第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
甲州征伐で新府城に火をかけ、勝頼様は城を放棄した。その時に、甲斐国東部の大月の岩殿山城へ逃げよと書状が届き、誘いに乗った。しかし、
「信茂!!どういうつもりだ!!!私たち一族をかくまってくれるのではなかったのか!?」
城門前で兵士たちは銃や弓を構え、勝頼とモトスに向けていた。
「信茂殿!!!あなたは信玄公や勝頼様から深い信頼を得ていたはず・・・。どうか、勝頼様たちを城に招いてください!!」
モトスも勝頼と共に兵士に懇願したが、その瞬間、門の櫓の上から勝頼に向かって銃弾が放たれた。モトスは即座に曲刀で弾き、勝頼を護った。モトスは上を向くと、櫓で信茂がいやらしい顔で2人を嘲笑っていた。
「モトスよ。お前という強い力と能力を持っている者が、まだ勝頼の下で働いているのか?金も大名としての地位もないも同然というのに」
「どのような苦難に遭おうとも、俺の志は変わらぬ!!」
「では2人とも仲良くここで死んでもらおうか!!勝頼と精霊のモトスの首を信長様に献上すれば、褒美どころか大名になるのも夢ではないわ!!」
信茂は兵士たちに攻撃を促した。モトスは、毒粉と煙幕弾をばらまき、兵士たちの動きを封じ、直ぐに勝頼と共に岩殿山城を離れた。勝頼は悲しく嘆いていた。
「・・・モトス。信頼していた家臣に捨てられても、今だ私を慕ってくれるのか・・・?私には何も無い。だから皆私の前から消えてしまうか、敵になってしまうか・・・」
しかし、モトスは優しい口調で主君に語り掛けた。
「私は、勝頼様が大好きです。昌幸もあなたを大切に想っています。だから、甲斐を北上し、信濃の真田の地へ参りましょう」
モトスは足元が少し覚束ない勝頼を支えながら峠道を超えていた。しかし、その願いは叶わなかった。
そして、モトスは湘の術で凍らされている信茂に最大級の風の力を発動した。
「まずは貴様からだ!!!小山田信茂!!!!勝頼様の無念を晴らしてやるぞ!!!」
聖なる風の刃が氷漬けにされている信茂の体を切り裂いた。信茂は泣き叫びながら謝罪した。
「ギャアー!!!!!!!!モトス!!!勝頼様ぁー!!!ごめんなざい!!!ごめんなざいー!!!!!!!!」
風に纏っている葉や花弁も男の鎧や服を引き裂いていた。
その光景を木の上から見ていた金髪の森精霊が、信茂に呆れながら、黄色いハネの蝶を空に飛ばしていた。
「野心むき出しの割に弱い信念だったな。こいつはもう終わりだな」
そして、長身の体の背中から、キアゲハのような鮮やかな黄金色のハネを出現させ、新府城方面に飛び立った。
本栖湖よりも東に位置する大きな湖、河口湖の湖畔で、闇の神官、江津は目の前に飛んできた黄金色の蝶を手に乗せた。
「白州(はくしゅう)からか。・・・そうか、傀儡(くぐつ)はもう終わりか」
江津は不気味に笑い、念を発動した。
「ぐ・・・あ・・あ・・ご・・・・江津様・・お助けを・・・俺を見捨てないで・・・・・・」
信茂の体は深い闇に覆われ、屍に変化していった。
(信長に下ったものの、武田の内通者として処刑され、野心と怨念の強さで蘇らせてやったが、こんな小者はもう用済みだ)
江津は静かに瞼を開き、同時に遠くで苦しみ嘆いている信茂を屍と化させた。モトスたちはその光景を見て驚いていた。
「・・・どうやら、操っていた死霊使いに遠くから消されたようだね」
湘は無残に骨と化した信茂を哀れに見据えていた。
「この者は結局、信長にも梅雪にも捨てられたのだな・・・」
モトスは彼の裏切りを許さずにいたが、土に埋めて、花を添えた。
「でも、これで勝頼様の無念も晴らせたし、生きている僧兵と精霊も正気に戻るな・・・って!!本物の寅時を探さなくては!!」
球磨が寅時を思い出したが、森の奥から小精霊や精霊戦士が1人の僧兵を連れてきた。どうやら、本物の寅時のようだ。寅時は皆に礼を言った。
「そなたたちが私を探しに来てくれたのか?偵察中に森に迷い込んでいたら、小さい森精霊たちが保護してくれたのだよ。大人の精霊は術に操られていたみたいだが、小精霊には影響が無かったみたいだ」
