第3章 異説小田原征伐 蘇りし海の亡霊と海神伝説
アナンが上野国、松井田城(群馬県碓氷峠麓)に行く数日前。相模国東部、三浦半島浦賀でアナンは真鶴と共に、浦賀城の城主と海洋族の兵を交え軍議をした。長い軍議が終わった後、アナンは城の高台から江戸中海(現東京湾)を眺めていた。
「この辺りも随分と開発されてるな。昔の関東は未開の地だったのによ。あの一族が存在していなかったら、今でも平家の時代が続いて、徳子と安徳天皇も親子仲良く過ごしていただろうな・・・」
アナンは、十二単の高貴な女性と、幼い皇族の少年との親子仲の良い姿を思い出していた。
「いっけね!!感傷に浸っているとは、俺らしくねーぜ」
アナンは過去の事を思い出すのを止め、目的を果たしに行こうと、海に飛び込もうとした時、真鶴に呼び止められた。
「上州の松井田城に向かうのか?あそこは北方から攻めて来る軍勢が多いから気をつけてくれ」
心配性な真鶴の言葉に、アナンは自信満々に笑いかけた。
「言われなくても分かってら!!俺は海亀の化身で、のんびりしてると思われがちだが、泳ぐのも闘うのも素早いんだぜ」
真鶴は、『確かにそうだな』と、彼の血気盛んな様子を見て納得していた。そんなアナンは、江戸中海を泳ぎ、大河荒川から上州へ入ろうと考えていた。
「しかし何故、自ら山間部の北へ向かう事にしたのだ?お前なら海から攻める事も・・・」
「ああ、ちょいと昔、北関東の集落に世話になってよ。だから地理が割と詳しいんだわ。あと、俺にはなぁ、風を読む能力があってな、過去に戦った因縁の相手がそこに近づいている感じがすんだよ」
「いすみの他にも憎む相手が居るのか?」
「憎んでる・・とは少し違うな。俺は、敵に憎しみを持つよりも、そいつに勝てなかった自分を戒める主義でな。無敗と思っているだろうが、俺だって勝てない奴がいる。いすみと、人間や他種族の力を越えた、造られし戦士には勝てなかった・・・」
真鶴は、造られた戦士とは何だろう?と疑問に思ったが、とりあえず触れないでおこうと思った。
「根っからの暴れん坊だな。アナンは。でも、次は勝てるようにと日々鍛錬をしているのだな」
「暴れん坊は余計だ。五十鈴の野郎によく、『女に言い寄られない』だの『女と逢い引きしたことないだろう』とか好き勝手言われるが、俺だって、好きになった女と護りたかったガキがいる」
「お前も所帯を持って子供も居たのか?」
「いや、身分差と種族の違いで、夫婦にはなれなかったが、そんな関係じゃ無くても、俺はあの親子を護りたいと思っていた・・・」
真鶴は、彼の切なそうな顔を見て、話を続けられなかった。アナンは、直ぐに笑い返し言葉を続けた。
「ったく、白けちまったじゃねーか。俺はもう行くから、真鶴もしっかり北条と海洋族をまとめるんだぞ!!大将なんだからさ」
「亘と五十鈴も頑張っているから、俺も役目を果たさないとな」
「亘は小姑みたいで口うるさくて、五十鈴はいい歳こいて色ボケ野郎だけどさ、二人とも頼りになるから、真鶴を支えてくれるぜ。あと・・」
アナンは口ごもりながら話を続けた。
「俺が言える立場じゃねーが、真鶴は俺みたいに、自暴自棄になっちゃ駄目だぜ。役目を果たしたら、宮殿の離れに居る凪沙に会いに行くんだろう。息子の湘も連れてな!!」
アナンは静かに笑いながら、真鶴が返答する前に海に飛び込んだ。数秒でアナンの姿が見えなくなった後、クリクリが真鶴の懐から顔を出した。
「アナンは、平清盛の娘、徳子とその息子の安徳天皇と親交があったらしいクリよ。きっと、身分と種族の違いで、いすみは3人を引き離したのかもしれないクリねー」
「アナンも、悲恋を経験したのだな・・・。俺よりもずっと長生きだし、大人だな」
「・・家族じゃなくても、家族のように暖かい父親が少し羨ましいクリ・・・」
「クリクリは家族が居なかったのか?それなら、俺が父親になるよ。湘も弟が出来たら嬉しいだろうしな」
「・・・お断りだクリ!!それに、湘よりおらの方がずっと長生きクリ!!」
クリクリは真鶴の手の平から離れ、『海の大好物を食べてくるクリ!!』と怒りながら海に飛び込んだ。真鶴はやれやれと、笑いながら海を眺めた。
(おらは・・・あんな奴が父親なんて忌々しいクリ!!今すぐにでも消し去ってやりたいクリ!!)
