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第3章 異説小田原征伐  蘇りし海の亡霊と海神伝説

数日後、九州一の傭兵と呼ばれる球磨は、駿河湾で、貨物船の護衛をしていた。船内には伊豆半島に陣を構える豊臣軍や長宗我部軍に届けるための、武器や食料が入っていた。球磨は、海賊が出ないか甲板で小型の望遠鏡を覗きながら辺りを見回していた。
「この時期は大戦の準備で、兵を海の治安に回せないから、海賊達がのさばってそうだが、意外と海が静かだな」
球磨は平和で良いことだと頷き、日本三大松原の1つ『三保の松原』から、美しい富士を眺めた。
「モトスのダンナや白州に怒られるかもしれねーが、駿河湾から見る富士も絶景だな」
球磨がのんびりと富士を眺めていると、海中から海洋族の集団が見えた。すると、秀吉の家臣が海洋族に手を振った。
「いやぁー球磨さん、ここだけの話なんですが、海洋族を仲介係として、豊臣家と里見家に情報や物資を渡してもらっていましてねぇー。おかげで、北条攻めを効率よく進めることが出来そうですよ」
「そうなのか・・・」
球磨は、確か海洋族は必要以上に人間や他種族とは関わりを持たないはずだと不思議に思っていた。家臣は、いったん船を止めて、海洋族に物資を送ってもらうと、船員達に言おうとした時、帆船に雷が落ちた。球磨は、こいつは海洋族が放った者だと察知し、西洋槍を装備した。海洋族は船に向かって跳び上がり、尾から二本足に変化させ、武器を向けた。
「この挨拶じゃあ、素直に物資を運ぶって感じじゃねーな。強奪する種族ではないと思っていたが、どういうつもりだ!!」
「我々は、豊臣では無く北条家に付くことにしたのでな。だから、物資は北条家に持って行く!!」
「な!?突然何を言い出すのだ海洋族!!小田原攻めに協力し、太平の世を築くのに協力してくれるのでは無かったのか?」
海洋族は問答無用と言い、家臣達に襲いかかった。球磨は海洋族の剣を受け止め、家臣達に申した。
「こいつらの相手は俺が引き受ける!!家臣の皆は、船員に陸に進めと言ってくれ!!海上で戦うのは不利だし危険だ!!」
球磨は次々と海洋族の剣や槍さばきを交わし、受け止め、船を壊さぬよう上手く戦った。西洋槍に炎をまとい、一気に吹き飛ばした。
「こいつ・・・人間にしては強すぎる!?真鶴様は、危険と感じたら逃げろと言っていたから、皆、ここは引き下がるぞ!!」
戦意を喪失した海洋族は海の中に飛び込んだ。球磨は逃げ遅れた海洋族を捕まえ、羽交い締めにし、尋問した。
「何を企んでいやがる!!これは海王神の命令でやってんのか?」
球磨は相手の腕を強く締め付けると、観念したのか白状した。
「う・・・新しい海王神の命により、豊臣の妨害をしていたのだ」
「新しい海王神だと?そんじゃあ、いすみ殿は・・・?」
球磨が男に問い詰めようとした時、帆柱の上から殺気を感じ、直ぐに男を離し、落下する敵の斧を受け止め渾身の一撃で払いのけた。その風圧で、赤い髪の大男は飛ばされそうになったが、直ぐに体勢を整え、球磨の力強さに感心していた。球磨は矛先を亘に向けた。
「不意打ちとは挨拶が成っちゃいねーな。てめぇも海洋族か?」
「突然乱入し申し訳ない。だが、これ以上、仲間を傷つけられるのも困るのでな」
球磨は敵の様子をうかがうと、海洋族とはまた違う種族の血が混ざっていると不思議に思った。また、不意打ちした事を謝ったことや、仲間想いなところから、根っからの武人肌で悪人では無いと感じ取った。
