第2章 九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神
その頃、海の池地獄を見ながら、球磨と紅史郎はこれからの事を話していた。
「俺はこれからも、傭兵として各地を回り、どんな強敵にも太刀打ちが出来るよう戦い続ける。お前はどうする?紅史郎?」
「僕は太陽神になったから、この力で九州を護れるように、修業するよ。それと、益城さんのように、九州で孤児となった子達に孤児院を建てたいなと」
「そうか、とても良い志だな。だが、つるぎはどうするんだ?」
「彼女も、隣の日向国で孤児院を建てたいと賛成してくれた。・・・僕、球磨兄さんよりも先に妻を迎えちゃったよ」
紅史郎は朗らかな口調で、右手薬指にはめてある木の指輪を球磨に見せた。球磨は目を丸くして驚いたが、直ぐに『おめでとう!!』と祝福した。すると、つるぎが照れながら、指輪をまだ見せるな!!と紅史郎に怒った。彼女は、髪を長く伸ばし、今までの男装から、可愛らしい桃色の中振り袖姿に変わった。
「男装も勇ましかったが、やはり女の格好が1番綺麗だぜ、紅史郎の嫁さん♪」
「やかまし!・・・うるさいわね、暴れ牛。貴方こそ、胡桃とはどうなのよ?」
球磨は、口調も女性っぽくなったつるぎに鋭く指摘され、言葉が詰まった。まさか振られた?と紅史郎が口を挟むと、球磨は彼の頭をぐりぐり押し、否定した。
「俺はもっと強くなって、全て片を付けたら胡桃を迎えに行く。彼女も、研究を続けて、一人前の学者になれたら貴方の元へ行くと言っていたぜ。だから、遠距離恋愛ってやつかな」
「胡桃は器量が良く美人だから、他の男に奪われないように気をつけなさいよね」
「戦の報酬で、彼女が喜ぶ物を送ってあげなよ、兄さん♪」
つるぎと紅史郎は球磨をからかい、彼は照れながらも難しい顔をした。その時、仁摩に追いかけられている桜龍が近づいてきて、球磨の大きな背中に隠れた。
「くまちゃーん・・・ちょいと隠れさせて・・・・」
桜龍は球磨の背中にへばり付いたが、これはかなり無理があると、2人は呆れていた。
「球磨さん!!桜龍見ませんでした?」
球磨は爽やかな笑顔を彼女に向け、背中から桜龍を離した。そして首元を掴み、『お前何をした?』と慌てながら尋ねた。
「珠姫さんを骨抜きにしたぜ!!」
得意げに言う桜龍に球磨は呆れて手を離し、彼は尻もちをついた。そして再び仁摩と紅史郎とつるぎが、もの凄い見幕で彼を追いかけ始めた。
「得意げに言うなー!!出雲に帰ったら父上に報告するわよ!!」
「そういえば、珠姫の着物を斬ったではないか!!僕にはツクモの記憶が残っているんだ!!許さん!!」
「2度までも姉上に無礼を働いたか、桜龍!!」
この追いかけっこは、『地獄巡り鬼ごっこ』と、鬼の里の名物となった。
その頃、鬼の里の奥にある滝で、千里は半裸で滝に打たれていた。これから待ち構える強敵、人造戦士の厳美と極悪非道の大芹。そして、マガツイノカミの配下の戦士に挑むため、黙々と鍛錬していた。すると、人魚の姿の湘が滝壺から顔を出して話しかけた。
「相変わらず、鍛錬に勤しんでいるな、千里。やはり、大芹という輩はこれからの脅威となるのか?」
「はい・・大芹は、僕とは根本的に違う造り方をされた、魔改造戦士です。奴は、自分を慕う者には手を差し伸べますが、敵対する者には容赦なく・・・・」
廃棄物のように捨てるのか・・・と千里が言葉を続けなくても、湘には十分理解できた。
「厳美と大芹は対等なのかね?今回の戦いで奴が来なかったのは不思議なくらいだ」
「厳美達、魔改造戦士達の生みの親は、大芹なのです。だから、厳美は大芹を慕っている。厳美以外にも強い魔改造戦士が生き残っています」
湘は、『人造戦士と魔改造戦士の違いは何んだ?』と、千里に尋ねた。
