このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

「秀吉様、お怪我はありませんか?」
成政は砂煙が消えた直後、目にしたのは千里だった。成政は呆然と立ち尽くした。
「貴様は・・乗鞍で世話になった千里か?」
「あれから、登山の技術を身に付けましたか?成政殿」
千里は、前に成政が北陸越中国から中部の山脈を越え、遠江浜松城の家康に謁見した事を、秀吉に知られないよう、さり気なく誤魔化した。事情を知らない秀吉は千里はどうするのかと聞いた。
「どうやら、二人は知り合いのようだが、千里、こやつと戦うのか?」
「ご心配には及びません。知り合いだからこそ、成政様を正気に戻します。その後の処遇は、秀吉様に委ねます」
成政は千里の淡々とした表情と口調に苛立った。
「千里・・・秀吉の始末を邪魔するのであれば、貴様も容赦せず、始末してやるぞ!!」
「秀吉様は中津城(現大分県中津市)へ行き、黒田軍師と合流してください」
千里は『この場は僕にお任せ下さい』と、豊臣家臣に目を配った。秀吉は家臣団と共に博多を後にした。
「仕方ない、サルの始末はいつでも出来る。まずは千里、貴様を蜂の巣にしてやる!!」
成政は再び伏兵を呼び、火縄銃や刀を持った信者は千里を囲んだ。
(やはり・・・徹底的に秀吉様を殺めるつもりでしたか。成政殿は完全に理性を失っている)
銃兵が一斉に発砲したと同時に、千里は大地を蹴り、長い鎖を目にも止まらぬ速さで振り回し、分銅で弾を全部粉々にした。さらに、銃兵の連弾を、豹のごとき速さでかすりもせず、交わしていった。
「銃は一瞬で、敵を仕留められます。ですが」
千里は火縄銃を奪い、敵を押し倒しそのままのし掛かり、頭上に銃口を当てた。
「自分も撃たれる覚悟も忘れずに」
銃兵は涙ぐみながら失神した。その時、成政は千里に銃弾を放とうとしたが、素早く千里は火縄銃で彼の手を狙い短銃を落とさせた。
「まさか、こんな形で会うとはな、千里。お前は真田の家来だったのだな。命を受けたのか?俺を討伐しに」
成政は懐にもう一つ隠していた銃を取り出し、千里に向け質問した。千里は首を横に振り否定した。
「貴方を止めるのは、主の命ではなく、僕が決めたことです。」
「止めるとは、俺が秀吉を討ち取る事かな?」
成政は打刀と短銃を構え、千里に問うた。千里は黙っていたが、その通りですと紅い瞳で返答した。
「そうか。お主は恩人だが、邪魔をするなら戦わねばならんな」
成政は銃弾を千里に向け発泡した。千里は一瞬で交わし、成政に近づきながら、袖に隠してある短刀を抜き刃で弾いた。
「強いな・・だが、これはどうかな?」
成政は数珠のような玉を取り出し、隙をついて千里に投げつけた。玉は発火し、爆発寸前に千里は横に避け体制を何とか整えた。その時、成政の打刀が目の前に見え、首を斬られる寸前に、短刀で受け止めた。
「本当に隙が無いな・・小細工も通用せぬか」
「成政殿も信長公の下で、相当戦術を学んでいたようですね」
千里は即座に成政に足払いを喰らわせ転ばせた。その隙に間合いをとり、大地の術を唱えた。土が成政をサナギのように包み拘束した。
「勝負はついています、成政殿。もう、伏兵は居ないようですし、今ならまだ降伏しても秀吉様はお許しになるはず・・・」
「うるさい!!秀吉に許しを乞う位なら、人間など捨ててやるわ!!うぐ・・ぅう・・・」
突然、成政は懐から美羅の手鏡を取り出し、自分の姿を見た。すると、鏡に装飾されている紅玉が黒に変色し、成政は悪霊に取り憑かれたような表情になった。
「俺は、秀吉を討ち取り、信長様が果たせなかった天下を統一させる・・・例えそれが、悪霊に魂を売ってでもな!!」
成政の瞳は黒く濁り、再び懐から黒紅色に光る小瓶を取り出した。千里はそれに見覚えがあった。
「これは・・闇の紅玉と邪黒石を粉末にした劇薬」
千里は成政が飲む前に止めようと、鎖鎌や小刀を投げたが、黒い結界で防がれてしまった。成政は一気に黒紅色の液を飲み干し、急に苦しみだした。それと同時に、邪悪な渦に包まれた。成政の姿は、千里の背丈の3倍に巨大化し、髪は白く染まり、夜叉の顔と変貌した。
「これが!!ツクモ様が与えてくださった大いなる力だ!!いくら強靭なお前でも太刀打ち出来まい!!」
成政は巨大な金棒を千里目掛け振り払った。千里は軽々と避けたが、成政の左手に振り払われ、地面に叩きつけられた。
(これは・・やはりあの時と同じ劇薬・・・)
千里は成政を睨みながら過去の悲劇を思い出した。
35/57ページ
スキ