第3章 異説小田原征伐 蘇りし海の亡霊と海神伝説
早朝、いすみは芦ノ湖近くの温泉に浸かった後、近くの林で勇ましい掛け声を聞いた。林に入ると、球磨と常葉が組み手をしていた。
「良い筋じゃねーか。こんな攻撃を受け続けていたら、流石の俺でもバテるぜ」
「球磨殿も、受け流しや防御が徹底しているので、なかなか技を決められません」
いすみは、2人の動きと技の切れを見て感心した。
「初心にかえって組み手か?常葉が鍛錬する姿を久しぶりに見るな」
「いすみ様!!おはようございます。朝風呂はいかがでしたか?」
いすみは気持ち良かったと告げると、球磨は常葉と鍛錬している理由を話した。
「いすみ様、俺の方から常葉に海洋族の戦法を教えてもらったんですよ。亘とまた戦えるように」
「亘か・・・奴は、2つの力を持っているから、過去に強敵を倒した貴殿でも奴を倒すのは難しいぞ」
いすみに亘の強さを言われたが、球磨はいたって冷静な態度で答えた。
「ああ、知っていますよ。この前、駿河の三保の松原で一戦交えた時に、強さを見極めましたから」
「常葉は知っているかもしれんが、亘は、海洋族と土竜族の混血だ」
「土竜族・・とは、東北や北中部地方の地底に住むと言われる種族ですか?」
球磨は、孤児院で世話になった師、『益城(ましき)』や、歴史学者を目指す遠距離恋愛中の『胡桃(くるみ)』に話を聞いたことがあった。人間や他種族よりも怪力かつ、高度な魔力と技術力をも持っており、噂では日ノ本に大きく影響を与える力を持っているので、ほとんど地上を出たことが無い未知の種族。
「亘は、海洋族の戦士と、土竜族の王の娘との間に出来た子なのだ・・・」
いすみは2人にその件について話した。海洋族と土竜族は互いに力が強すぎて、生まれた子供、亘が幼い頃に病にかかり、死ぬ寸前まで追い込まれてしまった。助かる方法として、海洋族の父は、自らの命を捧げ、亘を助けた。それが引き金となり、海洋族と土竜族は断交関係となってしまった。さらに亘は大人になると、土竜族の血も引いている事を思い出した。そして、父の死に深く傷つき、土竜族の母に会いに行こうとした。しかし、三陸の海から土竜族の地底に繋がる洞窟は、土竜の王の結界で封鎖され、会うことが出来なかった。いすみに、土竜族と和解しろと頼んでも、聞く耳を持たなかった。
「拙者は、一目母に会いたい!!拙者のせいで、愛すべき父を犠牲にしてしまった。だから、母に父の墓参りに来て欲しい」
「ならぬ!!海洋族と土竜族は完全に断交した!!向こうの王もそう決めておる。二度と貴様の母親の話をするな!!永久追放するぞ!!」
亘は海王の下らぬ掟に見限り、数百年前に宮殿を出て行った。しかし亘は、土竜族に『自分はもう海洋族とは無関係だ』と、地底に入りたいと懇願しても、受け入れられなかった。
球磨と常葉は亘の話を聞いて、心を痛めていた。
「違う種族同士で愛してしまった結果が、亘に辛い思いをさせちまったのか・・・」
「いすみ様は、それでも掟を守ろうとするのですか?」
「・・・一度、作ってしまった掟だから、今更消すことは出来ぬ。ワレは掟を守るためなら、同族に見限られても仕方が無い・・・」
「そう簡単に諦めちゃいけませんぜ、いすみ様。話しに聞く限り、海洋族と土竜族は、憎しみはあっても、互いに滅ぼす気は全くないんだろう?それに、いすみ様が掟を作ったのも、何か理由があるんだと思っています」
球磨の励ましの言葉に続き、常葉も彼に助言した。
「それに、出て行った海洋族が亡霊の真鶴と手を組み、何をするか分かりません。どうか、海洋族の皆に、掟を作った理由を話すべきだと思います」
いすみは深く悩み、黙り込んでしまった。まるで、何か深い罪悪感を持っている風に見えた。球磨は、何も聞かず優しい言葉をかけた。
