凪沙さんを眠らせたのはあなたね・・・」
仁摩はミズチを睨みながら警戒していた。
「怒った顔もなかなか可愛いねぇ。僕に気を取られて霊媒に失敗しないようにねー」
ミズチは妖しく微笑みながら、この場を去った。海洋戦士は追いかけようとしたが、仁摩の霊媒が優先だと諦めた。
「・・・あいつ、何を企んでいるか分からないけど、凪沙さんを霊媒しなくては事が解決しないわ」仁摩は気を取り直し凪沙の魂を呼び寄せた。すると、仁摩の体から薄紫色の光が入り、雰囲気が変わった。
「そうか・・・色男っぽい奴に何もされなくて良かったぜ」
「そうだけど・・ミズチはきっと、凪沙さんが私の体に乗り移って、真鶴さんの真実を聞かせるつもりだったのよ!!綺麗な顔して悪趣味な男よ!!」
「怖い思いをさせてしまったが、無事で良かったぞ、仁摩。凪沙の魂を呼んでくれて感謝する」
いすみは仁摩に礼を言った。
「凪沙さんの魂を呼んで、真鶴さんといすみ様が分かり合えれば良かったのですが、失敗してしまいました・・・」
「失敗ではないよ、仁摩殿。私は母に託された。真鶴を闇から助けて欲しいと。それに、母に会えたから新たに希望も持てた。協力してくれてありがとう、仁摩殿」
湘も仁摩に礼を言った。すると、王座の間に人魚の女性と数人の海洋戦士が入ってきた。
「湘、いすみ様、皆さん!!無事ですか!!」
「か・・母さん!?ミズチに眠らされて仮死状態だったのでは!!」
湘は本物の母の元気な姿を見て、瞬きを繰り返していたが、凪沙は息子の驚いた顔にクスッと笑った。
「仁摩さんの体を借りた後、目が覚めたみたい。どういうつもりか知らないけど、ミズチが呪いを解いたみたいだわ」
「母さん・・・私はこれから父を闇から救いに行く。正直に言うが、父は九頭竜に覚醒する。・・・浄化させなければならないが・・・」
「・・・分かっているわ。真鶴さんを苦しみから解放させてあげたい。私は見守ることしか出来ませんが、皆さんのご無事を願っています」
凪沙は自分には戦う力が無いと悔やんでいたが、湘は何も言わず母の体を抱きしめた。
「無事を祈るだけでも、力になる。それに、母が皆の帰りを待っているのだからな」
湘は皆の顔を見ながら言うと、桜龍が強く頷き湘に笑顔で答えた。
「真鶴さんを救いに行こうぜ。小田原・・いいや、日ノ本が大洪水になる前に」
「ワレが犯した過ちのせいで、真鶴が闇の力で蘇ってしまった・・・そして闇クリオネも。力を与えてくれた亘と、アナンと五十鈴も元の姿に戻してみせる」
「いすみ・・・様」
3人は追放された身ながらも、いすみは随分変わったと感心していた。かつていすみを敵視していたが今では仲間として共に戦いたいと悔しさを胸に抱いていた。
凪沙は、海洋戦士達と共に宮殿で帰りを待つことにした。桜龍達は宮殿を後にし、真鶴と闇クリオネの行く先、小田原へ向かった。


その頃、真鶴は北条氏政と息子の氏直が居る、小田原城天守閣を乗っ取ろうとしていた。2人は真鶴の邪悪な姿に驚き戸惑っていた。
「随分と籠城戦を持ちこたえているなー。だが、もう戦う必要は無い。これからは我が海王神真鶴が日ノ本に君臨する。君達はこの場を逃げても良いのだぞ」
「真鶴・・・その姿は・・闇に染まったのか?私達を、小田原をどうするつもりなのだ?」
「これから小田原も日ノ本も海に沈める。そして、北条も豊臣も海洋生物にし、平和な海の世界を俺が統治する」
真鶴は天守台からの景色を見下ろし、石垣を上ろうとしている兵士を見つけ、闇の波動を放った。すると、兵士達は黒い塊に取り込まれ、巨大な黒いイカに変化した。そして、天守閣の瓦屋根にへばり付いた。真鶴の尋常では無い言動に、氏政達は恐怖を感じた。



                         第11話 完
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