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第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士

その頃モトスは、甲斐の民を引き連れ、甲斐の南部、下部温泉で休息をしていた。民や残党兵には長時間の旅に疲労が出ていた。夕方に到着し、皆は秘湯に浸かっていた。
「皆・・・すまない。だが、身延山は元々梅雪が支配していた地域だ。おそらくこの辺りも梅雪に侵攻されるのも時間の問題だ。明日に樹海を抜ける予定なので、今日はゆっくり休んでくれ・・・」
モトスは焚火を囲んで休んでいる民たちに頭を下げたが、民たちは顔を上げてと、モトスに言った。
「おらたちはモトスのおかげで命助かったんだべ。むしろ感謝しているずらー!!」
モトスは少し照れながら、再び皆に一礼をした。すると、8歳位の小さな女の子がモトスの足にしがみついた。
「モトスおじちゃん・・・おらは、ささ子って言うんだ。頼みを聞いて欲しいずらー」
ささ子が頼み事を言おうとした時に、母親の多香(たか)に止められ、抱っこされた。
「こら!!ささ子。お母さんが言うから、お前はもう寝なさい!!」
モトスは優しく笑いながら、親子に尋ねた。
ささ子と多香の親子は、身延山の麓の村に住んでおり、モトスたちと2日ほど前に合流した。ささ子の父である。寅時(とらじ)は、身延山久遠寺の僧兵であり、富士五湖へ森精霊の動きを探るために偵察に行ったまま戻らないと僧侶から聞いたそうだ。そして今、精霊と僧兵の間でいざこざが起きていることもモトスに話した。
「・・・そうか。精霊と僧侶の間にそんな事が・・。どの道、鳴沢や吉田集落へ行くには樹海を通らなければならぬし・・・・」
モトスは同胞である精霊たちの異変や、寅時の身を心配し、すぐに答えを出した。
「それなら、今すぐに寅時殿を助けに行くよ。俺は湖周辺や樹海を熟知している。それに、精霊たちと話をしたい」
モトスは強い眼差しを親子に向けた。
「でも・・・モトスさんは民を護りながらほとんど休まないでいるのに・・・申し訳ございません!!」
多香とささ子は深く謝ったが、モトスは優しく笑い、ささ子の頭を撫でた。
「心配はご無用だ。俺は陽や月の光から十分に力を与えられている。それに、自然の恵みも傷を癒してくれる」
そう、森の精霊は風や自然、木や花を愛し、森や湖で自由に暮らす種族。人々と仲良く共存しているのに、突如、凶暴化したのには何か理由がある。もしかすると、梅雪一味の被害にあっているのかもしれない。
モトスは1人で寅時を探しに行こうとしたが、数名の兵や忍び仲間が付いて来てくれた。


 モトスたちは、本栖湖湖畔に到着した。夜の湖畔には満月の白金色の光と、無数の星の輝きが映し出されていた。
「確かモトスは本栖湖の花畑出身であったな」
忍び仲間の1人がモトスに聞いた。
「ああ。この湖は、季節の花々と富士山がひし形のように水面に映える。とても美しい故郷だよ」
そう。俺がまだ手の平ほどの小人のような精霊であった時、本栖湖の芝桜などの花畑で、花の蜜を飲んだり、ハネ広げ自由に飛び回ったりと、大自然の中をのびのびと暮らしていた。そこを、忍びの棟梁である師に拾われ、忍びの道を選び修行をした。
(そういえば、棟梁は樹海の番人もしている。無事であろうか・・・)
モトスは不安そうな表情で静寂さを漂わせる森林に入ろうとした瞬間、森の奥から鳥が逃げ、木々がざわざわと音を揺らしているのが聞こえた。モトスはその方向へ急ぎ向かった。
「一体何が起きているのだ!!とてつもなく強い力が・・2つ?」


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