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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

鏡の中に閉じ込められたモトスは、武器を構え警戒した。周りを見ると、ガラス張りの床や階段が空間を無視し無造作に配置され、鏡台が不規則な位置に置かれていた。
「まるで、鏡の中の忍者屋敷みたいだ・・」
モトスが出口を探しながら、天井の光を見た時、即座に真横に避けた。鏡の中自分が襲い掛かって来た。
「く・・これは俺なのか?」
鏡の自分は、表情を変える事無く、ただ強さだけを求める戦士のように見えた。モトスは体術で応戦したが、鏡の自分に動きを読まれており、簡単に避けられたり、受け止められてしまう。
モトスは、もう一人の自分が、自らを超える力や動きを持っていて、苦戦をしいられた。
(剣さばきも体術も、飛び道具も投げるのも全てにおいて、俺を上回る・・・)
モトスは双剣を回転させ、竜巻を起こさせた。暴風で相手は吹き飛び、その隙に毒粉を浴びさせたが、全く効果は無かった。モトスが一瞬、戸惑い隙をつかれ、鏡の自分が放った竜巻に巻き込まれ、鏡台に叩きつけられた。
「これでは自分に勝てぬ・・・俺は強くならねばいけないのだ・・・」

モトスよ。自身の欲望に飲み込まれてはならぬ。

モトスは突然、心の中から、師でも育て親でもある、エンザンの声が響いた。

モトスは防御の結界をまとい、瞳を閉じ、エンザンの言葉を思い出した。それはまだ、モトスが小精霊だったころの話。


甲斐国、富士五湖の本栖湖に翡翠のハネの小精霊が湖面と睨めっこしていた。
「うーん・・・もっと勇ましい顔になりたいじゅら」
まだ若き忍びの棟梁、エンザンがしゃがみながら、モトスの顔をじっくりと覗いた。
「モトスか?なーにこんな所で、しかめっ面してんだ?」
エンザンの登場にモトスは驚き、飛び跳ねた。
「エンザン棟梁!?おら・・しかめっ面に見えたじゅら?」
モトスは少し落ち込み、菜っ葉に寝転んだ。エンザンは何があったかと、大きな手の平に彼を乗せた。モトスは拗ねながら説明した。
「みんなが、おらの顔はぷにぷにしているから勇ましさが足りないじゅらと・・・」
モトスが涙目でうつむきながら言うと、エンザンは吹き出しながら言った。
「なーんだ、そんなことか。それはお前がみんなを癒す優しい顔だと言ってるんだよ」
「でも・・おらは強くなりたいじゅら!!強くなるには、まずは表情からじゅら!!」
モトスが強く力説すると、エンザンは真剣な顔で、ゆっくりと手の平を湖面に近づけ、モトスにそこに映る顔を見せた。
「なあ、モトス。鏡は心を映す。清らかな心も歪んだ心も。湖面に映っていたお前の顔は、少し焦りと不安が見えていたぞ」
モトスは首を傾げながら質問した。
「鏡って、おらの考えていることが見えるじゅら!?」
「ああ。鏡は自分を映すが、自分の理想や欲望をも映す。それは覚えといた方が良い。鏡使いの術師も世の中に居るからな」
モトスは、強くなることに焦っていたと反省して、再び湖面を見て笑顔を向けた。穏やかで揺るがぬ強さを秘めた表情が映ったのを、エンザンも納得していた。


俺としたことが・・鏡の中の自分は、皆を護りたいという強い欲望だった。だから、今の自分よりも強くなりたい自分が映っていたのだ。
モトスは心眼で、太宰府の境内で美羅親衛隊と戦っているお都留達を見ていた。森精霊達はモトスを信じて、勇猛果敢に戦っている。小さき精霊も、群れを作り、敵を錯乱させ戦士を援護している。
「懸命に戦っている皆の為にも早くここを出なければだな」
モトスは、鏡の自分を静かに見つめた。
「俺が求めるのは、力の強さだけではない。皆を護りたい強い心と、皆を癒す力だ!!」
鏡のモトスは、無表情で反論した。
「皆を護りたい力だと?勝頼様も梅雪も救えなかった己が、よく言う」
「確かに、その者達は、俺の未熟さで救えなかった。だが、もう2度と、そんな悲しい者を増やさぬように、強くなりたい!!」
「では、俺を倒し、この迷宮から出てみよ!!」
鏡の自分は、モトスに再び風の刃を放ち襲撃した。しかしモトスは避ける事無く仁王立ちし、攻撃を受け止めた。同時に、鏡の自分も攻撃を受けたように苦しみ始めた。
「何故避けぬ・・・俺の攻撃を受ければ、俺も傷つくと、見破ったか?」
鏡の自分が睨むと、モトスは首を横に振り否定した。
「それは違うな。お前の感情と攻撃を受け入れたのだよ。先程よりも大した事ないな」
モトスは、自分の決意を鏡の自分に宣言したことで、相手は動揺し、攻撃が弱くなったと理解した。
「お前は、過去の俺の心だったのだな。今の俺は、1人で戦ってない。大切な仲間や同士が居るから、強くなれる。それと俺は、皆を癒す力も強くしたい!!」
モトスは、翡翠のハネを出現させ、宝石のように輝く鱗粉が、鏡の自分を包んだ。そして、神々しい力で、互いの傷は癒され、鏡の自分は苦しむ美羅の姿に変化した。同時に鏡の迷宮も消え、モトスは元の世界に還れた。


モトスの姿が現れると、お都留達は笑顔で迎えた。
「モトスさん!!私は貴方が戻って来ると信じていましたよ」
「おら達も頑張ったじゅら!!」
小精霊はモトスの肩や手の平に乗り、嬉しそうに飛び跳ねた。白州は戸惑っている美羅に余裕の表情で説教した。
「目ぇー覚ましたかい?お嬢ちゃん。モトスや俺達、森精霊を侮るんじゃねーよ」
「皆よ、よくぞ力を奮ってくれた。操られている者も、正気に戻っているぞ」
モトスは皆に礼を言った時、美羅は苛立ちながら彼に問うた。
「な!?鏡の迷宮は、己の欲望を映し欲望の姿に支配される。何で簡単に打ち破れたのよ!!」
「俺の師が教えてくれた。鏡は自らの心を映す。そして、己の欲望に支配されるなとな!!」
モトスの返答に、美羅は悔しそうに歯を食いしばっていた。
「さぁ、もう降伏しろ。」
「嫌よ!!あたしは、ツクモ様と姉様と妹の為に、負けるわけには行かないのよ!!」
美羅は透明の薙刀を出現させ、モトス目掛け激しく振り下ろした。しかし、モトスは双剣で攻撃を受け止め、優しく笑いかけた。
「本当にそれがお主の本心か?」
「黙りなさいよ!!あたしの心を見透かしているの?」
美羅は何度も薙刀を振ったり、突きを繰り出したが、モトスは簡単に避けた。そして、彼女を鏡台までおびき寄せ、ハネを羽ばたかせ、輝きの鱗粉を撒いた。輝きを放った美羅の体は、鏡に反射され、彼女を鏡の中に吸い込ませた。
「策士策に溺れたな。お前も鏡を通して、本当の自分を見つめろ」
鱗粉の光は鏡台に反射し、美羅を鏡の迷宮に誘った。
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