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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

数十人の近衛兵は、武装し2人に襲い掛かった。仁摩は足に光の弾をまとわせ、棍棒を軸に高速回し蹴りを近衛兵に喰らわせた。光の弾により彼らは邪気を取り除かれ、気を失った。
「ひゅー、仁摩殿やるぅ♪」
桜龍も仁摩を褒めながら、後ろから襲って来る近衛兵に護符を持った手で殴り、剣に浄化の光をまとわせ、峰打ちした。2人は浄化技と武術を駆使した技で、一気に近衛兵を倒し正気に戻させた。
「近衛兵も全員倒したぜ!!次は姉さんの番だぜ」
桜龍は護符を数枚取り出し、術を唱え、珠姫目掛け投げ飛ばした。珠姫は広い両袖から紫水晶の珠を括り付けた紐を出現させた。その武器を華麗に振り回し、握り拳程の大きさの水晶は聖なる護符を破った。桜龍は舌打ちしながら、次の手を考えていた。
「やはり武器を隠していたか・・・」
「わたくしを侮らないで下さる?」
珠姫は妖艶な笑みを浮かべ、紐を振り回し、桜龍目掛け、珠を投げ続けた。桜龍は太刀で弾き飛ばしたが、次から次へと繰り出す攻撃と、機動の読めない紐と珠の動きに、苦戦を強いられた。
「あら?先程までの勢いはどうしたの?」
珠姫は紐を桜龍の体に巻き付け、目の前まで引っ張った。
「な・・何をする!?」
強く絡みついた紐は、もがくほど強く彼の体を巻きついてきた。邪気を放つ珠も、桜龍の力を吸いとっていた。
「あなたは、出雲の神官では勿体無いわね。ツクモ様の下なら、腹心になれるわよ」
珠姫は桜龍に口付けをした。仁摩は衝撃を受け、声が出なかった。
「桜龍はわたくしの手籠となったわよ。あなたは、ツクモ様の下で女官になりなさい。上手くすれば、妾になれるわよ」
珠姫は外回廊で待機していた近衛兵に命令し、仁摩を捕らえようとした。
「お断りよ!!桜龍を元に戻しなさい、悪女めが!!」
仁摩は激怒し、棒術で近衛を蹴散らしていった。
「桜龍!!早く目を覚ましなさい!!」
仁摩は桜龍に強く呼びかけたが、信者が多勢に襲いかかり苦戦を強いられていた。術師の兵士は拘束の印を発動させ、仁摩は動けなくなってしまった。
「こいつはなかなか良い女だなー。ツクモ様に献上する前に、俺たちがたっぷり可愛がってやろうか」
近衛信者は嫌らしい顔で身動きが出来ない仁摩を見ていた。
「く・・・桜・・龍・・」
「殺しはしないわ。あなたの思い人が、わたくしに従うところを見せてあげる」
珠姫は苦しんでいる仁摩をあざ笑いながら、黙り込んでいる桜龍の顎をクイっと上げた。桜龍は頬を赤くしながら、珠姫の紫色の瞳を見つめ、口説き文句を言った。
「水晶のように美しき姫君。私は左目の聖なる龍と共に、本日から貴方に仕えし従者となりますよ」
「うふふ、この通りよ。桜龍も聖なる龍もわたくしの手籠め。さぁ桜龍、仁摩という巫女はどうしたいの?」
桜龍は仁摩の必死な姿を見て鼻で笑い、珠姫の手の甲に口付けをして答えた。
「好きにして良いですよ。ただ・・あの巫女は、手先が少々不器用ですし、小姑みたいに口うるさいので、ツクモ様の妾どころか女官すら務まるかどうか・・・」
珠姫は、これは言い過ぎなのでは?と苦笑いした。仁摩は彼の文句に苛立ち始め、金縛りが解けるほど力み始めた。
「なんですってぇー!!」
仁摩の怒りが頂点に立ち、物凄い気迫で金縛りを解いた。そして、棍棒に破魔の気を纏い、一気に信者をなぎ払った。
「言わせておけば!!私とて、女官位出来るわよ!!」
珠姫は嵐の如き仁摩の攻撃に目を丸くした。その隙に桜龍はニヤリと笑いながら、腰に下げている太刀を素早く珠姫の胴を目掛け、抜刀した。
「きゃあ!?」
