番外編 桜龍の話 小さき聖龍は出雲へ旅立つ
山陰地方、日本海に囲まれた自然豊かな隠岐の島で、男の子が生まれた。少年は『桜龍(おうりゅう)』と名付けられた。名の由来は、隠岐の島に伝わる伝説の龍神『聖龍王(せいりゅうおう)』と、生誕時に辺り一面満開の桜が咲いていたので、縁起が良いと名付けられた。日本海を一望できる丘の上に桜龍家族は住んでいた。
「桜が満開の頃に元気な子が生まれて良かったわ」
桜龍の母、『桜子(さくらこ)』と漁師である父、『龍造(りゅうぞう)』は笑顔で赤ん坊の顔を見て言った。島民達は桜龍の生誕に大喜びし、島中で宴をした。
しかし、数日後に赤子は重い病を患ってしまった。熱が下がらず、呼吸が苦しそうだった。町医者と医療呪術師に治療してもらい、一命は取り留めたが、左目を失明してしまった・・・。
それから11年後、桜龍は片目しか見えない不自由さを気にすることなく、健やかに育った。桜が満開の岸辺から、少年は釣り竿を持って海岸まで駆けて行った。
「よっしゃあ!!今日こそはノドグロを釣ってみせるぜ!!」
サラサラの白金色の髪が風で乱れ、右目の紫水晶のような瞳が輝き、左目には紫黒色の眼帯をしていた。少年は、『隠岐のやんちゃ坊主』と島民から呼ばれ、毎日、海や山を駆けては、食料を採っている。一方、島流しをされた公家や皇族の子孫から、学問を教えて貰ったり教養も備わっており、賢い少年でもあった。また、少年の前向きで優しい性格が、島中の太陽とも呼ばれていた。
ある日、桜龍は午前の読み書きの勉強が終わった後、小舟に乗り、釣りを楽しんでいた。
「父ちゃんや漁師の皆に負けない位、大量に釣ってやるぜ♪来い!!真鯛、ブリ、のどぐろ!!」
桜龍がじっと釣り糸を見ながら大物を狙っている時、向こう岸から七色の光が見えた。
「何だー?雨は降ってないのに虹が出てる!!」
桜龍は虹の神々しい光を見ていたが、釣り糸がもの凄い力で引っ張られ我に返り、釣り竿を引っ張ったが、糸が切れて尻もちをついてしまった。桜龍は糸の替えが無いことに気がつき、諦めた。
「うーん・・・今日の釣りは終いだな。残念、収穫無しかぁー。そうだ!!あの光の岸へ行ってみよう♪」
桜龍は気を取り直し、小舟を向こう岸まで進めた。
数分後、桜龍が小舟を止めた海岸は、有人島の直ぐ傍だったが、誰も見当たらなかった。岸までの上り坂は草木がうっそうと生い茂り、人の手が行き渡っていないので、無人島だと直ぐに分かった。
「誰も住んでいないんだな。島民はこの島のこと知ってんのかなぁ?」
桜龍は銛を構えながら獣道を進むと、日本海と山陰道が見えた。
「あれが、日ノ本の本土かぁー。島の長老から聞いたことがあるな。山陰には出雲大社という神々の神殿があると」
桜龍は、出雲はどの辺りか?と眺めていると、すぐ隣で光っている物に気がついた。石碑からは小さく七色の光が現れていた。
「さっきの光はここから出ていたのかな?」
桜龍は石碑に薄く刻まれている文字を読んだ。
「・・・せい・・りゅうおう?太古の昔、日ノ本を闇に染めようとした厄神を封印した聖者・・・」
聖龍王と書かれた文字を読み終えた瞬間、桜龍の左目の眼帯が突風に飛ばされた。そして晴天の空が黒い雲に覆われ、辺りは一瞬にして暗くなった。黒雲から暗黒色の巨大な首長龍が姿を現し、日ノ本に上陸し、黒い炎で焼き尽くした。
「ははは!!!我が主、『マガツイノ神』よ!!日ノ本を無の世界にし、新しい世界を創造させましょうぞ!!!」
黒い鎧をまとった男が、マガツイノ神と呼ばれた暗黒龍の上に乗り、日ノ本中を闇に染めている光景が見えた。桜龍は止めろ!!と叫び、少年から放たれた七色の光で、暗黒龍は消え去った。すると、景色は元の姿に戻り、晴天の空にはカモメやトンビが何も無かったかのように飛んでいた。
「今のは何だったんだ・・・?幻覚?それとも・・・・」
