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第3章 異説小田原征伐  蘇りし海の亡霊と海神伝説

桜龍と常葉は、相模国藤沢の片瀬海岸に面する『江ノ島』の磯道を歩いていた。波しぶきと潮風が薫る磯には、島民が磯釣りや海産物を採取していた。桜龍は、自身が育った山陰の隠岐の島の風景が重なり、懐かしさと穏やかさを感じていた。
「これから戦が始まるとは思えない程平和だなーここは。それにしても、海洋族は島民を巻き込んで何かをしようとしているのか?」
「それは無いと思います。海洋族は元来、他種族に危害を加えるどころか、一切関わろうともしない。島民に迷惑をかけないように、隠れ場の洞窟に集まっているのだと思います」
常葉は同胞の気配と匂いを探ると、磯の先にある巨大な岩壁が怪しいと思った。桜龍もここに何かあるなと目を光らせたが、岩壁は行き止まりだった。
「これは海洋族しか入れない、幻影の術ですね・・・。今、術を解きますね」
常葉は岩壁に手の平を当て、術印を発動させた。すると、岩壁に空洞の道が現れた。海蝕洞窟を2人は警戒しながら進んだ。
桜龍は護符に光を灯らせ、暗く海水の湿り気がある洞窟内を転ばぬように進んだ。
「侵入者を防ぐ罠も無いし、見張りもいない・・・。逆に怖いな」
「海洋族は地下水脈から移動できるから、ここは通らないでしょう。もし、見つかって危なくなったら、直ちに逃げられるようにしておきます」
桜龍は、常葉の力を十分承知しており、強く頷いた。


桜龍と常葉は、洞窟の最奥にたどり着き、広い海水湖が見える所で、数十人の海洋族が湖に集まっている様子を見ていた。すると、湖の奥に直方体の台座が見え、そこには、青緑色の髪の武将の姿の男が現れ、唾をゴクッと飲み込みながら、演説をし始めた。桜龍は、男の姿に見覚えがあった。
(こいつは、何処かで見たことがあるような・・・・)
「・・しょ・・諸君!!よくぞ集まってくれた。我が名は三浦真鶴!!北条家に滅ぼされたが、死の淵から蘇り、この姿となった。・・・・えーっと・・・その次は・・・・」
(真鶴って!?墓石に刻んで合った名前・・・この者まさか、蘇ったのか?)
桜龍は真鶴を警戒し、様子を伺ったが、予想外の事が起き桜龍は目を疑った。
真鶴は頭が真っ白になり、口ごもりながら、少し離れた岩に座っている青紫の髪の男に目で訴えた。
男は慌てて杖を取り出し呪文を唱え、真鶴の足下に光の砂で書いた字を見せた。
「失敬・・・。えーっと・・あみーごー(友)達は、いすみの掟に縛られ、人生を楽しむことが出来ない。そんな掟であみーごーを支配する愚か者に反乱を起こそうではないか」
真鶴はそのまま光の字を読んだのか、棒読みな上、何度か噛んでいた。遠くで聞いていた桜龍は、『あちゃー・・・』と聞いているこっちが不安になると拍子抜けしていた。
「あのおっちゃんが、反乱軍の指導者かー?口ごもるわ、噛むわ、意味の分からない言葉を使うわで、大将としての貫禄が全くと言って良いほど無いぜ」
「しかし、油断は出来ません。さっき真鶴に字を見せていたのが、追放者の一人『五十鈴(いすず)』です。彼は海洋族一の魔術師とも言われ、相手にすると厄介です。」
常葉は、五十鈴が魔法で次から次へと真鶴に演説の文を送っている姿を、指さして説明した。すると、水面から大柄な赤毛の男が現れ、五十鈴の頭を掴み叱った。
「貴様という男は・・・真鶴に助言文を送るなら、スペイン語は止めろ!!」
「だって!!真鶴は少し暗いから、アミーゴー達に明るい印象を持たせたくって!!」
五十鈴はとっさに、真鶴の足下に本音の文字を見せてしまった。
「え・・・湘南のせにょりーた(彼女)と逢い引きの時間だから、早く帰りたい?」
真鶴が素直に文字を読んでしまった。大男は大事なときに!!と怒るが、五十鈴は海洋族の皆に言った。
「このように、いすみに反乱を起こせば、君達も自由に恋愛できるのさ♪」
「今日は逢い引きなんぞ禁止だ!!反乱の作戦で集まっておるのだぞ!!!」
何やら追放者同士が言い争っているのを桜龍は呆気にとられながら見ていたが、常葉は彼の耳元で囁きながら説明した。
「あの大男は『亘(わたり)』です。冷静で思慮深い上に、海洋族一の怪力の持ち主でもあります」
「確かに、あの中ではまともそうだな。それに、良い体しているし、球磨ちゃんと戦ったらどっちが強いやら」
桜龍がニヤニヤと亘の体を見ていると、少し離れた岩壁から叫び声が聞こえた。
「おい!!真鶴が困ってんだろ!!五十鈴も亘も真面目に大将を補助しろ!!!!!」
薄茶色の髪の男が酒を飲み、あぐらをかきながら五十鈴達に文句を言った。桜龍と常葉は忍び足で酔っ払っている彼に近づいた。この隙にと、桜龍は静かに破邪の太刀を抜き、無防備の男の首に当てた。
「昼間っから酒飲んでいる奴が真面目なのかい?飲んだくれのお兄さん♪」
「何だぁーてめぇら?ここは海洋族のたまり場だ!!人間の小僧が来る場所じゃねーんだぞ!!」
男は翡翠の籠手で刀を振り払い、間合いを取り、構えの姿勢に入った。桜龍は男の実力を垣間見て、相当強いと分かったが、酔っ払っている今なら勝てるだろうと思っていた。
「さぁ、教えて貰うぜ!!貴様らが企んでいることを全部。そして九頭竜に関係しているかをな!!」
桜龍は峰打ちで男を倒そうとしたが、常葉が男の事を思い出して、桜龍を止めようとした。しかし時はすでに遅かった。
「九頭竜なんかは知らねーが!!真鶴と俺達の野望は、打倒いすみ!!それだけだ!!!!」
男は桜龍の剣術を軽々と避け、彼の腹部に拳を喰らわせ、海水湖の中心に落とした。真鶴と亘と五十鈴と、周りに居た海洋族は、目を丸くしながら落下した桜龍を見た。
(な・・・!?こいつ・・酔っ払っても隙がねぇ・・・・)
常葉は真上から、桜龍に叫び言った。
「彼は、海洋族一の暴れん坊、『アナン』です!!強さは、いすみ様にも匹敵します!!」
「よお!!常葉じゃねーか♪いすみの野郎の側近を辞めたのかな?それとも俺達の監視か!!」
アナンはいつの間にか、常葉の背後につき、頬に拳を付けて言った。常葉も負けじと、彼の腕を掴み、岩壁に投げ飛ばした。
「わたくしは常にいすみ様に忠義を果たしています!!貴方達のような追放者とは違います!!」
「そうだろうと思ったぜ。そんじゃあ、遠慮なく打ちのめしてやるぜ!!」
アナンと常葉の拳と蹴りの戦いが始まった。真鶴と海洋族達は、洞窟が崩れる!?と慌てふためいていた。
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