「人造戦士は生命を宿す土と、その源となる魔石で造られた人工生命体です。源平合戦の時、平家を討伐する為に、源氏側の陰陽師が僕達を多く造っていました。一方、魔改造戦士は、闇の科学者の手で、人間や他種族の心臓部に魔の紅玉を入れ、心も身体も改造された怪物。その科学者は・・・大芹です」
千里の深紅の瞳には大芹と魔改造戦士への憎しみの感情が炎のように映し出されていた。湘は、生きている者の心臓部に魔の紅玉を入れられ、改造生命体となった事に理解できず、恐怖を感じていた。しかし、厳美や大芹の力を見てきたので、信じがたいが受け入れるほか無かった。
その後、義経を慕っていた人造戦士は、頼朝と鎌倉幕府にとって脅威の存在となった。幕府軍は大芹率いる魔改造戦士と手を組み、人造戦士に苛烈な襲撃した。そして彼らは千里だけを残し、全滅させられた・・・。湘は残虐非道の魔改造戦士に嫌悪感を抱き、青ざめたが、そこに不可解な点を見つけ、質問した。
「しかし、魔改造戦士は厄災の神と手を組み日ノ本を闇にするのが目的なのだろう?何故、現在になるまでそれを実行しなかったのか?」
「おそらく、その時はまだ日ノ本を闇にする時期では無かったのでしょう。鎌倉幕府も百年と少しで衰退した位なので。だから一度、闇に封印されていた魔改造戦士は現在に目覚めてしまった・・・そして、浅間山で封印されていた僕も・・・」
千里は深い傷跡を残した胸板にギュッと握り拳を当てながら昔のことを思い出していた。
平泉で義経と弁慶を護れなかったこと。彼らを護っていた兵士と人造戦士も皆殺しにされたこと。千里は強大な力を持つ魔改造戦士に戦い敗れ、彼らに囚われ破壊されようとしたこと。
「だが、君はどうやって浅間山に封印されたのかい?」
「ハッキリとは覚えていないのですが、僕が大芹の実験室で処刑される寸前に、2つの種族が侵入してきて、僕を連れ去ったような・・・。確か、天狗の面をかぶった種族と地底から現れた種族でしたかね・・・」
「もしかしたら、関東の山岳地帯に住む『飛天族(ひてんぞく)』と、地底に暮らす『土竜族(どりゅうぞく)』が助けてくれたのではないか?確か2つの種族は海洋族に匹敵するほどの強さを持っている。おそらくは、その者達が千里を、時が来るまで封印させたのではないかい?」
「そうかもしれませんね。彼らにお礼を言いたいのですが、山や洞窟に行っても彼らを見かけません・・・」
千里は肩を落としながら言うと、湘も頭を悩ませながら答えた。
「そうだな・・・。その2つの種族も、滅多に他種族と関わりを持たないからな。海洋族同様、戦国乱世とは無縁な世界で生きているのだろう」
湘は2つの種族に会うのは難しいなとため息をついていたが、気を取り直し、千里の胸の傷跡に手を当て、優しく微笑み励ました。
「そんな気を落とすな。私は海洋族と人間の混血種だから、純血の海洋族よりも力は劣ってしまうが、知略と海洋族の能力で君達を支えるさ。では、私もそろそろ相模に帰るぞ」
湘は皆に別れを告げず帰るつもりだと、千里は察していた。
(湘さんは、次の戦の事を予測している・・・その時は僕達とは敵対してしまうのか・・・)
千里は滝壺に一瞬、黒い影が映ったのが見え、不吉な事が起こると予感していた。
湘は別府の海から一気に相模灘まで泳ぎ、海に近い小田原城を見て深刻な顔をしていた。
「九州の危機は救えたが、次は関東が戦場になるな・・・」
湘は予測していた。豊臣秀吉は九州の次は、敵対する北条を倒し、関東を平定させると。真田家に仕えるモトスと千里は確実に敵となり、場合によっては、球磨と桜龍も敵となる可能性がある。
「果たして、私達は強い絆で結ばれても、戦になると敵対し、刃を交えることになるのか・・・」