クリクリは、深い海の中で微生物を食べながら、自分の父親に憎しみを感じていた。
「この辺りも随分と開発されてるな。昔の関東は未開の地だったのによ。あの一族が存在していなかったら、今でも平家の時代が続いて、徳子と安徳天皇も親子仲良く過ごしていただろうな・・・」
アナンは、十二単の高貴な女性と、幼い皇族の少年との親子仲の良い姿を思い出していた。
「いっけね!!感傷に浸っているとは、俺らしくねーぜ」
アナンは過去の事を思い出すのを止め、目的を果たしに行こうと、海に飛び込もうとした時、真鶴に呼び止められた。
「上州の松井田城に向かうのか?あそこは北方から攻めて来る軍勢が多いから気をつけてくれ」
心配性な真鶴の言葉に、アナンは自信満々に笑いかけた。
「言われなくても分かってら!!俺は海亀の化身で、のんびりしてると思われがちだが、泳ぐのも闘うのも素早いんだぜ」
真鶴は、『確かにそうだな』と、彼の血気盛んな様子を見て納得していた。そんなアナンは、江戸中海を泳ぎ、大河荒川から上州へ入ろうと考えていた。
「しかし何故、自ら山間部の北へ向かう事にしたのだ?お前なら海から攻める事も・・・」
「ああ、ちょいと昔、北関東の集落に世話になってよ。だから地理が割と詳しいんだわ。あと、俺にはなぁ、風を読む能力があってな、過去に戦った因縁の相手がそこに近づいている感じがすんだよ」
「いすみの他にも憎む相手が居るのか?」
「憎んでる・・とは少し違うな。俺は、敵に憎しみを持つよりも、そいつに勝てなかった自分を戒める主義でな。無敗と思っているだろうが、俺だって勝てない奴がいる。いすみと、人間や他種族の力を越えた、造られし戦士には勝てなかった・・・」
真鶴は、造られた戦士とは何だろう?と疑問に思ったが、とりあえず触れないでおこうと思った。
「根っからの暴れん坊だな。アナンは。でも、次は勝てるようにと日々鍛錬をしているのだな」
「暴れん坊は余計だ。五十鈴の野郎によく、『女に言い寄られない』だの『女と逢い引きしたことないだろう』とか好き勝手言われるが、俺だって、好きになった女と護りたかったガキがいる」
「お前も所帯を持って子供も居たのか?」
「いや、身分差と種族の違いで、夫婦にはなれなかったが、そんな関係じゃ無くても、俺はあの親子を護りたいと思っていた・・・」
真鶴は、彼の切なそうな顔を見て、話を続けられなかった。アナンは、直ぐに笑い返し言葉を続けた。
「ったく、白けちまったじゃねーか。俺はもう行くから、真鶴もしっかり北条と海洋族をまとめるんだぞ!!大将なんだからさ」
「亘と五十鈴も頑張っているから、俺も役目を果たさないとな」
「亘は小姑みたいで口うるさくて、五十鈴はいい歳こいて色ボケ野郎だけどさ、二人とも頼りになるから、真鶴を支えてくれるぜ。あと・・」
アナンは口ごもりながら話を続けた。
「俺が言える立場じゃねーが、真鶴は俺みたいに、自暴自棄になっちゃ駄目だぜ。役目を果たしたら、宮殿の離れに居る凪沙に会いに行くんだろう。息子の湘も連れてな!!」
アナンは静かに笑いながら、真鶴が返答する前に海に飛び込んだ。数秒でアナンの姿が見えなくなった後、クリクリが真鶴の懐から顔を出した。
「アナンは、平清盛の娘、徳子とその息子の安徳天皇と親交があったらしいクリよ。きっと、身分と種族の違いで、いすみは3人を引き離したのかもしれないクリねー」
「アナンも、悲恋を経験したのだな・・・。俺よりもずっと長生きだし、大人だな」
「・・家族じゃなくても、家族のように暖かい父親が少し羨ましいクリ・・・」
「クリクリは家族が居なかったのか?それなら、俺が父親になるよ。湘も弟が出来たら嬉しいだろうしな」
「・・・お断りだクリ!!それに、湘よりおらの方がずっと長生きクリ!!」
クリクリは真鶴の手の平から離れ、『海の大好物を食べてくるクリ!!』と怒りながら海に飛び込んだ。真鶴はやれやれと、笑いながら海を眺めた。
(おらは・・・あんな奴が父親なんて忌々しいクリ!!今すぐにでも消し去ってやりたいクリ!!)
クリクリは、深い海の中で微生物を食べながら、自分の父親に憎しみを感じていた。