番外編 桜龍の話 小さき聖龍は出雲へ旅立つ
数日後、桜龍は剣術修行を始め、神官になる勉強や雑務をこなしていき、出雲での生活が慣れてきた。ある日、子供達は出雲の広大な湖、宍道湖(しんじこ)に来ていた。
「今日の夕食はしじみ汁を飲むから、修行の一環で、沢山しじみを取るのだぞ」
「よっしゃあ!!潮干狩りと素潜りは大得意だぜ🎵」
「深い所に行くのは禁止だ。浅瀬で取るように」
桜龍は神官に注意を受け、皆に笑われた。輝政だけが面白くない顔をしていた。
(こんな奴に負けてたまるか!!)
桜龍が漁の服装に着替えている間、輝政は船着場で桜龍の舟に、こっそり板の杭を緩め舟が壊れるように細工した。
(あいつは泳ぐの得意みたいだから、船が壊れても溺れないだろう)
輝政は苦笑いをして船着場を後にした。
桜龍は着替えて船着場に向かうと、仁摩が舟を興味津々に見ていた。
「舟遊びは初めて?」
「大社の池であるけど、大きな湖で舟遊びしたいー!!」
「うーん・・気持ちは分かるけど・・」
仁摩は、神官達としじみ漁の見物に来ていた。舟に乗りたいと、神官の目を盗んで来てしまったようだ。
「湖のお魚を見てみたいなー」
「よし!!それなら、仁摩殿に『桜龍兄ちゃん流、しじみの採り方』を見せるぜ🎵」
「わーい!!ありがとう、桜龍兄ちゃん」
桜龍は浅瀬なら仁摩を舟に乗せても安全だと思っていた。
その頃、湖が見える木の影で、黒い蝶のようなハネを背負う男が、桜龍の姿を見ていた。
「全く・・・何を考えているのか分からん主だ。あの小僧に強大な力が秘められているとは思えんが・・・」
銀の鎧に、闇色の羽織を身につけた謎の精霊は、大福を口にしながら、紅く光る原石を湖に放り投げた。
「まぁ良い。まだ日ノ本を脅かすには早いが、この石を実験に使うのも悪くないな」
桜龍は舟に仁摩を乗せ、ゆっくり櫓を漕ぎながら、しじみ漁を楽しんでいた。
「お魚たくさん泳いでるー!!」
「この辺りは、うなぎやワカサギが獲れるんだよ。特に、しじみ漁が最も盛んだ」
桜龍はウキウキと水面を覗いている仁摩を微笑ましく見ながら、虫取り網でしじみを採っていた。その時、湖面が激しく揺れ、舟板がきしむ音がした。桜龍は舟と湖の異変を察し、直ぐに仁摩をほとりに避難させなくてはと、櫓を漕いだ。
その頃輝政は、桜龍とは離れた浅瀬で、沢山のしじみを採っていた。
「これで僕があんな島民より優れている事を証明出来るぞ」
輝政はかごが満杯になったので、ほとりに戻ってかごを取り替えようと進路を変えた時、遠くに桜龍の舟に仁摩が乗っているのを見て、顔が真っ青になった。
「何で、桜龍の舟に仁摩様が!!」
輝政は急いで桜龍達の元へ舟を進めた。
桜龍は怯えている仁摩を陸に上がらす為、急ぎ櫓を漕いでた。しかし突然、湖の中から巨大なウナギが現れ、激しい水しぶきで舟が壊れ、二人とも湖に投げ出されてしまった。
「助けてー!!私泳げないの!!」
仁摩は涙を流しながら手足をバタバタさせていた。桜龍は急ぎ、溺れている少女の腕を掴み、浮いている板に乗せた。その時、輝政の舟が近づいてくるのが見えた。
「仁摩様!!桜龍!!僕の舟に乗ってくれ!!」
輝政は仁摩を引き上げ、舟に乗せた。しかし、桜龍は舟に乗るのを拒んだ。輝政は複雑な表情で彼を見た。
「お前の舟を壊したのは僕だって、勘づいていたよな・・・そんな僕に助けられるのは嫌だろう・・・」
桜龍は、『何!!そうだったのかー?』と、驚き少し怒ったが、直ぐに理由は違うと答えた。
「俺が、巨大ウナギを倒す。そんで宴にウナギを追加しようぜ🎵だから、輝政は仁摩殿を連れて、安全な場所へ」
「な!?無茶言うなよ!!直に神官達が応戦しに来るから、それに任せようよ!!」
「・・・いいや。こいつは俺の目に宿す、聖龍を試そうとしているようだ。被害が大きくなる前に、成敗して来るよ」
桜龍の聖なる龍の瞳は、眼帯に隠れていても、神々しい輝きに満ちていた。輝政は彼の姿を見て、深く反省した。
(く・・僕は、何て馬鹿な事をしたんだ・・・聖なる龍に選ばれたアイツに敵うわけないじゃないか)
