第3章 異説小田原征伐 蘇りし海の亡霊と海神伝説
その頃、五十鈴はワカメに押し潰された反動で、体中を痛がりながら、小田原城へ帰ってきた。門の前には湘と真鶴が彼を待っていた。
「五十鈴!?怪我をしたのか?今、手当てするから待ってろ」
真鶴は五十鈴に肩を貸した。湘は率直に答えた。
「モトス達と戦っていたのかい?」
「その通り、忍びと暴れ牛のいぶし銀2人は、手強かったよ・・ボクの嫌いな輩達だよ」
「だろうな。だが、また彼らとは戦うようになるよ」
湘が意地悪そうにからかうと、五十鈴は冷や汗をかいた。真鶴は湘の友人の話をする時の笑顔を見て、複雑な顔をしていた。
「湘・・後で話があるんだが・・・」
「ああ。月夜を見ながら、話そう」
夜のとばりが下りた頃、真鶴は小田原城の水濠で舟遊びをしていた。無数の星が輝く中で、真鶴は魯を漕ぎ、湘は昔、父が三崎の海で船頭をしていた姿に重ね合わせ、しみじみと思い出していた。
「懐かしいな。昔はよく父さんの舟に乗せてもらったよ」
「まさか、北条の城で舟遊びをするなんて思ってもいなかったよ。だが、今はお前の父親に戻りたくてな」
真鶴は魯を漕ぐのを止め、湘の瞳をじっと見た。
「お前は、桜龍達とは幾多の困難に立ち向かった仲のようだが、今回は敵になる。俺と共に、新しい海洋族をまとめたいと言っといて何だが・・・」
真鶴は一瞬、言葉に詰まったが白黒着けようと、はっきりと言った。
「友も大事だよな、湘。俺の事は気にせず、俺達、海洋族に付くか、友人に付くか、自分で決めてくれ」
「私は、最初から決めている。父さんと氏政様の味方だ。特に北条を守る為なら、かつての友に銃を向ける覚悟も出来ている」
「そうか・・・やはり大きく成長したな、我が息子よ」
真鶴は自分と同じ歳位に見える湘を優しく抱きしめた。
「小さかったお前がこんなに立派になったのに、俺は死んだ時の歳と変わらないんだな」
真鶴は苦笑いし、湘を抱くのを止めた。
「だが、君の友人を死なせたりはしないよ。五十鈴の魔術で、人間や全種族を海洋生物にすることが出来る。そして、この世界を・・・」
その先の言葉は、湘の耳元で小さく囁いた。湘は目を見開き、言葉が出なかった。
「俺も、五十鈴にその術を教えて貰っているところなんだ。試しに、豊臣の水軍共に試してみようかと思う」
真鶴は、両籠手に付いている紅玉を見ながら、実行しようと考えていた。
その頃、いすみは五十鈴の禁術について皆に話していた。
「乙女峠で奴と会ったときにほのめかしていたが、改めて聞くと、何とも危険な術だ。生態系を崩す技だぞ・・・・」
モトスは本来の種族が海洋生物にされる事に、脅威を感じていた。
「でもよ、何でいすみ様は、そんな危険な奴を野放しにしていたんですか?」
「・・・あんな奴でも、過去に世話になった。それに、奴はむやみに種族を海洋生物にさせたりはしない。だが、今回は真鶴に陶酔しているから、奴の為なら喜んで術を使うだろう」
仁摩は不吉な予感を推測した。
「これから、北と西から、各大名が小田原に攻めてきます。まさか五十鈴はそれを狙って、大勢を海洋生物にしようとしているのでは・・・」
「その可能性は十分あるな。真鶴は五十鈴を利用し、豊臣と北条もろとも、海洋生物にし、自らの支配下にするつもりだろう」
モトスは、真鶴の元に居る湘の事を心配しながらも、何とか阻止せねばと考えていた。
その頃、五十鈴は夜の小田原の海を眺めていた。真鶴は彼を見つけ、魔術指南を申し出た。
