第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
肥後から来た傭兵の青年、球磨(きゅうま)は身延山の久遠寺近くの山道を歩いていた。その青年は筋骨隆々な褐色な体と、外国の騎士のような品格さを漂わせ、西洋風の鎧は朝日に反射していた。
「もう少し登れば、久遠寺に着くな。坊さんや近くの村人は無事だと良いのだが・・・」
球磨は駿河国(現静岡県中部)の沼津港から西の田子ノ浦を通り、富士川に沿って、甲斐国の身延の地を訪れた。
山道を抜けると、久遠寺に続く門前町に到着した。しかし、店は厳重に閉じており、活気どころか、人っ子一人存在していなかった。
「・・・やはり、織田や梅雪って野郎が攻めて来るかもしれねーのに、店なんてやってないよな」
球磨は辺りを警戒しながら本堂を目指した。
身延地域は、信玄の時代から穴山家の管轄地であった。門前町を活性化させたり、久遠寺への参拝者を増やす為に貢献していた。
「しかし、自分がかつて治めていた地域を滅ぼしに来るのか?ここまで主君や国に尽くしていたのに、謀反するのも信じられないぜ・・・」
球磨はしみじみと考えながら本堂への道を歩いて行くと、耳が少し尖った形の謎の戦士達が門の前で数人の僧侶を襲っていた。
「・・お・お止めくださいませ・・・我々はいくら梅雪殿にご恩があるとはいえ、織田家の傘下には入っていません・・・」
「お前の所の僧兵が言っていたのだぞ‼︎久遠寺の僧侶は穴山の配下になったのだと。・・・そして、我が森の守護精霊も配下にならぬと、樹海や富士五湖を襲撃すると!!」
1人の精霊戦士が無抵抗の僧侶に殴りかかろうとした瞬間、球磨は素早く戦士の腕を掴んだ。
「おい!!待てよ!!その話詳しく聞かせてくれないか?」
球磨が尋ねたが、精霊戦士は問答無用で腕を振り払い、抜刀し球磨に斬りかかろうとした。球磨は円錐型の西洋槍で素早く受け止め、彼の怪力で太刀を弾き飛ばした。
「俺はお前らの敵ではねーぞ!!ただ、今の甲斐の状況と、武田勝頼殿の妻の双葉殿についての情報を知りたいだけだ!!」
球磨が戦士たちの攻撃を避けて受け止めながら説得をした。
「お前のような道楽で来た旅人に教えるつもりはない!!」
戦士たちは陽の光を浴び、先ほどよりも戦闘力が上がっていた。
(!?何だ??こいつら・・・さっきより力と動きが強くなっている!?)
球磨は戦士の力強い蹴りを食らってしまった。
「・・く・・やるじゃねーか。お前ら見たところ、人ではないな。森の守護戦士と言っていたし。だが、相手が強ければ強い程、俺だって燃えて来て強くなるんだよ!!」
球磨は反撃をし、数人の戦士たちを蹴散らした。
「この旅人強いぞ!?皆よ一斉にかかれ!!」
戦士たちは総攻撃を仕掛けて来たが、球磨は西洋槍で十文字を描くと、槍から橙の炎を纏った。そして、戦士たち目掛けて、火炎を放った。戦士たちは熱さで撤退した。球磨は追いかけようとしたが、素早く森へ逃げられてしまった。
「話を聞きたかったんだが・・・逃げられちまったぜ・・・」
「旅の方よ。久遠寺の僧兵たちを助けていただき、誠に感謝しておりますぞ。詳しい事は本堂で話します」
法主や僧侶達は球磨に礼を言い、本堂に案内した。
静けさと神々しさを感じさせる本堂で、法主はこれまでの経緯を話した。
甲斐国の南に富士山の麓である青木ヶ原樹海と5つの湖がある。そこには森と自然を愛する精霊が住んでいる。彼らは争い事は一切せず、人々と仲良く共存する種族であるが、甲州征伐を境に、久遠寺を襲撃してきたのである。
「偵察に僧兵の寅時(とらじ)が樹海方面に行ったのだが・・・十数日戻って来ない・・・。先ほど精霊戦士が、穴山の配下にならぬと森や湖を襲撃すると僧兵が言っていたことも気になる・・・」
法主は複雑な気持ちで話していると、球磨は力強く立ち上がった。
「それなら、俺が寅時さんを探しに行きますよ!!きっと何かに巻き込まれているのかもしれません。・・・それに、さっき戦ったが、精霊たちもどこか変だったぜ・・。聞く耳持たねーし、何かに操られている感じがした。あいつら本来ならそんな事しないんじゃないかと」
「・・・球磨とか言ったか。遠い地からはるばる甲斐までよく来たな。まるで、1つの小さな希望に導かれるように。どうか、寅時や民たち、そして精霊を助けてはくれぬか?」
球磨は自信満々に請け負った。
「任せて下さい!!」
球磨は身延山を降り、少し東の本栖湖を目指した。
(双葉殿を早く助けたいが、先に僧侶と精霊のわだかまりを解決しないとな!!)
