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第3章 異説小田原征伐  蘇りし海の亡霊と海神伝説

湘は、海洋族の宮殿にある広い2階建ての書物館で、本を探していた。母、凪沙にかけられている眠りの呪いを解く本を探していたが、百冊以上は目を通したのに何の手がかりも得られなかった。
(やはり、強力な術だから書物に解く方法が書いてない。どうして、桜龍の瞳が必要になるのか・・・)
湘は本を閉じ、思いを巡らせた。気になっていた事があったからだ。
(本当にあの術はいすみが掛けたものなのか?母を見た時、邪気が見えたような・・・)
それはきっと、闇の者が介入し母を眠らせ、真鶴がいすみに憎悪を抱かせるように仕向けたと考えられる。湘は再び、母を助ける手掛かりを探していると、『九頭竜と海龍』という本を発見した。
(これは?仁摩殿が祈祷で見た、九頭竜と関係するかな?)
湘は本に目を通すと、筆者『魔術師1の色男、五十鈴』と書いてあった。本は割と最近書かれたようだ。
(あの色ボケは本も書いていたのか?)
湘は項をめくると、海龍を祀っていた小国の事が分かった。
(九頭竜は元々、島を護る海龍だったのか。しかし、その島は、闇に汚染された海龍が九頭竜と変わり、沈められた・・・か)
次々と読んでいくと、気になる部分があった。

(九頭竜はいすみ様とボクの力で、海龍に戻そうとしたが、人間の赤子に変化した。ボクは赤子を育てようとしたが、いすみ様は危険だと見なし、反対され、貝殻の中に眠らせ、沈んだ島の遺跡に封印された)

(いすみは酷な事をするな・・・それにしても、海龍が人間の赤子になったのか?)

(今から半世紀前、ボクは海底遺跡で赤子を探した。しかし、海龍の赤子を封印していた貝は見つからなかった。海洋生物のアミーゴー達に話を聞くと、紫黒色の尾を持つ人魚に奪われてしまった・・・)
(五十鈴は何故、こんな大切な事を隠していたんだ?)
湘は五十鈴に知っている事を聞き出そうと思い、本を手に持ち外に出ようとした時、書物館に入って来た真鶴に声をかけられた。
「ここに居たのか、湘。何か調べているのか?」
「ああ、父さん。戦略になる本を探していたのだよ」
湘は懐に本を隠し、父に興味がありそうな本を勧めた。真鶴は世界の海について書かれている本や、船の本などに目を通していた。 
「日ノ本では見たことが無い本ばかりだ。これで世界の事が良く分かるな」
湘は真鶴の童心に帰った言動に微笑んでいた。そして、過去にキリシタンの者から聞いた、海の伝説を話した。
「父さんは、大昔に海底に沈んだ都があったと信じるかい?」
「沈んだ都とは、かつては島だったてことか?」
「島もあるし、小さな大陸とも言われているよ」
「それは、浪漫があるな。そういえば、五十鈴も大昔は海に沈んだ島で神官をしていたと言ってたな」
真鶴は五十鈴から聞いた事を湘に話した。湘は先程読んだ本と内容が一致していたので、十分理解できた。
「父さんは、五十鈴から海龍の事も聞いたようだね。では、海龍を封印していた貝が持ち出された事も聞いたのか?」
湘が一番気になっていた事を口にした時、急に真鶴の籠手の紅玉が黒く濁り、胸が苦しくなり、湘の話を遮った。
「すまん、湘。話し中だが、少しめまいがしてきた・・・。部屋で休んでくる」
湘は真鶴の籠手から黒い邪気が出ているのを見つけ、聖なる水の力で浄化させようとしたが、真鶴に怒鳴られて突き飛ばされた。
「これに触るな!!俺は1人で部屋に行かれるから、放っておいてくれ!!」
「父さん・・・・・」
真鶴は籠手を隠しながら、足もとをふらふらさせ書物館を出た。湘は父の後ろ姿を見て、今は様子を見るしか出来ないと諦めた。
(このまま籠手を着けていたら、父の体は危ないな・・・。それにしても、貝を持ち出された話をした途端に、籠手が黒くなったな)
真鶴は凪沙が眠っている部屋に入ると発作が収まった。真鶴は懐に隠れているクリクリに問うた。
「何故・・急に胸が苦しくなったのだ?クリクリ、お前は何か知っているのか!!」
「それはきっと、真鶴が真実に辿り着こうとしているくり」
「真実・・・とは?」
「いずれ、わかるクリよ〜。それより、そろそろ豊臣を海に招待する準備をするくり♪」
真鶴は、『そうだな』とクリクリに頷いた。


所変わり、小田原城。北条氏政と息子、氏直は天守台から夜の相模湾を見ていた。
「そろそろ、小田原で戦が起きるか・・・何としてでも領民を護らなくては」
「父上、海王神が民を護る術を使うと申していたので、我々はサル共を迎え撃ちましょう!!」

氏直が張り切っていると、襖から声がしたので、入れと命じた。すると、忍び装束の藤乃が入って来た。
「氏政様、氏直様、秀吉率いる軍は、箱根の温泉で寛いでいるそうです。明日には小田原に攻めて来るでしょう」
「ついに来たか、サルめ。だが、こっちには海洋族が付いている。返り討ちにしてやりましょう、父上」
「ああ。湘と真鶴達の力も心強い。ご苦労であった、藤乃。お主達、風魔忍軍の力も借りる。だから、今日はゆっくり休むのだぞ」
『もったいなきお言葉を。では私は明日の準備に取り掛かります。何かありましたらお申し付けください』
藤乃は天守を後にし、星空が映る相模湾を見ていた。
「湘、何があっても、あたしはあんたを信じているよ」

勇士達と海洋族、北条家の者達の夜は終わり、明日から本戦が始まる。


その頃、闇の一族の大将、卑弩羅と厄神四天王ミズチが、三浦半島、城ヶ島の暗い海辺を見ていた。
「卑弩羅様、明日が日ノ本を終わりにする日になりますかな?」
「それは、真鶴と聖龍の力次第だな。日ノ本は暗い海に沈むか、聖龍が守り抜くか」
「卑弩羅様は随分と聖龍を高く評価していますねぇ。持ち主の青年(桜龍)はそれ程強いのですか?」
ミズチは首を傾げながら聞いてみた。
「お前は見た事が無いからそう言っているが、奴は小さい頃から無限の可能性と力を持っている。現に、死の龍に取り憑かれた神官を救済した位だからな」
「小さい頃?とは、会ったことあるのですか?」
「それは秘密だ。それより、明日はお前も戦うのだろう?真鶴と、肉親に危険だと見做され封印されようとした闇クリオネと一緒に」
「はい。裏方ですが、上手く真鶴達を支えますよ。そして、この大地全体を暗い海の世界にしてさしあげましょう」
ミズチは卑弩羅に宣言した後、人魚の姿に変え海中に消えた。


                       第7話 完
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