「こんばんは、真鶴。僕の魔術を習いに来たのかい?」
「ああ。俺も使えるようになりたくて」
五十鈴は喜んで、彼に術を教えた。小さなクラゲを大きくしたり、光り輝く海ほたるで文字を作ったりと、初歩的な術を真鶴は使いこなせるようになった。
「アミーゴーは覚えが早いね〜🎵これなら直ぐに禁術を教えられるよ」
「五十鈴の教え方が分かりやすくて上手いからだよ。やはり昔から宮殿で魔術師をしていたのか?」
「いいや、昔は別の王国に居たんだよ。海洋族の立場で、海龍様を祀る神殿で神官をしていた。だけど今は海に沈んじゃって無くなったよ」
「海に沈んだ・・とは?お前の国はどんな感じだったんだ?」
「そこは、日の本よりもずっと小さな島国だったよ。人間も海洋族も平和に暮らしていたけど、厄神に国を闇に染められた。その時、海龍様が闇を追い払ったのだよ。だけど・・・」
海龍は国を覆っていた闇雲を吸いすぎて、黒い龍と化した。その名は、九頭竜。九頭竜は闇の力で、島を海に沈めてしまった。
「そんな・・では、王国の人々は・・・」
「僕の魔術が未熟だったから、助からなかったよ。逆に、九頭竜から戻った海龍様を人間の赤ん坊の姿に出来たから、僕が育てようとしたけど、いすみに、うんも言わさず、貝の中に閉じ込められ、海底に封印されたよ」
「酷い・・奴はそんな昔から、無慈悲な事を!!」
「人間になった海龍様を育ててみたかったんだけどね。さて、暗い話はお終い。魔術の修行を再開させるよ」
真鶴は再び気を集中させ、海から水柱を出現させた。五十鈴は、彼の健気に頑張る姿を見て、優しく見守った。
(何だか、真鶴って不思議な力を感じるな。もしかしたら、ただの三浦一族の末裔ではないかもしれないな)
五十鈴が真鶴の正体を少し予想していたが、直ぐに「まさかねー」と考えるのを止めた。
第5話 完
「五十鈴!?怪我をしたのか?今、手当てするから待ってろ」
真鶴は五十鈴に肩を貸した。湘は率直に答えた。
「モトス達と戦っていたのかい?」
「その通り、忍びと暴れ牛のいぶし銀2人は、手強かったよ・・ボクの嫌いな輩達だよ」
「だろうな。だが、また彼らとは戦うようになるよ」
湘が意地悪そうにからかうと、五十鈴は冷や汗をかいた。真鶴は湘の友人の話をする時の笑顔を見て、複雑な顔をしていた。
「湘・・後で話があるんだが・・・」
「ああ。月夜を見ながら、話そう」
夜のとばりが下りた頃、真鶴は小田原城の水濠で舟遊びをしていた。無数の星が輝く中で、真鶴は魯を漕ぎ、湘は昔、父が三崎の海で船頭をしていた姿に重ね合わせ、しみじみと思い出していた。
「懐かしいな。昔はよく父さんの舟に乗せてもらったよ」
「まさか、北条の城で舟遊びをするなんて思ってもいなかったよ。だが、今はお前の父親に戻りたくてな」
真鶴は魯を漕ぐのを止め、湘の瞳をじっと見た。
「お前は、桜龍達とは幾多の困難に立ち向かった仲のようだが、今回は敵になる。俺と共に、新しい海洋族をまとめたいと言っといて何だが・・・」
真鶴は一瞬、言葉に詰まったが白黒着けようと、はっきりと言った。
「友も大事だよな、湘。俺の事は気にせず、俺達、海洋族に付くか、友人に付くか、自分で決めてくれ」
「私は、最初から決めている。父さんと氏政様の味方だ。特に北条を守る為なら、かつての友に銃を向ける覚悟も出来ている」
「そうか・・・やはり大きく成長したな、我が息子よ」
真鶴は自分と同じ歳位に見える湘を優しく抱きしめた。
