第3章 異説小田原征伐 蘇りし海の亡霊と海神伝説
「もう、やめてください!!真鶴さん!!」
真鶴の名を叫んだ女は、仁摩の姿だが声と雰囲気が違っていた。
「その声は・・凪沙か・・・目を覚ましたのか・・・いいや、君の姿はもしかして」
真鶴は巫女服の凪沙を見て驚いていた。正体は霊媒した仁摩だったが、真鶴には凪沙にしか見えていなかった。その隙に湘は凍りついたいすみの体を溶かした。桜龍はクリクリを結界の中に閉じ込め、再び動きを封じた。桜龍は感心しながら藤乃に聞いた。
「仁摩殿が眠っている凪沙さんの霊を呼んだのか?もしかして、湘さんはこれを目的に?」
「あたしも湘の作戦に協力したんだよ。それにしても、湘の母さんは似てないほど、お淑やかで優しそうだねぇ」
藤乃はまじまじと凪沙と湘の姿を見ていた。湘は余計なお世話だと視線をそらした。
「仁摩殿の霊媒術は仮死状態でも出来ると聞いたから、不本意だが彼女を利用させて貰ったよ」
「利用じゃねーですぜ、湘さん。任せたんでしょう。仁摩殿もそれに応えたんだから、信頼ですよ」
「・・・そう言ってくれるか。ありがとう桜龍」
「真鶴さん・・今は仁摩さんの体を借りていますが、凪沙です」
真鶴は凪沙を強く抱きしめようとしたが、急に苦しみ始め、凪沙を押し除けた。
「凪沙・・・俺に近づくな・・俺はもう、お前が知ってる真鶴ではない!!」
「どんな姿であれ、真鶴さんは真鶴さんです。私に逢いたいと思い続けていたのでしょう」
「・・・凪沙」
「どうか、いすみ様を責めないで下さい。いすみ様は、私の代わりに、あなたのお墓にお花を添えています」
「それは真か・・・?」
いすみは目をつぶり、黙っていた。
「湘の事だって、いつも陰から守ってくださっていますわ。いすみ様は誤解されやすい性格ですが、最後まで責任を果たす意志を持っているのですよ」
「・・・そうだったのか・・俺は何も知らずいすみを憎しみ続けていたのか・・・」
真鶴は頭を抱え込み、崩れるようにしゃがみ込んだ。凪沙は真鶴の体を強く抱きしめた。
「湘を大切に育てて、今でも私を愛してくれてありがとうございます」
「凪沙・・・こんな姿になって申し訳ない。俺は・・元々人間ではないようだ。信じたくないが、九頭竜の化身らしい・・・」
「それは違うぞ、真鶴。お前の真の姿は・・・」
いすみは言葉を続けようとした時、真鶴の後ろに黒い影が現れた。一瞬の出来事だったのか、黒い矢が真鶴の胸を貫通させた。
「父さん!!」
「ふふ、残念でした。真鶴・・いいや、闇の九頭竜をもう少し利用させてもらうよ。」
「・・・闇の九頭竜だと!?俺は人間だ!!」
「では、証明してみせよう。君が九頭竜の化身で、再び島国を海に沈めようと目覚めた邪竜の真の力をね」
ミズチは桜龍を水流で攻撃し、封印されているクリクリを呼び寄せた。湘と藤乃は『させるか!!』と銃と手裏剣で攻撃したが、弾かれてしまった。
「これでオラが九頭竜を支配出来るクリ」
クリクリは真鶴の体に入り、五十鈴とアナンから奪い取った力を開放させた。
「や・・止めろ・・俺はもう闇に支配されたくない・・・」
真鶴は必死にクリクリを体から追い出そうとした。しかし、闇の力は増幅され成す術が無かった。
「真鶴!!」
いすみは力を溜め、聖なる光で真鶴に近づき止めようとしたが、腹部に刃が刺さった。クリクリに支配された真鶴が冷徹な顔で刀を抜いた。それと同時に亘が扉を開け、皆が駆けつけに来たが、時はすでに遅かった。
「真鶴・・・闇クリオネ・・・ワレは貴殿らの恨みを受け止める・・・」
いすみは罪悪感を抱いた顔をしながら、真鶴の冷たい瞳を見上げ地に倒れた。真っ先に側近の常葉が叫びを上げた。
「いすみ様ー!!」
「いすみ・・・様・・・」
桜龍達は一瞬の出来事に状況がついてこられなかった。真鶴は再びいすみを斬ろうとしたが、湘が間に入り、涙を流しながら真鶴の胸に青く光る弾を撃った。その隙に亘は素早くいすみを抱え、離れた場所に移動させた。
「もうやめてくれ・・・これ以上、父の亡骸でいすみ様に恨みをぶつけるな!!」
「湘・・・俺は父親失格だ。邪悪な竜の化身だった俺と闇クリオネを始末してくれ・・・」
「そうはさせないよ。君には北条と海洋族を一時的にまとめる任があるでしょう」