(こいつは、さっき戦った海洋族とはどこか違う雰囲気を漂わせるぜ・・・見た感じ、血が通っているから、魔改造戦士ではなさそうだな)
「拙者は、新しき海王神の腹心『亘(わたり)』。お主はただの用心棒では無さそうだな」
「俺は、肥後の九州男児『球磨(きゅうま)』。傭兵業で各地を旅してんだぜ!」
亘は球磨の姿を見て、ただの人間では無いなと見破っていた。
「お主はまるで炎の神のようだな。まだ若いのに、多くの修羅場を乗り越えたのだな」
「それはどうも。あんたは『海の漢』以外にも、土や岩石の風にも見えるな。もしかして、海洋族と別の種族が混合しているのか?」
「それ以上の戯言はそこまでだ!!小僧!!」
亘は再び斧を振り上げ、球磨に襲いかかった。球磨は亘の大振り且つ隙の無い斧技を避け続けた。帆柱まで誘うように逃げ、亘が斧を振り上げようとした時、球磨は手から炎弾を出現させ、帆の上部分を燃やし、亘の頭上に帆布を落とした。亘は炎上する帆布の中に囚われた。
「この船を燃やすわけにはいかないんでね。お前らの目的を教えてくれりゃあ、直ぐに火を消してやるぜ!!」
「この程度の炎で拙者の力を侮っては成らぬぞ!!」
亘は、船内を揺るがす強大な気を放ち、帆布を吹き飛ばした。球磨は直ぐに攻撃態勢に入り、無防備な亘に体当たりした。そして、彼の太い腕を掴み、背負い投げで、船の外に投げ飛ばそうとしたが、背中を膝で蹴られ、掴みが弱まり、逆に亘に腰を持ち上げられ、後方に反り投げられた。球磨は舟床に頭を打ち、立ち上がれなかった。
「う・・くっそぉ・・・・」
しかし、亘はとどめを刺すことなく、貨物庫へ向かおうとした。
「待ちやがれ!!何故とどめを刺さない?」
「拙者の目的は、荷物を北条家に渡すだけだ。無用な殺しはしない。それが、海王神真鶴の願いでもあるから」
(真鶴ってまさか・・・湘の親父さんの名前!?)
球磨は偶然か?と疑問に思ったが、今は荷物を護ることに専念せねばと、素早く起き上がり、船内の扉の前に立ちはだかった。
「負けは認めるが、荷物は豊臣家の物だから、強奪は阻止させてもらうぜ!!」
「やれやれ、お主はなかなか頑丈だな。それに免じ、今日のところは引き下がってやる。荷物を奪えなかったところで、戦局は変わらぬしな」
亘は不敵な笑みを浮かべ、球磨を軽くあしらった。
「その真鶴って奴はまさか、湘の親父さんか?数十年前に亡くなったと聞いたんだが・・・」
球磨が真鶴について問いただすと、亘は一瞬、ばつが悪そうな顔をしたが、直ぐに平常心に戻った。
「真鶴がどのようにして蘇ったのかは関係の無いことだ。真鶴は、この戦を少しでも犠牲を出さないように終わらせ、理想郷を創ると意気込んでいた」
球磨は、亘の言葉に違和感を持った。
(犠牲を出さないって、考えが読めねぇな・・・)
「お主は、湘を知っているようだが、あの者も、我々に協力すると言っていたぞ」
球磨は信じ難い話を聞き、黙り込んでしまい、これ以上言葉が出なかった。
「では、拙者はこの場を去る。球磨とか言ったか。また一戦交えるようになるだろうから、覚えておく」
亘は海に飛び込み、小田原城へ向かった。その時丁度、貨物船は沼津沖に着き、修善寺で陣を構えている豊臣軍に物資を渡した。夜になり、球磨は星空の下、温泉に浸かりながら思い悩んでいた。
「湘とは敵同士になるのか・・・?」
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