第2章 九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神
その頃、珠姫は桜龍と仁摩に敗れ、途方に暮れていた。桜龍は朗らかに笑いながら、彼女に手を差し伸べた。
「あんたの術、中々だったぜ。だが、若い男にかけると、不倫になっちまうぜ。ツクモを愛しているんだろ?」
「・・・・わたくしには勝っても、ツクモ様には勝てないわ。いいえ、炎の魔人にはね」
「ツクモが炎の魔人ですって・・・?」
仁摩が珠姫に尋ねた時、モトスや美羅達が宮殿の石畳の庭まで駆けつけていた。
「・・・知っている事を全て話すわ。あら?丁度、妹達と貴方の仲間がたどり着いたようだから、話すわ」
「姉さん!!無事―?って着物の前がに破れているじゃないの!!」
美羅とつるぎは真っ先に珠姫の元に駆けつけ、彼女が着ている羽織が桜龍の物だと分かった妹達は直ぐに桜龍に問い詰めた。
「ちょっとあんた!!姉さんに何をしたの!!」
「湘がキザ男なら、貴様はスケベエ男だな!!」
「いやいや・・・これには深いわけが・・・珠姫さん、説明をよろしく・・・」
桜龍は珠姫に助け船を出したが、彼女は、「それは説明しないわよ」と舌を出して笑った。続いて、仁摩に説明を頼んだが。
「まったく・・桜龍たら、本当は操られて居なかったのに、珠姫さんの着物を切って、胸ポロリさせたのよ・・・こんなにスケベエだとは思わなかったわ」
仁摩は、モトスと千里と湘に桜龍の悪行を言いふらしていた。すると3人は呆れ果てていた。
「仁摩殿が居たにも関わらず!!何とも破廉恥な!!」
「呆れた男だ・・・私には到底出来ぬ系統だな」
「よく、体の方は斬らずに、服だけを切れましたね・・・・。まさか普段からそういう練習を・・?」
千里は桜龍を疑った目で見ると、彼は断固否定した。
「これも、戦術だぜ!!男の胸板だってポロリさせられるぜ♪」
「偉そうに言うなー!!」
「貴様の胸板こそ斬ってやる!!」
美羅とつるぎは桜龍を追いかけた。石畳の庭園は少しの間3人で何周か追いかけっこしていた。珠姫は、『この人が・・今さっき戦った相手?』と信じられないほど呆気にとられていた。仁摩はため息をつきながら答えた。
「まぁ、桜龍にはしばらく反省して貰うわ・・・。それはそうと、珠姫さんは、ツクモの事を本当に愛しているの?」
「・・・ええ。わたくしは、幼い頃に彼と出会ってから今に至るまで、お慕い続けているわ」
珠姫は、先ほどまでの妖しい悪女の顔では無く、初恋が芽生えた少女のような純粋な表情だった。仁摩はそんな彼女を勇気づけた。
「それなら、ツクモを止めましょう!!彼は魔人と言っても、もっと上に闇の支配者がいるのでしょう?彼はその闇に取り込まれてしまうわ!!」
「・・・何故、わたくしは貴方に卑劣な手を使い、近衛に襲わせたのに、簡単に許してくれるの?」
「それは簡単な事よ。今の貴方には邪気も敵意も全く感じない。こう見えて私も、桜龍達と肩を並べて戦えるように、日々鍛錬しているのよ!!」
仁摩は笑顔で珠姫に手を差し伸べた。美羅とつるぎはその微笑ましい光景を見て、桜龍を追いかけるのを止め、2人の元に近づいた。
「巫女のお嬢ちゃんとは初めて会うねー♪あたしは美羅。年齢よりも若いってよく言われるわ」
「宇土の港で顔を合わせたが、改めて名乗る。私はつるぎ。珠姫姉さんと、美羅姉さんの妹だ。珠姫姉さんを許してくれて感謝する」
美羅は仁摩の手を握り、手をぶらぶらさせている一方、つるぎは深くお辞儀をしていた。
「よろしくね、美羅さん、つるぎさん!!」
仁摩は直ぐに三姉妹と打ち解けた。その光景を和やかに桜龍達は見ていた。