これから起こる未来なのか?と桜龍は困惑していると、何処からか優しい男が現れた。
『私は聖龍王。今見た光景は、近い未来、マガツイノ神と配下が蘇り、日ノ本を闇に染めようとしている。私には奴を封印する力はもう持っていない。君には、聖なる龍の力を持つ素質がある』
神々しい白金色の髪の男は、桜龍の開かない左目に手を当て、白金色の龍が刻まれた珠を左目に入れた。桜龍は左目に強さと暖かさを感じた。
「俺が聖なる龍に選ばれた・・・?俺は特別な力を持ってない普通の島民なのですが・・・」
桜龍は突然の出来事に戸惑い、何故自分が選ばれたのかと疑問に思った。
「君の心には無限の可能性が秘めている。桜龍1人で戦うのでは無く、地水火風の守護者4人が聖なる龍に協力してくれる」
桜龍は聖龍王の白金色の瞳を見つめ、決心をした。
「日ノ本を闇になんか染めさせやしない!!聖龍王様、まずは家族に隠岐の島を出て、出雲で修業させて欲しいとお願いします!!」
桜龍は急ぎ、岸を駆け下りた。聖龍王はその後ろ姿を見て、姿を消した。
『桜龍はごく普通の人間だが、龍神の力を感じる。聖龍と地水火風の守護者達なら、闇を封印し希望の未来を築き上げる事ができるだろう』
桜龍は直ぐに自宅に帰り、両親にこれまでの出来事を話した。信じがたい話だろうと桜龍は思っていたが、意外にも信じてくれて、話を親身に聞いてくれた。
「まさか、聖龍王様から力を授かるとは・・・」
父と母は桜龍の左目の瞳を見て、驚いていた。
「聖龍王様からの頼みでも、まだ小さい桜龍が島を出るのは反対です」
「でも、母ちゃん、俺は今すぐに出雲で修行したいんだ!!」
桜龍の覚悟に母は言葉が出なかった。
「しかし、隠岐には流刑人が来る以外は、定期船とか船が来ないしな。もう数十年も本土から船も来んし・・」
父が渋い顔をしながら言うと、桜龍はニヤッとしながら答えた。
「俺の小舟で、日本海を渡る!!」
「な・・何戯言を!!日本海の荒波と、出雲まで遠すぎるわよ」
母は再び反対した。
「でも、俺は早く強くならないと、厄神が日ノ本を闇に染めちまうし・・・」
桜龍は何とか親を説得せねばと、考えている時、島の長老が母屋に入って来た。
「桜龍よ。出雲までの海路は過酷じゃぞ。命を落とすかもしれん。それでも出雲へ行く覚悟は出来ておるのか?」
「はい!!長老。ここで諦めたら、俺を選んだ聖龍王様に申し訳ない。荒波に負けていたら、厄神に勝てません!!」
桜龍の強い思いに、長老はやはりなと最初から少年の真意を分かっていた。
「これを持っていきなされ」
長老は桜龍に羅針盤を渡した。さらに、呪術で、出雲大社を示すよう施してくれた。
「お前は、昔から素直で良い子じゃが、一度決めた事はやり通す性格じゃったな。出雲で強くなって来い!!島の皆も応援しておるぞ」
「・・・桜龍、お前の志しに負けたわ。でも、無茶はしないで。辛い時はいつでも島に帰ってきてね。辛い事を我慢するのは弱い事ではないから」
「ありがとう、母ちゃん」
「まあ、俺も漁がてら、桜龍の海路を見守るし、海域を過ぎたら、出雲や石見の漁船も見かけるだろうから、何かあったら乗せてって貰え」
こうして、父が頑丈な木で舟を作ってくれた。隠岐を旅立つ日、港で母は桜龍に木彫りのうさぎを渡した。
「お前は、好奇心旺盛で、昔からうさぎのように海や山を駆け回っていたねぇ。出雲でも頑張って修業してくるのよ」
「母ちゃん、ありがとう。うさちゃんの人形大切にするからね」
桜龍は人形を大事に握りしめ、島民達も桜龍を応援し見送った。
「困ったことがあったら、何時でも隠岐に帰ってくるんだよ」
「俺もいつかは隠岐を出て、本土を旅したいぜ。その時は桜龍に案内して貰おうかなー」
「出雲と間違えて、因幡に上陸しないようにね」
桜龍は島の友達や学問の先生と名残惜しそうに別れの挨拶をした。すると、父の声が船着き場に響き渡った。