輝政は悔やみながら仁摩を連れ、湖を離れた。
桜龍は浮かんでいる板に乗り、腰に差している木刀を構え巨大ウナギを挑発した。
「俺が目的なんだろ!!なら、そのケンカ買ってやるぜ!!」
桜龍は足底に気を集中させ、板を蹴り、巨大ウナギの頭部を狙い、高く跳躍した。そして、木刀に聖なる光をまとわせ、斬撃を放った。怪物は衝撃で怯んだ。
「術は神官さんと、ミコトさんに教えてもらったんだぜ」
神官達は離れた湖畔で、桜龍の戦う姿を見ていたが、助けなくてはと、戦闘準備をした。しかし、密かに来ていた大神官に止められた。
「桜龍を信じよ。あやつは、まだまだヤンチャな童だが、強い信念と使命感を持っておる。桜龍なら闇の力になど負けん」
皆は、大神官の言葉を耳に留め、桜龍の勝利を信じる事にした。すると、仁摩を無事に連れ戻した輝政は大神官に深く謝った。
その後も桜龍は巨大ウナギと激戦を繰り広げているが、徐々に魔力が切れ、苦戦していた。
「あちゃー・・術を使い果たしちまったぜ」
桜龍はウナギの尻尾に叩きつけられ、水中に落ちてしまった。
桜龍は水中で溺れていると、神々しい男性の声が脳裏に響いた。
『聖なる龍に選ばれた桜龍よ、守るべきものと、己の正義の為に真の力に目覚めよ』
(聖龍王様の声だ・・・)
すると、もう1つ聴き慣れた男の声が聞こえた。
『強くなりたいなら己の力を信じ続け、何事にも屈するな』
(ミコト師匠の言葉か・・・こんなところで挫けていたら、もう剣を教えてくれないだろうな)
桜龍は2つの言葉を心に刻み、左目の眼帯を外した。
一方、神官達は、桜龍が浮かんでこないのに焦り始め、助けに行こうとした。しかしその時、水中から白金色の龍が舞うような光が見えた。
「あれが、桜龍と聖なる龍の真の力か」
大神官が納得し小さく微笑んでいると、隣に居る仁摩は瞳を輝かせながら、聖なる龍を眺めていた。
「何で、こんなデカイ怪物になったか分からねーが、邪気を成敗してやるよ!!」
聖なる龍に包まれた桜龍は、ウナギの怪物の腹部に黒い邪気を感じ取った。そして、木刀に雷鳴と七色の光をまとわせ、ウナギの腹部を斬りつけた。すると、ウナギの邪気は浄化され、元の大きさに戻った。桜龍は湖面に落下するところを間一髪、神官の舟に救われた。
「邪気を成敗出来て、良かったですぜ。ただ、ウナギはお預けですねぇ・・・」
桜龍はケラケラ笑いながら神官に言った。神官達は今さっきの緊迫した戦いから、気が抜け呆気に取られていた。
湖畔に戻った桜龍は、輝政が皆に謝っているところを見かけた。
「私が、桜龍の舟に細工をしました。仁摩様も危険な目に遭わせ、申し訳ございません!!どんな罰でも受けます」
輝政は全て内明けた。桜龍がちやほやされているのが気に入らなかった。彼を妨害して、自分が勝ちたかったと。
「それなら、出雲を出て行ってもらおうか?裏で嫌がらせをするなど、貴様は信用出来ん」
輝政は、分かりましたと去ろうとしたが、桜龍が止めた。
「私にも非があります。島民育ちで、舟の知識に長けていたはずが、板が脆くなっている事に気づかなかったうえ、仁摩殿を勝手に乗せてしまい、申し訳ございませんでした。」
「お兄ちゃん達は悪くないわ。あたしがワガママを言ったせいよ!!」
仁摩も涙目で謝ると、大神官は頭を抱えながら答えを出した。
「ふむ・・・では罰として、桜龍と輝政はしばらく書庫の整理整頓と掃除だ。仁摩は当分外で遊ぶのを禁止。これで良いだろう」
「ありがとうございます!!大神官殿!!」
「・・・桜龍、本当にごめんなさい」
「良いって、輝政は家を継ぐのに、ここで修行しなくっちゃいけねーぜ🎵」
こうして桜龍と輝政は親しくなり、時に競争し神官修行に励んだ。
「今日の夕食はしじみ汁を飲むから、修行の一環で、沢山しじみを取るのだぞ」
「よっしゃあ!!潮干狩りと素潜りは大得意だぜ🎵」
「深い所に行くのは禁止だ。浅瀬で取るように」
桜龍は神官に注意を受け、皆に笑われた。輝政だけが面白くない顔をしていた。
(こんな奴に負けてたまるか!!)
