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第3章 異説小田原征伐  蘇りし海の亡霊と海神伝説

「く・・こんな姿にされたら、もう戦えないぜ。俺は戦う事が全てだったのに・・・俺を殺してくれ、千里」
千里は穏やかな顔で、首を横に振った。
「貴方は、平家の者と信頼関係を築いたり、安徳と徳子に深い愛情を注いでいました。戦う以外にも価値があるのではないですか」
「・・・信頼と愛情か。よっしゃ!!足手まといにならないように、お前達の力になってやるよ!!」
アナンは笑顔で千里の肩に飛び移った。その時、上空からモトスとお都留が舞い降りて来るのが見えた。
「無事か、千里!!アナンと戦ったようだが・・まさか」
千里は海亀にされたアナンを2人に見せた。すると、モトスの懐に隠れていた五十鈴が、ひょっこりと出てきて、アナンに接近した。
「アッミーゴォーアナン!!君もこんな姿になっちゃったんだねー!!」
「五十鈴か・・・とりあえず生きていて良かったぜ」
アナンは涙を流している五十鈴を励ました。モトス達はその姿を微笑ましく見ていた。
「アナンもミズチとやらに力を奪われたのか・・・」
「ああ。俺とした事が、奴が五十鈴に危害を加えたと聞いたから、怒り任せで返り討ちに遭っちまったぜ・・・」
五十鈴は感動の涙を流しながら、アナンの頭に口付けを連発した。
「僕の事を心配してくれるなんて、流石は暴れん坊だけど人情深いアミーゴーだ」

「暴れん坊は余計だ!!それより、房総の方では亘が待ち構えている。あいつは、球磨と決着を付けるようだぜ」
「それでは、亘さんもミズチに力を取られてしまうのでは・・・」
お都留は亘の心配をしていた。
「そうだな・・亘も2種族の混血だから、力も強い。前から胡散臭いとは思っていたが、闇クリオネに力を与えるつもりかもしれねぇ」
五十鈴は急に真面目な顔になり、クリクリの小憎らしい顔を思い出していた。
「・・・闇クリオネのクリクリか・・真鶴は恩師だと慕っているから、何も言えなかったけど、ミズチと結託しているかもしれない」
「一刻も早く、房総へ向かいましょう」
千里が皆に促すとモトスが強く頷き、皆に言った。
「そうだな。球磨にもミズチの事を伝えねばならぬし、桜龍といすみ様を先に行かすのも危険だ」
皆は鎌倉を後にし、南房総を目指した。


その頃ミズチは海洋族の宮殿、魔術の間で、紫水晶と翡翠を手に乗せ、クリクリの胸に入れようとしていた。そこに、湘が銃を構え、入って来た。
「入るなら声をかけて欲しいね。真鶴の息子君」
「父の愛玩動物に何をする気だ?まさか、その宝石は、五十鈴とアナンの力の源か?」
ミズチは悪びれる事無く余裕の表情で湘に返答した。
「ご想像にお任せするよ。それより、君は真鶴達に力を貸すのではなく、見張るために仲間になったフリをしているのだろう」
「その通り。父は昔から無茶をするから、悪い方向へ行かせない為に、監視しているのさ。それと、君達の目的を調べる為にな。厄神四天王のミズチ」
湘は銃口をクリクリに向けて言った。クリクリは動じること無く彼に言い返した。
「オラを始末しようなんて考えるのは止めるクリねー。オラを消したら、真鶴も消えるようになっているクリ」
「僕の名を知ってるとは、君に隠密がいるんだねー。まぁ、調べたところで、わが主とマガツイノカミ様には勝てない。君達がどう抗おうが、虚無の未来しか待ってないよ」
ミズチは湘に近づき、耳元で囁いた。
「それよりも、真鶴の出生・・いいや、正体を聞きたいかい。それによって、君は闇の一族に入れるかもよ」
湘は眉間にしわを寄せながら、真実を知ろうと耳を傾けた。


その後、真鶴は貝の寝台で眠っている凪沙の頬に優しく触れた。
『もうすぐだ、凪沙・・・聖なる龍の瞳を奪い、いすみを殺め、俺が海の支配者になるのだ。そうしたらまた親子3人で幸せに暮らそうな』
真鶴は闇に取り憑かれたかのように、青緑色の髪が闇色に濁り始め、銀の甲冑も漆黒に染まった。クリクリは『もう直ぐ覚醒するクリ』と勝ち誇った顔をしながら浮遊していた。

                         
                          第9話 完
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