「そんじゃあ、そろそろ行くか、桜龍。出雲までの海路は長い。隠岐国の海域まで漁船で行け!!」
桜龍は小舟を漁船に運び、船は荒波の日本海へ向け出港した。
「桜が満開の頃に元気な子が生まれて良かったわ」
桜龍の母、『桜子(さくらこ)』と漁師である父、『龍造(りゅうぞう)』は笑顔で赤ん坊の顔を見て言った。島民達は桜龍の生誕に大喜びし、島中で宴をした。
しかし、数日後に赤子は重い病を患ってしまった。熱が下がらず、呼吸が苦しそうだった。町医者と医療呪術師に治療してもらい、一命は取り留めたが、左目を失明してしまった・・・。
それから11年後、桜龍は片目しか見えない不自由さを気にすることなく、健やかに育った。桜が満開の岸辺から、少年は釣り竿を持って海岸まで駆けて行った。
「よっしゃあ!!今日こそはノドグロを釣ってみせるぜ!!」
サラサラの白金色の髪が風で乱れ、右目の紫水晶のような瞳が輝き、左目には紫黒色の眼帯をしていた。少年は、『隠岐のやんちゃ坊主』と島民から呼ばれ、毎日、海や山を駆けては、食料を採っている。一方、島流しをされた公家や皇族の子孫から、学問を教えて貰ったり教養も備わっており、賢い少年でもあった。また、少年の前向きで優しい性格が、島中の太陽とも呼ばれていた。
ある日、桜龍は午前の読み書きの勉強が終わった後、小舟に乗り、釣りを楽しんでいた。
「父ちゃんや漁師の皆に負けない位、大量に釣ってやるぜ♪来い!!真鯛、ブリ、のどぐろ!!」
桜龍がじっと釣り糸を見ながら大物を狙っている時、向こう岸から七色の光が見えた。
「何だー?雨は降ってないのに虹が出てる!!」
桜龍は虹の神々しい光を見ていたが、釣り糸がもの凄い力で引っ張られ我に返り、釣り竿を引っ張ったが、糸が切れて尻もちをついてしまった。桜龍は糸の替えが無いことに気がつき、諦めた。
「うーん・・・今日の釣りは終いだな。残念、収穫無しかぁー。そうだ!!あの光の岸へ行ってみよう♪」
桜龍は気を取り直し、小舟を向こう岸まで進めた。
数分後、桜龍が小舟を止めた海岸は、有人島の直ぐ傍だったが、誰も見当たらなかった。岸までの上り坂は草木がうっそうと生い茂り、人の手が行き渡っていないので、無人島だと直ぐに分かった。
「誰も住んでいないんだな。島民はこの島のこと知ってんのかなぁ?」
桜龍は銛を構えながら獣道を進むと、日本海と山陰道が見えた。
「あれが、日ノ本の本土かぁー。島の長老から聞いたことがあるな。山陰には出雲大社という神々の神殿があると」
桜龍は、出雲はどの辺りか?と眺めていると、すぐ隣で光っている物に気がついた。石碑からは小さく七色の光が現れていた。
「さっきの光はここから出ていたのかな?」
桜龍は石碑に薄く刻まれている文字を読んだ。
「・・・せい・・りゅうおう?太古の昔、日ノ本を闇に染めようとした厄神を封印した聖者・・・」
聖龍王と書かれた文字を読み終えた瞬間、桜龍の左目の眼帯が突風に飛ばされた。そして晴天の空が黒い雲に覆われ、辺りは一瞬にして暗くなった。黒雲から暗黒色の巨大な首長龍が姿を現し、日ノ本に上陸し、黒い炎で焼き尽くした。
「ははは!!!我が主、『マガツイノ神』よ!!日ノ本を無の世界にし、新しい世界を創造させましょうぞ!!!」
黒い鎧をまとった男が、マガツイノ神と呼ばれた暗黒龍の上に乗り、日ノ本中を闇に染めている光景が見えた。桜龍は止めろ!!と叫び、少年から放たれた七色の光で、暗黒龍は消え去った。すると、景色は元の姿に戻り、晴天の空にはカモメやトンビが何も無かったかのように飛んでいた。
「今のは何だったんだ・・・?幻覚?それとも・・・・」
これから起こる未来なのか?と桜龍は困惑していると、何処からか優しい男が現れた。
『私は聖龍王。今見た光景は、近い未来、マガツイノ神と配下が蘇り、日ノ本を闇に染めようとしている。私には奴を封印する力はもう持っていない。君には、聖なる龍の力を持つ素質がある』
