このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第3章 異説小田原征伐  蘇りし海の亡霊と海神伝説

小田原城の庭園は、小滝の流れる池を中心に、松の木が覆い茂っていた。真鶴は、突然、緊張が解けたのか、池の前でどっと疲れが出たのか、深呼吸をした。
「す・・凄い緊張した!!・・・あんなお偉いさんと話すの初めてだし、突然斬りかかられるかと思ったぜ・・・・」
「せっかく格好良く決まっていたのに、へたれたから90点から70点に下げるクリ!!」
真鶴の懐に入っていたクリクリは、ぼそぼそと文句を垂らしていた。
「お偉いさんて・・・元海王神いすみにはあんな強気な態度で追放できたんだから、それに比べれば氏政なんて大したことないじゃねーか」
アナンは真鶴に笑いかけながら励ました。続いて五十鈴も彼を元気づけさせた。
「ボクとしては中々良かったよ、アミーゴー真鶴。あの中にセニョリータが居たら、骨抜きに出来たと思うよ」
「はは・・・骨抜きか・・こんな姿、凪沙に見られたら引かれてしまうな・・・」
真鶴は肩を落としていると、亘が活を入れた。
「自信を持て!!真鶴!!こんなへたれた姿を、息子が見たらガッカリするだろう。現にお前は、いすみに強く出られたのだし、先程も、お主の言葉で氏政に同盟の誘いを言えたではないか!!」
亘の言葉に、真鶴は思い返し『そうだったな』と立ち上がった。その時、後ろから懐かしい声を聞いた。
「と・・父さん・・・・?」
湘が父の姿を見て、呆気にとられながら歩み寄ると、4人とクリクリは、一部始終を見られ、仰天して腰を抜かした。
「し・・湘か?いつからここに居た・・・?」
真鶴は冷や汗をかきながら恐る恐る湘に聞いた。クリクリは真鶴の懐に隠れた。
「す・・凄い緊張した!!と言った辺りから。つまり、最初からだな」
「って!!いたなら最初から声かけろよ!!」
アナンが怒ると、湘は煩わしい顔で答えた。
「父と君達の言動を見ていたのだよ」
「ふーん、真鶴のイッホ(息子)君もなかなかの色男だねぇ。」
「君は私の美貌を理解しているようだが、男に言われても嬉しくないなー。それにイッホとは何かね?」
「お前達!!くだらないことを言っている場合ではないぞ!!湘だったな。真鶴は新しき海王神となったのだぞ」
亘がため息をつきながら、話を元に戻し真鶴はこれまでの経緯を息子に話した。
「・・・立派な大人になったな、湘。今まで苦労をかけたな。だが俺は、親切なあるお方のお陰で、海洋族として蘇ったのだ。いすみを海王の座から引きずり下ろしたから、無念も果たせた」
「・・・そうだったのか」
「後は、海洋族にも他種族にも優しい理想郷を創るだけだ。それを成しえたら、凪沙に会いに行き、親子で海の世界を築き上げよう!!」
「父さん・・・私は、あなたと共に行く事は・・・」
出来ないと、断ろうとしたとき、庭に氏政がやってきた。
「湘!!息子と家臣団で決めたが、真鶴殿、どうか北条家を救って頂きたい!!」
氏政は真鶴に深く頭を下げた。真鶴は先程の強気な態度とは打って変わり、頭を下げた。
「あ・・いいや、実を言うと、湘は俺の息子なのだ。息子が世話になった、氏政公。先程は挑発した態度を取り、申し訳なかった」
「いやいや、湘の父と聞けば納得だ。しかし・・三浦一族は1代目祖父『早雲』が滅ぼしてしまったが、悔恨はないのか・・・?」
「三浦一族といっても、俺は末裔に過ぎない。三浦一族は生き残った父で終わっているから。むしろ、行く先が無かった湘を受け入れてくれて感謝している位だ」
「そうか・・・では、厚かましいとは思うが、三浦家と海洋族には北条の助けになって欲しい」
氏政は真鶴に握手を求めた。真鶴は快く握手を返した。湘は氏政が決めたことなので反論は出来なかったが、不可解な事ばかりで、父との再会を素直に喜べなかった。
(何故だろう。父に会えた事に喜びを感じられない・・・いすみは一体どうなったのだ・・・?)
湘は目の前に、身を粉にしながらも自分の為に尽くしてくれた父よりも、母と父子を引き離し、父の誇りを侮辱したいすみの身を案じている事に自己嫌悪していた。真鶴は考え込んでいる湘の耳元で優しく囁いた。
「突然の再会に、思い詰めるのも無理はないさ。」
湘は何も言わず、父、真鶴に従うことにした。
14/66ページ
スキ