第3章 異説小田原征伐 蘇りし海の亡霊と海神伝説
その頃、いすみと桜龍と球磨は、北条と里見の海戦場所を避け、江戸中海を渡り、房総半島最南端の岬『野島崎』(現千葉県南房総市)にたどり着いた。岬の向こうには晴天の空が広がっていたが、水平線の先には邪悪な気と荒波を感じた。
「こいつは・・・九州での戦いを思い出すぜ。肥後から敵の本拠地の島原を渡る時も海風から邪気が漂っていたぜ・・・」
球磨は眉間にしわを寄せながら、水平線をじっと見ていると、いすみは宮殿に居る同胞の心配をしていた。
「・・・皆と真鶴は無事だろうか・・・。まだ、闇に支配されていないと良いのだが・・・」
「いすみ様、湘さんを信じて下さい。きっと、父親を止める為に、敵の元に居るだけです」
「湘おじもさ、一人で抱え込むなとか言っときながら、結局は自分で解決しようとすんだから。本当、ギザの格好付けだぜ」
「・・・それが、湘の優しさなんだろうな。お前達も真鶴も敵にしたくない。だから、考えた結果なのだろう。・・・良く成長したものだ」
「良く成長したって、まるで親のように何時も見守ってた言い方ですね」
「ふん・・湘は混血種だ。親ではない」
3人は岬で、真鶴の使者が来るのを待っていた。
「海王の力を奪われては、海に潜る術がない。悔しいが、宮殿に行くには海洋族の力が必要だ」
「そうすると、この先は後戻りが出来ないですね。下手な事をしたら、仁摩殿が危ないし・・・」
桜龍は何があっても行くと決心していた。仁摩を助ける為と、湘の真意に向き合う為に。
「迎えに来たよ。桜龍、いすみ殿」
岬の先端で待っていたのは、湘だった。球磨は真っ先に湘の元へ駆けつけようとしたが、地面から深い亀裂が走った。攻撃の正体は巨大な斧を持った亘であった。
「残念だが、お主は招かれていないぞ。お主には拙者の相手をしてもらおう」
「俺と決着をつける気だな、亘。いいぜ、お前みたいな強え奴と闘えるのは本望だぜ」
「・・・そういう事だ。真鶴が桜龍といすみを待っている。ここは任せたぞ、亘」
「湘の仲間だが、討ち取って良いのか?」
「ああ、構わないさ。ただ、暴れ牛の底力を侮らない事だね」
「く・・・亘は真鶴に1番陶酔しておる。目的の為なら何をするか分からないぞ」
「いすみ様、この戦いに勝ったら、合わせたい者がいるんです。学者を目指す女の子や、俺を育ててくれた、孤児院の先生。そして、太陽の力を持つ、大切な弟。だから、今度九州を案内しますぜ」
球磨はいすみに笑顔を向け、西洋槍を構えた。
「桜龍も、仁摩殿をしっかり護るんだぞ。それと、お前の強さは真鶴を正気に戻すかもしれない」
「ありがとう、球磨。亘にも何か、事情があるかもしれないから、殴り合いは程々に、相手の本心を受け止めろよ」
桜龍は球磨の手にパチンと当て、いすみと共に深海の宮殿へ向かった。
「別れの挨拶は済んだか?」
「別れじゃねーよ・・・いってらっしゃい、俺もテメェを倒したら直ぐに向かうって、見送ったんだよ!!」
球磨は炎をまとった槍を螺旋状に回転させ、亘に突進した。亘は寸前で斧で受け止めた。
「ほう、前よりも速さと威力が増したな」
「俺は、相手が強いほど燃えるんだよ!!」
球磨は踏ん張り、さらに強い力で亘を押し退けた。
「ほう、面白い。こちらも本気を出さなくてはな!!」
亘は大地を蹴り、地面から盛り上がる岩の塊を球磨にぶつけた。速さと威力が強大で球磨は避けたり受け止めていたが、一方で焦る事なく笑みを浮かべていた。
「大地の力・・・こいつは土竜族の力か?」
「見破られたか。いすみに聞いたのか?」
亘はばつが悪そうな顔をしながら、斧で地を裂き、地割れ攻撃を仕掛けた。球磨は好機をうかがっていたのか、ニヤリと笑いながら、溶岩のような火弾を放った。すると、地下水脈から熱湯が湧き上がり、凄まじい水しぶきで亘の動きを止めた。その隙に球磨は西洋槍で亘に衝撃を与え、怯んだ隙に押し倒し、両手を抑えのし掛かった。
「本当に主の事を考えてんなら、主が間違った方向に進むのを止めるのも務めだぜ」
「真鶴が間違った方向?何を戯言を」