寅時は爽やかな笑顔で3人に説明をした。
「外に出たら危ないとオラたちが止めていたじゅら」
「久遠寺の僧兵に化けていたのは信茂って奴だったじゅら」
小精霊たちも3人の手や肩に乗り、説明していた。
「そうか。お前たち皆で寅時を護ってくれて、感謝する。小さい守護者だな」
モトスは優しく小精霊の頭を撫でたり、指で握手をした。
「さて、戻ろうか。法主さんが待っているぜ。あと、愛しの奥さんと娘さんもな!!」
球磨がニヤッと笑いながら言うと、寅時は赤面した。そして皆で笑った。
早朝になり、下部温泉に戻ると
「父ちゃんが帰って来たずらー!!!!!」
「お前さん・・・よく無事で。モトスさん、皆さん。こんなに早く助けてくださり・・・本当にありがとうございます!!!!」
寅時はささ子を抱っこし、多香は嬉し涙を流しながら、3人に礼を言った。球磨は親子愛に涙を流し、湘はそんな男に呆れていながらも笑っていた。モトスも親子に優しい笑顔を浮かべていた。そして、湘と球磨に真剣な瞳で語りかけた。
「・・・球磨はなぜ協力してくれるのだ?正直、礼を出来る品も報酬も何もない・・・」
「モトスさん・・・確かに俺は世間に出て一儲けしたい傭兵ではあるが、金や報酬に変えられないほどの依頼を受けちまってよ。勝頼様の奥さんと子を助ける任をな」
「それは、双葉殿の事かね。私も奥方を救う任を、兄の氏政殿から引き受けたのだよ。目的は一緒ということか」
「それだけじゃねーよ。甲斐の国に行けと何かに導かれた気がするんだ。・・・モトスさんの風と、もう1つ強大な龍の力に」
「さすがは戦闘民族。戦が俺を呼んでいるという思考か」
湘が少し皮肉を言うと、球磨は怒りだした。
「何だとー!!!!若作り優男!!!!」
2人は口喧嘩になったが、モトスは2人の間に入り、笑顔で礼を言った。
「・・・2人共。共に戦ってくれて感謝する」
湘と球磨は喧嘩を止め、互いに顔を合わせて笑った。
「絶対に穴山梅雪の手から甲斐を護ろうな!!!」
「双葉殿も息子の玄杜殿も絶対に助けるぞ!!」
「そして、勝頼様と武田家の無念を晴らす!!」
3人は近くに見える富士山と昇る朝日に向かって誓った。
第4話 完
「信茂!!どういうつもりだ!!!私たち一族をかくまってくれるのではなかったのか!?」
城門前で兵士たちは銃や弓を構え、勝頼とモトスに向けていた。
「信茂殿!!!あなたは信玄公や勝頼様から深い信頼を得ていたはず・・・。どうか、勝頼様たちを城に招いてください!!」
モトスも勝頼と共に兵士に懇願したが、その瞬間、門の櫓の上から勝頼に向かって銃弾が放たれた。モトスは即座に曲刀で弾き、勝頼を護った。モトスは上を向くと、櫓で信茂がいやらしい顔で2人を嘲笑っていた。
「モトスよ。お前という強い力と能力を持っている者が、まだ勝頼の下で働いているのか?金も大名としての地位もないも同然というのに」
「どのような苦難に遭おうとも、俺の志は変わらぬ!!」
「では2人とも仲良くここで死んでもらおうか!!勝頼と精霊のモトスの首を信長様に献上すれば、褒美どころか大名になるのも夢ではないわ!!」
信茂は兵士たちに攻撃を促した。モトスは、毒粉と煙幕弾をばらまき、兵士たちの動きを封じ、直ぐに勝頼と共に岩殿山城を離れた。勝頼は悲しく嘆いていた。
「・・・モトス。信頼していた家臣に捨てられても、今だ私を慕ってくれるのか・・・?私には何も無い。だから皆私の前から消えてしまうか、敵になってしまうか・・・」
しかし、モトスは優しい口調で主君に語り掛けた。
「私は、勝頼様が大好きです。昌幸もあなたを大切に想っています。だから、甲斐を北上し、信濃の真田の地へ参りましょう」
モトスは足元が少し覚束ない勝頼を支えながら峠道を超えていた。しかし、その願いは叶わなかった。
そして、モトスは湘の術で凍らされている信茂に最大級の風の力を発動した。
「まずは貴様からだ!!!小山田信茂!!!!勝頼様の無念を晴らしてやるぞ!!!」
聖なる風の刃が氷漬けにされている信茂の体を切り裂いた。信茂は泣き叫びながら謝罪した。
