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第3章 異説小田原征伐  蘇りし海の亡霊と海神伝説

その頃、真田家に仕える千里は、上野国碓氷峠の近くにある『松井田(まついだ)城』付近の街道の偵察をしていた。この城は、中山道を通る、北関東の交通の要であるので、忍びが行商人に化けて紛れ込んだり、他地域から援軍が来ないかと辺りを慎重に見回していた。
(北条も優秀な忍びや軍師が揃っています。大名と民との結束力も堅いので、あらゆる手段を使ってくると思います)
現在、加賀国の大名『前田利家』と越後国の大名『上杉景勝』、そして、信濃国上田の領主『真田昌幸』率いる軍勢が、北条領の松井田城を攻めていた。しかし、利家達の軍勢に比べると、歴然の差と言われるほど兵数は少ないにも関わらず、城は中々堕ちなかった。千里は湘から聞いたことがあり、北条家は大名、家臣、民達の団結力が強い領地だから、そう簡単には落とせない事に納得していた。千里は、兵士だけでは無く、百姓や民達も、火縄銃や槍を持って戦っているのかと複雑な顔をしていた。その時、この地に近い、奇岩が連なる妙義山から、天狗の面を着けた白装束の青年が、白い羽を羽ばたかせ、ゆったりと下降してきた。
「ったくよ!!下界が騒々しいと思ったら、これから戦が起きんのかよー」
千里は一瞬、袖に隠してある小刀を取り出そうとしたが、青みがかった黒髪の山伏の青年の顔と姿に見覚えがあった。
「あなたは・・・僕を浅間山に封印した、飛天族(ひてんぞく)の者ですか?」

平安末期、千里は義経や弁慶達と奥州へ逃げた時、厳美(げんび)率いる魔改造戦士の策略で、捕われてしまった。科学者の大芹(おおぜり)に用済みとして始末される寸前を、飛天族と土竜族(どりゅうぞく)の長に助けられた。その後は、彼らの秘術で戦国の世まで封印された。
千里は男に問うたが、男はきょとんとした顔をし首を横にかしげた。
「うーん・・・大昔の事は忘れちまったなぁ-。確かそんな事もあったような・・・・」
「大昔といっても、平安末期なので、四百年位前ですよ・・・・」
千里は、男は忘れた振りをしているのか、単にどうでも良いことは忘れる性格なのかと、呆れながら思った。
「おお!!思い出したぜい!!源氏の鬼神、千里か?あん時は、魔改造戦士共からお前さんを救出すんのに、手こずったぜ」
(はぁ・・僕はこんな間の抜けた人に助けられ、封印されてたのですね・・・)
『あ!!でも、お前さんを封印したのは、土竜族の王だぜ。俺は、魔改造戦士とやらに始末されるところを助けただけだ』
男は照れながら正直に言った。すると、上空から千里の飼っているメスフクロウ『八千穂』が文を口に加え、千里の肩に舞い降りた。千里はモトスからの文を読んだ。

(海洋族同士で反乱があり、海王神いすみ殿が追放された。今、いすみ殿は桜龍と共に、森精霊の里で保護している。反乱の首謀者は、湘の父、真鶴のようだ。俺といすみ殿と側近の常葉と桜龍は小田原へ向かう。千里も昌幸達と共に気をつけてくれ)

千里が少し眉間にしわを寄せ読んでいると、男は『何だぁ?』と横から文を読んだ。すると、男は驚いた顔をした。
「嘘だろ!?信じらんねぇ、あのいすみちゃんが王座を下されただと?」
「え?いすみ殿と知り合いなのですか?」
「知り合いも何も、いすみちゃんとは昔から反りが合わなくてなー。土竜族の王もそうだが、あの2人は頑固者だからしょうがない。特に、海洋族と土竜族は、昔起きたいざこざで、今でも険悪だからな-。何でも、互いの種族に恋愛関係があったのが原因って噂だぜ」
男は笑いながら説明した。千里は、彼の話し方から2種族への憎しみは無いことが分かった。
「貴方達は、仲が良く無くても互いを滅ぼす考えはしてないようですね」
「まーな。性格も考え方も合わないだけで、陰から日ノ本を護るって志しは共通してるからな。これでも俺達は古代から空と海と大地の三傑と呼ばれているんだぜ」
男はニヤッと千里に笑いかけた。
「そういやぁ、名をまだ名乗っていなかったな。俺は秩父飛天族の長、蕨(わらび)だ!!またの名を、白天狗とも呼ばれている。いすみちゃんが海王じゃなきゃ、調子狂うからなぁー」
蕨は美しい白い羽を出現させ、自分も協力すると宣言した。


                                                     第3話 完
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