「桜龍から聞いた。真鶴は闇の一族に操られている。つまりお前は、真鶴への忠誠ではなく、闇の者に力を貸すことになるんだぞ」
「知ったことか!!拙者は善だろうが悪だろうが、真鶴について行くと誓った。掟で縛るいすみなんぞ王座を引きずり下ろされて当然だ!!」
「・・・そうかよ。てめぇも頑固で分からずやだな。そんな姿を母親が見たら、泣くんじゃねーか?」
「何だと・・・あの女の事などどうでも良い!!」
「亘は母に会いたいと思わないのか?もし、お前まで闇に染まったら、母親は悲しむぜ、きっと」
「黙れ・・・ほんの30年位しか生きておらん貴様に何が分かるか!!拙者は百年・・いいや五百年以上も母に会いたいと願っていた・・・」
亘は一旦言葉を止め、鋭い瞳を向け、渾身の力で球磨の腹に膝蹴りし、起き上がった。球磨は素早く飛び避け、地面に刺していた槍を再び構えた。
「何度も父の命日に来てほしいと、母に会うため、地底に入ろうとした。だが、土竜族は拙者を拒んだ。いすみに頼んでも、奴は同胞だった父を、他種族の女を抱いた報いだと、責めていた・・・』
亘は一瞬、悲しげな表情をしたが、再び眉間にしわを寄せ、怒った顔になった。
「だから、拙者はいすみも土竜王も許さぬ!!それと、湘は拙者と境遇が似ている。あいつも今まで真鶴の命日に凪沙が来て欲しいと何度願った事か」
「・・・てめぇみてーな、図体はデケェ癖にウジウジしている奴と湘を一緒にすんじゃねぇ!!」
球磨は亘の頬に熱の拳を喰らわせた。
「湘は、両親もいすみ様も誰も憎んでねーよ!!母と再会出来る日の為に、前向きに生きてるんだよ!!」
「く・・・」
「お前だってやり直せるさ!!」
「・・・減らず口を叩くな!!」
亘はやけを起こし、咄嗟に球磨の胴を持ち上げ地面に叩きつけた。球磨は一瞬、脳しんとうを起こしてしまった。
「拙者はもう後戻り出来ないのだよ!!どうなろうが、真鶴に尽くすと決めた!!日ノ本も土竜族の国も知ったことか!!」
亘は、始末してやると、渾身の力で大斧を振った。球磨は槍で受け止めたが、力が入らず弾き飛ばされてしまった。「これで終わりだ!!」
亘が無防備になった球磨目掛け、斧を振り下ろした時、遠くから女性の声がこだました。
「こいつは・・・九州での戦いを思い出すぜ。肥後から敵の本拠地の島原を渡る時も海風から邪気が漂っていたぜ・・・」
球磨は眉間にしわを寄せながら、水平線をじっと見ていると、いすみは宮殿に居る同胞の心配をしていた。
「・・・皆と真鶴は無事だろうか・・・。まだ、闇に支配されていないと良いのだが・・・」
「いすみ様、湘さんを信じて下さい。きっと、父親を止める為に、敵の元に居るだけです」
「湘おじもさ、一人で抱え込むなとか言っときながら、結局は自分で解決しようとすんだから。本当、ギザの格好付けだぜ」
「・・・それが、湘の優しさなんだろうな。お前達も真鶴も敵にしたくない。だから、考えた結果なのだろう。・・・良く成長したものだ」
「良く成長したって、まるで親のように何時も見守ってた言い方ですね」
「ふん・・湘は混血種だ。親ではない」
3人は岬で、真鶴の使者が来るのを待っていた。
「海王の力を奪われては、海に潜る術がない。悔しいが、宮殿に行くには海洋族の力が必要だ」
「そうすると、この先は後戻りが出来ないですね。下手な事をしたら、仁摩殿が危ないし・・・」
桜龍は何があっても行くと決心していた。仁摩を助ける為と、湘の真意に向き合う為に。
「迎えに来たよ。桜龍、いすみ殿」
岬の先端で待っていたのは、湘だった。球磨は真っ先に湘の元へ駆けつけようとしたが、地面から深い亀裂が走った。攻撃の正体は巨大な斧を持った亘であった。
「残念だが、お主は招かれていないぞ。お主には拙者の相手をしてもらおう」
「俺と決着をつける気だな、亘。いいぜ、お前みたいな強え奴と闘えるのは本望だぜ」
「・・・そういう事だ。真鶴が桜龍といすみを待っている。ここは任せたぞ、亘」
「湘の仲間だが、討ち取って良いのか?」
「ああ、構わないさ。ただ、暴れ牛の底力を侮らない事だね」
