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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

千里はその先は胸に留め、今は目の前の敵を見ていた。成政は巨大な足で千里を踏みつけようとしたが、彼は即座に地面に向け、術を唱え地から鋭いトゲを複数出現させた。成政の足にトゲが刺さり、痛がっている隙に地を強く蹴り、巨体の腹部に目掛け、目に見えぬ飛び蹴りを喰らわせ地面に倒した。起き上がらぬうちに聖なる土で彼を覆おうとしたが
「この程度の力で、俺をねじ伏せられんわ!!」
成政は周りの土を金棒で振り払い、千里も風圧で吹き飛ばされた。成政は両手に邪気をまとい、闇の塊を作った、そして遠くに見える秀吉目掛け、闇の波動を放とうとしたその時
「成政様!!もうやめて!!」
美羅は突然姿を現し、暴走する成政の攻撃を長刀で受け止めたが、邪悪な塊が彼女の腹部に貫通した。駆けつけたモトスは、美羅が攻撃を受けるのを止められなかったのを悔やんでいた。
「美羅!!」
成政は彼女の高い声色が頭に響き我に返ったのか、地に落ちる寸前を巨大な手で受け止めた。
「美羅・・何故、秀吉を庇うのだ。俺に付いてくると誓っていたではないか!!」
「駄目ですよ・・成政様。あたしは、理性を失った成政様には付いて行きたくないです」
「何だと・・・」
「秀吉を憎む気持ちは、分かります。ですが、この姿で天下を取って民を束ねられるのですか?」
美羅の声は小さく弱っていたが、深い言葉に成政は戸惑った。
「美羅・・・俺は、劇薬を飲んだ時点で、覚悟はあったのだよ。どんな身になろうが、秀吉を討つと。そして、信長様や勝家殿が果たせなかった天下を取りたいと・・・う・・うぅ!?」
突然、成政は苦しみだし、再び白眼は黒く、瞳は紅く変わった。
「美羅・・この場を離れろ・・・」
モトスと千里は、危ない!?と、美羅を彼から引き離そうとしたが、その前に彼女は、巨大な手の中に捕われてしまった。成政は自我を保てなくなり、美羅の体を強く締め付けた。
「う・・ぐぅ・・モトス!!千里!!あたしはどうなっても良いから、成政様を元に戻して欲しいわ!!」
モトスと千里は互いに顔を合わせ、誓った。
「想い人に殺させはせぬ!!二人とも助けるぞ!!」
「今ならまだ間に合います!!」
千里は鎖鎌の尖端に痺れ薬を塗り、成政の腕まで跳躍し、渾身の力で腕に刺した。成政は巨大な手に痺れが回り、捕われていた美羅は解放され、モトスは精霊のハネを羽ばたかせ、優しく受け止めた。美羅は助かったと安心しながら、モトスに礼を言った。
「ありがと・・・」
「後は俺達に任せてくれ。成政も美羅も悪いようにはせぬ」
モトスは駆けつけたお都留に美羅を任せ、千里と共に変貌した成政と交戦した。
「あの劇薬は、吐き出せば正気に戻るのか?」
モトスは突風を操り、成政の金棒の振りの軌道を外しながら千里に聞いた。
「ほんの何回か飲んだだけなら、邪気を浄化させれば戻ります。薬漬けにされ、中毒にならなかったのは幸いです」
薬漬けになれば体も心もむしばむ危険な劇薬と、モトスはゾッとしたが、同時に怒りも湧いてきていた。
「成政殿の恨みにつけ込み、薬を使い利用するなど卑劣極まりないな・・・その者を許せぬ!!」
モトスはまぶたを静かに閉じ忍術を唱え、邪気を払う榊の葉を纏った嵐を成政に放った。続いて、千里は岩石を出現させ、腹部に喰らわせた。
「グギャア!!!!」
美羅は懸命に戦うモトスと千里を見続け、不思議に思った。
「成政様をあんな姿にする・・ツクモ様の考えが分からない」
美羅は俯きながら涙を流していると、お都留はこうなった原因を憶測で言った。
「もしかしたら、ツクモも闇に利用されているのかもしれません」
美羅はお都留の不吉な予感に戸惑った。
「それはどういう事なの?」
「過去に、モトスさんと共に武田家に仕えていた、穴山梅雪という家臣がいましたが・・・」
お都留は美羅に彼の事を話した。梅雪は本物の当主ではなく、体たらくの父と森精霊の母から望まぬ生まれ方をした。そこを闇の者につけ込まれ、人間にも森精霊にもなれなかった梅雪に恨みを増幅させ、甲斐国を滅ぼす破壊神にされたと。
「でも、梅雪はモトスさん達勇士の力で、心が救われ、天に還りましたよ。彼らには闇を浄化する力があるのですよ」
美羅はお都留の勇しく優しい言葉に希望を持った。

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