神々しい白金色の髪の男は、桜龍の開かない左目に手を当て、白金色の龍が刻まれた珠を左目に入れた。桜龍は左目に強さと暖かさを感じた。
「俺が聖なる龍に選ばれた・・・?俺は特別な力を持ってない普通の島民なのですが・・・」
桜龍は突然の出来事に戸惑い、何故自分が選ばれたのかと疑問に思った。
「君の心には無限の可能性が秘めている。桜龍1人で戦うのでは無く、地水火風の守護者4人が聖なる龍に協力してくれる」
桜龍は聖龍王の白金色の瞳を見つめ、決心をした。
「日ノ本を闇になんか染めさせやしない!!聖龍王様、まずは家族に隠岐の島を出て、出雲で修業させて欲しいとお願いします!!」
桜龍は急ぎ、岸を駆け下りた。聖龍王はその後ろ姿を見て、姿を消した。
『桜龍はごく普通の人間だが、龍神の力を感じる。聖龍と地水火風の守護者達なら、闇を封印し希望の未来を築き上げる事ができるだろう』
桜龍は直ぐに自宅に帰り、両親にこれまでの出来事を話した。信じがたい話だろうと桜龍は思っていたが、意外にも信じてくれて、話を親身に聞いてくれた。
「まさか、聖龍王様から力を授かるとは・・・」
父と母は桜龍の左目の瞳を見て、驚いていた。
「聖龍王様からの頼みでも、まだ小さい桜龍が島を出るのは反対です」
「でも、母ちゃん、俺は今すぐに出雲で修行したいんだ!!」
桜龍の覚悟に母は言葉が出なかった。
「しかし、隠岐には流刑人が来る以外は、定期船とか船が来ないしな。もう数十年も本土から船も来んし・・」
父が渋い顔をしながら言うと、桜龍はニヤッとしながら答えた。
「俺の小舟で、日本海を渡る!!」
「な・・何戯言を!!日本海の荒波と、出雲まで遠すぎるわよ」
母は再び反対した。
「でも、俺は早く強くならないと、厄神が日ノ本を闇に染めちまうし・・・」
桜龍は何とか親を説得せねばと、考えている時、島の長老が母屋に入って来た。
「桜龍よ。出雲までの海路は過酷じゃぞ。命を落とすかもしれん。それでも出雲へ行く覚悟は出来ておるのか?」
「はい!!長老。ここで諦めたら、俺を選んだ聖龍王様に申し訳ない。荒波に負けていたら、厄神に勝てません!!」
桜龍の強い思いに、長老はやはりなと最初から少年の真意を分かっていた。
「これを持っていきなされ」
長老は桜龍に羅針盤を渡した。さらに、呪術で、出雲大社を示すよう施してくれた。
「お前は、昔から素直で良い子じゃが、一度決めた事はやり通す性格じゃったな。出雲で強くなって来い!!島の皆も応援しておるぞ」
「・・・桜龍、お前の志しに負けたわ。でも、無茶はしないで。辛い時はいつでも島に帰ってきてね。辛い事を我慢するのは弱い事ではないから」
「ありがとう、母ちゃん」
「まあ、俺も漁がてら、桜龍の海路を見守るし、海域を過ぎたら、出雲や石見の漁船も見かけるだろうから、何かあったら乗せてって貰え」
こうして、父が頑丈な木で舟を作ってくれた。隠岐を旅立つ日、港で母は桜龍に木彫りのうさぎを渡した。
「お前は、好奇心旺盛で、昔からうさぎのように海や山を駆け回っていたねぇ。出雲でも頑張って修業してくるのよ」
「母ちゃん、ありがとう。うさちゃんの人形大切にするからね」
桜龍は人形を大事に握りしめ、島民達も桜龍を応援し見送った。
「困ったことがあったら、何時でも隠岐に帰ってくるんだよ」
「俺もいつかは隠岐を出て、本土を旅したいぜ。その時は桜龍に案内して貰おうかなー」
「出雲と間違えて、因幡に上陸しないようにね」
桜龍は島の友達や学問の先生と名残惜しそうに別れの挨拶をした。すると、父の声が船着き場に響き渡った。
「そんじゃあ、そろそろ行くか、桜龍。出雲までの海路は長い。隠岐国の海域まで漁船で行け!!」
桜龍は小舟を漁船に運び、船は荒波の日本海へ向け出港した。
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