「小さかったお前がこんなに立派になったのに、俺は死んだ時の歳と変わらないんだな」
真鶴は苦笑いし、湘を抱くのを止めた。
「だが、君の友人を死なせたりはしないよ。五十鈴の魔術で、人間や全種族を海洋生物にすることが出来る。そして、この世界を・・・」
その先の言葉は、湘の耳元で小さく囁いた。湘は目を見開き、言葉が出なかった。
「俺も、五十鈴にその術を教えて貰っているところなんだ。試しに、豊臣の水軍共に試してみようかと思う」
真鶴は、両籠手に付いている紅玉を見ながら、実行しようと考えていた。
その頃、いすみは五十鈴の禁術について皆に話していた。
「乙女峠で奴と会ったときにほのめかしていたが、改めて聞くと、何とも危険な術だ。生態系を崩す技だぞ・・・・」
モトスは本来の種族が海洋生物にされる事に、脅威を感じていた。
「でもよ、何でいすみ様は、そんな危険な奴を野放しにしていたんですか?」
「・・・あんな奴でも、過去に世話になった。それに、奴はむやみに種族を海洋生物にさせたりはしない。だが、今回は真鶴に陶酔しているから、奴の為なら喜んで術を使うだろう」
仁摩は不吉な予感を推測した。
「これから、北と西から、各大名が小田原に攻めてきます。まさか五十鈴はそれを狙って、大勢を海洋生物にしようとしているのでは・・・」
「その可能性は十分あるな。真鶴は五十鈴を利用し、豊臣と北条もろとも、海洋生物にし、自らの支配下にするつもりだろう」
モトスは、真鶴の元に居る湘の事を心配しながらも、何とか阻止せねばと考えていた。
その頃、五十鈴は夜の小田原の海を眺めていた。真鶴は彼を見つけ、魔術指南を申し出た。
「こんばんは、真鶴。僕の魔術を習いに来たのかい?」
「ああ。俺も使えるようになりたくて」
五十鈴は喜んで、彼に術を教えた。小さなクラゲを大きくしたり、光り輝く海ほたるで文字を作ったりと、初歩的な術を真鶴は使いこなせるようになった。
「アミーゴーは覚えが早いね〜🎵これなら直ぐに禁術を教えられるよ」
「五十鈴の教え方が分かりやすくて上手いからだよ。やはり昔から宮殿で魔術師をしていたのか?」
「いいや、昔は別の王国に居たんだよ。海洋族の立場で、海龍様を祀る神殿で神官をしていた。だけど今は海に沈んじゃって無くなったよ」
「海に沈んだ・・とは?お前の国はどんな感じだったんだ?」
「そこは、日の本よりもずっと小さな島国だったよ。人間も海洋族も平和に暮らしていたけど、厄神に国を闇に染められた。その時、海龍様が闇を追い払ったのだよ。だけど・・・」
海龍は国を覆っていた闇雲を吸いすぎて、黒い龍と化した。その名は、九頭竜。九頭竜は闇の力で、島を海に沈めてしまった。
「そんな・・では、王国の人々は・・・」
「僕の魔術が未熟だったから、助からなかったよ。逆に、九頭竜から戻った海龍様を人間の赤ん坊の姿に出来たから、僕が育てようとしたけど、いすみに、うんも言わさず、貝の中に閉じ込められ、海底に封印されたよ」
「酷い・・奴はそんな昔から、無慈悲な事を!!」
「人間になった海龍様を育ててみたかったんだけどね。さて、暗い話はお終い。魔術の修行を再開させるよ」
真鶴は再び気を集中させ、海から水柱を出現させた。五十鈴は、彼の健気に頑張る姿を見て、優しく見守った。
(何だか、真鶴って不思議な力を感じるな。もしかしたら、ただの三浦一族の末裔ではないかもしれないな)
五十鈴が真鶴の正体を少し予想していたが、直ぐに「まさかねー」と考えるのを止めた。
第5話 完