「仁摩殿も誰とでも仲良くなれる性格だから、先程まで三姉妹と敵対していたのが嘘だったかのようだぜ」
「桜龍と仁摩殿はどこか似ているな。中々良い組み合わせだと思うぞ」
モトスが朗らかな口調で桜龍を茶化すと、続いて湘も頷きながら言った。
「仁摩殿という、勇ましく奥ゆかしい巫女は桜龍には勿体ないな。大切にしないと他の男に取られるぞ」
「おいおい・・・2人共・・、俺と仁摩殿はそんな関係では・・・」
桜龍は珍しく、返す言葉が見つからずに口ごもっていた。すると、察した千里が話題を変えた。
「この優しい時間が続くように、一刻も早くツクモの野望を止め、紅史郎殿と胡桃さんを救いましょう。球磨さんも先に宮殿の中に入ったようですし」
「そうだ!!こうしちゃあ居られねぇ!!俺たちも速く宮殿に入ろうぜ!!」
桜龍達は宮殿の中に入り、緋色の絨毯が敷いてある廊下を見ると、近衛信者達が気絶していた。球磨が全員倒したようだ。珠姫は、もうじき球磨はツクモの元に着く頃だろうと予想していた。
「・・・皆に話すわ。ツクモ様と・・紅史郎の秘密を。特に、つるぎ、貴方には辛いことだけど、聞く覚悟はある?」
珠姫は声を殺すかのように深刻な口調と表情になった。つるぎは、自分も紅史郎に起こりうる不吉な事を察していた。
「覚悟は出来ています・・姉上!!」
皆も、移動しながら珠姫の話を静かに聞いた。
「予言で見たの・・・ツクモ様は、元々は神聖なる神で、邪神に体を乗っ取られる前は、もしかしたら、紅史郎と1つの存在だったのかもしれないと・・・」
珠姫の予言の答えに、皆は黙り込んでしまった。つるぎはそうだったのか・・・と複雑な心境だった。
球磨は先を急ぎ、宮殿の最奥部『教組の館』にたどり着いた。すると、そこには天女の羽衣を身にまとった胡桃が部屋の中心で彼を待っていた。球磨は一瞬、心を奪われたが、想いを捨て彼女の出方を伺った。
「よくここまで来ましたね、球磨さん。貴方に案内したい場所があります」
球磨は、胡桃の無機物の表情と口調に、まだ術が掛かっていると見破っていた。これは罠かもしれないと思っていたが、警戒していては先に進めないと決断し、彼女に付いていく事にした。
「俺の名を読んでくれて嬉しいぜ。そんじゃあ、案内よろしくな」
球磨は陽気な態度で言ったが、胡桃は顔を反らし、無反応かつ淡々とした動作で目的地へ案内した。
その頃、豊後国別府の鬼の温泉郷では、銀髪の神父服の男が、里にある地下洞窟の宝物庫で使い古された紅いの甲冑や鬼の角が装飾された兜を身につけていた。そこに、鬼の一族の頭領『由布』が入ってきた。
「やはり、行くのか?その格好久しいな」
由布は男の剛毅に満ちた強さと、神々しく神秘的な姿に、懐かしさを感じていた。
「私も、この格好は久しぶりです。当時と体型が変わっていなくて甲冑も着やすくて良かったです」
由布はそうかと納得し頷くと、袋に包んでいた自分の背丈以上はある長物を彼に渡した。男は袋を空けると、先端と左右に刃が着いた斧が現れた。
「紅蓮の増鬼(ましき)と呼ばれる戦神の武器を忘れてはならぬぞ」
「相変わらず用意が良いですね。由布は」
増鬼は苦笑いしながら、斧を上に掲げた。
「雲仙の地にとてつもない邪気を感じます。それはツクモではなく、日ノ本中を覆う深い闇・・・。私は、私に出来ることをしてきます。由布も別府の皆を護って欲しいです」
増鬼は強い決意を胸に、由布に誓った。
「わらわも、鬼の皆も、鬼神と御伽勇士達の勝利を見守るぞ。そして、勝利の暁にはまた皆で酒を飲み交わそうぞ!!」
由布は増鬼を洞窟の入り口まで見送り、彼の走る姿をずっと見続けていた。そして、鬼の子供達と白昼の太陽に向かって、無事を祈っていた。
