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第3章 異説小田原征伐  蘇りし海の亡霊と海神伝説

その頃、桜龍、いすみ、球磨、千里の4人は鎌倉幕府跡地を馬で駆けていた。そこは、源頼朝の邸宅や政治を行っていた、大蔵幕府跡とも言われ、鶴ケ岡八幡宮近にあるが、広い敷地内は雑草が生茂り、小川は枯れ荒廃していた。千里は黙り込み、屋敷が存在した方向を見た。
「これが、かつての源氏と北条の栄華の跡か・・・」
「源氏も暗殺に遭って、その後は北条が執権を握ったからなぁ。それも二百年は続かなかったな」
桜龍は千里に歴史を説明した。
「人間も泰平の世を築こうと努力はするが、権力争いや、他国との戦で財政困難となり、滅びの道へと続くのだな・・・」
「義経様が天下を取っていたら、こうはならなかったと思ってしまいます」
千里の心は悔しさでいっぱいだった。球磨はさり気なく彼の肩に手を置き言った。
「過去を悔いる気持ちはよく分かるが、今は真鶴の野望を止める事を考えようぜ」
「千里よ、ワレは今まで海洋族こそが偉大な存在だと思っていたが、義経も千里も偉大だと思うぞ」
桜龍は、いすみの言った言葉に笑いかけながら言った。
「いすみ様は嘘はつかないぜ。さあ、そろそろ行こうか」
桜龍が先を急ごうと促した時、塀の向こうからアナンが姿を現した。
「やはりここに居たか、千里!!」
「アナンか・・・ここで待ち伏せしていたのか!!」
いすみはアナンを睨み、槍を構えた。しかし、アナンは千里しか見ていなかった。
「俺は千里にだけ用があるんだ!!いすみ達なんぞに用はねーよ!!先に行きたきゃ、勝手に行きな!!」
球磨は眉間にしわを寄せながら挑発した。
「相当な自信だな。亘は一緒じゃねーのか?」
「残念だが、俺一人だぜ。俺はこいつに敗れた雪辱を果たしに、ここに来たのさ!!」
「・・・互いに嫌な思い出の地で戦うのですね。分かりました。アナンの果たし状を受けて立ちましょう」
「本来なら、ワレがこやつを凝らしめるべきだが、ここは千里に任せて良いか?決着を着けたいのであろう」
「お!いすみ様、男の戦いを理解していますね」
球磨はニヤけながらいすみに言った。
「すみません、いすみ様。僕は彼に真意を確かめたいのです。何故、真鶴の下で戦うのかを」
「よかろう。こんな戦バカ、存分に懲らしめておけ。ワレ達は先に行く」
いすみ達は鎌倉を後にし、江戸中海へ向かった。
「これで1対1になったな、千里。今度こそ、壇ノ浦の雪辱を果たしてやるぜ!!」
千里は相手を見つめながら、拳を構えた。そして、双方同時に大地を蹴り、拳が交差した。
「俺は、テメェに勝って、魔改造戦士共も打ち倒してやる!!」

アナンは目にも止まらぬ速さで拳を繰り出した。千里も紙一重に避け、彼の腕を掴み引き寄せ、腹部を蹴り飛ばした。
「腕は落ちてねーな。これからが真剣勝負だ。俺を殺す勢いで来いよな」
「貴方は何故、これ程の強さを持っているのに真鶴の下にいるのですか」
「は?何を藪から棒に?」
「平家に仕えていた時の貴方は、大切な者を護る為に拳を振るっていると感じました。ですが今は勝利を焦っている風にしか見えません」
「余計なお世話だ!!俺は、平家の天下を守れなかった。だから今度は、真鶴の願いを叶えてやりてーんだよ!!」
千里はアナンに頬を殴られ、眼鏡を落とした。千里は眼鏡を懐にしまい、唾をぺっと吐くと同時に、つぶらな真紅の瞳が、獣のような鋭い目に変わった。それを見てアナンは興奮しながら笑った。
「ついに本気を出すか。そうこなくっちゃ面白くねーぜ」
「・・・急いでいるので、速攻に決着を付けます」
千里は再び拳を構え、アナンも拳を強く握り、先制攻撃を仕掛けた。
「てめぇを倒し、真鶴が日ノ本を海に沈める前に、魔改造戦士共も全滅させてやる!!」
アナンは疾風の如き速さで、千里を攻めた。拳の連撃は、カマイタチの如く、千里の着物を切り刻んだ。
「さっきまでの勢いはどうした!!」
アナンは次に、手を地に付け、逆立ちの態勢で体を回転させ、渦潮の竜巻を放った。千里は威力のある竜巻に飛ばされそうになったが、咄嗟に鎖鎌を出し、鎌を近くの木に投げ刺し、飛ばされるのを免れた。そして千里は、直ぐに鎌を引っこ抜き、鎖鎌を懐に隠し術を唱え、アナンの足下を土で固めた。
「俺を倒すために、やっと魔術を使ったか。」
「改めて聞きます。真鶴は清盛や安徳以上に力を貸す価値があるのですか?」
「・・・無駄口叩くなっつってんだろ!!!」
アナンは怒りが頂点に立ち、とてつもない足技で、土の拘束を吹き飛ばした。千里は直ぐに避け、防御態勢に入った。アナンは再び、拳と蹴りを繰り出しながら、千里に訴えた。
「真鶴には夢がある。深い眠りに付いている妻の凪沙と、息子の湘と共に海洋族を統べる意志と、この大地に住む者を海洋族にして、戦の無い平和な世界にするとな。だから俺は、今度はあいつの夢を叶えてやりたい。清盛様や安徳が取れなかった天下を真鶴に取らしてやりたいんだよ!!」
千里はアナンの本心を聞き、小さく笑った。
「・・・やはり貴方は、忠誠心が強く、主を大切にしているのですね」
「お前だってそうだろ。源氏、特に義経に忠誠を誓っていただろう」
アナンの蹴りを千里は顔に来る直前に腕で受け止め、振り払った。千里は黙りながらアナンの動きを読み、そして悔恨の言葉を受け止め続けた。
「俺が弱かったから、源氏にもお前にも・・・魔改造戦士の大芹って奴に勝てなかったんだよ!!」
「・・・大芹と戦ったのですね。あの人と、魔改造戦士は厄神と闇の一族の為に造られた、破壊兵器だから、悔しいですが・・僕でも太刀打ちできなかった相手です・・・」
「・・・鬼神と言われるお前がそういうなら、俺は無謀な事をしたんだな・・・」
アナンは千里でさえ魔改造戦士の力に絶望感を持っていたと納得し、攻撃を止めた。一方千里は彼に聞きたいことがあったので尋ねた。
「何故・・・魔改造戦士・・大芹に挑もうとしたのですか?」
アナンは下を向きながら小声で答えた。
「・・・お前を奴らに壊されたくなかったからよ。壇ノ浦で言っただろう、再び決闘しろと」
「それで、僕を取り戻そうと戦ったのですか・・・」
千里は呆れた顔をし、アナンは少しムッとしながら話を続けた。
「初めてお前と戦って、正直憎たらしいガキだと思ったが、それと同時に倒しがいのある好敵手だと感じた。俺がお前に執着したおかげで、平家が負けちまったけどな」
「僕に執着していたなら、徳子と安徳を助けなかったと思いますが・・・」
「それとこれとじゃ話は別だ。無駄話は終わりだ!!これで最後にしようぜ」
アナンと千里は決着を付けようと、互いに身体中に気を高めた。そして、同時に地を蹴り、鋭い拳がぶつかり合った。
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