「今は、何も言わなくて良いんですよ。時が来たら真実を伝えられるように、心の整理をしましょう。俺も、桜龍も皆も、いすみ様にどんな過去があっても話を聞きますし、何があっても受け入れます。」
球磨の強い眼差しに、下を向きながら告げた。
「・・・恥を承知で、心配をかけてすまぬ。いずれは掟を作った理由を話す・・・・」
球磨は静かに頷き、いすみに竹の槍を渡した。
「とりあえず、この話は置いといて、いすみ様の槍術を体感してみたいです。どうか、鍛錬に付き合って貰えないでしょうか?」
「今のワレは、海王神の力を失っている。相手になるか分からぬぞ」
「そんなの関係ありませんよ。力を失っていても、型や技は同じでしょう。いすみ様とは一戦交えてみたかったんです」
いすみは球磨の申し出を受け入れたが、少し待ってくれないかと聞いた。
「海王神の武器、三叉槍を持ってくる。せめて、槍くらいは持てるようにならないとな」
いすみは急いで愛用の槍を持ってきて、球磨と鍛錬した。いすみの力は封印されていても、球磨と互角に渡り合えるほどの力と技を持っていた。しばらく球磨に鍛えられているうちに、槍の重さを感じなくなり、海王としての力が戻りつつあった。
「力を封印されていても、十分強いですよ。いすみ様」
「球磨よ。貴殿は火の神の化身と言われているようだが、人間にワレは負けんぞ!!」
「俺も、海王神だからって、手加減はしませんよ!!」
いすみは初心に戻り槍の稽古を楽しみ、いつの間にか顔の筋肉が緩んでいた。
(ワレは決めた。真鶴や海洋族と戦うのでは無く、また再び分り合えるか。そして、悲劇の根源となった奴を、今度は闇から救ってやりたい・・・。それが、あの者達への償いとなる・・・)
いすみは球磨の槍技を受け止めながら、過去を思い出した。
古代の琉球にある島で出会った、太陽のような笑顔がまぶしい女性。まだ若かったいすみは、彼女と相思相愛になった。しかし、海王神の他種族と交わることは呪いの海洋族を生みだしてしまう禁忌となってしまった・・・。
「良い筋じゃねーか。こんな攻撃を受け続けていたら、流石の俺でもバテるぜ」
「球磨殿も、受け流しや防御が徹底しているので、なかなか技を決められません」
いすみは、2人の動きと技の切れを見て感心した。
「初心にかえって組み手か?常葉が鍛錬する姿を久しぶりに見るな」
「いすみ様!!おはようございます。朝風呂はいかがでしたか?」
いすみは気持ち良かったと告げると、球磨は常葉と鍛錬している理由を話した。
「いすみ様、俺の方から常葉に海洋族の戦法を教えてもらったんですよ。亘とまた戦えるように」
「亘か・・・奴は、2つの力を持っているから、過去に強敵を倒した貴殿でも奴を倒すのは難しいぞ」
いすみに亘の強さを言われたが、球磨はいたって冷静な態度で答えた。
「ああ、知っていますよ。この前、駿河の三保の松原で一戦交えた時に、強さを見極めましたから」
「常葉は知っているかもしれんが、亘は、海洋族と土竜族の混血だ」
「土竜族・・とは、東北や北中部地方の地底に住むと言われる種族ですか?」
球磨は、孤児院で世話になった師、『益城(ましき)』や、歴史学者を目指す遠距離恋愛中の『胡桃(くるみ)』に話を聞いたことがあった。人間や他種族よりも怪力かつ、高度な魔力と技術力をも持っており、噂では日ノ本に大きく影響を与える力を持っているので、ほとんど地上を出たことが無い未知の種族。
「亘は、海洋族の戦士と、土竜族の王の娘との間に出来た子なのだ・・・」
いすみは2人にその件について話した。海洋族と土竜族は互いに力が強すぎて、生まれた子供、亘が幼い頃に病にかかり、死ぬ寸前まで追い込まれてしまった。助かる方法として、海洋族の父は、自らの命を捧げ、亘を助けた。それが引き金となり、海洋族と土竜族は断交関係となってしまった。さらに亘は大人になると、土竜族の血も引いている事を思い出した。そして、父の死に深く傷つき、土竜族の母に会いに行こうとした。しかし、三陸の海から土竜族の地底に繋がる洞窟は、土竜の王の結界で封鎖され、会うことが出来なかった。いすみに、土竜族と和解しろと頼んでも、聞く耳を持たなかった。