「どうか、益城兄様と勇士たちに炎の神プロメテウスと太陽神アポロのご加護を・・・」
第11話 完
「あんたの術、中々だったぜ。だが、若い男にかけると、不倫になっちまうぜ。ツクモを愛しているんだろ?」
「・・・・わたくしには勝っても、ツクモ様には勝てないわ。いいえ、炎の魔人にはね」
「ツクモが炎の魔人ですって・・・?」
仁摩が珠姫に尋ねた時、モトスや美羅達が宮殿の石畳の庭まで駆けつけていた。
「・・・知っている事を全て話すわ。あら?丁度、妹達と貴方の仲間がたどり着いたようだから、話すわ」
「姉さん!!無事―?って着物の前がに破れているじゃないの!!」
美羅とつるぎは真っ先に珠姫の元に駆けつけ、彼女が着ている羽織が桜龍の物だと分かった妹達は直ぐに桜龍に問い詰めた。
「ちょっとあんた!!姉さんに何をしたの!!」
「湘がキザ男なら、貴様はスケベエ男だな!!」
「いやいや・・・これには深いわけが・・・珠姫さん、説明をよろしく・・・」
桜龍は珠姫に助け船を出したが、彼女は、「それは説明しないわよ」と舌を出して笑った。続いて、仁摩に説明を頼んだが。
「まったく・・桜龍たら、本当は操られて居なかったのに、珠姫さんの着物を切って、胸ポロリさせたのよ・・・こんなにスケベエだとは思わなかったわ」
仁摩は、モトスと千里と湘に桜龍の悪行を言いふらしていた。すると3人は呆れ果てていた。
「仁摩殿が居たにも関わらず!!何とも破廉恥な!!」
「呆れた男だ・・・私には到底出来ぬ系統だな」
「よく、体の方は斬らずに、服だけを切れましたね・・・・。まさか普段からそういう練習を・・?」
千里は桜龍を疑った目で見ると、彼は断固否定した。
「これも、戦術だぜ!!男の胸板だってポロリさせられるぜ♪」
「偉そうに言うなー!!」
「貴様の胸板こそ斬ってやる!!」
美羅とつるぎは桜龍を追いかけた。石畳の庭園は少しの間3人で何周か追いかけっこしていた。珠姫は、『この人が・・今さっき戦った相手?』と信じられないほど呆気にとられていた。仁摩はため息をつきながら答えた。
「まぁ、桜龍にはしばらく反省して貰うわ・・・。それはそうと、珠姫さんは、ツクモの事を本当に愛しているの?」
「・・・ええ。わたくしは、幼い頃に彼と出会ってから今に至るまで、お慕い続けているわ」
珠姫は、先ほどまでの妖しい悪女の顔では無く、初恋が芽生えた少女のような純粋な表情だった。仁摩はそんな彼女を勇気づけた。
「それなら、ツクモを止めましょう!!彼は魔人と言っても、もっと上に闇の支配者がいるのでしょう?彼はその闇に取り込まれてしまうわ!!」
「・・・何故、わたくしは貴方に卑劣な手を使い、近衛に襲わせたのに、簡単に許してくれるの?」
「それは簡単な事よ。今の貴方には邪気も敵意も全く感じない。こう見えて私も、桜龍達と肩を並べて戦えるように、日々鍛錬しているのよ!!」
仁摩は笑顔で珠姫に手を差し伸べた。美羅とつるぎはその微笑ましい光景を見て、桜龍を追いかけるのを止め、2人の元に近づいた。
「巫女のお嬢ちゃんとは初めて会うねー♪あたしは美羅。年齢よりも若いってよく言われるわ」
「宇土の港で顔を合わせたが、改めて名乗る。私はつるぎ。珠姫姉さんと、美羅姉さんの妹だ。珠姫姉さんを許してくれて感謝する」
美羅は仁摩の手を握り、手をぶらぶらさせている一方、つるぎは深くお辞儀をしていた。
「よろしくね、美羅さん、つるぎさん!!」
仁摩は直ぐに三姉妹と打ち解けた。その光景を和やかに桜龍達は見ていた。
「仁摩殿も誰とでも仲良くなれる性格だから、先程まで三姉妹と敵対していたのが嘘だったかのようだぜ」