ミズチは真鶴を説得し、闇の力を注いだ。銃口から出る青い浄化の光は消えてしまった。
「・・・始末されるのは貴様だミズチ!!」
湘はミズチの胸を銃剣で刺そうとしたが、刃を受け止められてしまった。
「残念だねぇ、湘君。せっかく君も闇の一族に誘おうとしたのに、断るなんて」
「私の父が九頭竜だろうが、私は貴様らの手下になるのはお断りだ」
湘は少し前のミズチとの会話を思い出した。
「父について何か知っているのか?」
「回りくどく言うのは苦手だから、率直に言うけど、真鶴の正体は九頭竜だよ。五十鈴の種族変化の術が成功して、人間の姿になったのだろう。ただ、いすみは他種族とは関わらない主義だったから、人間化した真鶴を育てないで海底遺跡の奥に封印したそうだよ。可哀想な話だよねぇ」
ミズチの説明は少し前に読んだ五十鈴が書いた本と一致したと思ったが、湘は信じたくなかった。
「・・・根拠はあるのか?」
「三崎の村人から聞いたよ。真鶴は赤子の時、黒い龍の着物を着て、二枚貝の中に入っていて海に浮かんできたみたいだよ。それを三浦一族の生き残りの船頭が見つけ、父親として育てたみたいだよ」
「・・・・」
ミズチは薄ら笑いしながら、黙り込んでいる湘の顔をまじまじと見た。
「それと、五十鈴の術は未完成だったみたいだから、人間の姿では長生き出来なかったみたいだね」
「それは、父が私の為に休む事なく働いたからだ・・・」
「まぁ、どう思おうが自由だけど、真鶴は九頭竜の力に目覚める為に亡霊となったのは事実だ。君も、真鶴の息子なら闇の力を持っていても不思議ではないな」
「・・・それはどうかな」
「僕達と共に、卑弩羅様とマガツイノカミ様に仕えるのに大歓迎だよ」
そして、現実に戻りミズチは常葉達にも真実を語っていた。
「遅れてきた君達にも伝えておくよ。真鶴は闇の九頭竜が人間になった姿。だから、欲望と憎しみが闇の力を強くさせ、直に九頭竜に覚醒する」
皆は真鶴の真実を告げられ言葉が出なかった。ミズチはあざ笑いながら真鶴に命じた。
「ここで長居してもしょうがないね、そろそろ小田原へ行こうか。真の支配者が君臨するのを北条と豊臣に見せつけてやろうか」
ミズチと真鶴は闇の渦に消えた。
真鶴の名を叫んだ女は、仁摩の姿だが声と雰囲気が違っていた。
「その声は・・凪沙か・・・目を覚ましたのか・・・いいや、君の姿はもしかして」
真鶴は巫女服の凪沙を見て驚いていた。正体は霊媒した仁摩だったが、真鶴には凪沙にしか見えていなかった。その隙に湘は凍りついたいすみの体を溶かした。桜龍はクリクリを結界の中に閉じ込め、再び動きを封じた。桜龍は感心しながら藤乃に聞いた。
「仁摩殿が眠っている凪沙さんの霊を呼んだのか?もしかして、湘さんはこれを目的に?」
「あたしも湘の作戦に協力したんだよ。それにしても、湘の母さんは似てないほど、お淑やかで優しそうだねぇ」
藤乃はまじまじと凪沙と湘の姿を見ていた。湘は余計なお世話だと視線をそらした。
「仁摩殿の霊媒術は仮死状態でも出来ると聞いたから、不本意だが彼女を利用させて貰ったよ」
「利用じゃねーですぜ、湘さん。任せたんでしょう。仁摩殿もそれに応えたんだから、信頼ですよ」
「・・・そう言ってくれるか。ありがとう桜龍」
「真鶴さん・・今は仁摩さんの体を借りていますが、凪沙です」
真鶴は凪沙を強く抱きしめようとしたが、急に苦しみ始め、凪沙を押し除けた。
「凪沙・・・俺に近づくな・・俺はもう、お前が知ってる真鶴ではない!!」
「どんな姿であれ、真鶴さんは真鶴さんです。私に逢いたいと思い続けていたのでしょう」
「・・・凪沙」
「どうか、いすみ様を責めないで下さい。いすみ様は、私の代わりに、あなたのお墓にお花を添えています」
「それは真か・・・?」
いすみは目をつぶり、黙っていた。
「湘の事だって、いつも陰から守ってくださっていますわ。いすみ様は誤解されやすい性格ですが、最後まで責任を果たす意志を持っているのですよ」
「・・・そうだったのか・・俺は何も知らずいすみを憎しみ続けていたのか・・・」
真鶴は頭を抱え込み、崩れるようにしゃがみ込んだ。凪沙は真鶴の体を強く抱きしめた。
「湘を大切に育てて、今でも私を愛してくれてありがとうございます」
