第3章 異説小田原征伐 蘇りし海の亡霊と海神伝説
四国、阿波国(現徳島県)の山奥にある、大歩危(おおぼけ)峡に囲まれた、祖谷(いや)の里。この地は、吉野川が急流で、深い森に覆われた『平家の落人』とも言われている。真鶴、亘、五十鈴は今にも壊れそうな吊り橋を慎重に渡っていた。
「ふぅ・・・海洋族なのに、こんな山奥に住むアミーゴーには理解できないなぁ」
「あの者は、お主とは違い、鍛錬に勤しんでいるからな」
亘は五十鈴に皮肉を言うと、真鶴は最後の仲間はどんな者かと尋ねた。
「うーん・・・少し荒々しくて、気難しい戦バカだけど、悪い奴ではないよー」
真鶴は最後に会う仲間もクセがあるだろうと、緊張していた。すると、近くの林から、ドサッ!!と生物が倒れた大きな音が聞こえた。真鶴はビクッと肩をすくませていたが、2人には音の正体が分かっていた。
「はん!!俺様に挑むんなら、もっと強くなってから来やがれってんだ!!」
何と、薄茶色の髪と側頭部には、若草色の小さめなヒレがある純血の海洋族で、細身だが鍛えられた肉体を持つ男性が、巨大な熊を気絶させていた。真鶴はその光景を見て、言葉が出なかった。
「相変わらずだねぇー、アミーゴ『アナン』君。こんな所にこもってないで、祇園で芸妓遊びしないかい?」
「そんな高級遊びしねーよ!!てか、五十鈴と亘、こんな山奥に来るなんて暇なのかー?それとも、何かあったか?」
アナンは3人の元に近づくと、真鶴の存在に気がついて首を横に傾けた。
「お前・・見ない顔だが、その頭のヒレは海洋族か?」
アナンの厳つい表情にも、真鶴は怖じ気づくことなく自己紹介した。
「ああ。話は長くなるが、俺の名は真鶴。元々は人間の船頭だったが、このクリクリから海洋族の力を授かり生まれ変わった、海王神いすみを王座から引きずり下ろそうと考えている」
真鶴の肩に乗っているクリクリはうるうるとした瞳で、アナンにいすみ討伐の協力を頼んだ。
「オラからもお願い。今こそ、いすみへの恨みを晴らそうよ」
アナンは真鶴が頭を下げて懇願する事に、深い意味があると知ったが、彼の覚悟を見極めようと考えた。
「いすみの野郎を王座から引きずり下ろすってなら、相当の覚悟が必要だぜ、真鶴サン。こいつで俺を殴ってみろよ」
アナンは不敵な笑みを浮かべながら、亀の甲羅で出来た拳当てを真鶴に渡した。真鶴は手にしたが、困った顔をした。
「俺はあんたに一切攻撃しねぇ。ただし、避けたり防御はする。だから、遠慮なくかかってきな」
「・・・すまないが、断る」
真鶴は静かに、拳当てをアナンに返した。彼は真鶴の諦めたかのような態度に納得がいかなかった。
「てめぇ、俺を舐めてんのか!!俺を殴れないようじゃ、いすみに勝てねーんだよ!!」
「君の強さは十分分かっている。だが、俺は理由無しに君を殴るなんて出来ない。もし、俺の力を見極めたいのなら、他にも方法があるよ」
真鶴な長弓を持ち、的当て勝負や、流鏑馬なら出来るとアナンに説得した。
「く・・何て甘い考えを持っているんだ・・・弓道とか拳で語れない武道は苦手だぜ」
アナンは真鶴の説得にふて腐れた。亘は、そんな彼を優しくなだめた。
「まぁ、真鶴は海洋族になったばかりで色々と不慣れだ。ここは目的が同じなら、行動を共にしようではないか」
「アミーゴが沢山居れば心強いよー」
「・・・仕方ねーな。だが、俺は甘っちょろいあんたを大将とは認めねーからな!!俺は俺で勝手にやらせてもらうぜ」
アナンは真鶴達に啖呵を切り、先に渓谷を抜け、海へ走っていった。亘と五十鈴は彼の素直ではない態度にやれやれと呆れていた。
数日後、真鶴達は海洋族の宮殿を襲撃する準備をしていた。三浦の砂浜で真鶴は流鏑馬の練習をしていた。亘と五十鈴は真鶴の鍛錬を見守っていた。
「格好いいよー🎵アミーゴー真鶴!!」