桜龍が漁の服装に着替えている間、輝政は船着場で桜龍の舟に、こっそり板の杭を緩め舟が壊れるように細工した。
(あいつは泳ぐの得意みたいだから、船が壊れても溺れないだろう)
輝政は苦笑いをして船着場を後にした。
桜龍は着替えて船着場に向かうと、仁摩が舟を興味津々に見ていた。
「舟遊びは初めて?」
「大社の池であるけど、大きな湖で舟遊びしたいー!!」
「うーん・・気持ちは分かるけど・・」
仁摩は、神官達としじみ漁の見物に来ていた。舟に乗りたいと、神官の目を盗んで来てしまったようだ。
「湖のお魚を見てみたいなー」
「よし!!それなら、仁摩殿に『桜龍兄ちゃん流、しじみの採り方』を見せるぜ🎵」
「わーい!!ありがとう、桜龍兄ちゃん」
桜龍は浅瀬なら仁摩を舟に乗せても安全だと思っていた。
その頃、湖が見える木の影で、黒い蝶のようなハネを背負う男が、桜龍の姿を見ていた。
「全く・・・何を考えているのか分からん主だ。あの小僧に強大な力が秘められているとは思えんが・・・」
銀の鎧に、闇色の羽織を身につけた謎の精霊は、大福を口にしながら、紅く光る原石を湖に放り投げた。
「まぁ良い。まだ日ノ本を脅かすには早いが、この石を実験に使うのも悪くないな」
桜龍は舟に仁摩を乗せ、ゆっくり櫓を漕ぎながら、しじみ漁を楽しんでいた。
「お魚たくさん泳いでるー!!」
「この辺りは、うなぎやワカサギが獲れるんだよ。特に、しじみ漁が最も盛んだ」
桜龍はウキウキと水面を覗いている仁摩を微笑ましく見ながら、虫取り網でしじみを採っていた。その時、湖面が激しく揺れ、舟板がきしむ音がした。桜龍は舟と湖の異変を察し、直ぐに仁摩をほとりに避難させなくてはと、櫓を漕いだ。
その頃輝政は、桜龍とは離れた浅瀬で、沢山のしじみを採っていた。
「これで僕があんな島民より優れている事を証明出来るぞ」
輝政はかごが満杯になったので、ほとりに戻ってかごを取り替えようと進路を変えた時、遠くに桜龍の舟に仁摩が乗っているのを見て、顔が真っ青になった。
「何で、桜龍の舟に仁摩様が!!」
輝政は急いで桜龍達の元へ舟を進めた。
桜龍は怯えている仁摩を陸に上がらす為、急ぎ櫓を漕いでた。しかし突然、湖の中から巨大なウナギが現れ、激しい水しぶきで舟が壊れ、二人とも湖に投げ出されてしまった。
「助けてー!!私泳げないの!!」
仁摩は涙を流しながら手足をバタバタさせていた。桜龍は急ぎ、溺れている少女の腕を掴み、浮いている板に乗せた。その時、輝政の舟が近づいてくるのが見えた。
「仁摩様!!桜龍!!僕の舟に乗ってくれ!!」
輝政は仁摩を引き上げ、舟に乗せた。しかし、桜龍は舟に乗るのを拒んだ。輝政は複雑な表情で彼を見た。
「お前の舟を壊したのは僕だって、勘づいていたよな・・・そんな僕に助けられるのは嫌だろう・・・」
桜龍は、『何!!そうだったのかー?』と、驚き少し怒ったが、直ぐに理由は違うと答えた。
「俺が、巨大ウナギを倒す。そんで宴にウナギを追加しようぜ🎵だから、輝政は仁摩殿を連れて、安全な場所へ」
「な!?無茶言うなよ!!直に神官達が応戦しに来るから、それに任せようよ!!」
「・・・いいや。こいつは俺の目に宿す、聖龍を試そうとしているようだ。被害が大きくなる前に、成敗して来るよ」
桜龍の聖なる龍の瞳は、眼帯に隠れていても、神々しい輝きに満ちていた。輝政は彼の姿を見て、深く反省した。
(く・・僕は、何て馬鹿な事をしたんだ・・・聖なる龍に選ばれたアイツに敵うわけないじゃないか)
輝政は悔やみながら仁摩を連れ、湖を離れた。
