第3章 異説小田原征伐 蘇りし海の亡霊と海神伝説
その頃、球磨と合流した桜龍達は、四国を治める長宗我部軍と、中国地方を治める毛利軍が伊豆の砦を奪い取れた事を耳にし、様子を見に行った。モトスと球磨と常葉は中伊豆の韮山城へ行き、桜龍といすみと仁摩は伊豆半島最南端、下田へ向かった。下田城では豊臣秀吉の弟、秀長と毛利輝元が、物見櫓から駿河湾を眺めていた。
「そろそろ兄上達、主力部隊が来るな。それまでに城を落とせて良かったよ」
「ですが、城主が城を放棄し、海に身を投げるのが奇妙です・・。城に居た兵士も全員姿を消しているし」
輝元は敵軍に対し不信に思いながら、海を見ていた。すると、物見櫓に桜龍と仁摩といすみが入ってきた。
「ご無沙汰しております。秀長様、輝元様。出雲大社の神官侍、桜龍です」
「同じく、巫女の仁摩です」
「おお!!そなた達の事は良く耳にするぞ。甲斐国と九州の活躍、見事であったぞ!!」
兄に似て、お茶目な秀長は憧れの眼差しで桜龍と仁摩に握手した。一方、輝元はいすみの威圧感に驚き戸惑っていた。
「桜龍、こちらの方は・・・」
いすみは大名相手に、いつも通りの態度で名乗った。
「海王神いすみだ。今回の戦は我が一族が関与している。奴らを止める為にも、貴殿達に協力をする」
「い・・いすみ様・・もう少し和らげに・・」
仁摩はいすみの態度にハラハラしていたが、輝元と秀長は瞳を輝かせていた。
「凄い!!海王神様に会えるとは、夢にも思ってなかったです。祖父の元就(もとなり)爺様から海洋族の伝承をよく聞かされました!!」
輝元は胸を躍らせながらいすみの手を握った。
「そうなのか・・ワレは人間に尊敬されて良いのか?」
「海洋族が人間と関わりを持たない事は、知っています。この度は、豊臣兵が海洋族を利用してしまい、申し訳ございませんでした」
「いいや。ワレの不祥事でこうなった。秀長は謝る必要無い」
「もし、いすみ様が良ければ、この戦いが終わった後に、京の醍醐で花見をしようと考えています。兄の秀吉も、いすみ様を交えての宴を喜ぶでしょう」
「・・・考えておく」
なかなか素直になれないいすみに、桜龍と仁摩は苦笑いした。
「それはそうと、現状はどうなっているのですか?」
桜龍は秀長と輝元に下田を落とした経緯を尋ねた。
伊豆半島の北条家臣の城は、完全に攻め落とす前に城主は降伏した。しかし、捕らえようとした時にはもぬけの殻だった。海や川に飛び込み自害したか調べても、形跡は無かった。
「おそらく、海洋族の手引きで、小田原城へ逃げ込んだのかもしれません。まるで、勢力を小田原に集め、籠城に備えるかのように」
「それで、元親様と水軍達が漁船に扮し、相模湾で調査しているのですね」
「深追いするのを止めたのだが、正義感の強い者が多く、行ってしまったよ・・・」
「そいつは、危ないですね・・・。よし!!俺が相模湾近海に行って、元親様と水軍の皆さんに撤退するように言いに行きます」
「桜龍一人では心配だから、私も行きます」
桜龍と仁摩が船に乗り込もうとした時、いすみも申し出た。
「ワレも行くぞ。もしかしたら、北条と海洋族も偵察に行っている、水軍を狙うかもしれん。これ以上、一族が人間に迷惑をかけないように説教する」
「ありがとうございます。いすみ様、桜龍、仁摩。くれぐれも、危険だと思ったら、我々が落とした伊豆の砦や陣地に逃げてくれ」
桜龍達は、下田港で待機していた水軍の船に乗り、相模湾へ出港した。穏やかな波に揺られ、桜龍は、一見すると平和な海だと感じていた。いすみは、思い悩みながら伊豆半島を見て、桜龍に聞いてみた。
「・・・ワレは人間や他種族に忌み嫌われているかと思ったのだが・・・」
「秀長様も、輝元様も海王神様と戦えるのを喜んでいましたよ。いすみ様が思っているよりもずっと、海王神は海の守り神として尊敬されていますよ!!」
「そんな事は無い・・・。ワレは、今でも海王神は呪いを生み出した厄神と言われている・・・」
いすみは一瞬、古代の琉球諸島の小さな島で、『オミ』と刻まれた墓に、ハイビスカスの花を備えた時の事を思い出した。とある悲劇で、村民達からは邪険にされ、石を投げられていた。
「大切な娘の墓参りに良く来られるものだ!!もう二度とこの島に来るな!!半魚人め!!!」
いすみは黙って耐えていたが、覚悟を決め一喝した。