珠姫は体を斬られたか!?と思った瞬間、血は一切出ないが、帯を切られ着物が開けた。珠姫は直ぐに両手で露出した胸を隠し、体を伏せた。仁摩は桜龍の神業に仰天するほど、声が出なかった。
「ははん。良い体だが、戦うには動きにくそうだなー。刀を持つ野郎に挑むなら、胸当て着けるとか武装しろ」
桜龍は得意げな顔をしていたが、仁摩に耳を引っ張られ怒鳴られた。
「このど助べえが!!敵とはいえ、女の着物を斬るとは何とも不埒(ふらち)な!!」
「いいじゃねーか♪敵を欺くにはまず味方からって言うだろ。それに・・・」
桜龍は先ほどまでの有頂天な表情から一変し、鬼の如く凄まじい怒りで発した。
「あんたは、自ら手を下さず、男の信者共に仁摩殿を襲わせた。そんな中、仁摩殿は女性(にょしょう)でありながら、勇猛果敢に戦った。そんなあんたが、服斬られて怯えられる立場じゃないんだよ!!」
珠姫は悔し涙を流しながら、桜龍になくなく尋ねた。
「何故・・わたくしの術が効かないの?今までのは操られていたフリをしていたの?」
「・・・俺には催眠術とか無意味だぜ。聖なる龍が拒絶するし、なにせ、あんたは本気で俺の気を引こうとは思っていない。誰よりも1番ツクモを愛しているんだろう」
珠姫は何故分かったと動揺を隠せないでいたが、桜龍は左目の眼帯を外し、白金色に光る聖龍の瞳を見せた。
「この瞳にかかれば、全てお見通しさ。まぁ、俺の読心術でも分かるけどな」
「・・・わたくしの負けですわ。ツクモ様以外の男に体を晒してしまったし・・・。斬るなり好きにしなさ・・・」
珠姫は言葉を続けようとした時、桜龍が紫の長い羽織を彼女に被せた。珠姫は大きな羽織に包み込まれ、桜のような優しく暖かい香りがした。
「俺が言える立場じゃねーけど、その格好で居させるわけにいかねーから、それやるよ」
桜龍は笑顔で珠姫に羽織を渡した。そして、またニヤけながら呟いた。
「いやぁー、俺が手籠めにされる筈が、逆に俺が姉さんを手籠めにしちまったぜ♪ツクモの野郎がこれ見て、どんな顔するか見てみたかったなー♪余の大切な妻に手ー出したらあかんとね!!なんてな♪」
桜龍が多弁な口調で浮かれている頃、ツクモは宮殿の玉座で、その光景を水晶玉を通して見ていた。そして、桜龍が大きく映った瞬間、ツクモは水晶玉を拳で粉々に壊した。周りに居た近衛兵や女官はビクビクと怖がった。
「ははははは!!何とも燃やしてやりたいほど愉快な男やけん!!桜龍は」
ツクモもは表面的には笑っていたが、行動は殺意に満ちていた。さらに、呆れながら桜龍の戯言を否定した。
「ちなみに、『あかんとね』は・・大阪の言葉が混ざっとるけん・・・余はそんな言葉使わんとね」
ツクモが嫌みを言うと、隣で様子を見ていた紅史郎が、彼に忠告した。
「ツクモ様・・・珠姫様が敗れました・・・。このままでは桜龍達も宮殿に入ってきます!!」
「よかよか。珠姫は良う頑張ったとーね。それに、見物人は多い方が楽しいけん。それより、例の件は決まったかね?」
「・・・僕は、兄さんを捨て、大友家も見限り、成政殿も見捨てた・・・。暁家を存続させるために、大名に忠誠を誓わなかった僕は、武士としても、一人の人間としても失格だ・・・。だから、ツクモの好きにして良い」
ツクモはその言葉を待っていたと、紅史郎に歩み寄ろうとしたが、彼は待って!!と制止した。
「ただ・・・最後に、球磨と戦わせて欲しい。何故か彼とは切っても切れない関係だと感じるから・・・」
「ふふ、そんな事なら遠慮することはなかとーね。何も今すぐ事を済まさなくても良か。ただ、君にも、球磨を試すエサになってもらうとーね」
ツクモは額の紅玉を紅史郎の琥珀色の瞳に映し、術をかけた。それは胡桃にかけた物と同じであった・・・。
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