「凪沙・・・こんな姿になって申し訳ない。俺は・・元々人間ではないようだ。信じたくないが、九頭竜の化身らしい・・・」
「それは違うぞ、真鶴。お前の真の姿は・・・」
いすみは言葉を続けようとした時、真鶴の後ろに黒い影が現れた。一瞬の出来事だったのか、黒い矢が真鶴の胸を貫通させた。
「父さん!!」
「ふふ、残念でした。真鶴・・いいや、闇の九頭竜をもう少し利用させてもらうよ。」
「・・・闇の九頭竜だと!?俺は人間だ!!」
「では、証明してみせよう。君が九頭竜の化身で、再び島国を海に沈めようと目覚めた邪竜の真の力をね」
ミズチは桜龍を水流で攻撃し、封印されているクリクリを呼び寄せた。湘と藤乃は『させるか!!』と銃と手裏剣で攻撃したが、弾かれてしまった。
「これでオラが九頭竜を支配出来るクリ」
クリクリは真鶴の体に入り、五十鈴とアナンから奪い取った力を開放させた。
「や・・止めろ・・俺はもう闇に支配されたくない・・・」
真鶴は必死にクリクリを体から追い出そうとした。しかし、闇の力は増幅され成す術が無かった。
「真鶴!!」
いすみは力を溜め、聖なる光で真鶴に近づき止めようとしたが、腹部に刃が刺さった。クリクリに支配された真鶴が冷徹な顔で刀を抜いた。それと同時に亘が扉を開け、皆が駆けつけに来たが、時はすでに遅かった。
「真鶴・・・闇クリオネ・・・ワレは貴殿らの恨みを受け止める・・・」
いすみは罪悪感を抱いた顔をしながら、真鶴の冷たい瞳を見上げ地に倒れた。真っ先に側近の常葉が叫びを上げた。
「いすみ様ー!!」
「いすみ・・・様・・・」
桜龍達は一瞬の出来事に状況がついてこられなかった。真鶴は再びいすみを斬ろうとしたが、湘が間に入り、涙を流しながら真鶴の胸に青く光る弾を撃った。その隙に亘は素早くいすみを抱え、離れた場所に移動させた。
「もうやめてくれ・・・これ以上、父の亡骸でいすみ様に恨みをぶつけるな!!」
「湘・・・俺は父親失格だ。邪悪な竜の化身だった俺と闇クリオネを始末してくれ・・・」
「そうはさせないよ。君には北条と海洋族を一時的にまとめる任があるでしょう」
ミズチは真鶴を説得し、闇の力を注いだ。銃口から出る青い浄化の光は消えてしまった。
「・・・始末されるのは貴様だミズチ!!」
湘はミズチの胸を銃剣で刺そうとしたが、刃を受け止められてしまった。
「残念だねぇ、湘君。せっかく君も闇の一族に誘おうとしたのに、断るなんて」
「私の父が九頭竜だろうが、私は貴様らの手下になるのはお断りだ」
湘は少し前のミズチとの会話を思い出した。
「父について何か知っているのか?」
「回りくどく言うのは苦手だから、率直に言うけど、真鶴の正体は九頭竜だよ。五十鈴の種族変化の術が成功して、人間の姿になったのだろう。ただ、いすみは他種族とは関わらない主義だったから、人間化した真鶴を育てないで海底遺跡の奥に封印したそうだよ。可哀想な話だよねぇ」
ミズチの説明は少し前に読んだ五十鈴が書いた本と一致したと思ったが、湘は信じたくなかった。
「・・・根拠はあるのか?」
「三崎の村人から聞いたよ。真鶴は赤子の時、黒い龍の着物を着て、二枚貝の中に入っていて海に浮かんできたみたいだよ。それを三浦一族の生き残りの船頭が見つけ、父親として育てたみたいだよ」
「・・・・」
ミズチは薄ら笑いしながら、黙り込んでいる湘の顔をまじまじと見た。
「それと、五十鈴の術は未完成だったみたいだから、人間の姿では長生き出来なかったみたいだね」
「それは、父が私の為に休む事なく働いたからだ・・・」
「まぁ、どう思おうが自由だけど、真鶴は九頭竜の力に目覚める為に亡霊となったのは事実だ。君も、真鶴の息子なら闇の力を持っていても不思議ではないな」
「・・・それはどうかな」
「僕達と共に、卑弩羅様とマガツイノカミ様に仕えるのに大歓迎だよ」
そして、現実に戻りミズチは常葉達にも真実を語っていた。
「遅れてきた君達にも伝えておくよ。真鶴は闇の九頭竜が人間になった姿。だから、欲望と憎しみが闇の力を強くさせ、直に九頭竜に覚醒する」
皆は真鶴の真実を告げられ言葉が出なかった。ミズチはあざ笑いながら真鶴に命じた。
「ここで長居してもしょうがないね、そろそろ小田原へ行こうか。真の支配者が君臨するのを北条と豊臣に見せつけてやろうか」
ミズチと真鶴は闇の渦に消えた。