「拙者は、一目母に会いたい!!拙者のせいで、愛すべき父を犠牲にしてしまった。だから、母に父の墓参りに来て欲しい」
「ならぬ!!海洋族と土竜族は完全に断交した!!向こうの王もそう決めておる。二度と貴様の母親の話をするな!!永久追放するぞ!!」
亘は海王の下らぬ掟に見限り、数百年前に宮殿を出て行った。しかし亘は、土竜族に『自分はもう海洋族とは無関係だ』と、地底に入りたいと懇願しても、受け入れられなかった。
球磨と常葉は亘の話を聞いて、心を痛めていた。
「違う種族同士で愛してしまった結果が、亘に辛い思いをさせちまったのか・・・」
「いすみ様は、それでも掟を守ろうとするのですか?」
「・・・一度、作ってしまった掟だから、今更消すことは出来ぬ。ワレは掟を守るためなら、同族に見限られても仕方が無い・・・」
「そう簡単に諦めちゃいけませんぜ、いすみ様。話しに聞く限り、海洋族と土竜族は、憎しみはあっても、互いに滅ぼす気は全くないんだろう?それに、いすみ様が掟を作ったのも、何か理由があるんだと思っています」
球磨の励ましの言葉に続き、常葉も彼に助言した。
「それに、出て行った海洋族が亡霊の真鶴と手を組み、何をするか分かりません。どうか、海洋族の皆に、掟を作った理由を話すべきだと思います」
いすみは深く悩み、黙り込んでしまった。まるで、何か深い罪悪感を持っている風に見えた。球磨は、何も聞かず優しい言葉をかけた。
「今は、何も言わなくて良いんですよ。時が来たら真実を伝えられるように、心の整理をしましょう。俺も、桜龍も皆も、いすみ様にどんな過去があっても話を聞きますし、何があっても受け入れます。」
球磨の強い眼差しに、下を向きながら告げた。
「・・・恥を承知で、心配をかけてすまぬ。いずれは掟を作った理由を話す・・・・」
球磨は静かに頷き、いすみに竹の槍を渡した。
「とりあえず、この話は置いといて、いすみ様の槍術を体感してみたいです。どうか、鍛錬に付き合って貰えないでしょうか?」
「今のワレは、海王神の力を失っている。相手になるか分からぬぞ」
「そんなの関係ありませんよ。力を失っていても、型や技は同じでしょう。いすみ様とは一戦交えてみたかったんです」
いすみは球磨の申し出を受け入れたが、少し待ってくれないかと聞いた。
「海王神の武器、三叉槍を持ってくる。せめて、槍くらいは持てるようにならないとな」
いすみは急いで愛用の槍を持ってきて、球磨と鍛錬した。いすみの力は封印されていても、球磨と互角に渡り合えるほどの力と技を持っていた。しばらく球磨に鍛えられているうちに、槍の重さを感じなくなり、海王としての力が戻りつつあった。
「力を封印されていても、十分強いですよ。いすみ様」
「球磨よ。貴殿は火の神の化身と言われているようだが、人間にワレは負けんぞ!!」
「俺も、海王神だからって、手加減はしませんよ!!」
いすみは初心に戻り槍の稽古を楽しみ、いつの間にか顔の筋肉が緩んでいた。
(ワレは決めた。真鶴や海洋族と戦うのでは無く、また再び分り合えるか。そして、悲劇の根源となった奴を、今度は闇から救ってやりたい・・・。それが、あの者達への償いとなる・・・)
いすみは球磨の槍技を受け止めながら、過去を思い出した。
古代の琉球にある島で出会った、太陽のような笑顔がまぶしい女性。まだ若かったいすみは、彼女と相思相愛になった。しかし、海王神の他種族と交わることは呪いの海洋族を生みだしてしまう禁忌となってしまった・・・。