第3章 異説小田原征伐 蘇りし海の亡霊と海神伝説
「もう止めるべさ!!亘!!」
亘は小人の女性の声が聞こえ、動きが止まった。球磨は籠手での防御を止め、女性とその後ろを見ると常葉と蕨が駆けつけていた。
「この声・・・拙者はまだ小さかったが、覚えておるぞ・・・」
亘は斧を落とし、腕で涙を隠しながらしゃがみ込んだ。
「亘・・・もう何百年も会ってねーのに、私の声を覚えていてくれたんべさ・・・」
「母さん・・・拙者は・・いいや、オレはずっと母さんに会いたかった・・・」
亘は小さい母の体を優しく抱きしめた。その光景に、情の厚い球磨は涙を流していたが、すぐに蕨と常葉に、どうやって土竜王の娘を連れて来れたのかを聞いた。
「いすみ様が頼んだのですよ。亘と母のユリ様をもう一度合わせて欲しいと」
「八郎じじぃの説得に時間かかるかと思ったら、じじぃの下で修行していた神官が、桜龍の知り合いだったみてーでよ」
蕨は球磨にこれまでの経緯を説明した。
数日前、常葉と蕨は東北へ向かい、地底に住む土竜族の王『八郎』に会いにいった。海洋族と土竜族の和解と、王の娘、ユリを息子の亘の元へ連れて行きたいと、説得する事も目的だった。
2人は、未開の北関東から東北道の獣道や山道を超え、北東北内陸を跨ぐ、鉱山と大自然に囲まれた『八幡平』の地底に続く洞穴にたどり着いた。しかし、入口は土竜族の高度な魔力により、蕨の魔法でさえ解けなかった。常葉は穴に向かって、叫びながら説得した。
「私は、海王神いすみ様の命で、蕨様と、この地に来ました。現在、日ノ本は存亡の危機です。どうか和解し、再び戦いましょう」
しかし、誰も出てくる事なく、虚しく叫びがこだまするだけだった。すると、壮年の神官服の男が後ろから近づいてきた。
「卿らは、地底世界に入りたいのかな?」
2人は一瞬、警戒しながら振り向いたが、見た目の妖しい雰囲気とは違い、殺気を感じなかった。
(こいつは・・人間か?しかし何でこんな所に?)
常葉は直ぐに挨拶した。
「私は、海王神いすみ様に仕える、常葉です。貴方は、土竜族を知っているのですか?」
「知っているも何も、私は、王の八郎様の下で修行をしておる。まだ日は浅いがな」
男はあっさりと説明するのを見て、2人は驚いた顔をした。気を取り直し、蕨は男を信用し頼み込んだ。
「話は早い。もし、八郎に会えるのなら会わせて欲しい。俺は飛天族長、蕨だ。八郎じいとは昔からの仲だぜ」
「八郎王から話は聞いておる。それにしても卿達・・・」
男は2人の瞳を見て、何か思い当たる事があった。
「・・ふっ、卿達は聖なる龍の守護者に会ったのだな。それならなおさら、八郎王も受け入れてくれる」
男が小さく笑いかけると、常葉は首を傾げながら尋ねた。
「あなたは、桜龍さんを知っているのですか?」
「ああ、数年前に私はあの者に救われた。それより、先を急いでおるのだろう。直ぐに連れてってやる」
男は2人を淡い光で囲み、一瞬で地底の国の玉座の前に着いた。地底世界は予想よりも広い空洞で、岩壁には色とりどりの鉱物や、砂金が空間を照らしていたので、明るく開放的だった。男は、周りにいた小人達に客人を連れて来たと告げた。
「見回りご苦労だべ、江津(ごうつ)。客人は、飛天族長の蕨様と、海王神様の側近の方たべか」
小人達は、まるで2人が来ることを知っていたかのように言った。江津と呼ばれた男は、そういえばまだ名を名乗っていなかったと、2人に自己紹介した。
「申し遅れた。私の名は江津。昔は『とある大社』で神官をしていたが、もう一度人生をやり直そうと、八郎王の下で修行している」
「そうか。あんたも色々あったんだな」
しばらく、王座の前で待機していると、土色の衣で顔を隠した小人が現れた。
「久しぶりだべ、蕨。そして、常葉もはるばるとご苦労。言いたいことはもう分かってるべさ」
八郎は少し高めの声だったが、威厳さを感じた。常葉は直ぐに頭を下げて、懇願した。