桜龍は浮かんでいる板に乗り、腰に差している木刀を構え巨大ウナギを挑発した。
「俺が目的なんだろ!!なら、そのケンカ買ってやるぜ!!」
桜龍は足底に気を集中させ、板を蹴り、巨大ウナギの頭部を狙い、高く跳躍した。そして、木刀に聖なる光をまとわせ、斬撃を放った。怪物は衝撃で怯んだ。
「術は神官さんと、ミコトさんに教えてもらったんだぜ」
神官達は離れた湖畔で、桜龍の戦う姿を見ていたが、助けなくてはと、戦闘準備をした。しかし、密かに来ていた大神官に止められた。
「桜龍を信じよ。あやつは、まだまだヤンチャな童だが、強い信念と使命感を持っておる。桜龍なら闇の力になど負けん」
皆は、大神官の言葉を耳に留め、桜龍の勝利を信じる事にした。すると、仁摩を無事に連れ戻した輝政は大神官に深く謝った。
その後も桜龍は巨大ウナギと激戦を繰り広げているが、徐々に魔力が切れ、苦戦していた。
「あちゃー・・術を使い果たしちまったぜ」
桜龍はウナギの尻尾に叩きつけられ、水中に落ちてしまった。
桜龍は水中で溺れていると、神々しい男性の声が脳裏に響いた。
『聖なる龍に選ばれた桜龍よ、守るべきものと、己の正義の為に真の力に目覚めよ』
(聖龍王様の声だ・・・)
すると、もう1つ聴き慣れた男の声が聞こえた。
『強くなりたいなら己の力を信じ続け、何事にも屈するな』
(ミコト師匠の言葉か・・・こんなところで挫けていたら、もう剣を教えてくれないだろうな)
桜龍は2つの言葉を心に刻み、左目の眼帯を外した。
一方、神官達は、桜龍が浮かんでこないのに焦り始め、助けに行こうとした。しかしその時、水中から白金色の龍が舞うような光が見えた。
「あれが、桜龍と聖なる龍の真の力か」
大神官が納得し小さく微笑んでいると、隣に居る仁摩は瞳を輝かせながら、聖なる龍を眺めていた。
「何で、こんなデカイ怪物になったか分からねーが、邪気を成敗してやるよ!!」
聖なる龍に包まれた桜龍は、ウナギの怪物の腹部に黒い邪気を感じ取った。そして、木刀に雷鳴と七色の光をまとわせ、ウナギの腹部を斬りつけた。すると、ウナギの邪気は浄化され、元の大きさに戻った。桜龍は湖面に落下するところを間一髪、神官の舟に救われた。
「邪気を成敗出来て、良かったですぜ。ただ、ウナギはお預けですねぇ・・・」
桜龍はケラケラ笑いながら神官に言った。神官達は今さっきの緊迫した戦いから、気が抜け呆気に取られていた。
湖畔に戻った桜龍は、輝政が皆に謝っているところを見かけた。
「私が、桜龍の舟に細工をしました。仁摩様も危険な目に遭わせ、申し訳ございません!!どんな罰でも受けます」
輝政は全て内明けた。桜龍がちやほやされているのが気に入らなかった。彼を妨害して、自分が勝ちたかったと。
「それなら、出雲を出て行ってもらおうか?裏で嫌がらせをするなど、貴様は信用出来ん」
輝政は、分かりましたと去ろうとしたが、桜龍が止めた。
「私にも非があります。島民育ちで、舟の知識に長けていたはずが、板が脆くなっている事に気づかなかったうえ、仁摩殿を勝手に乗せてしまい、申し訳ございませんでした。」
「お兄ちゃん達は悪くないわ。あたしがワガママを言ったせいよ!!」
仁摩も涙目で謝ると、大神官は頭を抱えながら答えを出した。
「ふむ・・・では罰として、桜龍と輝政はしばらく書庫の整理整頓と掃除だ。仁摩は当分外で遊ぶのを禁止。これで良いだろう」
「ありがとうございます!!大神官殿!!」
「・・・桜龍、本当にごめんなさい」
「良いって、輝政は家を継ぐのに、ここで修行しなくっちゃいけねーぜ🎵」
こうして桜龍と輝政は親しくなり、時に競争し神官修行に励んだ。