湘は今は先の事を考えるのは止めようと、小田原港に上がり、居城へ帰り、主君の氏政に九州の出来事を報告した。
「俺はこれからも、傭兵として各地を回り、どんな強敵にも太刀打ちが出来るよう戦い続ける。お前はどうする?紅史郎?」
「僕は太陽神になったから、この力で九州を護れるように、修業するよ。それと、益城さんのように、九州で孤児となった子達に孤児院を建てたいなと」
「そうか、とても良い志だな。だが、つるぎはどうするんだ?」
「彼女も、隣の日向国で孤児院を建てたいと賛成してくれた。・・・僕、球磨兄さんよりも先に妻を迎えちゃったよ」
紅史郎は朗らかな口調で、右手薬指にはめてある木の指輪を球磨に見せた。球磨は目を丸くして驚いたが、直ぐに『おめでとう!!』と祝福した。すると、つるぎが照れながら、指輪をまだ見せるな!!と紅史郎に怒った。彼女は、髪を長く伸ばし、今までの男装から、可愛らしい桃色の中振り袖姿に変わった。
「男装も勇ましかったが、やはり女の格好が1番綺麗だぜ、紅史郎の嫁さん♪」
「やかまし!・・・うるさいわね、暴れ牛。貴方こそ、胡桃とはどうなのよ?」
球磨は、口調も女性っぽくなったつるぎに鋭く指摘され、言葉が詰まった。まさか振られた?と紅史郎が口を挟むと、球磨は彼の頭をぐりぐり押し、否定した。
「俺はもっと強くなって、全て片を付けたら胡桃を迎えに行く。彼女も、研究を続けて、一人前の学者になれたら貴方の元へ行くと言っていたぜ。だから、遠距離恋愛ってやつかな」
「胡桃は器量が良く美人だから、他の男に奪われないように気をつけなさいよね」
「戦の報酬で、彼女が喜ぶ物を送ってあげなよ、兄さん♪」
つるぎと紅史郎は球磨をからかい、彼は照れながらも難しい顔をした。その時、仁摩に追いかけられている桜龍が近づいてきて、球磨の大きな背中に隠れた。
「くまちゃーん・・・ちょいと隠れさせて・・・・」
桜龍は球磨の背中にへばり付いたが、これはかなり無理があると、2人は呆れていた。
「球磨さん!!桜龍見ませんでした?」
球磨は爽やかな笑顔を彼女に向け、背中から桜龍を離した。そして首元を掴み、『お前何をした?』と慌てながら尋ねた。
「珠姫さんを骨抜きにしたぜ!!」
得意げに言う桜龍に球磨は呆れて手を離し、彼は尻もちをついた。そして再び仁摩と紅史郎とつるぎが、もの凄い見幕で彼を追いかけ始めた。
「得意げに言うなー!!出雲に帰ったら父上に報告するわよ!!」
「そういえば、珠姫の着物を斬ったではないか!!僕にはツクモの記憶が残っているんだ!!許さん!!」
「2度までも姉上に無礼を働いたか、桜龍!!」
この追いかけっこは、『地獄巡り鬼ごっこ』と、鬼の里の名物となった。
その頃、鬼の里の奥にある滝で、千里は半裸で滝に打たれていた。これから待ち構える強敵、人造戦士の厳美と極悪非道の大芹。そして、マガツイノカミの配下の戦士に挑むため、黙々と鍛錬していた。すると、人魚の姿の湘が滝壺から顔を出して話しかけた。
「相変わらず、鍛錬に勤しんでいるな、千里。やはり、大芹という輩はこれからの脅威となるのか?」
「はい・・大芹は、僕とは根本的に違う造り方をされた、魔改造戦士です。奴は、自分を慕う者には手を差し伸べますが、敵対する者には容赦なく・・・・」
廃棄物のように捨てるのか・・・と千里が言葉を続けなくても、湘には十分理解できた。
「厳美と大芹は対等なのかね?今回の戦いで奴が来なかったのは不思議なくらいだ」
「厳美達、魔改造戦士達の生みの親は、大芹なのです。だから、厳美は大芹を慕っている。厳美以外にも強い魔改造戦士が生き残っています」
湘は、『人造戦士と魔改造戦士の違いは何んだ?』と、千里に尋ねた。