「ギャアー!!!!!!!!モトス!!!勝頼様ぁー!!!ごめんなざい!!!ごめんなざいー!!!!!!!!」
風に纏っている葉や花弁も男の鎧や服を引き裂いていた。
その光景を木の上から見ていた金髪の森精霊が、信茂に呆れながら、黄色いハネの蝶を空に飛ばしていた。
「野心むき出しの割に弱い信念だったな。こいつはもう終わりだな」
そして、長身の体の背中から、キアゲハのような鮮やかな黄金色のハネを出現させ、新府城方面に飛び立った。
本栖湖よりも東に位置する大きな湖、河口湖の湖畔で、闇の神官、江津は目の前に飛んできた黄金色の蝶を手に乗せた。
「白州(はくしゅう)からか。・・・そうか、傀儡(くぐつ)はもう終わりか」
江津は不気味に笑い、念を発動した。
「ぐ・・・あ・・あ・・ご・・・・江津様・・お助けを・・・俺を見捨てないで・・・・・・」
信茂の体は深い闇に覆われ、屍に変化していった。
(信長に下ったものの、武田の内通者として処刑され、野心と怨念の強さで蘇らせてやったが、こんな小者はもう用済みだ)
江津は静かに瞼を開き、同時に遠くで苦しみ嘆いている信茂を屍と化させた。モトスたちはその光景を見て驚いていた。
「・・・どうやら、操っていた死霊使いに遠くから消されたようだね」
湘は無残に骨と化した信茂を哀れに見据えていた。
「この者は結局、信長にも梅雪にも捨てられたのだな・・・」
モトスは彼の裏切りを許さずにいたが、土に埋めて、花を添えた。
「でも、これで勝頼様の無念も晴らせたし、生きている僧兵と精霊も正気に戻るな・・・って!!本物の寅時を探さなくては!!」
球磨が寅時を思い出したが、森の奥から小精霊や精霊戦士が1人の僧兵を連れてきた。どうやら、本物の寅時のようだ。寅時は皆に礼を言った。
「そなたたちが私を探しに来てくれたのか?偵察中に森に迷い込んでいたら、小さい森精霊たちが保護してくれたのだよ。大人の精霊は術に操られていたみたいだが、小精霊には影響が無かったみたいだ」
寅時は爽やかな笑顔で3人に説明をした。
「外に出たら危ないとオラたちが止めていたじゅら」
「久遠寺の僧兵に化けていたのは信茂って奴だったじゅら」
小精霊たちも3人の手や肩に乗り、説明していた。
「そうか。お前たち皆で寅時を護ってくれて、感謝する。小さい守護者だな」
モトスは優しく小精霊の頭を撫でたり、指で握手をした。
「さて、戻ろうか。法主さんが待っているぜ。あと、愛しの奥さんと娘さんもな!!」
球磨がニヤッと笑いながら言うと、寅時は赤面した。そして皆で笑った。
早朝になり、下部温泉に戻ると
「父ちゃんが帰って来たずらー!!!!!」
「お前さん・・・よく無事で。モトスさん、皆さん。こんなに早く助けてくださり・・・本当にありがとうございます!!!!」
寅時はささ子を抱っこし、多香は嬉し涙を流しながら、3人に礼を言った。球磨は親子愛に涙を流し、湘はそんな男に呆れていながらも笑っていた。モトスも親子に優しい笑顔を浮かべていた。そして、湘と球磨に真剣な瞳で語りかけた。
「・・・球磨はなぜ協力してくれるのだ?正直、礼を出来る品も報酬も何もない・・・」
「モトスさん・・・確かに俺は世間に出て一儲けしたい傭兵ではあるが、金や報酬に変えられないほどの依頼を受けちまってよ。勝頼様の奥さんと子を助ける任をな」
「それは、双葉殿の事かね。私も奥方を救う任を、兄の氏政殿から引き受けたのだよ。目的は一緒ということか」
「それだけじゃねーよ。甲斐の国に行けと何かに導かれた気がするんだ。・・・モトスさんの風と、もう1つ強大な龍の力に」
「さすがは戦闘民族。戦が俺を呼んでいるという思考か」
湘が少し皮肉を言うと、球磨は怒りだした。
「何だとー!!!!若作り優男!!!!」
2人は口喧嘩になったが、モトスは2人の間に入り、笑顔で礼を言った。
「・・・2人共。共に戦ってくれて感謝する」
湘と球磨は喧嘩を止め、互いに顔を合わせて笑った。
「絶対に穴山梅雪の手から甲斐を護ろうな!!!」
「双葉殿も息子の玄杜殿も絶対に助けるぞ!!」
「そして、勝頼様と武田家の無念を晴らす!!」
3人は近くに見える富士山と昇る朝日に向かって誓った。
第4話 完