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第3章 異説小田原征伐  蘇りし海の亡霊と海神伝説

九州の一揆が収束し、豊臣家は次の目標として関東平定計画を進めている。亡霊の真鶴は、陰のニホンの将軍、卑弩羅の誘いで、闇の海妖精『クリクリ』をお供にし、全国の海を回っていた。クリクリの話では、いすみに海洋族の城を追放され、恨みを持つ者が仲間になるだろうと聞き、探していた。

真鶴の銀の甲冑の胴部分には、円の中に2本の線が入った三浦三つ引きの家紋が描かれていた。甲冑や青い外套などの装備は卑弩羅から受け取り、厄神四天王の1人、ミズチが彼の長い巻き髪と顎髭を綺麗に整え、みずほらしい姿の亡霊から、品のある武士に変身させてくれた。そして、驚いたことに、クリクリから海洋族の力を授かり、側頭部に青いヒレが生え、海洋族に変化した。
「これで、いすみとは対等の立場になれる。」

南東北陸前国(現在の宮城県)複雑に入り組んでいる海岸にたどり着いた真鶴は、クリクリの案内で、気仙沼の港を歩いていた。漁の帰りで活気付いている露天には、浜焼きの屋台が並んでいたので、真鶴は腹ごしらえをしようと、アサリの串刺しと名物のメカジキの煮付けを買って食べた。
「この辺りも海の幸が上手いな。クリクリも長旅で腹を空かしているだろう?遠慮せず食え」
真鶴はもぐもぐと美味しそうに食べながら肩に乗っているクリクリにアサリを渡したが、苦笑いされて断られた。
「おらは、海の微生物を食べてるから、調理している海産物は食べないよ・・・」
真鶴はそういえばそうかと納得し、浜焼きを食べ終えた。
「この雄大な海を、凪沙と湘にも見せて、美味しい浜焼きを食べさせてあげたかったな・・・」
真鶴は寂しそうな表情で、遠くの水平線を眺めていた。クリクリは笑顔で励ました。
「親子でまた仲良く暮らしたいなら、いすみ討伐頑張ろうよ!!」
真鶴は気を取り直し、そうだな!!とクリクリに言った。すると、突然後ろから、大柄な赤茶色の髪の男性に声をかけられた。
「お主、その姿は・・・海洋族か?」
真鶴は男の突然の質問に戸惑い、ごまかそうとしたが、男の側頭部の薄紅色のヒレを見て、同胞だと分かった。
「ああ。元々は人間だったが、訳あって海洋族の姿となって蘇った。君は一体・・・?」
真鶴は男の姿をじっと見ると、片目が隠れるほど長い前髪に、濃い顔立ち、そして並外れた筋骨隆々の体型を見て、海洋族とはどこか違う雰囲気を漂わせていた。男は真鶴が考えている事を察し、クスッと笑い答えた。
「不思議だと思うが、拙者は海洋族と、もう一つ別の種族との混血種だ。拙者の名は亘(わたり)。気仙沼の市場の見回りをしている」
「俺は真鶴。昔、相模国三浦で船頭をしていた。今は亡霊なんだけどな・・・」
「何か事情があるようだが、聞くぞ」
亘は豪快な姿とは裏腹に、小さな声で真鶴の耳に囁いた。真鶴は事の経緯を話した。


「やはり、いすみは昔から変わっていないな・・・家族を引き離し、おまけに妻に合わせぬとは・・・」
亘は静かだが、眉間にシワを寄せており、口調には海王への憎しみを抱いていると真鶴は察した。
「亘さんも、いすみと何かあったのか?海洋族を追放されたと、クリクリから聞いたんだが・・・」
真鶴は肩に乗っているクリクリを指しながら尋ねた。亘は変わった生物を飼っているんだなと、クリクリをじっと見ていた。
「おらも、昔からいすみに恨みを持っているよー」
「まだ小さいのに、お主も可愛そうだな・・・」
「皆、いすみに恨みを持っているのだな」
亘は、気を取り直し、話題を変えた。
「そういえば、真鶴。いすみに対抗する仲間が必要であろう?拙者に心当たりがあるから、探しに行こうぞ!!」
亘は真鶴の手を握り、立ち上がった。真鶴は彼の行為に感謝したが、恐縮して言った。
「だが、こんな見ず知らずの俺に力を貸してくれるなんて・・・報酬や礼は何も無いのだが・・」
亘は首を横に振り、片手で斧を豪快に掲げた。真鶴は冷静かつ漢気がある亘に安心感を抱いた。
「気にするな。報酬などは、いすみを王座から引きずり下ろしてから十分手に入る。あとの2人も、曲者だが、お主の話を聞けば、きっと力になってくれるだろう」
真鶴は礼を言い、亘に握手を求めた。クリクリはその光景を見ながらニヤリと笑っていた。
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