このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第3章 異説小田原征伐  蘇りし海の亡霊と海神伝説

夜、乙女峠麓の宿で、4人は休息した。モトスは宿場町で、北条軍や海洋族の情報を得るために、巫女服姿で峠を行き交う人々に声をかけた。北条兵らしき男達に色仕掛けで聞いてみようと近づいた時、誰かに腕を引っ張られたので、懐に隠しているクナイで攻撃しようとしたが、青紫色の髪のキザな男に抱きしめられた。
「巫女のセニョリータ、夜遅くに男を誘っているのかい?美しい君には、あんな野蛮な兵士よりも、高貴なボクが相応しいと思うよ?」
モトスは、男の姿と匂いを嗅ぐと、海洋族だと即見破った。
(この者は、海の香りがする。海洋族の者だな)
モトスは情報を聞くため、艶やかな笑みを浮かべ、彼に近づいた。すると、男は女装したおじさんだと気づかぬまま、デレデレとした顔でモトスに誘われた。
「セニョリータは神秘的な香りがするね。まるでマリポーサ(スペイン語で蝶々)いいや、美しきニンファ(妖精)のようだ。申し遅れたねぇ、ボクの名前は『五十鈴』。海洋族一の美男子に、伊勢の貴公子とも呼ばれている。ここで出会ったのも何かの縁だ、この辺りで1番良い飲み屋に行こう。ボクが奢るからさ」
「はぁ・・・。わたくしは渡り巫女をしている、『さい子』ですわ。旅の途中で退屈だったから宿を抜け出しましたの」
モトスは偽名を名乗り、優しく五十鈴に笑いかけ、情報を得るために共に店に向かった。
(この者は、随分と軽薄でお喋りだな。それに、意味の分からぬ言葉を使う・・・)


モトスと五十鈴は、飲み屋で酒を飲み交わし、談笑していた。モトスは五十鈴のお猪口に酒を注ぎ、酔ったところを狙い捕らえようとした。
「ふふ、良い飲みっぷりですわね、五十鈴様」
「気持ち良いお酒が1番だよ、セニョリータ。君も、これから小田原で戦が起きるのに、鎌倉へ行くのは正直、危機だよー」
「心配してくれるのは嬉しいのですが、だからこそ、わたくし達は故郷の鎌倉へ戻りたいのです」
「それじゃあ、ボクの術で君を美しい人魚にしてあげようか。それなら、海洋族が君を守ってくれるよ」
モトスは、彼の術が気になり、上手く聞こうとした。
「あらまぁ、五十鈴様たら、人魚だなんて御伽話みたいですわね」
「その、御伽話が本当になるよ。なんてったって、ボクはあらゆる種族を海洋生物にする術を完成させて、追放されたのだから」
五十鈴は一瞬、酔いが覚めた顔をして言った。モトスは顔が青ざめたが平常心を持ち、指輪に仕込んだ麻痺針で彼の手を刺そうとしたが、突然、赤い髪の大男が来店し、再び酔い潰れた五十鈴を持ち上げた。
「貴様は!!こんな所で遊んでいたのか!!氏政様と真鶴がお前を探していたぞ!!」
「うーん、亘くん?ボクはこの巫女セニョリータを人魚にして、彼女にしたい・・スヤスヤ・・・」
「相当飲んでたな・・こいつの相手をさせてしまい、すまなかったな」
亘は、モトスに謝った直後、耳元で囁いた。
「だが、聞き込み残念だったな。貴様が巫女に化けたオヤジだと分かっている。さしずめ、甲斐の森精霊だな。五十鈴が知ったら泣くだろうな」
「ほう、俺の女装を見破るとは貴様出来るな。そこで寝ている色ボケとは違うようだな」
モトスはクナイを取り出そうとしたが、客の多い店で戦うわけにはいかないので、一旦外に出た。


モトスと亘は、人気の無い林の中で対峙していた。
「貴様らが海洋族の追放者か?」
モトスは睨みをきかせた顔をしながら、亘の強さを分析していた。桜龍に彼の強さを聞いたところ、ただの海洋族ではなく、別の種族が混血しているとモトスも見破っていた。
「お主は球磨という男と同じ香りがする。日ノ本を護る勇士とやらか?」
「球磨と戦ったのか?まさか、殺したのか!!」
モトスは球磨の身を案じ、クナイと手裏剣を構え、攻撃態勢に入ったが亘に否定された。
「安心しろ、殺してはいない。むしろ、拙者が撤退した位だ。あの男とはまた一戦交えたいと思ってな」
「そうか。相当の自信を持っているな、貴様らは」
「お主らがいくら足掻こうが、いすみを失った今、我が海洋族の力に勝る者はない。では、拙者達はここで失礼する」
亘は五十鈴を肩に抱き上げ、その場を後にした。
「うーん・・セニョリータさい子ちゅあーん。海へお持ち帰りしちゃうぞ・・・むにゃむにゃ」
五十鈴の寝言に、亘は呆れ果てながら夜の闇に消えた。
モトスは追いかける事なく、いずみ達が待つ宿に戻った。宿の前で、千里が飼っているフクロウの八千穂がモトスの肩の上に乗っかってきた。文を加えていたので、読んでみた。

(上州で、海洋族のアナンと戦いましたが、決着はつきませんでした。奴は松井田城を放棄し、小田原へ向かったので追います。憶測ですが、北条は海洋族を使い、小田原で豊臣軍と決着を付けようとしていると思います)

「小田原は海に面し、海洋族も動きやすい。五十鈴の全種族を海洋生物にするという術も危険だな・・・」
モトスは八千穂に癒しの術をかけ、皆が休む部屋に戻り、五十鈴と亘に会ったと話した。
20/66ページ
スキ