「いすみ様と、私からの頼みです!!どうか、もう一度、いすみ様に力をお貸しください!!」
「奴とは一生断交すると誓ったべ。日ノ本の危機とはいえど、奴が蒔いた種なら力は貸さねーだ」
「今はそんな事言ってる場合か!!頑固ジジィ」
「いすみ様は、聖なる龍の守護者、桜龍達と共にするうちに、変わりました。こちらには連れてこられなかったですが、いすみ様は和解を望んでいます」
「八郎王、部外者の私が言える事ではないが、桜龍は私を闇の死龍から救った、希望の男だ。彼に免じて、私からも救済を頼めないだろうか」
「・・・聖なる龍か・・・」
八郎が思いを巡らせていると、玉座の間に小人の女性が駆け足で入って来た。
「父上!!私を亘の元に行かせてください!!」
「ユリか・・・それは無理だべ。いすみとの約束だ。おめぇと亘は二度と会わせねぇとな」
「いすみ様は、それもお願いしたのです。亘は、真鶴に陶酔しています。だから、ユリ様に止めさせたいのです!!」
「おめぇは、オラの娘を説得の道具にする気か!!」
八郎は断固反対だと言おうとしたが、ユリは前に立ちはだかり、反論した。
「父上、私は・・・掟を破り、旭(あさひ)と駆け落ちをしてしまいました。そして、亘が産まれた。息子には長い間、辛い思いをさせてしまったから、私がケジメを着けなければならないのです!!」
「く・・・・」
「八郎の負けだ。心配すんなよ、危険な目には遭わせねーからよ」
「私も、全力で護ります!!」
「ありがとう、蕨さん、常葉さん」
「八郎王、ここは彼らに任せてはいかがでしょうか?いずれ脅威が来れば、皆で力を合わせて戦う事になりましょうぞ」
「・・・蕨と常葉よ、娘に何かあれば、おめぇらの首もらうんさ。それと、まだ海王とは和解した訳ではねーべさ」
「ありがとうございます、八郎様!!この御恩は一生忘れません!!」
3人は、江津の転送術で南房総まで送ってくれた。八郎は見送る事なく、王座の間を後にした。
亘は小人の女性の声が聞こえ、動きが止まった。球磨は籠手での防御を止め、女性とその後ろを見ると常葉と蕨が駆けつけていた。
「この声・・・拙者はまだ小さかったが、覚えておるぞ・・・」
亘は斧を落とし、腕で涙を隠しながらしゃがみ込んだ。
「亘・・・もう何百年も会ってねーのに、私の声を覚えていてくれたんべさ・・・」
「母さん・・・拙者は・・いいや、オレはずっと母さんに会いたかった・・・」
亘は小さい母の体を優しく抱きしめた。その光景に、情の厚い球磨は涙を流していたが、すぐに蕨と常葉に、どうやって土竜王の娘を連れて来れたのかを聞いた。
「いすみ様が頼んだのですよ。亘と母のユリ様をもう一度合わせて欲しいと」
「八郎じじぃの説得に時間かかるかと思ったら、じじぃの下で修行していた神官が、桜龍の知り合いだったみてーでよ」
蕨は球磨にこれまでの経緯を説明した。
数日前、常葉と蕨は東北へ向かい、地底に住む土竜族の王『八郎』に会いにいった。海洋族と土竜族の和解と、王の娘、ユリを息子の亘の元へ連れて行きたいと、説得する事も目的だった。
2人は、未開の北関東から東北道の獣道や山道を超え、北東北内陸を跨ぐ、鉱山と大自然に囲まれた『八幡平』の地底に続く洞穴にたどり着いた。しかし、入口は土竜族の高度な魔力により、蕨の魔法でさえ解けなかった。常葉は穴に向かって、叫びながら説得した。
「私は、海王神いすみ様の命で、蕨様と、この地に来ました。現在、日ノ本は存亡の危機です。どうか和解し、再び戦いましょう」
しかし、誰も出てくる事なく、虚しく叫びがこだまするだけだった。すると、壮年の神官服の男が後ろから近づいてきた。
「卿らは、地底世界に入りたいのかな?」
2人は一瞬、警戒しながら振り向いたが、見た目の妖しい雰囲気とは違い、殺気を感じなかった。
(こいつは・・人間か?しかし何でこんな所に?)
