第3章 異説小田原征伐 蘇りし海の亡霊と海神伝説
関東の房総半島から東に日本海溝があった。深い岩壁に囲まれた溝の奥に、竜宮城のような海洋族の宮殿があった。『王座の間』で海王神いすみは、宮殿の珊瑚を盗んだ同胞の処罰をしていた。
「貴様が、大名家の姫に貢ぎ物をする為に、珊瑚を盗んでいた事など分かっていたぞ!!」
「く・・見破られていたか。だが、俺は姫様を愛している。姫様も当主様も、俺が海洋族だという事を受け入れ、水軍を束ねる大名にしてくれると約束してくれた!!」
人魚の男はいすみに反論したが、首を横に振られ否定された。
「下らぬ・・。人間や他種族とは必要以上に関わるなと、何度も言っている筈だ!!貴様はこの宮殿を出て行くつもりか!!」
男は、いすみを睨み付けながら反抗した。
「ああ!!俺はもう、海王の作った掟などにウンザリしているのだよ!!俺は深海を出て、日ノ本で大名になるのだ!!」
「・・・掟に背くのだな。では、珊瑚はくれてやるが、貴様は二度と深海に戻ってこれぬよう、追放してやる」
いすみは槍から転送術を放ち、男は消えた。この光景を見ていた女性人魚は必死に訴えた。
「彼を追放するなんて、海王様は酷すぎますわ!!私も、人間の男性と恋に落ちました。彼は私が海洋族であることも知ってなお、結ばれたいと言っていました!!・・・なのに、別れの言葉も言わせて貰えず・・酷い」
女性人魚達は『そうよ!!』と彼女の後に続き、いすみに反論した。いすみは、無慈悲な表情で、女達にも槍を向け、技を放とうとしていた。
「無知な小娘共め、海洋族と他種族との恋は双方にも悲劇を生むということも知らずに・・・」
いすみは女達に厳しく説教した。その時、『王座の間』から誰かが入ってきた。
「相変わらず、掟を破ったらセニョリータにも厳しいねぇー、海王神サマは」
軽やかな声の主は、魔術師の五十鈴(いすず)だった。続いて亘(わたり)が女達を護る形で斧を構え、いすみの前に立ちはだかった。
「お前達はもう苦しむことはない。これからは新しい海王神が掟などを無くし、恋愛も自由にすることが出来るぞ!!」
「今のうちに、嬢ちゃん達は宮殿を出ていきな!!いすみの野郎と決着を付けた後、新しい王宮に招いてやるからな!!」
アナンも籠手を光らせながらいすみに拳を向けていた。いすみは、ため息をつきながら彼らを見下していた。
「ほう?貴様らとは、もう何百年も会っていないが、相変わらずの愚者共だな」
「こんなに頑固者だとは思わなかったよ、海王神は。もう老害の時代は終わったのだよ!!これからは、俺達が海洋族達を率いていく」
「久しぶりクリー、元海王いすみサマ♪もう君が王座に座る資格なんてないクリよー」
いすみは後ろを振り向くと、王座には真鶴(まなづる)とクリクリが座っていた。
「貴様は・・・真鶴!?そうか、闇の力で蘇った亡霊か?貴様はそこの闇クリオネに力を授かるほどに墜ちたか!!」
いすみは眉間にしわを寄せ激怒したが、真鶴は鼻であざ笑った。
「墜ちる?厄神の将軍『卑弩羅(ひどら)』様は、俺が海洋族の王に相応しいと、力をくれたのだぞ!!貴様こそ、長年の古いしきたりや掟で同胞を縛り続けたせいで、ついに皆が見放したぞ」
海洋族達は真鶴の横に並び、剣や槍をいすみに向けていた。
「貴様ら・・・海王神であるワレを裏切り、亡霊に付くか!!」
いすみは三又槍から怒りの雷撃を放とうとしたが、五十鈴に術を封じ込められ、さらにクリクリの腹部に付いている瑠璃の宝石の光により、海王神としての力は奪われてしまった。
「く・・・闇クリオネめ・・・ワレが封印したはずなのに、闇の力で蘇ったか・・・・」
「ふふふ、オラも卑弩羅様と邪神『マガツイノカミ様』から力を授かったから、海王の力なんて無力だくりー♪」
「く・・・海洋族の秩序を乱すわけにはいかぬ!!」
「秩序か?支配の間違いではないのか!!下らん掟のせいで、湘と凪沙は離れ離れになったのだぞ!!」
真鶴は物凄い剣幕でいすみに怒り立てた。そして真鶴は、銀の籠手に装飾された紅玉から闇の魔方陣を出現させ、海王神を包み込んだ。いすみは抗おうとしたが、海王の魔力も体力を奪われ、身動きが取れずにいた。