相模北条家の客将軍師の湘は、富士五湖の西湖付近をすいすいと泳いでいた。彼は、水と海の加護を持つ半人半妖であり、湖や河川を速く泳ぐ能力で、富士五湖を超えて行った。
「ふぅ・・・。まだまだ水中を泳ぐには寒いかな。風邪をひいてしまっては水も滴るイイ男も台無しだ」
湘は濡れた服とふわりとした髪を術で直ぐに乾かし、背中に担いでいた長い銃剣を装備し、辺りを警戒した。
すると、小さな白い蝶のハネを背中に付けた手の平に乗るほどの小精霊(こせいれい)が、湘の肩に乗っかってきた。
「人魚?のおじちゃん・・・。どうか、大人の森の精霊たちを助けて欲しいじゅら!!身延のお坊さんと穴山の兵が悪さをしているじゅらー!!」
小精霊は泣きそうになりながら、考え込んでいる湘に頼み込んだ。
「・・私はおじちゃんではないが、まぁ大目に見よう。私の名は湘だ。相模から来た。私もその穴山に用事があるのだ。詳しく聞かせて貰おう」
小精霊は詳しく話した。甲州征伐を境に、久遠寺の僧兵が穴山家に降れば精霊の地は安堵する。刃向かえば攻め入るまでだと脅しているようだ。そして、気がかりなのは、普段穏やかで争いを好まない精霊たちの気性が激しくなり、好戦的になり始め、身延山を攻めようとしているのである。
「ふむ・・森の精霊は本来、聡明なはずなのに話し合いもせずに、相手方に攻めようという短絡的な考え方は持たぬはず。誰かの術で操られているとか・・・とりあえず、その僧兵に会ってみないと分からないな」
湘は説明してくれた小精霊の頭を優しく撫でて、西の本栖湖の方へ出発した。
(そういえば、モトスも森精霊であったな。あの者も同族の異変に気付いているのだろうか)
湘は、かつて共に戦ったり、敵として戦った好敵手のモトスの身を案じながら先を急いだ。
「もう少し登れば、久遠寺に着くな。坊さんや近くの村人は無事だと良いのだが・・・」
球磨は駿河国(現静岡県中部)の沼津港から西の田子ノ浦を通り、富士川に沿って、甲斐国の身延の地を訪れた。
山道を抜けると、久遠寺に続く門前町に到着した。しかし、店は厳重に閉じており、活気どころか、人っ子一人存在していなかった。
「・・・やはり、織田や梅雪って野郎が攻めて来るかもしれねーのに、店なんてやってないよな」
球磨は辺りを警戒しながら本堂を目指した。
身延地域は、信玄の時代から穴山家の管轄地であった。門前町を活性化させたり、久遠寺への参拝者を増やす為に貢献していた。
「しかし、自分がかつて治めていた地域を滅ぼしに来るのか?ここまで主君や国に尽くしていたのに、謀反するのも信じられないぜ・・・」
球磨はしみじみと考えながら本堂への道を歩いて行くと、耳が少し尖った形の謎の戦士達が門の前で数人の僧侶を襲っていた。
「・・お・お止めくださいませ・・・我々はいくら梅雪殿にご恩があるとはいえ、織田家の傘下には入っていません・・・」
「お前の所の僧兵が言っていたのだぞ‼︎久遠寺の僧侶は穴山の配下になったのだと。・・・そして、我が森の守護精霊も配下にならぬと、樹海や富士五湖を襲撃すると!!」
1人の精霊戦士が無抵抗の僧侶に殴りかかろうとした瞬間、球磨は素早く戦士の腕を掴んだ。
「おい!!待てよ!!その話詳しく聞かせてくれないか?」
球磨が尋ねたが、精霊戦士は問答無用で腕を振り払い、抜刀し球磨に斬りかかろうとした。球磨は円錐型の西洋槍で素早く受け止め、彼の怪力で太刀を弾き飛ばした。
「俺はお前らの敵ではねーぞ!!ただ、今の甲斐の状況と、武田勝頼殿の妻の双葉殿についての情報を知りたいだけだ!!」
球磨が戦士たちの攻撃を避けて受け止めながら説得をした。
「お前のような道楽で来た旅人に教えるつもりはない!!」
戦士たちは陽の光を浴び、先ほどよりも戦闘力が上がっていた。
(!?何だ??こいつら・・・さっきより力と動きが強くなっている!?)