「人造戦士は生命を宿す土と、その源となる魔石で造られた人工生命体です。源平合戦の時、平家を討伐する為に、源氏側の陰陽師が僕達を多く造っていました。一方、魔改造戦士は、闇の科学者の手で、人間や他種族の心臓部に魔の紅玉を入れ、心も身体も改造された怪物。その科学者は・・・大芹です」
千里の深紅の瞳には大芹と魔改造戦士への憎しみの感情が炎のように映し出されていた。湘は、生きている者の心臓部に魔の紅玉を入れられ、改造生命体となった事に理解できず、恐怖を感じていた。しかし、厳美や大芹の力を見てきたので、信じがたいが受け入れるほか無かった。
その後、義経を慕っていた人造戦士は、頼朝と鎌倉幕府にとって脅威の存在となった。幕府軍は大芹率いる魔改造戦士と手を組み、人造戦士に苛烈な襲撃した。そして彼らは千里だけを残し、全滅させられた・・・。湘は残虐非道の魔改造戦士に嫌悪感を抱き、青ざめたが、そこに不可解な点を見つけ、質問した。
「しかし、魔改造戦士は厄災の神と手を組み日ノ本を闇にするのが目的なのだろう?何故、現在になるまでそれを実行しなかったのか?」
「おそらく、その時はまだ日ノ本を闇にする時期では無かったのでしょう。鎌倉幕府も百年と少しで衰退した位なので。だから一度、闇に封印されていた魔改造戦士は現在に目覚めてしまった・・・そして、浅間山で封印されていた僕も・・・」
千里は深い傷跡を残した胸板にギュッと握り拳を当てながら昔のことを思い出していた。
平泉で義経と弁慶を護れなかったこと。彼らを護っていた兵士と人造戦士も皆殺しにされたこと。千里は強大な力を持つ魔改造戦士に戦い敗れ、彼らに囚われ破壊されようとしたこと。
「だが、君はどうやって浅間山に封印されたのかい?」
「ハッキリとは覚えていないのですが、僕が大芹の実験室で処刑される寸前に、2つの種族が侵入してきて、僕を連れ去ったような・・・。確か、天狗の面をかぶった種族と地底から現れた種族でしたかね・・・」
「もしかしたら、関東の山岳地帯に住む『飛天族(ひてんぞく)』と、地底に暮らす『土竜族(どりゅうぞく)』が助けてくれたのではないか?確か2つの種族は海洋族に匹敵するほどの強さを持っている。おそらくは、その者達が千里を、時が来るまで封印させたのではないかい?」
「そうかもしれませんね。彼らにお礼を言いたいのですが、山や洞窟に行っても彼らを見かけません・・・」
千里は肩を落としながら言うと、湘も頭を悩ませながら答えた。
「そうだな・・・。その2つの種族も、滅多に他種族と関わりを持たないからな。海洋族同様、戦国乱世とは無縁な世界で生きているのだろう」
湘は2つの種族に会うのは難しいなとため息をついていたが、気を取り直し、千里の胸の傷跡に手を当て、優しく微笑み励ました。
「そんな気を落とすな。私は海洋族と人間の混血種だから、純血の海洋族よりも力は劣ってしまうが、知略と海洋族の能力で君達を支えるさ。では、私もそろそろ相模に帰るぞ」
湘は皆に別れを告げず帰るつもりだと、千里は察していた。
(湘さんは、次の戦の事を予測している・・・その時は僕達とは敵対してしまうのか・・・)
千里は滝壺に一瞬、黒い影が映ったのが見え、不吉な事が起こると予感していた。
湘は別府の海から一気に相模灘まで泳ぎ、海に近い小田原城を見て深刻な顔をしていた。
「九州の危機は救えたが、次は関東が戦場になるな・・・」
湘は予測していた。豊臣秀吉は九州の次は、敵対する北条を倒し、関東を平定させると。真田家に仕えるモトスと千里は確実に敵となり、場合によっては、球磨と桜龍も敵となる可能性がある。
「果たして、私達は強い絆で結ばれても、戦になると敵対し、刃を交えることになるのか・・・」
湘は今は先の事を考えるのは止めようと、小田原港に上がり、居城へ帰り、主君の氏政に九州の出来事を報告した。