「ワレを・・・殺すのか?貴様らに海の世界を治める覚悟はあるのか!!」
「見ての通り、皆は古き考え方の貴様よりも、新しい海の世界を築こうとする俺に付いてきてくれる。貴様は、もう二度と海の世界へ来られないように遠くへ送ってやる!!」
黒い魔方陣からは紫の不気味な光が放たれ、いすみを宮殿から消し去った。海洋族達が歓声を上げ、真鶴を讃えている中、クリクリは不満そうな顔をして彼に聞いた。
「何で、始末しなかったクリ?」
「いすみには殺す程の憎しみはない。ただ、今まで海の中で悠々自適に過ごしていたんだ、海とは無縁な不毛地帯に飛ばした方が面白いではないかと思ったんだ」
真鶴は皆に祝福され、新しい海王神の座についた。
(この宮殿におそらく、凪沙が居るはずだ。全てが終わったら会いに行こう)
その頃、宮殿の外れに深海魚と海洋植物が美しい光を放つ、小さくも華やかな離宮があった。そこには、真鶴の元妻、『凪沙(なぎさ)』が籠もっていた。
「何なのかしら?この胸騒ぎは・・・いすみ様や宮殿で何かあったのかしら?それに、この気配は・・・真鶴さん?」
凪沙は人魚の足に変化させ、離宮の窓から出ようとした時、何処から入ってきたのか、紫黒色の髪と人魚の足を持つ青年に呼び止められた。
「初めまして。新しい海王神、『真鶴様』の奥方。僕は彼の協力者『ミズチ』と申します」
「海王神・・真鶴とは?どういうことなの!!真鶴さんは亡くなったはず・・・」
「それについては、今は言えませんよ、奥方様。真鶴様が海の世界を統治した後、理想郷をお創りになります。それまで、貴方は何も知らずに眠って貰いますよ」
ミズチの手の平からは黒い龍の紋章が映し出された。凪沙は状況を理解できないまま、逃げることも出来ず、胸に強い衝撃を当てられた。そして、深い眠りについてしまった。
「か弱い女性に手荒な真似をしてしまったが、これも真鶴に憎悪の力を増やすため。これで真鶴も甘い考え方は出来なくなるだろう」
ミズチは優雅な動きで、凪沙を抱え、巨大なハマグリ型の器の中に眠らせた。
「貴様が、大名家の姫に貢ぎ物をする為に、珊瑚を盗んでいた事など分かっていたぞ!!」
「く・・見破られていたか。だが、俺は姫様を愛している。姫様も当主様も、俺が海洋族だという事を受け入れ、水軍を束ねる大名にしてくれると約束してくれた!!」
人魚の男はいすみに反論したが、首を横に振られ否定された。
「下らぬ・・。人間や他種族とは必要以上に関わるなと、何度も言っている筈だ!!貴様はこの宮殿を出て行くつもりか!!」
男は、いすみを睨み付けながら反抗した。
「ああ!!俺はもう、海王の作った掟などにウンザリしているのだよ!!俺は深海を出て、日ノ本で大名になるのだ!!」
「・・・掟に背くのだな。では、珊瑚はくれてやるが、貴様は二度と深海に戻ってこれぬよう、追放してやる」
いすみは槍から転送術を放ち、男は消えた。この光景を見ていた女性人魚は必死に訴えた。
「彼を追放するなんて、海王様は酷すぎますわ!!私も、人間の男性と恋に落ちました。彼は私が海洋族であることも知ってなお、結ばれたいと言っていました!!・・・なのに、別れの言葉も言わせて貰えず・・酷い」
女性人魚達は『そうよ!!』と彼女の後に続き、いすみに反論した。いすみは、無慈悲な表情で、女達にも槍を向け、技を放とうとしていた。
「無知な小娘共め、海洋族と他種族との恋は双方にも悲劇を生むということも知らずに・・・」
いすみは女達に厳しく説教した。その時、『王座の間』から誰かが入ってきた。
「相変わらず、掟を破ったらセニョリータにも厳しいねぇー、海王神サマは」
軽やかな声の主は、魔術師の五十鈴(いすず)だった。続いて亘(わたり)が女達を護る形で斧を構え、いすみの前に立ちはだかった。
「お前達はもう苦しむことはない。これからは新しい海王神が掟などを無くし、恋愛も自由にすることが出来るぞ!!」