「桜龍と仁摩殿はどこか似ているな。中々良い組み合わせだと思うぞ」
モトスが朗らかな口調で桜龍を茶化すと、続いて湘も頷きながら言った。
「仁摩殿という、勇ましく奥ゆかしい巫女は桜龍には勿体ないな。大切にしないと他の男に取られるぞ」
「おいおい・・・2人共・・、俺と仁摩殿はそんな関係では・・・」
桜龍は珍しく、返す言葉が見つからずに口ごもっていた。すると、察した千里が話題を変えた。
「この優しい時間が続くように、一刻も早くツクモの野望を止め、紅史郎殿と胡桃さんを救いましょう。球磨さんも先に宮殿の中に入ったようですし」
「そうだ!!こうしちゃあ居られねぇ!!俺たちも速く宮殿に入ろうぜ!!」
桜龍達は宮殿の中に入り、緋色の絨毯が敷いてある廊下を見ると、近衛信者達が気絶していた。球磨が全員倒したようだ。珠姫は、もうじき球磨はツクモの元に着く頃だろうと予想していた。
「・・・皆に話すわ。ツクモ様と・・紅史郎の秘密を。特に、つるぎ、貴方には辛いことだけど、聞く覚悟はある?」
珠姫は声を殺すかのように深刻な口調と表情になった。つるぎは、自分も紅史郎に起こりうる不吉な事を察していた。
「覚悟は出来ています・・姉上!!」
皆も、移動しながら珠姫の話を静かに聞いた。
「予言で見たの・・・ツクモ様は、元々は神聖なる神で、邪神に体を乗っ取られる前は、もしかしたら、紅史郎と1つの存在だったのかもしれないと・・・」
珠姫の予言の答えに、皆は黙り込んでしまった。つるぎはそうだったのか・・・と複雑な心境だった。
球磨は先を急ぎ、宮殿の最奥部『教組の館』にたどり着いた。すると、そこには天女の羽衣を身にまとった胡桃が部屋の中心で彼を待っていた。球磨は一瞬、心を奪われたが、想いを捨て彼女の出方を伺った。
「よくここまで来ましたね、球磨さん。貴方に案内したい場所があります」
球磨は、胡桃の無機物の表情と口調に、まだ術が掛かっていると見破っていた。これは罠かもしれないと思っていたが、警戒していては先に進めないと決断し、彼女に付いていく事にした。
「俺の名を読んでくれて嬉しいぜ。そんじゃあ、案内よろしくな」
球磨は陽気な態度で言ったが、胡桃は顔を反らし、無反応かつ淡々とした動作で目的地へ案内した。
その頃、豊後国別府の鬼の温泉郷では、銀髪の神父服の男が、里にある地下洞窟の宝物庫で使い古された紅いの甲冑や鬼の角が装飾された兜を身につけていた。そこに、鬼の一族の頭領『由布』が入ってきた。
「やはり、行くのか?その格好久しいな」
由布は男の剛毅に満ちた強さと、神々しく神秘的な姿に、懐かしさを感じていた。
「私も、この格好は久しぶりです。当時と体型が変わっていなくて甲冑も着やすくて良かったです」
由布はそうかと納得し頷くと、袋に包んでいた自分の背丈以上はある長物を彼に渡した。男は袋を空けると、先端と左右に刃が着いた斧が現れた。
「紅蓮の増鬼(ましき)と呼ばれる戦神の武器を忘れてはならぬぞ」
「相変わらず用意が良いですね。由布は」
増鬼は苦笑いしながら、斧を上に掲げた。
「雲仙の地にとてつもない邪気を感じます。それはツクモではなく、日ノ本中を覆う深い闇・・・。私は、私に出来ることをしてきます。由布も別府の皆を護って欲しいです」
増鬼は強い決意を胸に、由布に誓った。
「わらわも、鬼の皆も、鬼神と御伽勇士達の勝利を見守るぞ。そして、勝利の暁にはまた皆で酒を飲み交わそうぞ!!」
由布は増鬼を洞窟の入り口まで見送り、彼の走る姿をずっと見続けていた。そして、鬼の子供達と白昼の太陽に向かって、無事を祈っていた。
「どうか、益城兄様と勇士たちに炎の神プロメテウスと太陽神アポロのご加護を・・・」
第11話 完