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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

美羅は鏡の迷宮で、過去の自分を見ていた。
あれはまだ、自分が十に満たない頃。壮年男性の後ろを小さな歩幅で追いかけていた。
「あれは・・成政様?いいえ・・お父様?」
美羅は三姉妹の中で、甘えん坊だった。何時も、父の背中におんぶされたり、楽しげに話をしていた。
「お前は小さいのに勉強熱心だし、妹の面倒を見るしっかり者の娘だな」
幼き美羅は、父に頭を撫でられ喜んだ。
「お母様や珠姫ねぇちゃんには負けるけど、あたしも、父ちゃんのお仕事を手伝いたいと読み書き頑張ってるよ」
(そう。あたしは、この幸せが続いて欲しかった・・・)
その後、家は没落し、あたし達姉妹は路頭に迷っていた時、ツクモ様が救ってくれたんだ。あたしは、ツクモ様の妻として迎えられた。だけど・・本心は、珠姫姉様程、彼に深い愛情は持っていなかった・・。鏡の自分が本音をあたしに言っていた。
「な!?何を言っているのよ・・あたしはツクモ様を愛して・・」
あたしが側に寄り添いたいのは・・・成政様
「やめろー!!これ以上言うなー!!」
美羅は発狂しながら、鏡に映る自分を薙刀で破壊した。その時、彼女の腹に刃が貫通した。
「うぅ・・・し・・しまった・・」
鏡の自分を壊すと、自分も致命傷を負うと気付くのが遅かった。美羅が倒れたと同時に、鏡の迷宮は消えた。


美羅は耳元で、朗らかな女性の声と、勇ましい男性の声が聞こえた。
「もう直ぐ傷口は塞がりますよ」
お都留は、倒れている美羅を仰向けに寝かせ、癒しの術で腹部の刺し傷を治していた。モトスも、香り袋を彼女の顔近くに付け癒していた。
「敵だが、お前を死なせたくはないからな」
美羅の腹部の傷口が塞がれ、綺麗な白い肌に完治した。
「何で・・あたしを助けたの?あたしを生け捕りにしようとでも?」
美羅は目を疑いながら、モトス達を警戒した。
「いいや。お前をこのまま終わらせたくはなかったから。慕っている者がおるのだろう」
モトスが穏やかな口調で尋ねると、美羅は赤面し、『何で分かるのよ!!』と立ち上がろうとしたが、小精霊になだめられ、あまりの愛くるしさで手が出なかった。白州は彼女の照れた顔を見て朗らかに笑った。
「何度も『成政様』と寝言を言ってたぞ。そん時の嬢ちゃんの顔、幼い娘みたいだったぜ。可愛いとこあんじゃんお前」
「く・・・」
美羅は悔し涙を堪えながらうつむいた。お都留は手拭いで彼女の涙を拭き、小精霊は『元気になるじゅらと』無邪気に飛び跳ねながら励ました。モトスは小精霊を肩に集めながら、これからの事を決めていた。
「成政殿の事が気がかりでならないなら、共に向かおう」
「・・・助けてくれた事には感謝するけど、あたしを信用していいの?いつでも不意打ち出来るし、成政様と一緒に刃を向けることになるわよ」
美羅は挑発する言い方をしていたが、彼女からはもう、邪気を感じないと、モトスは理解していた。
「心得ている。ただ、お主にも心を壊して欲しくないと思っている。本心では成政殿が危険な事をせぬように、止めたいのであろう」
美羅は反論せず、黙って従う事にした。
「成政殿の狙いは秀吉様か?それなら、周防から博多へ向かっている。成政殿も博多で待ち伏せているはずだ」
「そういえば・・成政様に渡した鏡・・!?成政様が危ない!!」
美羅は重大な事を思い出し、取り乱した。お都留は優しく彼女の肩を抑えると、俯きながら呟くのを聞いた。
「あたしが、御守りとして成政様に渡した手鏡に・・・憎悪の紅玉が埋まっていた・・・」
美羅は切羽詰まらせた表情で、皆に説明した。それは、雲仙の宮殿で成政と別れる前。


異国の木や花が咲く庭園で、美羅はツクモに呼び止められた。
「美羅が大切にしてた鏡を綺麗に直したとね。それと、ルビーの宝石も鏡に合うから、付けたけん」
美羅は、ヨーロッパ南の未開の大陸、『アフリカ』で採掘された薄紅色に光る宝石を初めて目にし、瞳を輝かせながら言った。
「まぁ、初めてお目にかかる宝石ですわ!!素敵です、ツクモ様。それとこの鏡は昔、母から貰った物だから、また使えて嬉しいです」
銀の手鏡は、昔、美羅の母から貰った、大切な形見だった。しかし、ヒビ割れてしまい、使い物にならないと、物置に閉まっていたが、いつの間にかツクモが直してくれたようだ。美羅が嬉しそうに鏡を見ると、ツクモは満足げに笑った。
「この鏡を成政殿に贈り物として渡してはどうかね?大切な人に、自分の大切な物を渡せば、無事に帰って来る、おまじないとね」
美羅はどうしようかと迷いながらツクモの顔を見ると、彼は穏やかに返答した。
「美羅の大切な物だから、無理にとは言わんとね。ただ、この鏡とルビーにはトワ・パライソの加護が宿っておるとね」
美羅は、快くツクモに頷き、成政に渡そうと意気込んだ。それが、悲劇を生む事を知らずに。



                      第8話 完
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