「く・・・亘は真鶴に1番陶酔しておる。目的の為なら何をするか分からないぞ」
「いすみ様、この戦いに勝ったら、合わせたい者がいるんです。学者を目指す女の子や、俺を育ててくれた、孤児院の先生。そして、太陽の力を持つ、大切な弟。だから、今度九州を案内しますぜ」
球磨はいすみに笑顔を向け、西洋槍を構えた。
「桜龍も、仁摩殿をしっかり護るんだぞ。それと、お前の強さは真鶴を正気に戻すかもしれない」
「ありがとう、球磨。亘にも何か、事情があるかもしれないから、殴り合いは程々に、相手の本心を受け止めろよ」
桜龍は球磨の手にパチンと当て、いすみと共に深海の宮殿へ向かった。
「別れの挨拶は済んだか?」
「別れじゃねーよ・・・いってらっしゃい、俺もテメェを倒したら直ぐに向かうって、見送ったんだよ!!」
球磨は炎をまとった槍を螺旋状に回転させ、亘に突進した。亘は寸前で斧で受け止めた。
「ほう、前よりも速さと威力が増したな」
「俺は、相手が強いほど燃えるんだよ!!」
球磨は踏ん張り、さらに強い力で亘を押し退けた。
「ほう、面白い。こちらも本気を出さなくてはな!!」
亘は大地を蹴り、地面から盛り上がる岩の塊を球磨にぶつけた。速さと威力が強大で球磨は避けたり受け止めていたが、一方で焦る事なく笑みを浮かべていた。
「大地の力・・・こいつは土竜族の力か?」
「見破られたか。いすみに聞いたのか?」
亘はばつが悪そうな顔をしながら、斧で地を裂き、地割れ攻撃を仕掛けた。球磨は好機をうかがっていたのか、ニヤリと笑いながら、溶岩のような火弾を放った。すると、地下水脈から熱湯が湧き上がり、凄まじい水しぶきで亘の動きを止めた。その隙に球磨は西洋槍で亘に衝撃を与え、怯んだ隙に押し倒し、両手を抑えのし掛かった。
「本当に主の事を考えてんなら、主が間違った方向に進むのを止めるのも務めだぜ」
「真鶴が間違った方向?何を戯言を」
「桜龍から聞いた。真鶴は闇の一族に操られている。つまりお前は、真鶴への忠誠ではなく、闇の者に力を貸すことになるんだぞ」
「知ったことか!!拙者は善だろうが悪だろうが、真鶴について行くと誓った。掟で縛るいすみなんぞ王座を引きずり下ろされて当然だ!!」
「・・・そうかよ。てめぇも頑固で分からずやだな。そんな姿を母親が見たら、泣くんじゃねーか?」
「何だと・・・あの女の事などどうでも良い!!」
「亘は母に会いたいと思わないのか?もし、お前まで闇に染まったら、母親は悲しむぜ、きっと」
「黙れ・・・ほんの30年位しか生きておらん貴様に何が分かるか!!拙者は百年・・いいや五百年以上も母に会いたいと願っていた・・・」
亘は一旦言葉を止め、鋭い瞳を向け、渾身の力で球磨の腹に膝蹴りし、起き上がった。球磨は素早く飛び避け、地面に刺していた槍を再び構えた。
「何度も父の命日に来てほしいと、母に会うため、地底に入ろうとした。だが、土竜族は拙者を拒んだ。いすみに頼んでも、奴は同胞だった父を、他種族の女を抱いた報いだと、責めていた・・・』
亘は一瞬、悲しげな表情をしたが、再び眉間にしわを寄せ、怒った顔になった。
「だから、拙者はいすみも土竜王も許さぬ!!それと、湘は拙者と境遇が似ている。あいつも今まで真鶴の命日に凪沙が来て欲しいと何度願った事か」
「・・・てめぇみてーな、図体はデケェ癖にウジウジしている奴と湘を一緒にすんじゃねぇ!!」
球磨は亘の頬に熱の拳を喰らわせた。
「湘は、両親もいすみ様も誰も憎んでねーよ!!母と再会出来る日の為に、前向きに生きてるんだよ!!」
「く・・・」
「お前だってやり直せるさ!!」
「・・・減らず口を叩くな!!」
亘はやけを起こし、咄嗟に球磨の胴を持ち上げ地面に叩きつけた。球磨は一瞬、脳しんとうを起こしてしまった。
「拙者はもう後戻り出来ないのだよ!!どうなろうが、真鶴に尽くすと決めた!!日ノ本も土竜族の国も知ったことか!!」
亘は、始末してやると、渾身の力で大斧を振った。球磨は槍で受け止めたが、力が入らず弾き飛ばされてしまった。「これで終わりだ!!」
亘が無防備になった球磨目掛け、斧を振り下ろした時、遠くから女性の声がこだました。