常葉は直ぐに挨拶した。
「私は、海王神いすみ様に仕える、常葉です。貴方は、土竜族を知っているのですか?」
「知っているも何も、私は、王の八郎様の下で修行をしておる。まだ日は浅いがな」
男はあっさりと説明するのを見て、2人は驚いた顔をした。気を取り直し、蕨は男を信用し頼み込んだ。
「話は早い。もし、八郎に会えるのなら会わせて欲しい。俺は飛天族長、蕨だ。八郎じいとは昔からの仲だぜ」
「八郎王から話は聞いておる。それにしても卿達・・・」
男は2人の瞳を見て、何か思い当たる事があった。
「・・ふっ、卿達は聖なる龍の守護者に会ったのだな。それならなおさら、八郎王も受け入れてくれる」
男が小さく笑いかけると、常葉は首を傾げながら尋ねた。
「あなたは、桜龍さんを知っているのですか?」
「ああ、数年前に私はあの者に救われた。それより、先を急いでおるのだろう。直ぐに連れてってやる」
男は2人を淡い光で囲み、一瞬で地底の国の玉座の前に着いた。地底世界は予想よりも広い空洞で、岩壁には色とりどりの鉱物や、砂金が空間を照らしていたので、明るく開放的だった。男は、周りにいた小人達に客人を連れて来たと告げた。
「見回りご苦労だべ、江津(ごうつ)。客人は、飛天族長の蕨様と、海王神様の側近の方たべか」
小人達は、まるで2人が来ることを知っていたかのように言った。江津と呼ばれた男は、そういえばまだ名を名乗っていなかったと、2人に自己紹介した。
「申し遅れた。私の名は江津。昔は『とある大社』で神官をしていたが、もう一度人生をやり直そうと、八郎王の下で修行している」
「そうか。あんたも色々あったんだな」
しばらく、王座の前で待機していると、土色の衣で顔を隠した小人が現れた。
「久しぶりだべ、蕨。そして、常葉もはるばるとご苦労。言いたいことはもう分かってるべさ」
八郎は少し高めの声だったが、威厳さを感じた。常葉は直ぐに頭を下げて、懇願した。
「いすみ様と、私からの頼みです!!どうか、もう一度、いすみ様に力をお貸しください!!」
「奴とは一生断交すると誓ったべ。日ノ本の危機とはいえど、奴が蒔いた種なら力は貸さねーだ」
「今はそんな事言ってる場合か!!頑固ジジィ」
「いすみ様は、聖なる龍の守護者、桜龍達と共にするうちに、変わりました。こちらには連れてこられなかったですが、いすみ様は和解を望んでいます」
「八郎王、部外者の私が言える事ではないが、桜龍は私を闇の死龍から救った、希望の男だ。彼に免じて、私からも救済を頼めないだろうか」
「・・・聖なる龍か・・・」
八郎が思いを巡らせていると、玉座の間に小人の女性が駆け足で入って来た。
「父上!!私を亘の元に行かせてください!!」
「ユリか・・・それは無理だべ。いすみとの約束だ。おめぇと亘は二度と会わせねぇとな」
「いすみ様は、それもお願いしたのです。亘は、真鶴に陶酔しています。だから、ユリ様に止めさせたいのです!!」
「おめぇは、オラの娘を説得の道具にする気か!!」
八郎は断固反対だと言おうとしたが、ユリは前に立ちはだかり、反論した。
「父上、私は・・・掟を破り、旭(あさひ)と駆け落ちをしてしまいました。そして、亘が産まれた。息子には長い間、辛い思いをさせてしまったから、私がケジメを着けなければならないのです!!」
「く・・・・」
「八郎の負けだ。心配すんなよ、危険な目には遭わせねーからよ」
「私も、全力で護ります!!」
「ありがとう、蕨さん、常葉さん」
「八郎王、ここは彼らに任せてはいかがでしょうか?いずれ脅威が来れば、皆で力を合わせて戦う事になりましょうぞ」
「・・・蕨と常葉よ、娘に何かあれば、おめぇらの首もらうんさ。それと、まだ海王とは和解した訳ではねーべさ」
「ありがとうございます、八郎様!!この御恩は一生忘れません!!」
3人は、江津の転送術で南房総まで送ってくれた。八郎は見送る事なく、王座の間を後にした。