「なかなか筋が良くなってきたな、真鶴。あとは、敵にためらわずに撃てるかだな」
2人が真鶴を評価している一方、アナンは砂浜で座りながら椰子の実の汁を飲んでいた。
「っけ、的に入ったからって、敵に当てられなきゃ意味ねーよ」
「全く、アナン君は・・・素直に良くやったと言えないのかい?だからセニョリータに言い寄られないのだよ」
「強くなるのに恋煩悩は捨てているから良いんだよ!!」
五十鈴とアナンが口喧嘩していると、馬から降りた真鶴はアナンに言った
「正直、俺は人間から海洋族に蘇った身だし、船頭だったから、戦いに縁が無かった。だが、これだけは信じてくれ。いすみを王座から引き下ろし、君達が宮殿で暮らせるようにするから」
アナンは真鶴の覚悟の眼差しを見て、ニヤッと笑いかけて言った。
「・・・そう言ったからには有言実行しろよ、大将。カミさんにもう一度会いたいんだろ?」
アナンは顔を伏せながら、真鶴の肩をポンと叩いた。真鶴は顔を紅潮させながら首を横に振った。
「いや・・・別に、凪沙に会いたい気持ちは無い!!皆が、新しい海洋族を治めたいという願いを叶えたいと思っているだけだ!!」
真鶴が恥ずかしげに下を向いていると、亘は彼の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「照れるな照れるな。お主が新しい海洋族の大将だ。海洋族の皆も、お前の優しさに付いていくと思うぞ」
「アミーゴ真鶴なら、下らない掟なんて作らず、自由に恋愛出来るよー🎵」
「・・・仕方ねーな。まだ未熟な大将を俺達で強くしてやるか」
3人は出会って間もないが、強い意志と慈悲深さを持つ真鶴に期待していた。真鶴は皆に、世話になると言い、再び弓術の鍛錬に勤しんだ。クリクリは、計画通りだと、真鶴の肩の上で喜んでいた。
(優しい真鶴が闇に墜ちて、破滅の道に進んでいくのが楽しみだぞー♪)
そして、1589年、時代は小田原征伐を目前としていた。その時期に海洋族の宮殿で、いすみの掟に不満を持つ海洋族が、反乱を起こそうとしていた。
序章 完
「ふぅ・・・海洋族なのに、こんな山奥に住むアミーゴーには理解できないなぁ」
「あの者は、お主とは違い、鍛錬に勤しんでいるからな」
亘は五十鈴に皮肉を言うと、真鶴は最後の仲間はどんな者かと尋ねた。
「うーん・・・少し荒々しくて、気難しい戦バカだけど、悪い奴ではないよー」
真鶴は最後に会う仲間もクセがあるだろうと、緊張していた。すると、近くの林から、ドサッ!!と生物が倒れた大きな音が聞こえた。真鶴はビクッと肩をすくませていたが、2人には音の正体が分かっていた。
「はん!!俺様に挑むんなら、もっと強くなってから来やがれってんだ!!」
何と、薄茶色の髪と側頭部には、若草色の小さめなヒレがある純血の海洋族で、細身だが鍛えられた肉体を持つ男性が、巨大な熊を気絶させていた。真鶴はその光景を見て、言葉が出なかった。
「相変わらずだねぇー、アミーゴ『アナン』君。こんな所にこもってないで、祇園で芸妓遊びしないかい?」
「そんな高級遊びしねーよ!!てか、五十鈴と亘、こんな山奥に来るなんて暇なのかー?それとも、何かあったか?」
アナンは3人の元に近づくと、真鶴の存在に気がついて首を横に傾けた。
「お前・・見ない顔だが、その頭のヒレは海洋族か?」
アナンの厳つい表情にも、真鶴は怖じ気づくことなく自己紹介した。
「ああ。話は長くなるが、俺の名は真鶴。元々は人間の船頭だったが、このクリクリから海洋族の力を授かり生まれ変わった、海王神いすみを王座から引きずり下ろそうと考えている」
真鶴の肩に乗っているクリクリはうるうるとした瞳で、アナンにいすみ討伐の協力を頼んだ。
「オラからもお願い。今こそ、いすみへの恨みを晴らそうよ」