「言われなくても、二度と貴様らの目の前には現れぬ!!後生にも伝えておけ!!海王神いすみは、呪いを生んでしまった災いの神とな!!」
それ以来、いすみは他種族と必要以上に関わることを止めていた。
「そろそろ兄上達、主力部隊が来るな。それまでに城を落とせて良かったよ」
「ですが、城主が城を放棄し、海に身を投げるのが奇妙です・・。城に居た兵士も全員姿を消しているし」
輝元は敵軍に対し不信に思いながら、海を見ていた。すると、物見櫓に桜龍と仁摩といすみが入ってきた。
「ご無沙汰しております。秀長様、輝元様。出雲大社の神官侍、桜龍です」
「同じく、巫女の仁摩です」
「おお!!そなた達の事は良く耳にするぞ。甲斐国と九州の活躍、見事であったぞ!!」
兄に似て、お茶目な秀長は憧れの眼差しで桜龍と仁摩に握手した。一方、輝元はいすみの威圧感に驚き戸惑っていた。
「桜龍、こちらの方は・・・」
いすみは大名相手に、いつも通りの態度で名乗った。
「海王神いすみだ。今回の戦は我が一族が関与している。奴らを止める為にも、貴殿達に協力をする」
「い・・いすみ様・・もう少し和らげに・・」
仁摩はいすみの態度にハラハラしていたが、輝元と秀長は瞳を輝かせていた。
「凄い!!海王神様に会えるとは、夢にも思ってなかったです。祖父の元就(もとなり)爺様から海洋族の伝承をよく聞かされました!!」
輝元は胸を躍らせながらいすみの手を握った。
「そうなのか・・ワレは人間に尊敬されて良いのか?」
「海洋族が人間と関わりを持たない事は、知っています。この度は、豊臣兵が海洋族を利用してしまい、申し訳ございませんでした」
「いいや。ワレの不祥事でこうなった。秀長は謝る必要無い」
「もし、いすみ様が良ければ、この戦いが終わった後に、京の醍醐で花見をしようと考えています。兄の秀吉も、いすみ様を交えての宴を喜ぶでしょう」
「・・・考えておく」
なかなか素直になれないいすみに、桜龍と仁摩は苦笑いした。
「それはそうと、現状はどうなっているのですか?」
桜龍は秀長と輝元に下田を落とした経緯を尋ねた。
伊豆半島の北条家臣の城は、完全に攻め落とす前に城主は降伏した。しかし、捕らえようとした時にはもぬけの殻だった。海や川に飛び込み自害したか調べても、形跡は無かった。
「おそらく、海洋族の手引きで、小田原城へ逃げ込んだのかもしれません。まるで、勢力を小田原に集め、籠城に備えるかのように」
「それで、元親様と水軍達が漁船に扮し、相模湾で調査しているのですね」
「深追いするのを止めたのだが、正義感の強い者が多く、行ってしまったよ・・・」
「そいつは、危ないですね・・・。よし!!俺が相模湾近海に行って、元親様と水軍の皆さんに撤退するように言いに行きます」
「桜龍一人では心配だから、私も行きます」
桜龍と仁摩が船に乗り込もうとした時、いすみも申し出た。
「ワレも行くぞ。もしかしたら、北条と海洋族も偵察に行っている、水軍を狙うかもしれん。これ以上、一族が人間に迷惑をかけないように説教する」
「ありがとうございます。いすみ様、桜龍、仁摩。くれぐれも、危険だと思ったら、我々が落とした伊豆の砦や陣地に逃げてくれ」
桜龍達は、下田港で待機していた水軍の船に乗り、相模湾へ出港した。穏やかな波に揺られ、桜龍は、一見すると平和な海だと感じていた。いすみは、思い悩みながら伊豆半島を見て、桜龍に聞いてみた。
「・・・ワレは人間や他種族に忌み嫌われているかと思ったのだが・・・」
「秀長様も、輝元様も海王神様と戦えるのを喜んでいましたよ。いすみ様が思っているよりもずっと、海王神は海の守り神として尊敬されていますよ!!」
「そんな事は無い・・・。ワレは、今でも海王神は呪いを生み出した厄神と言われている・・・」
いすみは一瞬、古代の琉球諸島の小さな島で、『オミ』と刻まれた墓に、ハイビスカスの花を備えた時の事を思い出した。とある悲劇で、村民達からは邪険にされ、石を投げられていた。
「大切な娘の墓参りに良く来られるものだ!!もう二度とこの島に来るな!!半魚人め!!!」
いすみは黙って耐えていたが、覚悟を決め一喝した。
「言われなくても、二度と貴様らの目の前には現れぬ!!後生にも伝えておけ!!海王神いすみは、呪いを生んでしまった災いの神とな!!」
それ以来、いすみは他種族と必要以上に関わることを止めていた。