球磨は戦士の力強い蹴りを食らってしまった。
「・・く・・やるじゃねーか。お前ら見たところ、人ではないな。森の守護戦士と言っていたし。だが、相手が強ければ強い程、俺だって燃えて来て強くなるんだよ!!」
球磨は反撃をし、数人の戦士たちを蹴散らした。
「この旅人強いぞ!?皆よ一斉にかかれ!!」
戦士たちは総攻撃を仕掛けて来たが、球磨は西洋槍で十文字を描くと、槍から橙の炎を纏った。そして、戦士たち目掛けて、火炎を放った。戦士たちは熱さで撤退した。球磨は追いかけようとしたが、素早く森へ逃げられてしまった。
「話を聞きたかったんだが・・・逃げられちまったぜ・・・」
「旅の方よ。久遠寺の僧兵たちを助けていただき、誠に感謝しておりますぞ。詳しい事は本堂で話します」
法主や僧侶達は球磨に礼を言い、本堂に案内した。
静けさと神々しさを感じさせる本堂で、法主はこれまでの経緯を話した。
甲斐国の南に富士山の麓である青木ヶ原樹海と5つの湖がある。そこには森と自然を愛する精霊が住んでいる。彼らは争い事は一切せず、人々と仲良く共存する種族であるが、甲州征伐を境に、久遠寺を襲撃してきたのである。
「偵察に僧兵の寅時(とらじ)が樹海方面に行ったのだが・・・十数日戻って来ない・・・。先ほど精霊戦士が、穴山の配下にならぬと森や湖を襲撃すると僧兵が言っていたことも気になる・・・」
法主は複雑な気持ちで話していると、球磨は力強く立ち上がった。
「それなら、俺が寅時さんを探しに行きますよ!!きっと何かに巻き込まれているのかもしれません。・・・それに、さっき戦ったが、精霊たちもどこか変だったぜ・・。聞く耳持たねーし、何かに操られている感じがした。あいつら本来ならそんな事しないんじゃないかと」
「・・・球磨とか言ったか。遠い地からはるばる甲斐までよく来たな。まるで、1つの小さな希望に導かれるように。どうか、寅時や民たち、そして精霊を助けてはくれぬか?」
球磨は自信満々に請け負った。
「任せて下さい!!」
球磨は身延山を降り、少し東の本栖湖を目指した。
(双葉殿を早く助けたいが、先に僧侶と精霊のわだかまりを解決しないとな!!)
相模北条家の客将軍師の湘は、富士五湖の西湖付近をすいすいと泳いでいた。彼は、水と海の加護を持つ半人半妖であり、湖や河川を速く泳ぐ能力で、富士五湖を超えて行った。
「ふぅ・・・。まだまだ水中を泳ぐには寒いかな。風邪をひいてしまっては水も滴るイイ男も台無しだ」
湘は濡れた服とふわりとした髪を術で直ぐに乾かし、背中に担いでいた長い銃剣を装備し、辺りを警戒した。
すると、小さな白い蝶のハネを背中に付けた手の平に乗るほどの小精霊(こせいれい)が、湘の肩に乗っかってきた。
「人魚?のおじちゃん・・・。どうか、大人の森の精霊たちを助けて欲しいじゅら!!身延のお坊さんと穴山の兵が悪さをしているじゅらー!!」
小精霊は泣きそうになりながら、考え込んでいる湘に頼み込んだ。
「・・私はおじちゃんではないが、まぁ大目に見よう。私の名は湘だ。相模から来た。私もその穴山に用事があるのだ。詳しく聞かせて貰おう」
小精霊は詳しく話した。甲州征伐を境に、久遠寺の僧兵が穴山家に降れば精霊の地は安堵する。刃向かえば攻め入るまでだと脅しているようだ。そして、気がかりなのは、普段穏やかで争いを好まない精霊たちの気性が激しくなり、好戦的になり始め、身延山を攻めようとしているのである。
「ふむ・・森の精霊は本来、聡明なはずなのに話し合いもせずに、相手方に攻めようという短絡的な考え方は持たぬはず。誰かの術で操られているとか・・・とりあえず、その僧兵に会ってみないと分からないな」
湘は説明してくれた小精霊の頭を優しく撫でて、西の本栖湖の方へ出発した。
(そういえば、モトスも森精霊であったな。あの者も同族の異変に気付いているのだろうか)
湘は、かつて共に戦ったり、敵として戦った好敵手のモトスの身を案じながら先を急いだ。