「今のうちに、嬢ちゃん達は宮殿を出ていきな!!いすみの野郎と決着を付けた後、新しい王宮に招いてやるからな!!」
アナンも籠手を光らせながらいすみに拳を向けていた。いすみは、ため息をつきながら彼らを見下していた。
「ほう?貴様らとは、もう何百年も会っていないが、相変わらずの愚者共だな」
「こんなに頑固者だとは思わなかったよ、海王神は。もう老害の時代は終わったのだよ!!これからは、俺達が海洋族達を率いていく」
「久しぶりクリー、元海王いすみサマ♪もう君が王座に座る資格なんてないクリよー」
いすみは後ろを振り向くと、王座には真鶴(まなづる)とクリクリが座っていた。
「貴様は・・・真鶴!?そうか、闇の力で蘇った亡霊か?貴様はそこの闇クリオネに力を授かるほどに墜ちたか!!」
いすみは眉間にしわを寄せ激怒したが、真鶴は鼻であざ笑った。
「墜ちる?厄神の将軍『卑弩羅(ひどら)』様は、俺が海洋族の王に相応しいと、力をくれたのだぞ!!貴様こそ、長年の古いしきたりや掟で同胞を縛り続けたせいで、ついに皆が見放したぞ」
海洋族達は真鶴の横に並び、剣や槍をいすみに向けていた。
「貴様ら・・・海王神であるワレを裏切り、亡霊に付くか!!」
いすみは三又槍から怒りの雷撃を放とうとしたが、五十鈴に術を封じ込められ、さらにクリクリの腹部に付いている瑠璃の宝石の光により、海王神としての力は奪われてしまった。
「く・・・闇クリオネめ・・・ワレが封印したはずなのに、闇の力で蘇ったか・・・・」
「ふふふ、オラも卑弩羅様と邪神『マガツイノカミ様』から力を授かったから、海王の力なんて無力だくりー♪」
「く・・・海洋族の秩序を乱すわけにはいかぬ!!」
「秩序か?支配の間違いではないのか!!下らん掟のせいで、湘と凪沙は離れ離れになったのだぞ!!」
真鶴は物凄い剣幕でいすみに怒り立てた。そして真鶴は、銀の籠手に装飾された紅玉から闇の魔方陣を出現させ、海王神を包み込んだ。いすみは抗おうとしたが、海王の魔力も体力を奪われ、身動きが取れずにいた。
「ワレを・・・殺すのか?貴様らに海の世界を治める覚悟はあるのか!!」
「見ての通り、皆は古き考え方の貴様よりも、新しい海の世界を築こうとする俺に付いてきてくれる。貴様は、もう二度と海の世界へ来られないように遠くへ送ってやる!!」
黒い魔方陣からは紫の不気味な光が放たれ、いすみを宮殿から消し去った。海洋族達が歓声を上げ、真鶴を讃えている中、クリクリは不満そうな顔をして彼に聞いた。
「何で、始末しなかったクリ?」
「いすみには殺す程の憎しみはない。ただ、今まで海の中で悠々自適に過ごしていたんだ、海とは無縁な不毛地帯に飛ばした方が面白いではないかと思ったんだ」
真鶴は皆に祝福され、新しい海王神の座についた。
(この宮殿におそらく、凪沙が居るはずだ。全てが終わったら会いに行こう)
その頃、宮殿の外れに深海魚と海洋植物が美しい光を放つ、小さくも華やかな離宮があった。そこには、真鶴の元妻、『凪沙(なぎさ)』が籠もっていた。
「何なのかしら?この胸騒ぎは・・・いすみ様や宮殿で何かあったのかしら?それに、この気配は・・・真鶴さん?」
凪沙は人魚の足に変化させ、離宮の窓から出ようとした時、何処から入ってきたのか、紫黒色の髪と人魚の足を持つ青年に呼び止められた。
「初めまして。新しい海王神、『真鶴様』の奥方。僕は彼の協力者『ミズチ』と申します」
「海王神・・真鶴とは?どういうことなの!!真鶴さんは亡くなったはず・・・」
「それについては、今は言えませんよ、奥方様。真鶴様が海の世界を統治した後、理想郷をお創りになります。それまで、貴方は何も知らずに眠って貰いますよ」
ミズチの手の平からは黒い龍の紋章が映し出された。凪沙は状況を理解できないまま、逃げることも出来ず、胸に強い衝撃を当てられた。そして、深い眠りについてしまった。
「か弱い女性に手荒な真似をしてしまったが、これも真鶴に憎悪の力を増やすため。これで真鶴も甘い考え方は出来なくなるだろう」
ミズチは優雅な動きで、凪沙を抱え、巨大なハマグリ型の器の中に眠らせた。