アナンは真鶴が頭を下げて懇願する事に、深い意味があると知ったが、彼の覚悟を見極めようと考えた。
「いすみの野郎を王座から引きずり下ろすってなら、相当の覚悟が必要だぜ、真鶴サン。こいつで俺を殴ってみろよ」
アナンは不敵な笑みを浮かべながら、亀の甲羅で出来た拳当てを真鶴に渡した。真鶴は手にしたが、困った顔をした。
「俺はあんたに一切攻撃しねぇ。ただし、避けたり防御はする。だから、遠慮なくかかってきな」
「・・・すまないが、断る」
真鶴は静かに、拳当てをアナンに返した。彼は真鶴の諦めたかのような態度に納得がいかなかった。
「てめぇ、俺を舐めてんのか!!俺を殴れないようじゃ、いすみに勝てねーんだよ!!」
「君の強さは十分分かっている。だが、俺は理由無しに君を殴るなんて出来ない。もし、俺の力を見極めたいのなら、他にも方法があるよ」
真鶴な長弓を持ち、的当て勝負や、流鏑馬なら出来るとアナンに説得した。
「く・・何て甘い考えを持っているんだ・・・弓道とか拳で語れない武道は苦手だぜ」
アナンは真鶴の説得にふて腐れた。亘は、そんな彼を優しくなだめた。
「まぁ、真鶴は海洋族になったばかりで色々と不慣れだ。ここは目的が同じなら、行動を共にしようではないか」
「アミーゴが沢山居れば心強いよー」
「・・・仕方ねーな。だが、俺は甘っちょろいあんたを大将とは認めねーからな!!俺は俺で勝手にやらせてもらうぜ」
アナンは真鶴達に啖呵を切り、先に渓谷を抜け、海へ走っていった。亘と五十鈴は彼の素直ではない態度にやれやれと呆れていた。
数日後、真鶴達は海洋族の宮殿を襲撃する準備をしていた。三浦の砂浜で真鶴は流鏑馬の練習をしていた。亘と五十鈴は真鶴の鍛錬を見守っていた。
「格好いいよー🎵アミーゴー真鶴!!」
「なかなか筋が良くなってきたな、真鶴。あとは、敵にためらわずに撃てるかだな」
2人が真鶴を評価している一方、アナンは砂浜で座りながら椰子の実の汁を飲んでいた。
「っけ、的に入ったからって、敵に当てられなきゃ意味ねーよ」
「全く、アナン君は・・・素直に良くやったと言えないのかい?だからセニョリータに言い寄られないのだよ」
「強くなるのに恋煩悩は捨てているから良いんだよ!!」
五十鈴とアナンが口喧嘩していると、馬から降りた真鶴はアナンに言った
「正直、俺は人間から海洋族に蘇った身だし、船頭だったから、戦いに縁が無かった。だが、これだけは信じてくれ。いすみを王座から引き下ろし、君達が宮殿で暮らせるようにするから」
アナンは真鶴の覚悟の眼差しを見て、ニヤッと笑いかけて言った。
「・・・そう言ったからには有言実行しろよ、大将。カミさんにもう一度会いたいんだろ?」
アナンは顔を伏せながら、真鶴の肩をポンと叩いた。真鶴は顔を紅潮させながら首を横に振った。
「いや・・・別に、凪沙に会いたい気持ちは無い!!皆が、新しい海洋族を治めたいという願いを叶えたいと思っているだけだ!!」
真鶴が恥ずかしげに下を向いていると、亘は彼の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「照れるな照れるな。お主が新しい海洋族の大将だ。海洋族の皆も、お前の優しさに付いていくと思うぞ」
「アミーゴ真鶴なら、下らない掟なんて作らず、自由に恋愛出来るよー🎵」
「・・・仕方ねーな。まだ未熟な大将を俺達で強くしてやるか」
3人は出会って間もないが、強い意志と慈悲深さを持つ真鶴に期待していた。真鶴は皆に、世話になると言い、再び弓術の鍛錬に勤しんだ。クリクリは、計画通りだと、真鶴の肩の上で喜んでいた。
(優しい真鶴が闇に墜ちて、破滅の道に進んでいくのが楽しみだぞー♪)
そして、1589年、時代は小田原征伐を目前としていた。その時期に海洋族の宮殿で、いすみの掟に不満を持つ海洋族が、反乱を起こそうとしていた。
序章 完